110.意外と使いやすかった公式ダイス
今日は公式ダイスの発売日。
わくわくしながらワンパックに向かう。
魔法を無効化するサイコロって一体どんなサイコロなんだろうか。
自動で打ち消すとか魔法を反射するとかそういうのかもしれない。
まずは魔法を使って試してみないと。
そう思いながら意気揚々と店に入りカウンターに向かう。
「おはようございます!!」
「おはよう」
店長も俺が朝一に来るのを分かっていたようで、既に準備がしてあったようだ。
机の下から取り出してきたものを俺に渡してくる。
「頼まれていた品だ」
「これが公式ダイス?」
「そうだぞ」
「半分デジタルじゃないですか!?」
遠目で気づいていたけど改めて手に取っても思っていたのと全然違っていた。
まずサイコロが手で触れないようになっている。
大きめのケースの中にサイコロがいくつかセットされていてケース横についているボタンを押すと自動でサイコロが振られるようだ。
出た目はケース横にデジタルで表示されておりサイコロに衝撃を与えて動かしても反映されない。
これをサイコロと言っていいんだろうか?
「おはようございます」
「てんちょー、きたぜー」
尊と幹人もやってきた。
俺が公式ダイスを持っているのを見て興味津々にみてくる。
「二人の分も届いているぞ」
「やった」
「俺が先ー」
「あ、ずるいぞ」
店長が手に持っていた公式ダイスを幹人が先に持っていった。
尊が悔しそうな顔をしているけどこういう所は小学生らしいな。
「なにこれ?」
「サイコロ取り出せないの?」
「これがイカサマ防止なのかよ」
「そうっぽいね」
二人はひっくり返したりボタンを何度も押したりしていろいろ試している。
やっぱり違和感あるよなぁ。
ちなみに二人ともお小遣いで買ったらしい。
想像と違っていて残念だっただろうなと思っていたけど……。
「これ、意外と良くない?」
尊が楽しそうな声でそう言った。
少なくてもショックを受けている感じではない。
「えー、どこがいいんだよ」
幹人の方はちょっと不満そうだ。
やはり予想外だったんだと思う。
「だってどこでもサイコロ振れるよ?」
そう言われてハッと気づく。
たしかにその通りだ。
カオスフィールドは何度もダイスロールがあるので、そのたびにテーブルの上でコロコロとサイコロを転がしている。
勢いがつきすぎると机から落ちたりカードの上に乗ったりする。
そもそもサイコロが大きめだったり小さい机だったりすると満足に転がすのも難しいし……。
かといってあまり転がさないとイカサマを疑われる。
実際、一回転半ぐらいであればサイコロの持ち方次第で狙った目に出来てしまうからだ。
だから必然的に小さめのサイコロで3回転以上ころがるようにするのがマナーとなっているけど、 これが神経を使うんだ。
「指一つでいいのも楽だと思うし」
そうか、たしかに今までは両手で持っていたカードを片手に持ってサイコロを振っていた。
ただ尊の手だと片手で持ちきれないからわざわざ机に伏せていたはず。
それがボタン一つで出来るというなら、両手でカードを持ったまま指一つでサイコロを振れるのか。
「たしかに……」
幹人も実際に試してみて便利さに気づいたらしい。
ついサイコロの固定概念に引っ張られていたけど本質はそこじゃなかったんだ。
「ちなみに公式大会では通信モードONにしないといけないぞ」
「通信モード?」
聞きなれない言葉が言われて思わす聞き返してしまう。
サイコロに通信機能って何なんだ?
「なんでもイカサマ防止だそうだ」
「へぇー」
「どんな風にイカサマ防止になるんです?」
「ええと、ちょっと待ってな」
店長が足元にある箱の中をがさごそと漁っている。
もしかしてメーカーから何か送られてきたのかな?
「あったあった、『通信モードON時はサーバーでダイス出目を管理します』ということらしい」
「管理?」
「ふむ、『実際のサイコロの出目とリンクしない場合があります』とあるからサーバーでダイス出目を演算しているのかもしれないな」
「……つまり通信モードON時はこちらのサイコロは飾り?」
「そういうことかもしれん」
一瞬どういうことだよって思ったけどある意味正解なのか?
魔法でのイカサマは主にダイス出目操作だけど、機械への細工もある。
でもこの方法なら機械へ細工するならサーバー側の機械に細工しないといけない。
それは非常に難しい。
「どこにそんなモードあるんだよ」
「あ、側面にスイッチあったよ」
幹人と尊はスイッチを探してカチカチやっている。
よく見ると他にもボタンもあるんだな。
「わあ、サイコロの数選ぶとちゃんと振られる数変わる」
どうやらそんなボタンもあるらしい。
よく考えたら3つの時も1つの時もあるんだからあって当然の機能だ。
「尊、それぐらいは当たり前だと思うぞ、なにせ3000円だからな、サイコロ10個ぐらい入っててもおかしくない」
「それじゃサイコロの値段じゃないですか」
笑いながら返事を返してくる尊。
その間にもボタンでサイコロが転がるのが面白いのか何度も押している。
「にーちゃん、きょうび良いサイコロなら一個1000円はするぞ」
「まじで!?」
幹人がツッコミを入れてきたけどサイコロに1000円ってなんだよ、狙った目でも出てくれるのか!?
