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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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116/126

116.透子の家柄

 いつも透子と平川さんは一緒にいる。

 それ自体は構わないんだけど、私的なことを話すタイミングがないのが問題だ。


「今日こそは言うぞ」


 ここ数日ずっと言おうと思って言えなかったことがある。

 さすがに平川さんの前で言うのは恥ずかしいので、平川さんが呼び出されている今が絶好のチャンスだ。

 おそらく待たなくて良いと言われたんだろう。

 既に帰り支度をしている透子に近寄る。


「と、透子」

「なに?」


 俺の声に反応して手を止めてきちんと返答してくれる。

 それだけでも嬉しいけど今日はもっと大事なことがある。


「よ、よかったら明日一緒に出かけない?」


 言えた、ずっと家で練習していたかいがあった。

 俺の言葉を聞いて透子は無表情のまま静かに口を開く。


「……どこに?」

「えっと、その、ゲーセンとか本屋とか回って」

「……」


 返事がないけどこれは断りではなく考えている仕草だ。

 目を伏せているのがその証拠。 


「あの反応見ろよ、ないわー、デートで本屋とかないわー」

「同意」

「相手次第ですねぇ」

「藤田さんは本好きだしありだよー」

「え、そうなの?」

「相手が喜ぶところに行くのが基本だよ」

「へぇー」

「そんなことも知らないから桐谷はデート出来ないんだよ」

「うるせえ、ちょっと和泉と仲いいからって調子にのってんじゃねぇよ」

「負け犬の遠吠え」

「鳥海、お前とは親友だと思っていたが間違いだったようだな」


 待ってる間、後ろが騒がしいにもほどがある。

 特に桐谷は覚えておけよ。


「わかった」

「やった!! じゃあパンダ像の前で11時に!!」

「ん」


 やった、透子と初めてのデートだ!!

 いやまあ休日に家で遊んだことはあるんだけど、あれは陽菜が呼んでたからなぁ。

 今回が初めてのデートと言って支障ないはず!!


「じゃあまた明日」

「また明日!!」


 透子が教室から出ていった。

 しかもお別れの挨拶までしてもらえたなんて最高すぎる。


「なんで能見だけ上手くいくんだよ」

「許せない」 

「行動力の差ですかねぇ」

「え、俺も行動してるよ?」

「桐谷君は本心が透けてますからねぇ」

「いやいや、魅力を感じるから誘うわけで」

「桐谷くんは名雪んに話しかける暇があったら阿久津くんとか鳥海くんと話すべきだと思う」

「その二人にまったく魅力感じてねぇーー」


 桐谷はそのまま腐るといい、その時は暖かく祝福してやるよ。

 さて明日は楽しみだ……ん?


「なんで電話でしないんだ?」


 阿久津が不思議そうな顔で聞いてきた。

 それが出来たら苦労しないってのが分からないのか。


「……番号知らないし」


 透子には電話番号教えてるんだけど透子から電話番号教えてもらってないし電話もかかってきたことない。

 ちなみに陽菜はけっこう電話しているらしい、うらやましい。


「聞けばいいだろ?」

「そんなこと聞いたら嫌われるかもしれないだろ!?」


 こちらが電話番号教えたタイミングで教えてもらえていないってことはそういうことだろう。

 下手に聞いたら失望されるかもしれない。


「能見、それで待ち合わせの時に何かあったらどうするんだ?」

「それは……気合で待ち合わせ場所に行くか陽菜に電話してかけてもらうか」

「一周回って賢く見えてきただろ」

「馬鹿じゃないですけど!?」


 翔まで来やがった。

 二人で顔を見合わせて頷いてるのが気持ち悪いんだよ。

 橘さんにチクってやるから覚悟しとけよ。


「もう疲れたー、なんであんなことで呼び出されるのか分からない」


 若干怒りをにじませつつ平川さんが帰ってきた。

 多分片付け手伝わされたんだろうな。

 以前俺と一緒に片付けをしたせいか片付け要員として認識されたらしい。

 俺としては負荷が軽くなってラッキー。


「ふむ、久美ちょっといいかー」

「そんな雑な呼び方でいいわけないでしょ」


 そう言いつつもこちらに来る平川さん。

 陽菜といい灯里ちゃんといい平川さんといい、妹属性持ちは呼ばれるとちゃんと来るんだよな。

 これが和泉さんとか大森さんとかだとこっちから来いって言われるけど。


「二人でまた真琴いじめてるの?」

「心外だな」

「今日はお悩み相談だろ」

「え、真琴の悩みって気になる」


 二人の返事を聞いて、俺のほうを向いてニヤリと笑っている。

 これは絶対からかう気に違いない。


「そんな悪い顔してる人には教えない」

「えー、……教えて♪」

「かわいい!?」


 完全におねだりポーズをマスターしてる!?

