123.経験
「どうして勝てないのよ」
「そこは知識量とか経験の差としか」
カードゲーマーにはいくつかのタイプがいる。
デッキを組むのが好きな人、対戦するのが好きな人、集めるのが好きな人、見るのが好きって人もいる。
平川さんはどうやら勝つのが好きなタイプのようだ。
「久美はつっぱりすぎ」
「だって引いたら負けるよ?」
「時には引くことも重要」
「むう」
透子が平川さんにいろいろ指導している。
うーん、まさかこんなことになるとはなぁ。
こうなった理由は数日前のことだ。
※※※※※※※※※※※※
数日前。
「どう、いいでしょ?」
そう言って教室で見せてきたのは専用のケースに収まっているうさうさのカード。
チェーンがついていて鞄につけられるようになっている。
「これなら綺麗でしょ」
「うん、そうだね」
「返事にやる気がない、減点」
「だって教えたの俺だし!?」
カードを持ち運ぶのに良い方法はないかと聞かれて教えたんだ。
ただケースなんて大差ないので見せられても正直なんとも思わない。
「こういう時に褒めると好感度上がるのよ」
「平川さんの好感度上がっても……」
「なによ、こんな美人の好感度上がって何が不満なのよ」
「カツアゲされそ、ギブアップ、ギブアップだって!?」
後ろに回り込んで首を締め上げてきた。
意外とマジな締め方でおっぱいの感触を楽しむ余裕すらない。
ただ時間自体は短くてすぐにやめてくれた。
「はぁ……、うさうさかわいいのに」
「俺としてはカードゲームのカードが飾られてもあんまりテンションあがらない」
「そういうものなの?」
「そうだよ」
綺麗だなとは思うんだけど、カードゲームのカードはやっぱり使ってこそだと思う。
最高の場面で出てくる切り札カードとか大好きだ。
M:tGの〘スリヴァーの女王〙とかはそういう意味ですばらしい。
「ふーん」
なにか考えているようだ。
真剣な表情はちょっと色っぽくてドキッとする。
「アタシ、かわどいのカード使いたい」
「は?」
「デッキ?っていうの組んで真琴と対戦する!!」
「はぁ!?」
「翔に聞けば分かるかな?」
「あ、えっと翔はカオスフィールドやってないかな」
「えー、じゃあ誰に聞いたらいいの?」
「陽菜もやってないしなぁ……」
周りの人間みんなやってないんだよなぁ。
大抵のカードゲームって一つやっていれば応用が効くものだけど、カオスフィールドはそれが難しい。
陣取りゲームは意外と考え方が異なるのだ。
まあだからこそ翔や陽菜がすぐやめたんだけど……。
どうしようか悩んでいると肩を叩かれた。
パッと振り向くと肩を叩いたのは透子だった。
「透子?」
「ワタシが教える」
「え?」
ちょっと口元を釣り上げながら透子が答える。
その顔はちょっといたずら猫みたいな感じで非常にかわいかった。
※※※※※※※※※※※※
そして今に至る。
聞くと透子はあの日ワンパックに行った後からカオスフィールドを覚え始めたらしい。
もちろん独学では難しいのでワンパックで店長に教えてもらったとか。
俺が店で見かけなかったのは朝早くの開店前に教えてもらっていたかららしい。
「敵は避けてもいい」
「えー、ぜんぶ倒したいー」
「何体倒しても勝利にはならない」
透子が言っていたことがまさにその通りで、カオスフィールドにおいて敵を倒していくメリットというのは特にない。
何体倒されようが負けにならないし、本陣以外でどれだけ勝利しても勝ちにならないからだ。
王将を取られなければ負けじゃない将棋と近い。
「今、真琴くんが出してるのは囮のモンスター」
「え、そうなの!?」
「そう、だからついて行っちゃ駄目」
完全に見抜かれている。
移動力が高いからそれで振り回しつつ本陣を狙う作戦だったけど変えたほうが良さそうだ。
「小賢しい真似するわね」
「勝負だからね」
「真っ向から正々堂々勝負しなさいよ」
「嫌だよ!?」
平川さんの召喚士は〘騎士ウォーレン〙。
敵味方の即時召喚を無効化するとんでもカードだ。
フレーバー的には勝負の世界に横入り禁止ということらしい。
おまけに戦闘開始時に味方より敵の数が多いと攻撃力がレベル分プラスされるという能力まである。
数で押してくるのは騎士道違反ということなんだろうけど、自分たちが数で押すのは許されるのはどうかと思う。
このカードのように対戦相手に影響がある召喚士はたまにいるけど大抵の場合強い。
ゲームルールの根底を覆すので、それを想定していない対戦相手のデッキが機能不全になるからだ。
例えば〘騎士ウォーレン〙相手だと刹那の一撃というデッキは全てのコンボが潰される。
〘刹那の一撃〙は儀式魔法であり、使うと自軍モンスターがいない地形に戦闘を仕掛けられるカードだ。
