120.傘の代わりの魔法
雨を嫌いな人間は多い。
傘をさしても濡れるし合羽はカッコ悪いし持ち運びも不便。
でもどうしようもないから受け入れてきた。
「雨か……傘に体収まらないから面倒だろ」
「そうなのか、まあ春日井はデカいからな」
「小さくても濡れるのは変わらないわよ」
翔と阿久津が話しているのに自然と混ざる和泉さん。
教室で話していると女子がこうやって会話に混じってくることはある。
特に和泉さんグループはそれが多いんだけど大抵名雪さんが最初に混じるので和泉さんは珍しい。
「秋穂は折りたたみ傘か?」
「そう、出すのも片付けるのも面倒で嫌になる」
やれやれという表情はちょっと色っぽい。
何だろう、仕方ないなぁって感じが良いんだろうか。
「大きな傘は駄目なのか?」
「駄目ね、邪魔だもの」
「それは分かるなぁ」
あ、江川のやつが話に混ざりにいったぞ。
きっと和泉さんと話したいんだろうけど、その行動力は評価しよう。
だがヤツには誤算がある。
「俺は湿気も嫌かな」
「じっとり濡れますからねぇ」
「いやまあ濡れるまでいかなくてもまとわりつく感じが」
「やっぱり何もまとわりついてないほうが感じやすいですからねぇ」
「湿度の話だよな?」
そこには名雪さんがいる!!(ババン)
和泉さんとは大抵セットでいるので下手な話を振ると混ざってくるのだ!!
まあちゃんと空気は読む人なので、いい雰囲気になってるなら混じってこないけど今回のように複数人で話しているなら間違いなく来る。
「乾燥するより良いんじゃないですかぁ?」
「それはそうだけど……」
「多少水分含むほうが動作スムーズですからねぇ」
「動作ってなんだよ!?」
ほら下ネタに引っ張られた。
和泉さんが微妙そうな顔してるぞ。
「まあ雨の日の対策は難しいな」
「こういう時は……真琴ー」
「なんだよ?」
翔が大声で俺を呼んだ。
ただそんなことしなくても聞こえてるんだけど。
「魔法でなんとかしてほしいだろ」
「魔法はそんなに万能じゃないよ!?」
雨を降らせないようにする天候制御の魔法はたしかに研究されている。
ただ定義が曖昧な状態で漠然と作ろうとしても出来ないので、細かい条件や制約をつけてなんとかしている途中のはずだ。
「え、魔法って万能じゃないの?」
「うん、和泉さんが普段から魔法を使ってないのはよく分かる」
「よく見る動画配信者の応援に使うぐらいよ」
応援というのは、使うと特定の人にお金が入るという魔法のことだ。
もちろん魔法自体がお金を生み出してるわけではなく広告を見ているようなものらしい。
ただ広告や投げ銭と違って時間もコストもかからない。
SNSのいいねに近いのでかなり気軽に出来る。
「お金と違って平等なのがいいのよね」
うんうんと頷く和泉さん。
どういう方法なのか使用数がカウントされているらしく、動画内でランキングが発表されるらしい。
MPはお金ではどうしようもないので平等に勝負が出来るとか。
……いろいろツッコミどころはあるけどまあいいか。
「とりあえず魔法で雨対策はいくつかある」
「お、さすが能見だな」
阿久津は無駄に反応が良い。
こういう所がモテる点なんだろう、爆散しろ。
「まず[雨当たらないザマス]……俺が作ったんじゃないよ?」
「そうザマスか」
「絶対そういうと思ったよ!?」
なんでザマスなんてついてるのか理解不能だよ。
名前が被ると言っても記号つけるとか英語混ぜるとかさぁ。
「どういう魔法なんですかぁ?」
「あ、ええと端的に言うと見えない合羽みたいな感じ」
「ほほう」
「便利そうね」
「ただ消費MP300で一時間」
「高すぎるぞ!?」
江川が言うことももっともだ。
消費MP300は一般人が使うには厳しすぎる。
しかも一時間必要なこともまれだし。
「消費MP5で一分にならないのか?」
「無理だったらしい」
どうも時間の長さ自体が制約として機能しているらしく短くしても大してMPが変わらない。
このあたりは魔法の面白いところだと思う。
非効率なことそれ自体が制約として消費MPを下げるから結果的にコストパフォーマンス良くなったりするんだよな。
「なら使えるのは能見ぐらいか」
「オレも使えるだろ」
「そうなのか、かなりレベル上げ大変だったと思うんだが」
「ああ、それh「それだけ努力したんだよな、翔!!」
余計なことを言おうとしたので声を被せる。
あの野郎、内緒だと言っただろうに。
「努力でなんとかなるの?」
「なるなる、だって俺もレベル上がってるわけだし」
「たしかにそうね」
和泉さんが頷く。
よかった、和泉さんが納得していれば他の人は無理に聞いてこないだろう。
「なあ能見、それなら一般人に使える魔法はないのかよ?」
「あるぞ、[傘なんだな、これが]……俺の魔法じゃないよ?」
「作った記憶を失ったんじゃないのか?」
「次元越えてないから!?」
まったく、そもそも記憶を失う前ならそんな口癖ないだろうが。
中途半端なツッコミをするのはどうかと思う。
「どんな魔法なの?」
「透明な傘のような物体を作る魔法なんだ」
「へぇー、持たなくていいの?」
「使う時は手で持つ必要があるよ」
