一話
それから一週間。
私にはまだ友達が出来ずにいる。
何かもうすでにグループとか出来ちゃってるし。
入り込む余地がない。
しょうがない、今日もお昼は1人で屋上かな。
そう思い私は階段を上がっていき、屋上の鉄のドアに手をかけた。
ドアは軋む音をたてて開いた。
開いた先には男子生徒が二人、屋上の地面にあぐらをかいて座っていた。
「あ、すみません、邪魔でしたよね?帰ります!」
「ん?大丈夫だよ。昼ご飯でしょ?どうせなら一緒に食わない?」
と、特に加工もしてない黒髪でかわいいに近い顔立ちの男子生徒が誘ってきたので。
「じゃあ、お邪魔でなかったら。」
私はそう答えた。
「俺は雪野冬也(ゆきのとうや)。よろしく。こっちが…。」
「…桜井春奇(さくらいはるき)。」
桜井くんか。
肩近くまで伸びた襟足にほどよく髪がたってて金に近い茶色。
顔は雪野くんと対照的にカッコいい。
雰囲気は穏やかだけど隙がなくて、何も寄せ付けないって感じが漂ってる。
うん、カッコいい。
「春奇、挨拶ぐらいしろよ。」
「…よろしく。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
二人ともクラスの人達とは違って話しやすい。
なんでかな。
嬉しい。
中学に戻ったみたいで。
桜井くんにちょっと警戒されてるけど。
「なあ、海堂っていつも一人なん?」
「私は、そうですね。一人です。」
「じゃあ昼は一緒に食わない?」
「いいんですか?雪野くん。」
「おぉ。いいよな?春奇。」
「…あぁ。」
「ありがとうございます!」
これから一緒にいれる。
なんか胸が暖かい。
凄く嬉しい。
「二人ともいつもここにいるんですか?」
「まぁな。春奇が団体嫌いだから。」
「私もです。団体って居心地がよくないです。」
「春奇と同じこと言ってる。てかよく許したな、春奇。」
「なんかな…。他のやつとは違う、それに一緒にいて落ち着く。」
「私なんかがですか?」
「…あぁ。」
「春奇が許した…。でも確かに違うな、他のやつとは。」
「何が違うんですか?」
「だいたい俺らに近付いて来るやつは下心がある。でも海堂は違う。」
「なるほど。」
確かに二人ともカッコいい。
だからかな。
「でも海堂は違うから俺らも接しやすい。」
「私なんかでよければいつでも一緒にいますよ。」
「ホントか?ありがとう!」
「いえいえ。」
「春奇も礼ぐらい言えよ?」
「…さんきゅ。」
「ふふ、いえいえ。」
楽しい。
「…こういうのもいいかもな。」
「はい!」
嬉しい。
素直に嬉しい。
高校に入って初めて楽しいと思えた。
心から嬉しいと思えた。
「改めてよろしくな!」
「…よろしく。」
「よろしくお願いします!」
そういえば…。
「二人とも中学は一緒だったんですか?」
「そうだよ。春奇と俺は中学から一緒でそれからずっとだよ。」
「…お前も俺と同じ一人だったよな。それから冬也から話し掛けてきて気付いたらここまできてたよな。」
「そうだなぁ、懐かしいな。あの頃は色々やったよな。」
だから二人とも仲がいいのか。
いいなぁ、私にはそんな友達はいなかったし皆はうわべだけだったから。
「そうなんですか、なんかそういうのいいですね。私もそんな友達が欲しいです。」
「…これから見付ければいいだろ。」
「春奇の言う通りだ、自分のやり方でな。」
「じゃあ、なってください…!その、友達に。」
あ、言っちゃった。
引かれたよね…。
「そりゃあ当たり前だろ。」
「…決まってることだ、聞かなくても大丈夫だ。」
「あ…!ありがとうございます!」
「いやいや、てかそれ言おうと思ってたのに先に言われたぁ!ちょっと悔しいわ。」
「…これからは三人だな。久しぶりに楽しいと思えたわ。
」
これからの高校生活が楽しみで仕方ない。
一緒に出掛けたりするのかな?
一緒に出掛けたいな。
と、思ってたとこに…。
「なぁ海堂、今日は放課後暇?」
「はい、特に何もないですよ?」
「じゃあ三人でどっか行かない?」
「行きたいです!桜井くんも行きましょう?」
さっき思ってたことがもう出来るんだ!
今日は嬉しいことがたくさんあっていい日だなぁ。
「…あぁ、たまにはな。俺も暇だったし行くか。」
「んじゃ決定な!学校終わったら校門集合な?」
「わかりました。楽しみです!」
こうして私の高校生活はやっとスタートを切ったのだった。