モンスターがいないのに戦闘できても意味がないと思うだろうけど、〘刹那の一撃〙はその戦闘で全てのモンスターを即時召喚できる効果がある。
そう、全て。
敵本陣にいきなりレベル8のモンスターを召喚することなんて無茶苦茶すら可能になるんだ。
なので刹那の一撃デッキは条件を整えてチャンスを伺い、一瞬の隙に本陣を奇襲して制圧するというのが基本戦術となる。
それなのに〘騎士ウォーレン〙は即時召喚を潰してくるのだからたまったものじゃない。
何らかの呪文の効果ならまだしも初手から効果を発揮し続ける上に排除できない召喚士なのでどうしようもない。
「アタシのカードは小粒しかいないのにへたれね」
「うん、小粒しか入れられない制限がなかったら強すぎるからね、仕方ないね」
そんなとんでもカードだから制限もある。
3レベル以上のモンスターをデッキに入れられないというとても厳しい制限だ。
基本高レベルのモンスターは一枚で強い。
デッキの枚数も手札も限りがあるので、一枚で強いというのはかなり重要なことだ。
「うさうさ出すのは勝負を決める時だけ」
「えー」
かわどいのカードはどれも低レベルで相応の能力をしてるけどうさうさだけは特殊だ。
かわどいのモンスターを3体以上コントロールしている時だけ召喚が可能で、コントロールしているかわどいのカード分だけステータスが上昇する。
戦闘に参加していないかわどいのカードでも上昇するので条件を揃えるとレベル8のモンスターに匹敵するステータスになる。
「道を入れ替えて進路を塞ぐ」
「うん」
げ、それだとかなり迂回しないといけない。
かといってあの場所を制圧するのも時間がかかりそうだ。
「本陣のモンスター全て移動させて良い」
「え、一体だけになるよ?」
「この状況で本陣を強襲できるカードはない」
まじかよ。
たしかに戦場にいるモンスターは軒並み移動力が足りないし儀式呪文でなんとかしようにも使用条件を満たしていない。
そこまで理解しているなんてどこまで勉強したんだ。
・・・
数ターン後。
「負けました……」
「やった、勝てたよ、お姉ちゃん!!」
「久美の戦略が良かった」
そう言っているけど明らかに透子のおかげだ。
俺のやりたいことを全部先読みされて潰された上に平川さんにやりたいことをさせつつ勝てるように誘導していた。
正直自分で勝つより難しいと思う。
「どう、今日始めた初心者に負けた気分は?」
「平川さんに負けたというか透子に負けたのでは?」
「お姉ちゃんの成果はアタシの成果よ」
「ジャイアニズムはやめるんだ」
「久美が頑張ったから」
「ほらお姉ちゃんもこう言ってるし」
ドヤ顔をしている平川さんを見て実感するけど、透子ってけっこう甘やかすタイプだよな。
陽菜も「お兄ちゃんより優しい」とかよく言ってるし。
「これけっこう楽しい」
ニコニコしながらデッキを眺めている。
まあ楽しんでもらえたならいいか。
「透子も対戦する?」
「別にいい」
「でも対戦した方が面白いんじゃない?」
「大丈夫」
透子も対戦したいんじゃないかと思ったけど、なぜか頑なに対戦を拒まれる。
うーん、何かあるのかな?
「さあ次よ」
「ちょっと休憩で」
「なによ、体力ない男は嫌われるわよ」
「何が!?」
「無理はよくない」
「はーい」
俺と態度が違いすぎるんじゃ?
まあいいけど……。
「それにしても透子はすごいね」
「いろいろ教えてもらっただけ」
「それだけであそこまで出来ないよ」
「頑張った」
ちょっと誇らしげな表情なのが陽菜を思い出す。
全然知らないことをわざわざ覚えてくれるってすごく嬉しいな。
「楽しい?」
「え、あ、うん、楽しいよ」
「よかった」
少し頬を吊り上げて笑うのがかわいすぎる。
思わず頭を撫でそうになった時。
「真琴ー、片づけ方分からないー」
「はいはい」
危ない危ない、平川さんに呼ばれたおかげで止めることが出来た。
さすがに頭を撫でたりしたら失礼だよな。
ただ平川さんは透子に教わっているというのになぜ俺に声をかけるのか、ソレガワカラナイ。
仲が悪いって訳でもないし何なのだろう。
「分からない?」
「え、えっと?」
「真琴ー」
「呼んでる」
「あ、うん」
透子に促されて平川さんの方に行く。
本当は「分からない」の続き聞きたかったんだけど……。
「遅いー」
「俺じゃなくて透子呼ぼうよ!?」
「駄目?」
「かわいい!?」
訴えかけるような目をされたら許すしかない。
別に頼られて嫌な訳じゃないし。
・・・
結局透子が何を言いたかったのかはうやむやのままで終わってしまった。
こんな感じで俺はいつも透子のことを見ているようで見ていなかったのかもしれない。
だからこそ何も気づいていなかったんだ。




