113.イカサマつぶしのやり方
禁止になってもそれに対応して新しいものが出てくる。
それがカードゲームであれば健全な環境と言えるだろうけど、これが魔法となると話が違う。
一部を禁止したり対策したりしてもまた新しい抜け道を探されるだけだ。
やるなら根本を変える必要がある。
「特定のカードを均等に分布させる魔法か……」
カードゲームには事故と呼ばれる概念がある。
それは確率的には引いているはずなのに手札に来ていないことをいう。
例えば何枚引いても呪文しか来ない、土地が欲しいのにモンスターしか来ない。
もちろん確率だから引けないことはあって当然だけど、これは実際の確率以外にも要因がある。
カードの束の中で分布が均等ではないからだ。
簡単に言えば、確率上3割引けるものであってもデッキの下に固まっていたなら引ける確率は0になる。
そんなことになるのはデッキを使用したことで特定の偏りが出来ているためだ。
一度対戦したなら使用したカードがまとまっているし、土地はそれが顕著だろう。
たくさん並べて固まってしまうと山札内に綺麗に分散させるのは難しい。
ショットガンシャッフルとかである程度は分散させることが出来るけど限界がある。
《《しかしもし確率通りに引けるなら?》》。
デッキの安定性は格段に上がるだろう。
期待値が期待値たりえるのだから当然だ。
「まさかこれを逆用するとはなぁ」
とまあ本来はイカサマする側が使う効果なのだが、今回はなんと運営側が取り入れた。
イカサマをイカサマ防止に使うのだ。
「準決勝からは試合前にジャッジがその魔法を使用するとかすごいな」
《《この魔法は運営側が使う、ただし特定のカードではなくすべてのカードに対してだ》》。
この効果は非常に大きい。
まず積み込みと呼ばれる古典的なイカサマを防止できる。
これは以前幹人に使ったイカサマがわかりやすいけど、あれは単純に欲しい順番にカードを並べているだけだ。
シャッフルやカットで変化する可能性があるとはいえ、相手の行動パターンを読めば仕込むのは難しくない。
それが均等に並び替えされてしまえば効果がなくなる。
次に電子での対戦に近い環境になるのも大きい。
電子では確率に沿ってデッキの並び順が決まる。
当たり前だけど直前に何のカードを使っていたかは関係がない。
言われてみれば当たり前だけど全然考えたことがなかった。
確率通りに引けるのは運営にとって問題視することではないってことだ。
だからこの発想が出てきたのだろう。
最後にこれが一番大きいことだろう。
《《サーチ系の魔法が打ち消されることだ》》。
何かに魔法をかける際に似たような効果の魔法が既にかかっていると、打ち消した上で新しい魔法の効果になる。
そしてこの魔法はデッキの並び順を変更する都合上、サーチ系魔法と競合する。
つまり結果的にあらゆるサーチ系魔法をすべて無効化するということだ。
これは非常に大きい。
会場で世界書を出せばそれだけで退場になるので追加で魔法はかけられない。
確実にイカサマを潰せるわけだ。
「なんでも魔法に詳しい参加者からの情報提供だとか」
魔法名は秘密とされ、運営関係者にのみ教えられるらしい。
まあ個人で知った所で悪用できるわけじゃないんだけど。
「ここに公式ダイスを合わせれば良いというわけだ」
大会ではサーバーと通信し結果だけを受け取り、サイコロの目が結果の目になるように調整される。
サーバーには記録が残るので、イカサマをするにはサーバーに細工をする必要が出てくるがこれは非常に難しい。
どこにあるかも分からない他人のサーバーの電子データを一部書き換えようとする訳だからだ。
どうやれば成功するのかすら想像つかない。
「ただなんで物理的なサイコロの目まで合わせているんだ?」
データだけで完結させれば楽なのになぜか物理的なサイコロの目を電子の結果に合わせている。
何か仕込んでいるんだろうけど、そんな無駄なことをやる意味があるんだろうか。
普通にデジタルの目だけで良いじゃないかと思う。
「それはロマンだよ、お兄ちゃん」
「知っているのか、陽菜!!」
「むー、雷電ポジはちょっと嫌ー」
意外とわがままな妹だった。
解説役のどこが悪いと言うのか。
「出番がなくなったから解説役にシフトしたんだよ」
「謝れ、全国1億人の雷電ファンに謝れ」
「知っているのか、雷電を!?」
「一文字付け足すだけで全然意味が変わってるな」
まあ今の子は男塾なんて知らないだろうけど。
父さんの本棚(健全)で適当に漁ってたら意外と面白かったんだよな。
「やるならやっぱり主役が良い」
「うんうん良いことだ」
昔の陽菜なら目立ちたくないと言っていただろうからな。
こんなにかわいいんだから目立つ気がなくても目立ってしまうし、それならいっそ開き直った方が良い。
「彼氏はお兄ちゃんです!!」
「ゴシップ紙の主役!?」
開き直るにしても方向性が違いすぎる!?
