朝と俺
魔王様に大した活躍もさせぬまま、別の話を書こうという無謀。
魔王様もきちんと更新するつもりですので、生温かく見てやってください。
朝。
爽やかな、というには眠気が後を引く、気だるい朝。
ぼけぇーと無精髭の生えた親父のように目を覚ました俺、佐野悠真。
でかい欠伸をかまし、ボリボリと頭を掻いた後、なんとなく見る手は若々しい十代のもの。
ぐっぱしようが、睨んでみようが、それは相も変わらず若さを保ったままで、一抹の虚しさが込み上げてくる。
産まれた時から、俺はいつも死に直面してきた。
第二次世界大戦開始直後、1940年7月9日に俺は生まれた。
日々日々、周囲を侵食していく死に、俺は常に恐怖し、身を竦めていた。
戦争が終われど死は俺の周りから消えることなく纏わりつき、死の恐怖に取り憑かれた俺は、少しずつ、少しずつ壊れていった。
それは、生まれたその瞬間からの崩壊だったのか、それとも、餓えにより両親が死んだ5つの時だったのか。
俺が思うに、崩壊は生まれたその瞬間から始まっていて、なおかつ、両親の死を見た5つの時、それが加速したのだろう。
毎日毎日毎日毎日毎日、俺は山奥の小さな祠へと足を運んだ。
毎日毎日毎日毎日毎日、俺は死の恐怖からの解放を願った。
だからだろうか。
ある日、俺は物取りに殺された。
しかし、俺は生きていた。
しっかりと心臓を刺され、黒くなる意識の中、何かの嗤い声のような音と共に聞こえたあの言葉。
――――日に三度の生を与えてやろう。
その日から、俺は死んだが生きていた。
餓えで死んだ時も、事故で死んだ時も、暴徒に殺された時も。
俺は生きていた。
そして俺は理解した。
俺は一日に三度、死ぬことかできる。
俺は一日に三度死ななければ、死ぬことができない。
それのせいかは知らないが、俺の体は歳をとることを止めた。
いや、気の遠くなるほどの時間はかかるが、それでも髪や爪が僅かに伸びる事を考えれば、実は人間とはかけ離れたほどのペースでゆっくりと歳をとっているのかもしれない。
しかし、少なくとも俺は自身の体に対し、成長の二文字を見出すことができずにいる。
大分頭がすっきりしたところで、俺は布団を出、足が縺れて布団に突っかかって顔面スライディングを決める。
「い゛っ!~~~っっ~~~~~!!!」
顔面に鈍く存在を主張する痛みに、全身を使い悶えることで答えつつ、脳裏に浮かんだある猫被り暴君の呆れ顔を頭から振り払う。
こんなシーン見られたら絶対馬鹿にされる。失笑される。
というかあの人の事だから多分、朝飯食いに降りたら絶対酒を片手に嘲笑してくる。
そうに違いない。
これから先に起こるであろう事態にうんざりしつつつ、しかし、俺がこうして長い時を、同じ姿で生きていながらも狂わずにいられた、こうして、つまらない事態を憂うことができる生活を俺にくれたあの人に感謝の念が湧きおこる。
無駄に歳とったおかげか、俺も一々感慨深く物事を捉えるようになったようだ。
ほう、と一つ息を吐いて俺は立ち上がる。
ドアに手をかけたところで目覚ましがけたたましく鳴き、ビビって慌てて目覚ましに駆け寄ったら布団に足を取られて顔面スライディングした。
…………くそう。