117.陽菜と灯里ちゃん
「変わった魔法特集ー」
「いえーい、パフパフー」
「相変わらずテンション高いですね」
今日は陽菜と魔法の紹介をしあう予定だったんだけど、たまたま灯里ちゃんが家に来るということで参加となった。
「さて陽菜さん、今日の魔法の紹介はどのようなものでしょうか?」
「そうですね、まずはこちらを御覧ください」
「テレビショッピング風?」
「ほら、灯里、そういう時は『うわぁすごいですね』って言わないと」
「まだ見てないのに言えませんよ」
「ノリだよノリ」
「陽菜お姉ちゃんの魔法が気になりますね」
「俺は!?」
「しょせんお兄ちゃんは敗北者じゃけぇ」
「戦ってもないのに!?」
せっかくなので紹介番組っぽい振りをしてみたんだけど灯里ちゃんには不評だったようだ。
平川さんあたりなら大爆笑なんだけど……。
「今日の魔法は緑色を青色に変化させる魔法ー」
「いえー、ドンドンパフパフ」
「なんとこの魔法を使うと光の三原色が二原色になるのだ」
「それって白はどうなるんだい?」
「青みが濃い紫になるよ?」
「単に色が足りなくなるだけかいっ!!」
「視界がバイオレット」
「バイオハザードの間違いでは?」
「お後がよろしいようで」
ふう、なぜ即興でネタをやらないといけないのか、コレガワカラナイ。
芸人をやりたいならピンでやってほしいんだけど。
「使い方が難しいですね」
「色が減るだけだからねー」
うんうんと頷く陽菜。
それには同感だけど、ただこういう何の意味もなさそうな魔法こそ面白い使い方が出来たりするんだよな。
「お兄ちゃんはどんな魔法ネタなの?」
「えっと俺はコードのもつれを解消する魔法」
「地味ー」
「実用性あるだろ!?」
あの面倒なコードのもつれを一瞬で解消出来るんだぞ。
魔法でなければちまちまと線をたどってもつれを解消しないといけないんだからすごく便利だ。
「コードを抜かずに出来るんですか?」
「あ、出来るけど抜かずに動かせる範囲しか無理」
「不便ー」
「そこまで求めるのがおかしいだろ!?」
たしかにそれだったらめっちゃ楽だけど、現実に出来ない現象となると消費MPが跳ね上がる。
わざわざコードのもつれを解消するだけで馬鹿みたいなMP支払ってられない。
「裁縫の糸がもつれた時に便利ですね」
「どうだ、灯里ちゃんはしっかり使い方を考えてくれたぞ」
「むー、私だってそれぐらい思いつくもん」
どうやら心外だったらしく、ほっぺたに空気を溜め込んでフグみたいに膨らんでいる。
抗議でそんなことをやっていたら喋れないと思うんだけどな。
「例えばどんなのですか?」
「えっとねー、お兄ちゃんの男子関係のもつれをまっすぐに!!」
「男女関係ならともかく男子関係ってなんだよ!?」
「名雪んから聞いたけどもつれにもつれまくってるって」
「捏造すぎる!?」
名雪さんと橘さんはむしろ勝手にもつれさせてる人だろ!?
この前の件で桐谷と《《仲が良い》》って噂されるようになった恨みは忘れない。
「真琴さんはホモなんですか?」
「ぐはっ」
灯里ちゃんの純粋な質問が心に突き刺さる。
そんな疑いを持たれること、それ自体が不名誉すぎる。
「も、もちろんホモじゃないよ」
「そうだよ、お兄ちゃんはシスコンでロリコンでケモナーなんだよ」
「設定盛りすぎだろ、それってどんな人物だよ」
「猫耳つけたかわいい妹?」
「よし、そこでかわいいをつけた理由を言ってみろ」
「過度な謙遜は嫌味にしかならないんだよ?」
「自覚がありすぎる!?」
いやまあかわいいんだけどね。
手で猫耳のマネをしてるのもそうだけど笑顔が特にかわいい。
「真琴さんって結構変態ですよね」
「変態じゃないですけど!?」
「まあいいですけど」
さらっとひどいこと言われたぞ。
変態って何を持って変態なんだよ、ケモナーか?
