107.腐女子と魔法の違い
すごい速度で処理していく橘さんを横目でみながら店長に質問する。
「はやすぎじゃないですか?」
「ああ、すみれはああいうのが得意だからな」
「得意で済ませていいんですか?」
「それ以外何があるのかさっぱりわからん」
やれやれという手振りで答える店長。
いやいや、あの速度は異常だと思うんだけど。
「真琴にもあのぐらいで働いてもらわないとな」
「無理ですよ!?」
「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」
「インタビューアーすら理解できなかったワタミの言葉やめて!?」
あの言葉って『死ぬまでやれ、死ななかったら次も出来る』って意味だよな。
一度は出来ても次は死ぬってこともあると思うんだけど。
「甘いな、ファイレクシアなら『死は労働を止める理由にはならん』と返ってくるぞ」
「人類に逃げ場なし!?」
死んでも蘇生させられて続きをさせられるとか終わりのない地獄すぎる。
終わりのないのが終わりとかG・E・Rかよ。
「千明さん・能見くん、ちゃんと働いてる!?」
「……怒られてしまったではないか、きみのせいだぞ」
「店長のせいですよ」
「なにを」
「は・た・ら・き・な・さ・い」
「「はい……」」
とうとう橘さんが部屋から出てきて怒り出してしまった。
ただメガネをくいっと上げて怒ってる所がちょっと良いと思ってしまったのは内緒だ。
「さて、このショーケースをやってもらうんだが」
「何事もなかったように続けるんですね」
「なにも、なかった、いいね?」
「あ、はい」
そういうことになった。
「値札を剥がすのはもう終わってるから後は貼るだけだ、じゃあ頼む」
「はい」
店長が別のショーケースに向かっていった。
さて内容は単純だしどんどんやっていくか。
・・・
検索する、選ぶ、値札を貼る、検索する、選ぶ、値札を貼る……。
うん、終わらない。
これ、検索するのが面倒すぎるな。
ある程度入れれば候補が出るとはいえ、そのある程度入れるのが面倒だ。
音声入力で検索できればいいのにそんな機能ついてないし……あっ!!
「なければ作ればいいって某村の人たちがいってた!!」
そうだ、魔法で補助を作ればいいんだ!!
たしかサブスク魔法のおかげで機械への魔法の使い方は手順化されていたはず……あった、これだ。
ふんふん、設定に動作を覚えさせるのか、なかなかに難しいな。
でもなんとかこれで……。
「よし、出来た」
一応狙った動作は出来るはず、さっそく使ってみよう。
「【カード画像検索】」
左手に持って目視したカードが自動で検索されて値札シールが出てくる。
すばらしい、パーフェクトだ。
手に持つ、見る、出てきた値札を貼る、手に持つ、見る、出てきた値札を貼る、うん一気に短縮。
入力作業がなくなったので一気に速度が上がった。
あっという間にショーケースの一つを片付けたので次に取り掛かる。
「お、早いじゃないか」
「あ、店長」
店長がこちらにやってきた。
手にはカードの束を持っているので作業中だった様子。
「いきなり速度が上がったように見えたんだが何かしたのか?」
「あ、魔法で効率化させたんですよ」
そう伝えてやり方を見せる。
その様子を見て目を丸くする店長。
「これは……すごいな」
「どやぁ」
「その顔はうざいが」
「ひどっ!?」
「さっそく教えてくれ」
「あ、でもこれ消費MPけっこう高いんですよ」
そうなのだ、自分用に作っただけだから消費MPは度外視していた。
もっと魔法の効率化は出来そうだけどそれをしている時間で作業すれば終わりそうだし……。
「ふむ、魔法というのも有用なのだな」
「イカサマだけじゃないんですよ」
「だが往々にして便利なものほど悪用されるからな」
「それはその通りですね」
「ほらほら仕事するよー」
そんな話をしていると橘さんが待機室から出てきた。
どうやらサボっていると思われていたらしい。
「能見くんも好きな人いるのに千明さんと話してちゃ駄目でしょ」
「ほほう、真琴にそんな人がいるのか」
店長が興味深そうな目で見てくる。
くそう、絶対からかわれると思ったから言ってなかったのに。
「そうなんです、春日井くんと阿久津くんを二股した上に江川くんにまでちょっかい出しているんです」
「最初から最後まで全部捏造!?」
と思ったらひどい捏造を見た。
なんで男を三股しないといけないんだよ。
「なるほどなるほど、で誰が本命なんだ?」
「店長分かってるでしょ!?」
ニヤニヤしながら聞いてきたので完全に理解してやってやがる。
「私も気になります!!」
「捏造しておいて!?」
「だって能見くんの口から本命聞いたことないし」
「そりゃいないからね!?」
「え、じゃあ藤田さんとのお付き合いは遊び?」
「突然本物の話題に戻るの!?」
「ほほう、その藤田くんが本命と」
「男性っぽく言わないでくれますか!?」
「ほう、ならどういう女性なんだ?」
「それはかわいくて大人しくて意志が強くておっぱいは程よい大きさでって何を言わせるんですか!?」
「けっこう言ってたな」
「能見くん、春日井くんが草葉の陰で泣いてるよ」
「泣かせておこう!?」
駄目だ、それでなくても店長が調子に乗ると手が付けられないのに横で煽る人がいると最悪だ。
というか、翔は一生泣いていてほしい。
「いや、まさか真琴に彼女がいたとは知らなかった」
「まあ自分でも予想外の結果だったというか」
店長が驚いてるけど仕方ない。
俺だって一か月前の俺に『透子が彼女になる』と言っても信じないだろう。
「すみれはそういうのないのかい?」
「え、あの、私はその」
橘さんが店長に話を振られて赤面している。
これはやり返すチャンスだな。
「私、気になります!!」
「真似するのずるい」
赤面して目をそらしながら言うとかかわいすぎないか?