「サイコロの重心が調整されていて均等な確率で目が出るんですよ」
ボタンを押しつつ尊が答える。
そう言われたら理屈は分かる、だけど。
「え、そんなのごく僅かな差じゃないのか?」
「そのごく僅かな差のためです」
強い口調で断言する尊。
なるほど、よくわからん。
「勝負はこーへーにやるべきだからな!!」
「おお、えらいぞ」
「子ども扱いするんじゃねぇ!?」
殊勝なことを言ったから頭を撫でてあげたのになぜか怒り出した。
うーむ、最近の子どもは分からん。
「よくわからんって顔してるけどさ、もしにーちゃんが店長から頭撫でられたらどうする?」
「俺を舐めてるやつには報復する、絶対にだ」
「そういうことだよ」
なるほど、よく分かった。
「真琴さんもけっこうノリ良いですよね」
「そうかあ?」
自覚はないけど幹人も頷いてるしそういうものかな。
まあノリが悪いって言われるよりマシか。
「真琴はノリが良いと言うか……そういうことだよ」
「どういうことですか!?」
「言わないほうが良いこともあるさ」
「匂わせた時点で一緒ですよね!?」
「さて、ではお客様がお待ちなのでこれにて」
「誤魔化した!?」
店長はそのままレジに向かっていった。
うーん、言うだけ言って適当に誤魔化してるのはどうかと思う。
「さっそく対戦で使ってみたいです」
「お、たしかにな」
「じゃあにーちゃんは待機なー」
「なぜに!?」
「にーちゃん、このゲーム二人用なんだ」
「スネちゃま!?」
「複数対戦は独自ルールを作るにしても難しいですよね」
たしかに他のカードゲームならバランスはともかく複数人で対戦は出来る。
M:tGなんて専用フォーマットあるぐらいだし。
でもカオスフィールドは陣取りゲームである都合上、そういうのが難しい。
この辺りがいまいち流行らない理由なのかもしれない。
「チワーっす、店長来たっすよ」
「ちょうどいい所にかm、獲物が来た」
「言い換えた言葉の方がひどくないっすか?」
タイミングよく隼人が店に入ってきた。
どうやら公式ダイスが目的のようだけどちょうどいい。
「おめでとうございます、貴殿は対戦相手に選ばれました」
「光栄っす」
「今なら対戦料もお安くなります」
「へぇ、ちなみにいくらっすか?」
「3000円」
「なるほど、じゃあ勝ったらその分もらえるってことっすね」
「は? いやいやそんなこと」
「たしかにそれがふつーだよな」
「な、そうっすよね」
「多数決こそせーぎだよな、にーちゃん?」
こいつらほとんど初対面の癖に一瞬で結託しやがった!?
「こらこらアンティはなしだぞ」
「なら対戦料もなしっすね」
「せっかく稼げるチャンスだったのに」
幹人め、完全に鴨扱いしやがって。
俺だってたまには勝つんだぞ、たまには。
「真琴は鉄砲だから駄目だぞ」
「鉄砲って何すか?」
「お金を持たずに賭場に来る人だな」
「とば? 水族館?」
「尊はかわいいなあ」
店長が尊をかわいがりしてる。
それはともかくひどいわれようだ、まあ事実だけど。
そもそも対戦料として徴収しようとしただけで掛け金ではないから当然だと思う。
「まあ公式ダイスを使いたいみたいだし対戦してやってくれ」
「了解っす」
「失礼な、俺が対戦してやるんだよ」
「でも真琴さんの勝率かなり低いっすよ」
「せいぜい3割だろ」
「1割っすよ」
「そんなに低かったっけ!?」
そっか、メインデッキがなくなっていろいろデッキ作ってたから。
いやでもさすがにそこまで成績悪くないだろ。
なんとなくの印象で1割って言ってるんじゃないのか。
「ちなみに対戦成績はこれっす」
「記録済み!?」
「うわー、にーちゃん弱すぎ」
「いろいろ召喚士試してるんですね」
「それにしても勝率が低すぎると私は思うぞ」
「やめて、死体蹴りは禁止よ!?」
まさか記録があるなんて思わなかった、ここまでひどかったのか……。
ま、まあメインデッキ作るまでの話だし。
メインデッキ作ったら勝率なんて一気に逆転するし。
「じゃあさっそくやるっすか」
「え、ちょっとデッキを……」
「さっき対戦を持ち掛けてきたじゃないっすか、準備万端ってことっすよね」
「Nooooo」
おかげで勝率は1割を切ってしまった、くそう。
あと意外と公式ダイスは使い勝手がよかった。
なるほど、イカサマ対策とはいえそれだけじゃ駄目なんだ。
強制したところで不満が募るだけだから、ちゃんと変更するメリットも用意しないと駄目なんだ。
魔法も同じことなんだろうな。