 表情までかわいらしくされてしまったら非の付け所がない。


「そんなことしなくてもオレが教えてやるだろ」


 不機嫌そうな顔で平川さんに電話番号を教えてもらっていないという話をする。

 てっきり行動力がないと馬鹿にされるのかと思っていたら予想外に真面目な顔をしていた。


「それは……真琴が正解ね」

「どうしてだ?」


 平川さんの言葉に阿久津がすかさず疑問を呈する。

 その気持ちは俺も同じだ。

 理由はどうあれ俺のほうが正しいとは思えない。


「ちょっと言いづらいんだよね……」

「久美、詳細を教えてほしいだろ」

「うーん、でも……」


 翔も気になったようで平川さんに質問しているけどいまいち歯切れが悪い。

 こんな平川さんはめったに見ないぞ。


「平川、教えてくれないか?」

「平川さん、教えて欲しい」


 一呼吸置いたのに阿久津とタイミングがかぶってしまった。

 こういうタイミングの悪さがうらめしい。


 ただ阿久津からの再度の質問でようやく決心がついたらしい。

 しぶしぶといった感じで口を開く。


「アタシから聞いたって言わないでほしいんだけど」


 そう前置きをする。

 そんなに言いづらいことなんだろうか。


「お姉ちゃんの家はその《《厳しいの》》」

「年頃の女性を抱える家ならよくあることじゃないか?」

「ううん、そうじゃなくて、その、《《許されてないの》》」

「許すって何を?」

「《《男子と仲良くなること》》」

「「「は?」」」


 平川さんの言葉を聞いて奇しくも三人の声が揃った。

 仲良くなることが許されてないってどういうこと?


「……それはつまり男女交際をってことなのか?」

「……そう」


 阿久津の質問に対してつらそうな表情で答える平川さん。

 ……あれ? ちょっと待てよ? それだと現状って……?


「てっきり透子ちゃんは真琴と付き合ってると思ってただろ」


 俺は……透子と付き合っていない?

 いや、そんなことない、あのときたしかに『付き合う』って言っていたはず……。


「あ、もちろんお姉ちゃんの気持ちとしては真琴と付き合ってると思う」


 その言葉を聞いて安堵する。

 もし違っていれば明日から学校に来れないぐらいのショックだった。


「ということは独断か」

「……多分そう」

「それってまずいの?」

「かなり……」


 え、そんなにまずいことなのか?

 頭の中でクエスチョンを浮かべていると翔が呆れた様子で口を開いた。


「真琴、久美の家を思い出すだろ」 

「……デカかった?」

「《《あれが余る家ってどういうことか考えてみるだろ》》」


 あの敷地の広さの家が余っている、つまり住んでる方の家はもっと広いってことだよな……?

 え、あれより広い?


「ガチのお嬢か」

「アタシは分家だからまだまし、お姉ちゃんは本家だから……」


 は? 本家とか分家なんて言葉は探偵ものかヤクザものでしか聞いたことないぞ。


「つまりだ、能見にはそれだけの格を求められるということになる」

「か、格?」

「そうだ、藤田と釣り合うだけのものが必要になる。 例えば本人の容姿・成績・身体能力・人格だけでなく家柄についても求められるだろうな」


 阿久津の説明についていけない。

 俺がそんなことを求められても釣り合うものなんてなにもない。


「だからこそそれを隠してるってことだろ」


 翔の言葉が胸に突き刺さる。

 つまり俺は家族に紹介する男足り得ないということなんだろう。

 俺の表情を見て平川さんが慌てて口を開く。


「ち、ちがうの、お姉ちゃんは既に結婚相手決まってるの」

「許嫁というやつか?」

「分からない」

「どういうことだ?」

「卒業したら結婚するとは聞いてるけどそれ以外は分からないの」


 平川さんの話を聞いてみんな言葉を失う。

 つまり透子はどこの誰とも分からない男と結婚することが決まっているということだ。

 自分の意志は関係なく親の命令で……。


「だからお姉ちゃんが真琴と付き合うって聞いて驚いたの」

「そうだったのか……」


 あの時やけに驚いてたのが記憶に残ってるけどそんな理由があったからなのか。


「だから電話とかしないのか」

「そうだと思う」

「よかったな真琴、透子ちゃんに嫌われてなくて」

「そんなこと考えてないよ!?」

「泣きそうな顔してたんだが」

「してないですけど!?」


 ちょっと不安になったけど信じてたし。

 ただそういうことは教えてもらえたら嬉しかったな。


「だがそれだと二人で出かけるのはどうなんだ?」

「え、出かける?」

「さっきデートの約束してただろ」

「あ、うーん、監視されてるわけじゃないから大丈夫だと思うんだけど……」


 監視……そんなに大変な事だなんて思わなかった。

 一緒に帰るぐらいノリで誘っただけだったのに。


「もしかしてやめておいた方がいい?」

「待って、お姉ちゃんがOKって言ったなら良い」


 今からでも断りをいれてこようと思ったけど平川さんからストップがかかった。

 ただ危ない橋を渡る必要はないと思うんだけど……。


「お姉ちゃんは覚悟してるはずだから断れば悲しむと思う」

「そうだな、当事者である藤田が理解していないはずがない」


 平川さんと阿久津に断定される。

 でも理解していても断れないこととかあるような。


「ほら、俺が言ってるから仕方なしとか……」

「そういうタイプじゃないだろ」

「藤田さんは意志が強いですからねぇ」


 今度は翔と名雪さんにツッコまれる。

 うーん、そういうものかな。


「羨ましい、死ね」

「死ね」

「こちらは直球にもほどがあるんだけど」

「二人とも落ち着け、能見が失敗するとこ見る方が面白いだろうが」

「「たしかに」」

「ナイスカップル」


 その言葉で名雪さんと橘さんが生温かい目で見てるのに気づいて、心底嫌そうな顔をしている桐谷と鳥海。

 まあそれはともかく擁護するふりをして喧嘩を売ってきた江川は許さん。


「どうどう、楽しみにしてるだろ」

「高校生らしい健全な範囲で留めていれば大丈夫だと思うぞ」


 健全かぁ……、キスとかはともかく手をつなぐぐらいはしてもいいよね?


 これが勘違いだと気づくのはもう少し後のことであった。

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