普通各駅停車
各停に乗ってゆらゆらしてる
時々止まっては、またのろのろと走り出す
そのたんびに少し吐き出して、少し吸い込む
僕は目を閉じたり開いたりしながらゆらゆらしてる
何も考えずにピントがあったり、ぼやけたり
ある時また電車が止まった
でも今度はいつもと少し違った
周りが騒がしくて誰も彼もわさわさしている
食べ過ぎた後みたいにぶわっと沢山吐き出された
窓の外を見ると向こうに快速が止まっている
みんな何でそんなに急いでいるの?
急いだっていいことあるとは限らないよ
周りが動くから自分もってなるのかな
ぼくはなんだか体がだるくて動きたくなかった
頭の中で「行かないの」って声がする
ぼくは「何で行かなきゃいけないの」って答える
「みんな行ってるよ」
「ダメなの、協調性とか一般的とかそういうのぼくは苦手なの」
「・・・」
「ぼくの感覚は常識と少しずれてるの、だから無理して合わせようとするとおかしくなるの」
向こうのそいつは沢山飲み込むとプシューと鼻息をはきながら走り去っていった
ぼくの胸はドキドキしていて、息もはあはあしている
なんだか周りがスカスカで寒いような、暗いような気がしてきた
「大丈夫かな、不安だな」
「そうだね不安だね、でもきみさっき言ってたじゃない、無理して合わせて壊れるよりはいいと思うよ」
おなかに溜まった黒いもやもやをふぅーっと吐きだす
息の続く限り吐き続けた
なんだか頭がくらくらしてきた
景色がぐるぐる回ってジェットコースターに乗ってるみたい
ぼくは目を閉じた
体がゆらゆらする
電車がまたのろのろ走りだしたみたい
いつの間にか胸もおなかも呼吸も元通りになっている
あれ、いつも通りだ
黒かった世界に黄色みたいなオレンジみたいな色が広がっていく
瞼が温かくなって、ぼくは目を開けた
窓から光の矢が無数に飛び込んできていた
それが座席やつり革に突き刺さってきらきら光っていた
ぼくの体にもあちこち刺さって、ぽかぽかなんだか気持ちいい気分だ
がらがらっと音がして隣の車両とつながる扉から金色の髪をした女の子が現れた
彼女の目がぼくを捉えて、ぼくらの視線はバチッとなった
くぼんだ二つの暗い穴みたいだった彼女の瞳はみるみるうちに輝き出した
車内がふわふわし出してなんだか浮いているみたいだった
「きみはさっき乗り換えなかったの」
彼女は首を傾げながら近づいてきた
「右にならえって苦手なの」
ぼくが答えると、彼女はあははっと笑った
「きみはなんでこれに乗ってるの」
「ぼくも同じ、普通って苦手なの」
そう言って彼女はまた笑う
ぼくの口からにっと白い歯が出る
彼女は続ける
「あの人たちだってまたどっかで乗り換えがあって別れるんだよ」
「・・・」
「あの人たちは分かってないの、見てないの、自分を」
「・・・」
「ぼくも自分のことはよくわかってない、けど、分かろうと思うの、向き合おうと思うの」
「・・・、うん」
彼女の目はふにゃふにゃしてそうな水で溢れていた
気づくとぼくの頬も濡れていて、鼻の奥がジンと熱かった
「隣、座っていい?」
「・・・いいよ」
彼女が座るとシートがふかふかと波うった
ぼくは横顔をじっと見つめる
くるくるした風が流れ込んできて彼女の髪をが重力を無視してふわっと踊った
黄色い光がぼくらを照らして、ぼくらの頬を乾かした
彼女の肌は黄色く染まって、瞳は金色に輝いていた
「きれいだね」
その言葉にぼくは視線を窓に向けた
「うん」
ぼくの心はまだ黒くてもやもやしたものを感じ取っていた
それが消えないであろうことも分かっていた
なんだか怖い気がする
それでもいいような気もする
ぼくは彼女の手を握った
その手は見た目よりすごく冷たかった
でもちゃんと握り返してくれた
そのままぼくらはゆらゆらした