118.若菜の悩み
とあるビルの一室で若菜は悩んでいた。
そこは彼女に与えられた部屋であり、誰もいない。
「どうすれば認めてもらえるのかな」
誰に言うでもなくそうつぶやく。
現状でミヤに認められていないわけではない、むしろ高評価と言っていい状況だ。
だからこそ専用の個室をもらっているわけだが、若菜はもっと認められたいと思っている。
《《彼の隣に並べるぐらいに》》。
「まだまだ子ども扱いだもんね」
若菜からすればミヤは一回り以上年上である。
だがそんなことは関係なかった。
たまたま好きになった相手が年上だっただけ。
「実績、やっぱり実績が必要だよね」
ミヤは結果を出す人間を評価する。
今求められているのは計画に必要な高レベル者だ。
育成はしているものの魔法の仕様的に本人の努力で高レベルになるのは難しい。
現在のやり方はある程度までレベルを上げてMPを増やし、有用な魔法を作らせて一般人に使わせるというものだ。
若菜からすれば、これはどうしても組織の力を借りることになるので自分で成果を出したとはいいづらいと思っている。
「どうにか探し出すことが出来れば」
高レベル者を探すことができればきっと評価は上がる。
ただそれは容易いことではない。
人気ランキング上位の魔法の作成者を見れば名前は分かる。
だがそこまでである。
本人かどうか確認するすべがない若菜にとってそれ以上のアクションは難しい。
というよりそれはミヤも同じであり、だからこそ育成という道に走ったのであった。
「それを魔法で補う」
なければ作ればいい。
私の手にはその力が与えられているのだから。
若菜はそう心に決めて魔法作成に取り掛かる。
「まずは同じ名前の人間が何人この世に存在するかを調べて次に……」
独り言をつぶやきながら手は高速で魔法を作っていく。
若菜の魔法の作り方は、最初から小刻みに魔法を作っていき、最終的に目的を達成させるというスタイルだ。
目的を達成させるための最小限の内容からスタートし徐々に肉付けをしていくスタイルのミヤとは全く異なる。
だからこそミヤには作れない魔法が作れる。
「レベルを感知する事は出来ない、なら魔法の痕跡はどう?」
若菜も能見と同じく独り言の多いタイプである。
ただ若菜の独り言は考えをまとめるのに必要なものであり、能見のように思考を思わず口にしてしまうものではない。
「[対抗呪文]の要領で魔法を打ち消す事は出来る、ならその技術を使えば」
「失礼します、……どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
突然後ろから声をかけられてもすぐ世界書を消し動揺することなく答える。
どうやら研究員の一人が部屋に入ってきたようだ。
何度かノックしてほしいとお願いしたのだが言うことを聞いてもらえない。
建前上は礼儀正しい態度だが内心見下しているのだろうと若菜は考える。
「これについてお聞きしたいのですが」
「一度リスケが必要ですね、担当者にお願いしてみてください」
「わかりました」
説明を受けてすぐ適切な人間に作業を振る。
このあたりは若菜の得意分野だ。
「ミヤさんは外出です?」
「そうですね、今日はサウジだと言っていました」
「忙しい人ですね」
「なんでも自分でやってしまう人ですから」
ミヤに任せると全部自分でやってしまうので出来るだけ引き取るようにしている。
いくらミヤがすごくても体は一つしかないということを理解してほしい。
「レベル上げは進んでいますか?」
「はい、順調です」
研究員の答えに満足げな表情をする若菜。
どうあれ頼まれた仕事は達成しなければならない。
「そういえば先ほど何かされていたようですが、何か魔法の研究でも?」
「いえ、学校の宿題を」
「そうですか」
辺りを見回して机に置いてあるノートで視線が止まる。
それが数学の問題の解きかけであることを確認し、興味なさげな顔になって部屋を出ていった。
危ない危ない。
あいつらはすごく小うるさいし隙あらば研究成果を盗もうとしてくる。
気を付けないといけない。
ただ研究員に対してそう感じているのは若菜だけである。
実際は若菜を娘のように思っているから干渉してしまうだけだ。
いつの世も父親は娘に過干渉なのだった。
「えーと、どこまで考えたっけ、もー、邪魔されたからまた1からになった」
研究員に理不尽な八つ当たりをぶつけつつ改めて先ほど考えていたことを思い出す。
レベル察知の魔法は無理、でも魔法の痕跡ならたどれる可能性があるんじゃないか?
