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ユゴスVSルギハクス 地球事変

作者: 矢子沼蜻蛉
掲載日:2026/04/10

 半円形の閉ざされた空間に、奇妙な虫たちが集まっていた。


 その数、七匹。


 あたりを満たす藍色の光が、その姿を浮かび上がらせている。


 分厚い三角形の翅には、畝のような半円形の模様。

 大きな目を隠すように垂れた、巻き髭めいた節だらけの触角。

 そして、ハエのような口が三つ。


 まるで、ゲジゲジとアブとスズメガを、無理やり継ぎ合わせたような姿だ。


 そのうちの一匹が、中央の少し盛り上がった場所に鎮座し、演説を始めた。


「諸君。今、我々は未曾有の危機に直面している」


 あーあ、司祭様。また始まった。


「ここで手を打たなければ、我々は将来、破滅することが判明したのだ」


 何でこんな毒電波を聞かなきゃならないの。


 ......寝床でゴロゴロしていたいのに。


「有り得ぬことだと笑う者もいるだろう。なるほど、確かに我々はこのルギハクスに文明を打ち立て、ささやかな楽園を建設した」


 笑われている自覚はあったんだ。

 意外。

 でも、楽園ってのは言い得ているのよね。

 安全だし、快適だし。

 くつろぎながら音映を視聴するのは、至福のひとときよ。


「しかし、それは盤石な基盤の上に成り立つものなのか。俯瞰して見るがいい。我らの同胞はどれだけいる? 百か? 二百か?」


 基盤?

 安定してるわよ。

 それに、逃げに逃げてここまで来たんだから、数が少ないのは当たり前じゃない。


「この星に住まう蛮族どもは、千どころか万単位もいる。奴等は強壮頑健であり、戦いともなれば、今の我々では対抗できない」


 確かに蛮族だけど、彼らは寛容よ。

 私たちが落ち着けたのは、彼らの協力があってこそなのに。

 あれ、んん?

 私も悪い考えに染まっちゃったかな。


「更には、近隣の惑星ユゴスに、ミ=ゴなる種族が棲みついていることも判明した。報告では、科学技術は我らに引けを取らぬという」


 つい先日、電波にテレパシーを乗せて、簡単な意思疎通に成功したってやつよね。

 でも、姿形はおろか、一切合切、何も分かってないって話じゃないの。

 よく相手の科学技術なんか評価できたわね。


「我々は周辺勢力と平和な関係が築けるのか。答えは、否だ。周知のとおり、蛮族どもは邪神を崇拝している。時を経るほど、奴らとの軋轢は深まり、対立は避けられぬと断言できる」


 確かに、先住民の同胞供犠には好感は持てないわね。

 でも、それだけよ?

 生贄に余所者を捧げるのは禁忌だと聞いてるもの。


「ミ=ゴはどうか? 彼等の戦力がいかほどのものかは分からぬ。だが、我らが脆弱だと知れれば、戦争は避けられないであろう。何故なら、新たな勢力が出現するのは、新たな脅威が現れるのと同義だからである」


 何て言ったっけ。

 予防戦争論だったかしら。

 滅亡直前の故郷では支持されていたわね。

 今は攻守が逆転してるけど。


「もはや安穏を貪る猶予はない。ならば何を為すべきか。生存圏の拡大以外に道はない。我々は今の一点集住を改め、薄く広く住まうべきなのだ」


 はあ?

 誰がここから出て行きたがるのよ?


「この恒星系の第三惑星、第四惑星、そして第五惑星および第六惑星を取り巻く衛星群には、潤沢な資源と、住むに適した領域が広がっている。我々はいち早くこれらを確保し、確たる礎を築かねばならない」


 行き着いた先が楽園でした、なんてこと、あるわけないじゃない。

 どれだけ大事業になるか分かっているの?

 短絡すぎよ。

 同胞の数は頭打ちなんだから、今やるべきは産めよ増やせよじゃないの?


「既に観測は終えた。探索隊を派遣し、適地を確保するのだ」


 えっ?

 何て――


「先住種族が脆弱であれば、征服を躊躇してはならない。これは我々が生き残るための戦いなのである」


 早い、早い。

 そういうの早いから。

 少しは周りの目を気にしなさいな。

 私たち、一気に危険生物扱いされるわよ。


 ――ルギハクスの先住民に攻撃されて、駆除されちゃう未来しか見えないわ。


「司祭殿、無作法ながらよろしいか」


 空気が変わった。

 声を上げたのは侍祭様だ。


「発言を許そう」


「探索隊は神殿を用いて転移するほかありますまい。しかし神殿は防御に適しません。現地で襲撃を受ければ、神殿ごと喪失する危険があります。あまりに無謀ではありませんか?」


 ――よく言ってくれた。


 その通りだ。

 やっとまともな話になった。

 でも、司祭は上機嫌に触覚を揺らしてる。

 何で?

