91.透子と陽菜
今、俺は自分の部屋にいる。
そして目の前には。
「陽菜ちゃんのために頑張った?」
「ですよー、お兄ちゃんはすぐ見栄を張りますからねー」
透子と陽菜が話をしていた。
なぜ自分の彼女が家に来ているのにひたすら妹と話しているのか、コレガワカラナイ。
「お兄ちゃんが会話続けられないからだよー」
「俺だってそれぐらい出来るよ!?」
「え、じゃあ、はい」
どうぞとリアクションされる。
けどいきなり振られても何を喋ったらいいか。
まごまごしている内に陽菜が両手でバッテンを作る。
「はい、時間切れー」
「突然振るのはなしだろ!?」
「会話は突然始まるんだよ」
「それは事前準備してるから対応できるんだよ!?」
「ほうほう、つまりお兄ちゃんは透子さんを家に呼んだのに何も準備していないと」
「ぐっ、それは……」
いろいろ考えてはいたんだけど、どうやって切り出せばいいか分からない……。
いきなり『昨日はゲームしてたんだけど』とか言うとキモイよな?
普段は普通に話せるのにいざ話せと言われると難しい……。
「お兄ちゃんは調子づかないと喋れないんだからちゃんと準備しないと」
「くそう、何も言い返せない」
「ドヤァ」
ドヤ顔しているのでとりあえずアゴをタプる。
相変わらず肉が少ないので柔らかい所を探して優しくタプる感じだ。
「お、お、お」
トドかセイウチみたいな鳴き声だな。
まあそんなこと言うとブチ切れでお仕置き2時間コースだろうけど。
「仲いい」
「まあ妹だから」
「ワタシは一人っ子だから羨ましい」
「え、そうなんですか、てっきり弟妹がいるのかと」
「久美が妹みたいなもの」
初めて知った、一人っ子だったんだ。
平川さんがずっとお姉ちゃんって呼んでるから弟妹がいるイメージだった。
「でも最近まで会ってなかったから」
「そうなんですね、久美ちゃんも透子さんのこと慕ってますよ」
「……なんか恥ずかしい」
「あ、恥ずかしいついでにお兄ちゃんの恥ずかしい写真見ますか」
「会話の流れおかしいだろ!?」
「ちょっとアルバム取ってきます」
陽菜が出ていって二人になると途端に緊張する。
でも無言は駄目だし何か喋らないと。
「あ、あの」
「なに?」
ふあああ、こっち見てるのすごくかわいい。
ちょっと目尻が下がって唇の端が上がってるのが特に良い。
それでいてすごく優しい目をしているので緊張が溶けていく。
もう本当に
「大好き……って、あ!?」
今回は口から出たのわかったぞ!?
嘘だろ、いつもこんな感じで言ってるんだとしたらやばすぎる!?
「…………」
慌てて透子の方を見ると優しい笑顔をしていた。
その笑顔があまりに素敵で無意識に近寄って……。
「やっとアルバム見つかったよー、ってどうしたの?」
「な、な、なんでもない」
陽菜がドアを開ける音を聞いてとっさに離れてしまう。
「透子さんもどうしたんですかー」
「何も無い」
くそう、もう少しタイミングが遅ければキスぐらい出来たかもしれないのに。
陽菜は俺と透子の顔を見比べてしばらく考えた後、手をぽんと叩く。
「謎はすべて解けた、犯人はこの中にいる!!」
「何の犯人だよ!?」
いきなり犯人とか言われても、事件すら起きていない。
事件前に犯人を当てるとか名探偵を超えて超探偵だろ。
「透子さんのおっぱいを揉んだ犯人?」
「犯人じゃないしそもそもそんな事実ないよ!?」
犯人どころか事件すら捏造、『あなたを犯人です』を地でやるな。
「なるほど、つまり全て否認すると?」
「事実無根の内容は断固否認するに決まってる」
そんな事実はないのだから毅然と否定しておく。
放って置くといつの間にか事実にされるからな。
「なるほどなるほど、では私が入った時にお兄ちゃんが飛び退いたのと透子さんの反応が微妙だった理由は何でしょうか?」
「そ、それは……」
「言い淀む、つまりそれは言えないようなことをしようとしたということですね?」
普段と違う口調で畳み掛けるように追求してくる。
こいつ探偵になりきってやがる。
「透子さん、正直に答えてください、そういった事実はありましたか?」
「……はい」
「え!?」
「でも雰囲気だけ」
「なるほど、へたれだったと?」
「おいぃぃぃ!?」
なんでその流れになるんだよ!?
