97.それぞれの想い
「最近江川が調子に乗ってると思うんだ」
桐谷がいきなりそんなことを言い始めた。
ただ桐谷のこういう言動はいつものことなのでみんな特に気にしてない。
きっと何か嫌なことがあったんだろう。
まあ阿久津あたりが構うだろうし放置でいいか。
「そんなことないんじゃないか?」
「阿久津は恵まれてるからわからないんだよ!!」
案の定、阿久津が答えた。
桐谷が机をバンと叩いたが、どうやら痛かったようで手を振っている。
勢いでやるからそんなことになるんだよ。
「と、とにかく和泉と仲が良すぎる」
「それは同意」
くるっと振り返って鳥海が同意した。
こいつらいつものことだけど思考パターン似てるよな。
「そういうこともあるだろ」
翔が落ち着いた様子でツッコミを入れる。
こいつは基本的にノリでしっと団をしているだけなので、仲が良い程度なら興味がないようだ。
「春日井は許せんのかよ!?」
「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死ねって言うだろ」
「そうか、ならいもうt、ぎゃあああ」
「うちの妹がお前ごときに興味持つはずないだろ」
最後まで言い終わる前にネックハンギングし始めた。
興味を持つ前に殲滅するのはいかがなものかと思うけど、たしかに灯里ちゃんの好みには合わなそうだ。
桐谷のように突っ込んでいくタイプはどちらかというと橘さんが良いと思う。
「嫌だよ!? 最近ネットリした視線感じるし何を想像されているか考えるだけで怖すぎる」
橘さんの方を見て震えているけどみっともないな。
桐谷が生贄になればみんな平和でハッピーなのに。
「お前友達を売るのか!?」
「つい思っていることが口に出てしまった、本当に申し訳ない」
「お前、勝手に口から出たってことにすれば何でも通ると思ってるだろう!?」
「まあまあ、能見の失言はいつものことだし許してあげないか」
「阿久津は甘すぎる」
「だって意識することで失言なくなったら面白くないだろう?」
桐谷の文句に対して、悪い笑顔をしながら答える阿久津。
こいつ甘やかして駄目にするタイプだな!?
「理解した、悪かったな能見」
「理解するんじゃねぇよ!?」
桐谷が手のひらを返して許しを請うてきた。
人の失言を期待するとか絶対に許さないぞ。
「本題に戻そう」
「おっとそうだった、江川をいつ査問委員会にかけるかを決めよう」
「今日でいいのでは?」
「……能見ってたまに過激派だよな」
阿久津が呆れたように見ているけど当たり前だろ。
和泉さんみたいな美人にちょっかいを、ん?
「正座」
「はい……」
いつの間にか透子が後ろに立っていた。
全部聞かれていたようで無表情なのにプレッシャーを感じる。
すぐに言われたとおりに正座すると、桐谷と鳥海が手を叩いて喜び始めた。
「一流のエンターティナーはブーメランが得意なんだな」
「最高すぎる」
大爆笑している。
覚えておけよ、絶対後で魔法使って仕返ししてやるからな。
「反応がすごいな」
「だろ」
阿久津と翔が頷き合ってるけど、そりゃあ透子の言葉には反応するだろ!?
「あ、うん、そうだな」
「馬鹿は罰じゃ治らない、死なないといけないだろ」
「馬鹿じゃないですけど!?」
ちょっと成績がいいからって人を馬鹿にしやがって。
俺だって二人より優れた部分が……ないのが問題だ。
「まあとりあえず査問委員会は放課後開催するので江川の捕獲任せた」
「了解」
「真琴じゃ逃げられるだろうしオレも手伝おう」
楽しそうなら首を突っ込んでくるのが翔なんだよな。
まあたしかに俺が捕まえてもすぐ振りほどかれるしなぁ。
魔法でなんとか出来ればいいんだけど意外と難しい。
筋力補助とか粘着力強化とかじゃ効果時間が短すぎて拘束し続けられない。
一度しっかり捕まえてしまえば別の魔法でいけるんだけどな。
「ん? どうした?」
江川が何の気なしに帰ってきた。
ふふふ、よかったな、お前の地獄は放課後だぞ。
「能見がまたやらかしたんだな」
「なんでだよ!?」
「床に正座しながら言っても説得力ないぞ?」
そう言いながら席に座る江川。
言われてみれば正座してたんだった。
いつまで正座していればいいんだろうと思って透子の方を見ると席に戻って本を読んでいた。
どうやら放置プレイらしい。
「あははー、そういうこともあるでしょ」
「でもさ、違うと思わない?」
平川さんと和泉さんも教室に戻ってきた。
ふたりとも綺麗系の美人なので並んでいると非常に絵になる。
