99.平川さんの悩み
「やっと終わった」
長い授業が全て終わってさあ帰るかと思っていると、翔が平川さんの方に歩いていった。
デカい体でのっしのっし歩いていくと威圧感あるな。
「よう久美、元気か?」
「そうじゃないように見える?」
ちょっと苛ついた感じで返事をする平川さん。
まあ、ああいう態度取るのは大抵図星の時なんだけど。
感情が表に出やすいからすぐわかるんだよな。
「見えるな、まるで悩み事があるようだが」
「嘘!?」
平川さんは驚いてるけどみんな予想通りって感じだ。
誰かが聞くだろうと思ってたけどまさか翔が聞きに行くとは思わなかった。
「どうやら間抜けは見つかったようだな」
「……引っ掛けるなんてずるいわよ!!」
翔に騙されたと言って怒ってる。
けど普通に質問しただけじゃないのか?
あの程度で騙したなんて人聞きが悪いと思う。
「で、何の悩みなんだ?」
「言うわけ無いでしょ!!」
平川さんの悩みかぁ。
ちょっと気になる。
なんか良い魔法が見つかったりしたのかもしれない。
オンリーワンの効果なのに使い道がない魔法とか見つけたらなんとか使えないか考えたりするもんな。
「ほら、久美に悩みと聞いて真琴がじっと聞き耳立ててるぞ」
「え、あ、ほんとだ、何食わぬ顔で見てる」
二人が笑いながらこっちを指さした。
そもそも何食わぬ顔って何だよ、何も食べてないわけ無いだろ。
「昼はちゃんと食べたのにとか思ってそう」
「真琴の馬鹿は筋金入りだぞ」
「え、そうなの?」
「陽菜ちゃん見ればわかるだろ?」
「ああ、たしかにね」
なぜあの二人は大声で俺の悪口言ってるんだよ。
まあそれはいいにしても陽菜を馬鹿にしたのは許せない。
「馬鹿なのは翔だろうが」
「ほれ見てみろ、馬鹿が見てるぞ」
「ほんとだ、面白い顔してる」
「馬鹿じゃないですけど!?」
人の顔見て馬鹿馬鹿と失礼な。
どう見ても賢い顔してるだろ、顔だけは。
「馬鹿が馬鹿を認めるわけないだろ」
「そうね、かわいそうだったわ」
「馬鹿にするのもいい加減にしようよ!?」
こいつら人の悪口をいう時だけ結託しやがって。
関西で馬鹿って言ったら戦争なんだぞ。
「大丈夫、真琴が馬鹿なのは知っているけど友達だから」
「いじめ!? これいじめだよね!?」
「いじりといじめの違いもわからないなんてこれだから関東人は」
「翔も関東人だろうが!?」
他人を乏して笑いを取るのっていじめだよね!?
少なくても俺は笑えないんだけど!?
「アタシは関西にいたから分かるわよ」
「分かるならやめようよ!?」
理解していてなぜするのか。
むしろ理解せずやるよりたちが悪いのでは?
「美人にいじられて嬉しいんでしょ?」
「嬉しくないよ!?」
「顔がニヤけてるだろ」
「そんな馬鹿な!?」
「ほらやっぱり馬鹿じゃない」
肩をバシバシ叩いてくる。
どこに馬鹿の要素があったのか教えて欲しい。
むしろ今叩かれているのがいじめなのでは?
「ご褒美よ?」
「Mじゃないんですけど!?」
叩かれるのが好きとか一体どんな人間なんだろう。
痛みが快感になるとかいうけど変態では?
「イニシャルはMよね?」
「MだけどMじゃないよ!?」
「意味わからんぞ」
「分かるだろうが、常識的に考えて!?」
血液型占いよりひどい。
名は体を表すとは言うけど、生まれたときからMを宿命付けられてるって最悪では?
「はい、どうどう、テンション落とそうね」
「上げたのは誰だよ!?」
「アタシ?」
「陽菜から教わったのかよ、ちくしょう!!」
綺麗系の顔であごに手を当てて小首を傾げられたら許すしかない。
綺麗と可愛いが入り混じるのって最高なんだよな。
陽菜め、なんてものを教えてくれるんだ、眼福すぎるぞ。
「ほんと必殺の効果ね」
「シスコンにもほどがあるだろ」
「何度も言うが翔には負ける」
実際、俺の比じゃないと思うんだよな。
灯里ちゃんに構われると嬉しそうだし困ってると颯爽と登場して問題を片付けるし。
ただ干渉が強いのは確かなので、灯里ちゃんもけっこう愚痴ってはいるけど。
「そうよ、一度聞いてみたかったのよ、翔の妹ってどんな子?」
「眉目秀麗文武両道、可憐で優しくてそれでいて言うべき時はちゃんと言う、そんな妹だろ」
「はい、真琴」
「前半は合ってるけど、可憐というのは若干疑問符があああああ」
「今、何かいったか?」
アホみたいな力で頭を鷲掴みにしてきやがった!?