 反論だよ?


「無論、その程度の問題は想定済みだ」


 あっ......嫌な予感。


「刮目せよ。これぞ、魔皇様の力と我らが叡智の結晶、"(ほこら)"である」


 空間に、光が走る。

 立体映像が結像し――

 現れたのは、奇妙な四角錐だった。


「畏れ多くも、魔皇様の御身の一部を賜り、これに安置した」


 ......は?


「これならば、宇宙を渡り、探索隊を無事に目的地へ送り届けてくれるだろう」


 絶句......


「強力な武装と装甲も施した。惑星に張り付く現住生物など、恐るるに足らぬ」


 ......冗談でしょう。

 いや、違う。

 これは、本気だ。


「諸君」


 その視線が、集会に集められた私たちを舐めるように巡る。


「諸君らこそが、選ばれし先駆者である」


 やめて。


「未来を切り拓くのは、他でもない――諸君だ」


 嫌な予感が、確信に変わる。

 これ、逃げられないやつだ。




「諸君、到着したぞ。ここぞ太陽系第三惑星である」


 司祭め。

 ああ、私は心ならずもここにいる。


 自由意志の尊重って何。

 派閥のリーダーの意向に刃向かえるわけないじゃない。


「"祠"は、無事に起動した。これも魔皇様のお導きであろう」


 うっ......もしかして、試運転も兼ねてたの!?


「先ずは、魔皇様への感謝を捧げねばならない。生体反応を検索せよ」


 生贄を探すのね。


 見渡す限りの大平原。

 緑が眩しいわ。


 ――「検索完了。知的生物の反応なし」


「こちらのエリアも、反応ありません」


「探索範囲を広げよ」


 そうよね。

 司祭にしたら、魔皇様へのお供えは至上命題だものね。


「ハズレか......」


「司祭様、ここを拠点にいたしますか?」


「魔皇様への供えが滞るような場所では話にならん。......次の転移候補を選定しよう」


 そうなるわよねって、

 これは――


「反応ありました。生命体です。高速で接近してきます」


 立体映像、結像っと。


 皮膜のような羽根で飛んでるわね。

 凶悪そうな腕が一対。アレで挟まれたら一溜まりもないわ。

 外骨格か。私たちと同じね。

 頭は、なんか平べったくて、棘がたくさん生えてて、その先っぽから毛が生えてて......


 うん、初めて見る生き物だわ。


「知的生命体か?」


 司祭に聞かれたけど、私にも分からない。


「通信あり。通信あり。テレパシーです」


「我々と同じか。何と言ってる?」


「......分かりません」


 司祭が、上機嫌に触覚を揺らしてる。

 貴重な生贄なのは分かるけど......

 ちゃんとコンタクトを取らなくてもいいの?


「生贄に足る知的生命体である。三号光線、最低出力」


「照準よし。発射」


 命中。

 あ、落ちた。

 地面に落ちて、ピクピクしてるわね。


「回収する。ザイクロトルを出せ」


 あの大木のようなフォルム。

 灰色で光沢のある外骨格。

 何本も生えてる筒のような腕。

 そして、円盤のような足。

 地響き立てて歩いてるわね。

 なんて頼もしいの。

 ザイクロトル星の現住生物ってだけで家畜扱いされてるけど、カッコいい。


「諸君、集まりたまえ。生贄を捌くぞ。」


 司祭の指示だ。

 神饌所(しんせんしょ)に行かなきゃ。


 うわっ、何これ、大きい。

 足は十本もあるのかしら。

 屠台の上で、弱々しく動かして、なんか必死にテレパシー送ってきてるわ。

 同じ立場なら、私も同じことするわね。うん。

 ホントにやっちゃっていいの?

 あ、駄目だ。

 司祭様......目が逝っちゃってる。


「供犠、開始。」


 皆で、群がって、生贄を解体、解体......南無。

 で、これから、祭壇に向かってパレード、パレード。

 檻の中から、ザイクロトルが不安げに眺めてるわね。

 大丈夫だ。

 まだ君たちを生贄にするのは早すぎる。


 祭壇の間に到着――


 これぞ、魔皇様の御身の一部。

 まるで、極彩色に輝く霊山ね。

 見てると、太鼓の乱打、それに笛の音が聞こえてくる。

 いーわー。

 聞き入っちゃう。


 司祭様が祝詞を唱え始めた。

 これから、魔皇様の宮殿に生贄が送られるのね。

 魔皇様の御身の一部に、生贄を入れるたび、光がぱあっと強くなる。

 綺麗......


