96.新しいデッキ
今日からあの大量のカードが禁止になった。
禁止カード発表からほとんど間を置かずに施行となったのは少しでも混乱を抑えるらしい。
ただ発表時点で大混乱だったから今更な気がする。
「どうしようかな」
伸びをしながらベッドに倒れ込む。
今日洗いたてのせいかふかふかで気持ちいい。
おかげで考え事も捗るというものだ。
「メインデッキどうしよう」
〘ゼピュロス〙が禁止になったのでメインデッキがなくなってしまった。
他のデッキもあるんだけど、いまいち面白さがないんだよな。
とりあえず立ち上がってカード置き場に向かう。
「何か面白いカードあったかなぁ」
俺がデッキを作る時の目安は面白いカードかどうかだ。
単純に強いカードであれば誰かが既にデッキを作ってるし、俺が作っても劣化版にしかならないだろう。
だからデッキを作る時はあまり使われてないけど面白いと感じるカードをメインに据えている。
〘ゼピュロス〙なんてその典型例だった。
運次第ではどんなデッキにも勝てる可能性があるが、それ以外には何の取り柄がない。
誰にでも勝てるし誰にも勝てないっていうのがなにより面白かった。
「まあ一般的な強いゼピュロスデッキはただの普通のデッキの延長なんだけどね」
あくまで通常のデッキ構築で勝とうとする構築、その上で運が良ければ特殊勝利出来るって感じ。
だから俺のデッキみたいに特殊勝利に特化しているのは珍しい。
「だからこそもう使えないんだけど……」
特殊勝利特化はある意味で魔法の劣化版だ。
魔法を使わずに勝利したとしても、相手からすれば魔法を使われて負けたのと同じだろう。
かといってデッキの特性上、ゼピュロスデッキ以外では使いみちがない。
「でも一から構築するにはお金がなぁ」
予算の都合上、あまり高価なカードは揃えられない。
ゼピュロスデッキに使われているカードを売るにしても高いのは〘キキーモラ〙ぐらいで、〘キキーモラ〙は汎用性があるから売るのはもったいない。
「安く作ることが出来て面白いデッキか……」
なかなかの難題だ。
とりあえず頭で考えていても何も浮かばないしカードを見ながらいろいろ想像するか。
レアカードをまとめている箱を取り出して中身を確認していく。
「改めて見るといっぱいあるな……」
レアカードは基本的にパックに1枚なので、これだけパックを引いているということだよな。
シングルで買ってる物もあるけど、大抵有用なカードなのでここにはほとんど入っていない。
うん、いくらかかったのか想像するのはやめておこう。
「ただあんまり良い引きはしてないなぁ」
レアカードといっても強いとは限らない。
レアリティがレアとなっているだけなので、非常に使いづらくて限定的な効果のカードもレアになるしむしろそういうカードの方がはるかに多い。
「とはいえ思いもがけない所から新しいアイディアでるかもしれないし」
全部のカードを覚えてる訳じゃないので改めて見ると興味をそそるカードがあるかも。
そう思ってカードを見返してみる。
「あ、これとか使いたいけど使い道が浮かばなかったんだよな」
このカードは自分が道を7枚以上コントロールしている時に使える全破壊儀式呪文。
本陣以外のあらゆるものを破壊するという豪快なカードだけど条件の道7枚以上コントロールが厳しすぎる。
単純に7体のモンスターと道が必要で、しかもその状況だと盤面的には有利なはずなのにリセットする。
いくらなんでも無茶苦茶すぎてつかいようがなかった。
「こいつもなー、面白いんだけどなー」
このカードは自分がコントロールするモンスターの持つ特殊能力を全てコピーする。
全てというのは文字通り全てだ。
メリットだけじゃなくデメリットすらコピーするので使いづらいにもほどがある。
そのくせ呪文枠や装備枠はコピーしない・レベル8・攻撃力0・HP1と来たものだ。
もちろんそういうカードならコンボはいくらでも考えられる。
でもどんなにコンボを考えても本人の打たれ弱さのせいでどうしようもない。
せめて呪文枠があれば使い道があったのに……。
他にも色々出てくるけどどうにもピンと来るカードがない。
構築が難しすぎるか予算オーバーかだ。
なにかいいのがあるといいんだけど……。
「お、これは」
・・・
次の日。
良いカードを見つけたので夜通し頑張ってデッキを作った。
そうなると対戦したくなるのがデュエリストのサガというものだ。
意気揚々と自転車に乗り込んでさっそくワンパックに向かうと既に大量の人がいた。
ただ普段と違ってデュエルスペースではなくカード売り場の方がにぎわっている。
多分禁止カードの影響なんだろうな。
さてデュエルスペースに人はっと。
「誰かーって隼人がいるじゃないか」
「いるじゃないかってひどい言い草っすね」
隼人が笑いながら返事を返してきた。
デッキを広げているので調整中っぽいな。
「真琴さんもデッキの組みなおしっすか?」
「俺の場合は完全新規だな」
「あ、たしかに召喚士禁止っすもんね」
そんなことを話しながらカードを入れ替えている。
どうやら隼人の方は一部だけで済んだらしい。
羨ましい限りだ。
「時間かかりそうか?」
「もう終わりっすよ」
それなら他に対戦してくれそうな人もいないし待つか。
言っていた通り五分とかからず準備が終わったらしい。
不敵な笑みを浮かべて俺の方を見ている。