別にへたれてないしあのまま陽菜が来なかったらキスぐらいしてたかもしれないよ!?
「お兄ちゃん駄目だよ、押し倒すぐらいしないと」
「俺の想像より過激すぎるだろ、常識的に考えて!?」
「草食動物してると押し倒されちゃうよ」
「誰にだよ」
「私?」
「ツッコミどころが多すぎる」
なんで妹に押し倒されないといけないんだよ。
あれか、お金を強奪にでも来たか?
「うーんツッコむのは二箇所ならなんとかなるけど三箇所目はちょっと痛そうだから嫌かな」
「どこの話だよ!?」
複数箇所に何をツッコむのか、私、気になりません!!
「付き合い始めはアブノーマルな性癖隠したほうがいいよ」
「エロネタ続けるのかよ!?」
テンションが高すぎる。
うちの妖精は常にHOT LIMITだ。
「楽しそう」
「楽しいですよー、透子さんもやりましょうよ」
「難しい」
「大丈夫です、私が教えます!!」
「透子を染めるな!?」
陽菜に染まったら下ネタ三昧だろうが。
透子がそんなこと言ってたら一日で押し倒すぞ。
「なるほど、お兄ちゃん的には自分色に染めたい、と?」
「そんな訳…………」
彼女を自分色に染める。
改めて言われるとものすごく魅力的な提案だ。
ちょっとエッチな服とか来て猫耳つけて「にゃん」とか言わせ……。
「にゃん」
「かわいすぎる!?」
手を頭上に乗せて猫耳の真似をしている。
無表情なのに動作がちょっとモジモジしてるのが逆に興奮を誘う。
「ってなんで!?」
「知らないのかにゃん?」
「なんで陽菜もやってるんだよ!?」
陽菜は完全にいたずら猫スタイルでニヤニヤしている。
かがんで上目遣いなあたり俺の好みをよく捉えているのが分かる。
「全部喋ってた……にゃん」
「かわいすぎる!! 大好きです!!」
まさかの語尾に「にゃん」付け。
ちょっと力が入った「にゃん」がすごくいい。
「恥ずかしい……にゃん」
お持ち帰りー。
そんな風に思うぐらいかわいい。
「駄目ですよ、透子さん、このままだとお兄ちゃんに襲われます、性的に」
「その補足いる!?」
「まずは徐々に距離を詰めましょう」
「分かった」
せっかくかわいかったのにやめてしまった。
ものすごく残念。
「で、透子さんはお兄ちゃんのどこが良かったんですか?」
自然と背筋がピンとなる。
俺から告白したからものすごく興味があるけど聞くのは難しかったので陽菜に感謝だ。
「……付き合ってと言われたから」
……やっぱりそうなのか。
あくまで俺が好きと言ったから付き合ってくれてるだけという話。
「ほほう、なるほど、うんうん」
でも陽菜は透子の表情から何かを読み取ってるようで表情をコロコロ変えている。
もしかしてなにか別の理解があるんだろうか?
「ありがとうございます、で、アルバムはこれです」
「そこで話変わるのかよ!?」
「読み取れないお兄ちゃんが悪い」
返す言葉もない。
だが俺にも兄としてのプライドがある。
「言い返せないのでほっぺたを弄む」
「いひゃい」
楽しそうにほっぺたを差し出している陽菜を尻目に透子はアルバムを見ている。
マイペースなところがほんとにかわいい。
「かわいい」
一瞬焦ったけどどうやら口に出していた訳じゃないらしい。
アルバムのどこかを指さしているので陽菜が覗き込むと満面の笑みになった。
「ですよね!!」
なんかウキウキで一緒にアルバムを眺め始めた。
よっぽど良い写真だったんだろうけど陽菜の写真で良いもの多いからどれか分からないな。
女性二人で見ているアルバムを一緒に見る訳にも行かないし。
「陽菜ちゃんが多い?」
「あ、そうですね、お父さんが撮影すると偏るんです」
「写真羨ましい」
「え、透子さんはアルバムないんですか?」
「ない」
ちょっと興味深い話になってきたぞ。
どうしてアルバムないんだろうか?