「灯里はどんな人が好きー?」
「私は優しい人がいいですね」
「つまり俺g「お兄ちゃん、ステイ」
「はい……」
ついノリで応えようとしたらマジなトーンで静止させられた……。
俺では駄目だということか。
「そうか、シスコンでロリコンだから私も対象なんですね」
「冷静な分析やめて!?」
「まあ猫耳はしませんけど」
「灯里だと狐耳のほうが似合うよー」
狐耳の灯里ちゃん……その考えイエスだね!!
出来れば巫女服とかを着てもらってしっぽとかもあるとなお良し。
「お兄ちゃんが変態な顔してる」
「どんな顔だよ!?」
灯里ちゃんからツッコミが入るかと思ったけどなにか考えているようでこちらを向いていない。
「どしたの、灯里?」
「彼氏って作ったほうがいいんですか?」
なかなか難しい問いかけが来た。
男ならともかく女性だと悩ましい所だと思う。
「灯里ならすぐ作れるでしょー」
「怒られるからうざい」
「将来のためだよー」
「理解」
二人で話しているけど内容が飛びまくっていて理解できない。
陽菜も翔ほどじゃないけど灯里ちゃんの会話についていくんだよな。
「真琴さんはどうなんですか?」
「へ?」
「彼女できてなにか変わりました?」
真剣な表情で問いかけてくる灯里ちゃん。
もしかして俺の話を聞いたから彼氏とか言い出したのかな?
「そうだなぁ、こんなに世界は明るくて鮮やかで華やいだものだったと感じるようになったかな」
「詩的ですね」
「これはカッコつけお兄ちゃんだね」
「『僕は悪くない』」
「いひゃい」
大嘘憑き使うぞ、もらぁ。
あれ再現するのは無理なんだよな。
まあ作中でも再現出来てないし仕方ない。
「でもどうしてそんなことを聞く気になったの?」
「告白がうざくって」
「ああ」
陽菜も似たようなことを言ってたな、小学生でもおんなじなのか。
ただ灯里ちゃんは美人だけど気軽に近づける雰囲気でもないから意外だった。
いや、小学生だからこそ特攻できるのか?
「ピーチクパーチク騒いでるだけで中身がなかった」
おおう、家族の話以外でめったに見かけない毒舌だ。
よほど頭に来たんだろうな。
「男子ってそんなものだよー」
「陽菜お姉ちゃんはどうしてるんですか?」
「ふふふ、そういう時は良い方法があるんだよ」
へぇ、良い方法ね、そんなものが……あっ、まさか、この前のあれか!?
「彼氏はお兄ちゃんって言えばいいんだよ」
「え、二股?」
「違うよ!?」
「そうそう、透子さんが本妻で私は愛人だから」
「最低」
「もっと違うよ!?」
彼女いるのになんで妹と付き合わないといけないんだよ!?
しかも愛人って何だよ!?
あくまでその場しのぎの嘘だろうが!?
「だから相手が諦めるだけの根拠を示すといいんだよ」
「なるほど」
うんうんと頷いている、この反応はちゃんと理解してるな。
嫌なことをされただけあって対処に関する理解は早い。
「私も真琴さんが彼氏って言いますね」
「ちょっと嬉しいけどやめて!?」
あくまで家族が恋人ってのがインパクトあるからなので、年上が彼氏でもそこまでのインパクトがない。
むしろワンチャンあるとか思われそうだ。
「なるほど、なら年上のバイの彼氏から性奴隷にされてるって言っておきます」
「インパクトありすぎるからやめて!?」
たしかにそれだと断り文句としては強いけど間違いなく翔がブチ切れる未来が見える。
断り文句だって言ってるのにガン無視でタワーブリッジ決めてきそうだ。
「まあ理解しました、ちょっと考えます」
「穏便にねー」
陽菜の問いかけに返事をせずにっこり笑っているのが怖い。
間違いなくトドメを刺しそうだ。
「じゃあそろそろ帰ります」
「あ、うん、またね」
「では」
パッと立ってそのまま部屋から出ていった。
いつものことだけどあっさりしてるよな。
さて陽菜も部屋に戻るだろうし、俺はデッキ作りを……あれ?
「むー」
「どうした?」
てっきり部屋に帰るのかと思っていたら、ふくれっ面で俺を睨んでいる。
何か不機嫌になるようなことあったかな?