「新デッキの第一犠牲者っすね」
「人狼ゲームが始まるから今に見てろよ」
「真琴さんの召喚士吊りでー」
「初手ゲームオーバー!?」
まあ茶番はともかく対戦の準備をしよう、まずは召喚士の用意だな。
召喚士を出すと隼人が不思議そうな目で見てきた。
「俺の召喚士は〘四獣〙だ」
「なんすか、それ」
どうやら知らなかったようで隼人がカードを手にとって説明文を読んでいる。
カードゲームではこういうことがよく起きる。
誰もがカードの効果を覚えている訳じゃないし、覚えていたとしてもよく使われるカードぐらいだろう。
まあ遊戯王の初期みたいに誰も知らないカードってのはさすがに存在しないけど。
「四隅を取ると勝ちっすか」
「そうそう」
〘四獣〙の効果は5x5の戦場の内、四隅の道を所有していると勝利となるというカードだ。
本来であれば四隅というのは重要視されない。
まっすぐ行けば相手本陣に到達するのにあえて遠回りをする必要がないためだ。
せいぜいワープ能力がある道を置く時に使うぐらいだろう。
だが〘四獣〙は四隅を本陣同様の価値にしてしまう。
いくら本陣を固めても四隅を取ってしまえば勝ちとなる。
ガチガチに本陣を固めるデッキとは相性が良いので隼人のデッキとも相性が良いだろう。
……勝てそうだから対戦しようとしたわけじゃないよ、多分、きっと、おそらく、メイビー。
・・・
「はい、勝利っと」
「も、もう一回だ」
「何度やっても一緒っすよー」
おかしい、楽勝に勝てる計画だったのに3戦して3敗、しかもぼろ負けだった。
さすがにここまで負けると運がなかったという話じゃない。
「おかしいぞ、なんかイカサマしてるだろ」
「何をイカサマするって言うんすか」
「ほら、良いカードが来るようにとか出目操作するとか」
「そんなことしなくても勝てるっすよ」
「は?」
隼人が半笑いで俺のデッキを指さした。
そこには対戦を終えた直後でセットされたまま山札があった。
「真琴さんの山札残り枚数、俺より多いっすよね?」
「多いな、それが?」
「真琴さんのデッキは何を目指してるんすか?」
いまいち話が見えない。
勝てるのと山札の枚数に何の意味があるんだ?
ただまあここで黙る理由もない。
「四隅を確保して勝利する」
「そうっすよね、すると必然的に必要カード枚数が増える訳っす」
「は?」
どういうことだ?
必要カード枚数ってコンボじゃあるまいし、そもそも山札と何の関係があるんだ?
「だって極論本陣落とすなら道3枚とモンスター1体でいいじゃないっすか、でも四隅を確保するなら道12枚とモンスター4体いるっすよね?」
「……たしかに」
「それだけ手札が必要、つまり山札が削れてないといけないってことっす」
……言われてみればその通りだ。
本来よりかなりカード枚数がいるし本陣前と違って相手が道を出してくれることもない。
自力で全部準備しないといけないんだ。
「端的に言うとそのデッキにはドローソースが足りてないっす」
「なん……だと……」
「一体いつからドローソースが十分だと錯覚していた……っす」
そうか、デッキをちょこちょこいじってるうちに火力不足を感じてそれ以外のカードを減らしてた……。
そして何を減らしたかと言われたら普段より多めに入れていたドローソースだ。
多く入れてるから少しぐらい構わないだろうって思ったんだ……。
「そのデッキは必要なことが多すぎて手が回らないんすよ」
「たしかに……」
「しかもっす」
隼人が右下の隅に道とモンスターをセットした。
なぜそんな所に?
「こちらは四隅の内一か所を守ればいいっすが、真琴さんは全部守らないといけないっす」
「あ……」
「本陣も守らないといけないので最大四か所守るってことっす」
そうだ、俺は四隅を確保する必要があるけど対戦相手はそのうちの一か所確保すればいいのか!?
だから俺の方が負担が大きくなってじり貧になると。
「イカサマなんてしなくても勝てるっすよね?」
「返す言葉もない」
そりゃ勝てる訳がない。
確保するべき場所が多くてカードが必要だって言ってるのに全然カードを引いてないんだから。
しかも向こうは四隅の内の一角に全力でいいのに俺は戦力を分散させてるからなおさらだ。
「そのデッキはかなり難しいっすね」
「実感した」
バランスを取れる気がしないぞ、これは。
道理で四獣デッキがほとんどないはずだ。
デッキ相性の問題かと思っていたらそもそものデッキ構築の問題だったのか。
「諦めよう」
「はやっ」
「俺のデッキ構築能力じゃ無理だ」
「判断が早い、っす」
「いいことでは?」
鱗滝さんもそう言ってるし見切りは早い方が良い。
昨日一晩考えてこんな初歩的な問題に気づかない時点で向いてないと思う。
「まあ真琴さんの問題だからいいすけど」
「そうしてくれ」
「にしても真琴さんは特殊勝利好きっすね」
「なんか変わってて面白くないか?」
「気持ちは分かるっすがわざわざ作ろうとは思わないっす」
デッキを片付けだしたので俺も片づける。
何か新しいデッキ考えないとなぁ。
「まあ面白いからいいすけど」
「だよな、面白いよな!!」
「真琴さんのへこみっぷりが」
「そっちかよ!?」
「店長が見てたら大爆笑必至だったっす」
そこまでへこんではない……はず。
ただぼろ負けだったからなぁ、自信があっただけにショックだったのかも。