もっと耳目を集めようと言われてヌード写真を出すかのような所業。
「やっとTOPになれました!!」
「TOP記事間違いなし!?」
そりゃあ誰だってそのネタならTOP記事取れるよ、みんなやらないだけだし。
こういうのなんていうんだっけ、自爆ネタ?
「駄目だよお兄ちゃん、二回目のツッコミはひねりがないよ」
「ツッコみたくてツッコんでるんじゃないんだけど」
礼儀としてツッコんでるんであって別にツッコミたい訳じゃない。
というか芸人じゃないんだから即座に上手いツッコミが出来るか。
「お兄ちゃんにたくさんツッコまれた♡」
「ハートいらないだろ!? っていうかこのネタ二度目」
「てへぺろっ」
「そのネタに至っては既に数えきれない」
「だがそれがいい」
「慶次!?」
もう勢いで喋っているとしか思えない。
こういう時はテンポよく返ってくるから楽しいんだよな。
「まあお兄ちゃんが彼氏なのは置いとくとして」
「存在しない事実を横に置くな」
「夢は大事なんだよ」
「夢?」
「幻想と分かっていても夢は守るのが人間関係の基礎なんだよ?」
「えー、そうか?」
幻想だと分かっているなら夢から覚めた方がいいんじゃないのか?
ホストとか幻想の塊だぞ?
「サンタさんはいるんだよ?」
「なるほど」
たしかにカオスフィールドは子どもが遊ぶんだから子どもの夢を守らないと駄目か。
「でもそのためにいろいろしてるから値段が上がったのでは?」
「それぐらい我慢だよー」
「うーむ、納得しがたい」
「お兄ちゃんは我儘だなー」
そう言ってなぜか抱きついてきた。
ちょうど胸の中に収まる身長な上に薄着なので密着感がすごい。
しかも意外と力強く抱きついているのでいろんな感触が……。
「妹の温かさをあげようー」
「何の因果関係があるのか分からないんだが」
「お兄ちゃんの心が温かくなれば全部許せるんじゃないかな、かな?」
柔らかい部分を押し付けられた上で真近くで目をまん丸にさせて首をかしげられるとさすがに照れる。
妹だから気にしないようにしていたけど、顔も髪型も声もスタイルも性格も全て好みのド真ん中なんだよな。
もし他人だったとして街中で見かけたら勇気を振り絞ってでも声をかけると思う。
「お兄ちゃんー、お兄ちゃんー、お兄ちゃんはーお兄ちゃんー」
よほどごきげんなのか耳元で自作の歌を歌い出した。
昔から歌作るの好きなんだよな。
ただ歌詞が謎すぎるしどこかで聞いた覚えがあるんだけど。
「その謎の歌はなんなんだ?」
「勇気爆発お兄ちゃんだよ」
「ブレイバーンさん!?」
たしかあれは設定的にロボットが歌っているんだったか。
コックピット内に響き渡ってうるさそうだったけど、だからって真似して耳元で歌わなくても良いと思う。
「私に乗るんだ、お兄ちゃん」
「うん、それはもう通報ものだからな」
「私の中に入るんだ、お兄ちゃん」
「あ、警察ですか、ええ、変態が一人」
「変態じゃないよ、仮に変態だったとしてもそれは変態という名の淑女だよ」
「くま吉の真似はやめるんだ」
こんなノリをしていて学校でどんな風に思われてるんだ?
かわいい子がこのノリなら襲いたいって思……わないか、名雪さん襲うと思わないし。
やっぱり変態だと思われてそうだ。
「大丈夫、学校では清純派だから」
「混じりけのないピンクって意味?」
「真っ白だよー」
「嘘だろ」
「むー、そんなこと言うお兄ちゃんはこうだ」
「痛っ!? 頭でヘッドバットは反則だろ!?」
「急所にストライク☆のほうが良かったの?」
「どっちも嫌だよ!?」
なぜに事実を言って攻撃されないといけないのか。
さっきの言動で清純派を名乗るのはアウトだと思う。
「さっきも言ったよね、夢は大事なんだよ」
「陽菜が清純派って夢?」
「そうそう、私これでも人気あるんだよ」
胸元から離れてこっちを向くとおっぱいを軽く持ち上げている。
うんまあ人気があるのは分かる。
「実態は下ネタ大好きウーマンだけどな」
「男子の夢を潰しちゃ駄目だよ」
たしかに名雪さんも隠していてほしかったもんな。
ロマンはないがしろにしてはいけないってのは魔法作成にも役立つかもしれない。
この後は陽菜に付き合ってご飯まで遊んでいた。