……江川死すべし、慈悲はない。
「あれ、また真琴正座してるの?」
「能見は藤田さんを怒らせすぎ」
「一瞬で完璧な理解ありがとう」
俺に気づくと平川さんは楽しそうな表情、和泉さんは呆れた表情で俺にツッコミを入れた。
理解されてるのは良いことなのか悪いことなのか。
「今度は何やらかしたの?」
「どうせ馬鹿なことよ」
どうしよう、当人を目の前にして言う事じゃないよな。
言い淀んでいると平川さんが周りを見回した。
「翔、原因はー?」
「いつの間にか正座してたから不明だろ」
「どうせ馬鹿みたいなこと言って怒らせたんでしょう?」
「秋穂、間違ってるぞ、馬鹿みたいじゃなくて馬鹿なんだ」
「馬鹿じゃないですけど!?」
「真琴、正座しながら言っても説得力ないわよ」
そう言いながら背中をバシバシ叩くのはやめてほしい。
痺れた足に振動が響いてちょっと痛い。
刑罰受けてる時に追加で攻撃とか獄卒よりひどいと思う。
「お姉ちゃん、お仕置きはもういい?」
「……いい」
と思ったらまさかの助け舟を出してくれた。
足がしびれて感覚がなくなってきていたのですごくありがたい。
透子もかわいい妹分の頼みなら聞いてくれるようなので助かる。
救いの女神に感謝しているとなぜかこちらに手を差し出してきた。
「はい」
これは知ってるぞ。
助けたんだからお金をよこせってやつだ。
昔、女子からこれをされた時に握手を求められてると思って手を握ったら叫ばれたことがある。
まさか救いの女神が守銭奴だったとは。
助けてもらったのは事実だけど、渡せるお金なんてもう残ってない。
「お金は持ってないです」
「はい?」
平川さんが首を傾げている。
次はジャンプしてみろとか言うんだろうか。
たしかに小銭は残ってるけどまさか根こそぎ持っていくんじゃ?
「久美、真琴は強請られてると思ってるだろ」
「え、あ、そうなの!?」
「違うの?」
「もう、ほら手を出して」
俺の手を握ると一気に引き上げて立たされた。
思っていたより柔らかな手ですごくドキドキする。
「軽いわね、翔みたいにちゃんと鍛えないと駄目よ」
「あれは筋肉バカだから」
むしろそこまでいったら平川さんの力では持ち上がらないと思う。
体重はよく知らないけどあれだけ筋肉付いてるからかなり重いだろう。
しかも翔基準で鍛えていたら脳みそまで筋肉になるし。
「あれで頭が良いっておかしいわよねー」
「そうそう」
「あれ、そう考えると翔って真琴の上位互換?」
「そこに気づくのはやめるんだ」
「うそよ、う・そ、真琴は真琴の良いところあるんだから」
「平川さんに言われると嬉しいな」
「え?」
ん? どうしたんだ? 何か固まってる。
また地雷踏んでしまったのだろうか。
「真琴のくせに生意気」
「なんで怒られるんだよ!?」
「調子に乗った真琴は正座」
なぜか正座の指示が出たので正座すると太ももを足で踏んできた。
ただ靴を脱いでるし力がかかっているわけじゃないので別に痛くない。
むしろ女の子の足の柔らかさにドキドキする。
「うわ、踏まれてるのにニコニコしてる」
「そういう趣味じゃないよ!?」
「じゃあなんなのよ」
まずい、このままだと変態認定されてしまう。
何か良い返しはないかと考えていたとき、以前陽菜に教えてもらったことを思い出した。
よし、これで返事してみよう。
「平川さんだから?」
「…………」
おお、さすが陽菜直伝。
陽菜曰く『お兄ちゃんを一撃で黙らせる方法』と言ったけど、平川さんにもクリティカルヒットしたようだ。
うんうん、周りに変態と思われたら困るからちゃんと否定しておかないと。
「もう知らない!!」
そう言って平川さんはなぜか教室から出ていった。
え、俺は上手くいってたと思ったのに何を失敗したんだ!?
意味がわからないまま正座した状態で教室の扉を眺めていた。
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「あいつら仲いいよな」
「嫉妬で人を殺せたら」
「妬ましい」
「久美もつらいわね……」
「ですねぇ」
「え、どうしてつらいの?」
「すみれにはまだ早い、ううん、もう遅いか」
「どういうこと!?」
「いろいろあるということですよぉ」
「どうするんだ春日井?」
「……何がだ?」
「行動するなら今しかないってことさ」
「言われなくても分かってるだろ」
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