透子ぐらいかわいければそれこそアルバム10冊以上になりそうなものだけど……。
「……なるほど」
陽菜がすぐ聞くと思ってたのに考え込んでる。
それなら俺が聞こうと思った時、先に透子が口を開いた。
「陽菜ちゃんはお兄ちゃんが好き?」
「あ、えー、どうなんでしょう」
平川さんにも同じようなことを聞かれていた。
でもその時とは違ってかなり悩んでいるようだ。
「やっぱり家族ですからね」
「……そう」
なんだろう、二人にしか分かっていない内容があるような。
二人が静かになったのでどうしたものかと思っていると、陽菜がいきなり振り返って立ち上がった。
「陽菜?」
そして俺の後ろに回り込んで耳元に顔を持ってくる。
「お兄ちゃんは透子さんのどこが好きなんだー!?」
「どんな質問の仕方だよ!?」
わざわざ耳元で叫ぶものだから耳が痛いし、透子も見てるから怒るに怒れない。
「ほら、お兄ちゃんは透子さんのどこが好きなの?」
「……言わなきゃだめ?」
「駄目」
やけに真剣な目で俺に言ってくる陽菜。
これは答えないと駄目な奴だな。
「えっと……まずかわいい」
「私より?」
「どうして陽菜が出てくるんだよ」
陽菜もかわいいし透子もかわいい、そこに順位なんてない。
でも陽菜は不服そうだ。
「むぅ、他には?」
「そうだなぁ、全部受け止めて真剣に相手してくれるとこ」
「全部受け止める?」
「馬鹿にしたり無視したりしないってこと」
「なるほどね」
俺が余計なことを言いやすい性格ってのもあるけど、それにしても話を聞かない人は非常に多い。
翔なんて話半分どころか話9割聞いてないからな。
「次は?」
「えっと、雰囲気が優しいとこ」
「具体的に」
「うーん、さっきの話に近いんだけど話しかけやすいんだよな」
「……初めて言われた」
驚いた顔で答える透子。
こんなにはっきり感情を表すなんて珍しい。
「なるほど、他には他には?」
「……いや待て、なんで俺だけこんなこと言わされてるんだ?」
「私に質問されたから?」
「うんまあ直接的にはそうなんだけど、なんで俺だけかって話」
「だって私も透子さんも言ったし」
「ろくに返事聞いてないよ!?」
「ちっちっち、あれで理解できないお兄ちゃんが悪い」
首を振りつつ指も振る陽菜。
どっちかだけで十分だろ。
まあとりあえずほっぺたをつねる。
「いひゃい」
「調子に乗る子はお仕置き」
「のっへないすよ」
「ほんとか?」
「あたひをひょうひにのへたらあいひたもんすよ」
その割に顔がドヤっているのでほっぺたをプニプニしておく。
今日の肌はすべすべなのでちゃんと寝れているみたいだな。
「柔らかそう」
なんか透子が興味深そうに見ている。
「……やる?」
「やる」
「へ?」
試しに聞いてみたら意外と乗り気だった。
さっそく指を離して場所も譲る。
「ちょ、ちょ、ちょっと恥ずかしいかな、かな」
「嘘だ!!」
「お兄ちゃん、そのネタ使うのずるい!!」
「ふはははー、素直に透子につねられるといい」
「嫌?」
「全然、全然です、お兄ちゃんが余計なことをしたから悪いんです、そう全てお兄ちゃんのせいです」
「なぜに俺のせい」
まあいいけど。
陽菜がほっぺたを差し出してきたので恐る恐るといった様子でほっぺたをつまむ透子。
「柔らかい」
「わ、お兄ちゃんと違って優しい」
「優しくないお兄ちゃんは反対側をつまむぞ」
「いひゃい」
両方のほっぺたを弄ばれてるのにニッコニコだ。
かわいいなあかわいいなあ。
「仲良い家族」
「ひうこはんもはほふへふよ」
「何言ってるかわからん」
つまむ強さを弱くする。
「透子さんも家族ですよ」
その言葉を聞いて微笑んでいる透子。
ただその笑顔に寂しさを感じるのはなぜなんだろうか。
「さ、お兄ちゃんは放っておいて遊びましょう!!」
「将を振り落として射られにくる馬!?」
「ここは私に任せて先に行けー」
「馬が壁になるのはおかしいし、先ってどこだよ!?」
「どこだろう?」
「考えもなしかよ!?」
結局ずっと陽菜と一緒に騒いでいただけだったけど、透子は楽しかったんだろうか。