 ああ、何て幸せな気分なの。

 アホな司祭だけど、これには感謝だ。


 んっ!?


「「「うわー!」」」


 皆が悲鳴を上げた。

 そりゃ上げるって。

 何よ今の。


 ドドーン、ズズーン、ユサユサ、ドカーン


 衝撃音、揺れ、爆発音が、続く、続く。


 皆が、大慌てで制御室へ向かった。


「何事だ!?」


「先ほどの生物です。大群です。囲まれています」


 モニターに外の映像が映し出される。


 さっきの生物の大集団が、大型の光線銃を抱えて、「祠」の周囲をグルグル飛び回りながら、集中射撃を加えてきてる。


「撃ち返せ」


「全砲塔破壊されました。反撃できません」


「敵の攻撃、装甲を貫通しています」


「馬鹿な......」


「転移しましょう。」


「やむを得ん。この惑星で一番遠い地点へ転移する。」


「制御システムに異常。転移座標軸の設定困難」


「ぬぅ。惑星の裏側なら、どこでもよろしい。転移せよ。転移せよ」


「次元移動開始。」


 うわぁ、ミシミシと圧壊するような音が......きゃあ!



 ピーヒョロロ、ピーヒョロロ


 耳慣れない音が聞こえて飛び起きた。

 キョロキョロとあたりを見回す。

 周りは木々や雑草に覆われているが空は見える。

 大きな羽根を持った毛むくじゃらの動物がゆっくりと旋回してる。


 って、そうじゃない!生きてる。私、生きてる!


 慌てて自分の身体の損傷を確認する。

 無傷だ、凄いぞ私。


 "祠"は......まあ、爆発四散したわよね。


 ......大変なことになったぞ。

 これって、帰れないんじゃないの?


 他の皆は......無事かな?無事だよね。


「みんなー、生きてるかーい!」


 ......


 テレパシーを飛ばしたけど反応はない。全力だったのに。

 もしかして、一人ぼっちになっちゃった?


 い、いや、諦めるのはまだ早い。


 ブンっと羽根を動かす。

 視界がどんどん高くなる。


 木々の天辺を超えたところで、ぐるりと辺りを見回す。


 うわっ、何あれ。

 崩れてる、崩れてる、山、崩れている。


 あっ、あれ。あった、あった。

 魔皇様の御身の一部だ。

 やった。あれがあれば、帰れるぞ。

 可能性はゼロじゃない。


 全力で空を飛ぶなんて久しぶり。

 いゃあ、爽快、爽快。


 って、待ったぁぁぁ!

 反転百八十度、退避ぃぃぃ。


 奴等らが、奴等らが......。まさか、追いかけてきたの?

 司祭のバカー。

 だから、ちゃんとコンタクトを取ってから、生贄にするか考えろと......


 って、きゃあ!


 掴まれてる、掴まれてる。羽根と胴体の間、掴まれてる。

 放しなさい、放しなさいってば......おぁ、苦しいってば、ねぇ!


 あっ、こいつは、奴等らとは違うわね。

 頭があって、首があって、胴体があって、二本の腕に二本の脚。

 頭には、目が二つあって、鼻が一つに、口が一つ。


「あのー、放してくださいます?私、通りすがりの者で......」


 何言ってんだ私って、違う。重要なのはそこじゃない。

 首傾げてるよ。

 コミュニケーションが取れないの?

 そうよね、取れないよね。


 あ、あ、待って。何でそっちに行くの。

 奴等が、奴等が......


 こいつ、奴等とコミュニケーションとってる。

 絶望?これ、絶望よね。うわーん。



 で、ここはどこ?

 実験機器が並んでいるから、神饌所ではなさそうだけど。


 仲間が台の上に並べられている。


 司祭と助祭様は、五体満足ね。目を回しているだけだ。


 身体の損傷が激しいのが三体。死んじゃっているわね......

 奴等が、遺骸の欠損箇所に、何か植え付けているけど、何かしら。

 生体実験よね、どう見ても。


 最後の一体は、頭に銀色の筒を被せられたけど、何する気なのかしら。

 ......ゔっ、脳が、脳が飛び出た。

 奴等も慌ててる。

 何かやろうとして、失敗したんだ。

 ぶぐ、吐きそう。


 いや、待って。

 何よ、その銃みたいな物は。

 コッチに向けないで。


 待って。


 待って、待って、待って、待ってー


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