「私の時と態度違う」
「何のだよ」
「私、そんなにかわいくない?」
目をうるうるさせながら俺に質問してきた。
ただ陽菜はいつでも泣ける特技を持っているので演出だろう。
「かわいすぎて目に入れても痛くないぞ……って指入れようとするな!?」
「痛がってる」
「比喩を試そうとするな!?」
何の躊躇もなく指を入れようとしてくるのが怖い。
あれで指が入ったら次はどうする気なのか、想像するだけで恐ろしい。
「ほんとに好き?」
「ほんと、ほんと」
あれ、珍しいな。
普段はこういう話題をあまり引っ張らないのに。
何か不安になったのかもしれないし、もうすこし付き合うか。
「じゃあ好きって言って?」
「好きだよ、陽菜」
「愛してるって言ってみて?」
「愛してるよ、陽菜」
「はい、ここに録音状態のスマホがあります」
「!?」
「これをこうして再生すると……『愛してるよ、陽菜』」
「ぎゃああああ!?」
なんてものを録音してるんだ!?
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
こんなもの一言たりとも残してはいけない。
「おおっと、もうクラウドにあげてるからスマホから消しても無理ー」
「判断が早い!?」
「えへへー、後で透子さんにも送ろー」
「やめて!?」
必死に説得してなんとか透子に送るのだけやめてもらえた。
ただ録音データは意地でも消さないらしい。
陽菜は手をグーにして両方のほっぺたに当てているし、よほどご機嫌ぽいからいいか……。
一段落したらさっきの話を思い出した。
あれは会話が成り立っていたのか気になるし聞いてみるか。
「いつも思うんだけど、陽菜はちゃんと話理解してるのか?」
「してるよー」
「なら『彼氏作れる?』の問に対して『怒られるからうざい』って意味は?」
「あれは彼氏は作れるけど作ったら翔さんとか家族から怒られるからうざいって意味だよ」
「陽菜の返事の『将来のためだよー』ってのは?」
「今のうちに慣らしておかないと大きくなったらもっとうざくなるよ、将来のためだよーって意味」
「短縮すぎるだろ!?」
ボスケテよりひどい短縮語を見た。
というか、ほとんど重要な部分入ってねぇ!!
「目を見たらうんと答えるぐらいが大事なんだよ」
「それで何が伝わるんだ」
「じゃあやってみるよ」
目をキラキラさせて俺を見てきた。
うん、この目は……。
「かわいいぞ」
「ばっちりだね、お兄ちゃん!!」
まあ褒めてほしい時の顔だからさすがにな。
一日一回はこの顔してるし。
「じゃあこれは?」
今度はうんうんと頷きながらちょっと見下す感じの目をしている。
これはあれだな。
「なにがいいのか分からないぞ」
「さすがだね、お兄ちゃん!!」
どうやら正解だったようで手を握ってきた。
しかしなぜそんなに『しょうがないにゃあ……いいよ』が好きなのだろうか。
「これだけ息が合ってたらもう夫婦になるしかないね!!」
「家族だよ」
「朝起きておはようって言える距離にいるなんて実質夫婦だよね!!」
「家族だよ」
「むー、お兄ちゃんがつきあってくれないー」
「なぜに夫婦にならないといけないのか」
「夫婦漫才したいのにー」
「リアルで夫婦になる必要ある!?」
どうやら芸人修行のためだったらしい。
でもほとんどの男女コンビ芸人が結婚していないんだから拘る必要はないと思うんだけど。
「でも家族だといつかは離ればなれになるんだよね」
しょんぼりした顔でそう言う陽菜。
夫婦って言うのはそれを考えていたからなのか。
「家族だからいつでも会いに来るといい」
「ほんとにいつでも?」
「ああ、いつでもいいぞ」
「やったぁ」
飛び跳ねて喜んでいるのがかわいらしい。
でも大きくなったらきっと彼氏とか出来て、こんなこと言ったのなんて忘れるんだろうな。
そうなったらちょっと寂しいけど仕方ない。
「今のうちに透子さんと仲良くなっておくね!!」
「今のうちってなんだよ!?」
「プロポーズは私からしておくから!!」
「おいやめろ」
そのままのノリで電話しそうになったので今度こそ止める。
よほど嬉しかったのか、その日はテンションが最高潮になった陽菜を抑えるのが大変だった。