「え、不便」
「いや折りたたみ傘と考えれば使えるんじゃないか?」
「たしかに……」
そう、阿久津の言うように折りたたみ傘として使えるならいいんだけど……。
「折れないんだ」
「はい?」
「その形のままで固定なんだ」
「えー」
この魔法の致命的な問題はそこだ。
形を変化させられない。
不要になったら片付けるというのが出来ないんだ。
「……なるほど、近距離では難しいですねぇ」
名雪さんが少し考えた後につぶやく。
そのつぶやき内容を聞く限り、既に問題点のポイントを理解しているようだ。
「持ち運び不便ー」
「和泉さん、必要な時一回限りの使い捨てって考えれば使えると思う」
「あ、そうか」
「待つだろ」
江川の言葉に納得しかけた和泉さんを翔が止める。
説明しようと思ってたけどまあいいか。
「真琴、それは完全に固定か?」
「固定」
「そういうことか」
俺達のこのやり取りを聞いただけで阿久津は理解できたらしい。
頭のいいやつは違うな、爆散しろ。
「どういうことだよ?」
「簡単なことだろ、《《傘さして扉を通る時どうする?》》」
「え、それは傘を閉じて……あっ!?」
翔の補足で江川も気づいたらしい。
和泉さんと橘さんはまだ頭にハテナが浮かんでいるようだ。
「開いたままの傘はいろんな所に引っかかるということですねぇ」
「あ、そっか」
「そうだよね、なんで気づかなかったんだろう」
名雪さんの言葉に和泉さんと橘さんが相槌を打つ。
まさにその通りで建物への出入りが多くなるとそのたびに消さないといけない。
消費MP的に効率が悪いにもほどがある。
「もう少し使い勝手いいのはないのか?」
「使い勝手が良いような悪いような魔法はあるんだけど……」
「なんでそんな微妙な評価なのよ」
一応これが本命なんだけど効果が好み分かれるんだよなぁ……。
実用性はもっとも高いんだけど準備しておかないと別の問題が出てくるんだよな。
「[自由]って魔法なんだけど、雨の影響がなくなるんだ」
「影響がなくなるってどういうことだってばよ」
どの忍者だ、お前は。
あれは火の字が入っているだけであって、雨に弱いって設定はなかったと思うぞ。
「雨の問題って結局濡れるのが問題だよね?」
「まあそうよね」
和泉さんが頷く。
そう、雨に当たるのは問題ではなく水に濡れて風邪を引いたり物がふやけたりするのが問題なんだ。
「この魔法は衣服を含めて水を一切吸収しなくなるんだ」
「吸収しないってどういうこと?」
「撥水加工したみたいに水をはじくんだ、だから水でふやけることもないし冷えることもない」
「……それって神魔法じゃね?」
桐谷の言うようにそれ自体は素晴らしい効果だ。
ただそうなると本来発生しえなかった別の問題が発生する。
「質問ですぅ、《《はじいたものはどこにいくんですかぁ?》》」
今来た名雪さんの質問こそまさにその問題の話だ。
はじいたものがどこに行くかなんて単純なことだ。
「重力に従って落ちるだけ」
「つまり袋があれば貯まるということですねぇ」
「どういうこと?」
「魔法の効果が切れた時に水が溜まっている場所は濡れてしまうってことなのか」
「え、桐谷君、理解早いね」
「いやぁ、それほどでも」
橘さんに褒められてまんざらそうな笑顔をする桐谷。
殴りたいこの笑顔。
人のふんどしで相撲をとって褒められるなんてずるいぞ。
「ちゃんと鞄締めておけばいいんじゃないの?」
「少しの隙間からも侵入するから面倒ですねぇ」
「あ、そうか」
なんか俺が解説する前に全部みんなが言ってしまうんだけど……。
「なら何も持たない時ならいい?」
「服の間とかにも入るので効果が切れる前に全部流してしまう必要がありますねぇ」
「なんか面倒ね」
呆れた様子で答える和泉さん。
だから最初に使い勝手が良いような悪いようなって念押ししたのに。
「対策を考えていればしごく使い勝手良いですよぉ」
「たしかに便利そうな気がするね」
「魔法の元ネタの場面で使うにはうってつけですねぇ」
「え、魔法の元ネタってあるの?」
思わずツッコんでしまった。
たしかに[自由]ってなんだよとは思っていたけど適当につけたんだと思ってた。
まさか元ネタ?があるとは。
「雨に歌えばという映画でどしゃぶりの中タップダンスをするシーンですねぇ、自由を表しているんですよぉ」
「へぇ」
「え、ゲーテじゃないの?」
「映画の方は間違いないですが、ゲーテの方は所説ありますねぇ」
「……なんか桐谷が知的に見えてきたわ」
「まあ知的な男だからな」
「たしかに桐谷君は痴的ですねぇ」
「なんかイントネーションおかしくないか!?」
みんないろいろ話してるけど全然知らなかった。
こういうのが基礎学力の差ってやつなんだろうか。
ちょっといたたまれなくなって目をそらすと、同じようにめをそらした橘さんと目が合った。
「ふふっ」
目が合うと少し笑っていた。
どうやら橘さんも同じだったらしい。
「あ、能見のやつ、またフラグ立てようとしやがって、おーい、藤田ー」
「立ててないよ!?」
桐谷の告げ口によってまたしても正座させられる羽目になった、おのれ。