でもどう考えても灯里ちゃんに可憐っていうイメージは似合わない。
どちらかと言うと怖い人とか何考えてるかわからない人って評価だと思う。
まあ仲良くなるとたしかに可愛らしいところは見えてくるけど。
例えるなら気難しい猫という感じだ。
「前半は合ってるんだ」
「まあ小5基準なので」
「なんだ、てっきり陽菜ちゃんと同じくらいかと思ってたじゃない」
バシバシと二の腕を叩かれる。
今まで気づかなかったけど、これはもしかして関西のおばちゃんがやるという照れ隠し……?
そう思った瞬間、平川さんの顔が真顔になった。
「真琴、正座」
「はい……」
どうやら口から出ていたらしい。
翔がやれやれという目で見ているのが腹立たしい。
お前だって絶対そう思ってただろ。
言われた通り正座するとすぐ笑顔になった。
やっぱり笑うとすごくかわいいな。
「で、悩みってなんだったんだ?」
「あ、うーん、えっとね、ちょっとMP足りないなって最近思ってて」
少し言いづらそうな感じで答える平川さん。
以前より格段にMPが増えたとはいえ使いたい魔法が多ければ足りなくなるのも当然だ。
「真琴からもらえばいいんじゃないのか?」
「でも悪いでしょ、真琴も魔法好きなんだし」
「……ならレベル上げすればいいんじゃないのか?」
なぜか不機嫌そうな顔をしている翔。
あれか、努力せずにMPがほしいなんて甘えとかそういうやつか?
困ったらレベル上げすればいいって言われればそうだけど……。
「でも……」
平川さんがチラリと振り返った視線の先には透子がいた。
透子がらみでなにかあるんだろうか?
「ふむ」
その様子を見て翔が透子に近づいていく。
さっきもそう感じたけど、でかい体が女子に向かっていくとけっこう威圧感あるな。
まあ透子は全然気にしてないようだけど。
「透子ちゃん、真琴借りてもいいだろ?」
「……返してくれるなら」
「OK、OK」
翔が戻ってきたけど俺の頭の中は透子の言葉でいっぱいだった。
え、今透子が冗談を言った?
嘘だろ、普段そういうこと言わないのに。
なんで翔の時だけ言ったんだ?
翔も驚いてる様子なかったしあれが日常なのか?
「許可もらえただろ……ってなんで真琴はオレを睨んでるんだ?」
「殺意で人を殺せたら殺してる」
「どこに殺意を持つ点があったんだ? ハンガーをなげつけられたか? 待ったの機能を追加したか?」
「透子に馴れ馴れしい態度を取った、つまり万死に値する」
「嫉妬しすぎだろ」
笑いながら席に座る。
こいつ本気だと思ってないな。
「ん? 真琴の筋力でなんとか出来るか?」
翔が腕まくりして力をいれると明らかに太い。
首も太いし不意打ちしてもやられるかもしれない。
二人がかりならと思って平川さんを見てみるとなぜか呆然とした表情で翔を見ていた。
「どうした、久美?」
「あんたすごいのね」
「動いてなんぼだろ」
二人は分かってるみたいだけど俺にはさっぱりだ。
「とりあえずこれで問題は解決だろ」
「そうね」
「……いやいやいや、よく考えたら誰が手伝うの?」
「「真琴」」
「仲いいな、爆発しろ」
なんで俺が手伝わないといけないんだよ。
いやまあお願いされたならやぶさかでもないけど、決定事項みたいに言われても困る。
「御主人様の許可は取ったが?」
「誰だよ!?」
「透子ちゃん」
「違うよ!?」
「ほほう、なら、透子ちゃんちょっといいかー?」
断ったらいきなり大声で透子を呼んだ。
読んでいた本を閉じるとこちらに向かってくる。
「真琴が久美の手伝いしたくないって言ってるだろ」
「告げ口!?」
順番を飛ばしていきなり告げ口とか最悪だろ!?
話を聞いた透子が近くに寄ってきたので怒られる!?
「めっ」
でもまさかのお叱りだった。
かわいすぎてとろけてしまう。
「久美の手伝いする」
「はい!」
「いい子」
優しい笑顔で微笑まれた。
俺の彼女がかわいすぎる件二度目。
「さあやろう、いつやろう、今やろう」
「手の平返しすぎだろ」
「……まあいいけど」
二人とも不満そうな顔をしている。
なんだよ、せっかく手伝うと言ってるのにそのリアクションは。
「じゃあ放課後ね」
「了解!!」
・・・
……たしかにさぁ、手伝うとは言ったけどさあ。
夜遅くまでひたすら魔法を使い続けるだけってのはさすがにどうかと思う。
最後の方は意識が遠くなりながら魔法を使っていたぞ。
まあ平川さんが楽しそうだったからいいか。