「打ち消されたことを通知する機能は作れる?」
世界書を出して試しに名前を確認する魔法にその機能を付与してみる。
結果は問題なく作成可能。
「通知は出来る、なら距離は?」
さきほどの効果で広範囲に影響するように設定して魔法を使用する。
結果は一名だけ名前がわかり、それ以外は打ち消されたことを示す通知が来た。
「もー、[対抗呪文]を使ってない人には後で厳重注意が必要だわ」
魔法を研究する人間が[対抗呪文]を使わないなんてどうかしている。
それだけで少なくてもこのような危険を防げるのに。
「じゃ、[対抗呪文]で打ち消されたかは分かる?」
試しにやってみるとこれは駄目だった。
いろいろ試してみたけど、魔法を調べるというのはかなり難しいらしい。
「でも打ち消されたかはわかる、なら特定の魔法を狙い撃ちすれば?」
効果を特定しようとするから駄目なんだ。
最初から特定の魔法にのみ効果がないように設定し、効果を発揮しなければ通知されるようにすればどうなのか?
結果は、問題なく通知された。
「これで[真実の目]を使っていない人を探せる」
若菜は、高レベルの多くが[真実の目]を使っていないと考えている。
その理由の根拠はミヤが高レベル者を探せないからだ。
《《[真実の目]には[対抗呪文]を無視して特定の魔法を受け入れる仕掛けがある》》。
もし人物をある程度特定できたなら高レベルかどうかわかるはずだからだ。
「ただそこからが問題」
ただし[真実の目]を使っていないからといって高レベルとは限らない。
[対抗呪文]と違って致命的な被害を受けにくいので、面倒で使わない人もいる。
それをどうやって切り分けるのかが難しい。
「高レベル者を決定づけるものは何?」
それはMPの最大値。
必ず多くなるはずだから絶対的な識別になる。
「MPを譲渡できれば高レベル?」
最大値以上のMPは譲渡出来ないから判別には使えるはず。
いや駄目だ、MP効率が悪すぎて最大値に届かない。
1/1000の効率では今の私のレベルでも初期レベルの最大MPすら超えられない。
かといって効率を増やせば今度は確率が下がってしまう。
両方満たせるような魔法があればいいが、《《そもそもそんな魔法があれば高レベル者など探す必要がない》》。
「ここがネックってことね」
高レベル者にしかない何かを見つけることができればいい。
でもどうすれば……。
「あ、何か出てる?」
世界書をいじっているといきなり画面が切り替わった。
その内容に若菜はくぎ付けとなった。
「……嘘でしょ、だからミアさんは高レベル者を集めてたの?」
そこには《《世界の真実が記されていた》》。
ミアがどうして高レベル者を集めていたのか、どうしてあれだけ急いでいたのか、その全ての根本がここに記されている。
「こんな魔法が作れるようになるなんて」
だが若菜はそんなことよりも新しく示された魔法に興味がいった。
今まででは作れなかった魔法、そしてなによりその特異性。
「いける、この魔法を応用すれば高レベル者を判別できる」
魔法の効果もすごいが、それよりもその魔法の特異性だ。
今までには存在しない特殊な効果が備わっている。
「《《だって知っていれば反応せざるをえないから》》……ククク、ハハハ、アーッハッハ!!」
特徴的な三段笑いをしながら若菜は考える。
これなら高レベル者を見つけることが出来る、と。
そして彼女は動き始めた。