なぜそれを普段から、あっ、腐ってたからですね。
「何か悪意を感じた気がする」
「きのせいだよ、多分、きっと、メイビー」
「なんだ、真琴は意外と女たらしなのか?」
「どこにそんな様子が!?」
「いや、すみれが男性と普通に話してる姿なんて見たことなくてな」
「クラスメイトだからです!!」
「そ、そうだね、橘さん」
やけにクラスメイトを強調してたけど妄想元だからの間違いだと思う。
こうなってしまったのも全て名雪さんが悪い。
「まあいい、すみれは魔法とやらを使っているか?」
「ほどほどには」
「真琴が良い魔法を作ったらしくてな、効率が上がりそうなら使ってくれ」
「わかりました、能見くん教えてくれる?」
「うん、こういう魔法なんだけど」
幸い橘さんはある程度魔法を使っていてレベルも上がっているので使用できそうだ。
詳細を教えるとうんうんと頷いていた。
「やっぱり便利だねぇ」
「名雪さんの真似はNG」
「えー、かわいいのに」
ちょっと笑いながら抗議してくる。
かわいいのは事実だけどちょっとね。
「腐ってなければよかったんだけどね……」
「名雪んは過剰だけど個人で楽しむ分には良いんじゃないのかな?」
「個人で楽しんでるのもなんか嫌」
カップリングでどっちが攻めだ受けだと妄想されていると思うと寒気がする。
なぜ身近な人間でそういうことを考えるのか理解ができない。
「でもね……うーん……えっと」
橘さんが顔を上げては下を向けてを繰り返している。
何か言いたいけど言えないっぽい感じなので、こちらも何も言わずに見守る。
陽菜がそうなんだけどこういう時にこちらから声をかけると本音を隠してしまう。
本人の決心がつくまで待つのが肝心だ。
「あのね、気を悪くしないでほしいのだけど」
「うん」
「私は魔法と一緒だと思う」
「え?」
想像したこともないことを言われて一瞬頭が止まる。
魔法と一緒? どういうこと?
「あのね、魔法が他人に迷惑をかけることはあるよね」
「あ、うん」
それは否定できない。
実際に何度も犯罪に使われてるし、表ざたになっていないものを含めればもっと多いだろう。
でも……。
「でもね、他人に迷惑をかけない範囲で楽しく使うのは良いことだよね」
「もちろん」
他人に迷惑をかける、それはごく一部の例だ。
大抵の人は自分の中で完結させていて他人に何かをすることなんてない。
「でも例えばね、その中にえっちなのもあるよね」
「うん、まあ」
つい目を背けてしまう。
透視したことは一応俺の中で留めてるから大丈夫なはず、はず。
「うん、でもね、そういうのを駄目って言う人もいるの、いつか周りに迷惑をかけるからって」
「そんなことはない」
それは偏見がすぎる。
可能であるというのと実際にやるのは大きな隔たりがあって当たり前だ。
アメリカ人の多くが銃を持ってるけど他人に撃つことはないのと一緒だと思う。
俺だって事故でおっぱいを触ったことはあっても意図的にやったことはない。
橘さんは俺の言葉にうんうんと頷きながら続ける。
「ならBLは? 誰かに迷惑かける?」
「え、いや、想像されたら誰だって……」
「魔法はいいのに?」
「あ、それは……」
改めて言われると違いが分からない。
ただ俺が嫌だと思っているだけで……。
「嫌だというだけで相手の心の中を咎めるのは良くないと思う」
「本当だ……」
俺は魔法嫌いの人間と同じことをしていたのか。
おれは……なんてことを。
「受け入れよう、名雪んを」
「……うん」
そうだ、魔法を受け入れてほしいならまず自分から受け入れないと。
何も理解せずただ魔法を否定してくる、そんな人間と同類にはならない。
「まあ、BLとナマモノは別物なのだが」
「千明さん静かに」
「何を想像するも自由だ、だが言葉や形にしてしまえば害をなすものになりえるだろう」
「は!?」
そうだよ、よく考えたら心の中に留めてないじゃないか!!
誰かとその話題を話したり小説として残したりしてるんだからむしろ率先して迷惑を振りまいている!!
「もう少しだったのに」
「計画的な犯行!?」
俺の表情を見て失敗したという顔をしている橘さん。
その様子はどう見ても偶然そういう話になったというものではない。
「すみれは意外と攻めてくるからな」
「そんなことないのに」
「初めて知りました」
あのままだとそのまま洗脳されていたかもしれない、危ない所だった。
「すみれもなんだかんだで仕事をサボるからな」
「あ、違いますよ、これは『新人教育』です」
「BLのか?」
「聞こえませーん」
まるで姉妹のような距離感でじゃれあっている。
千明さんはキャッキャッする年齢でもないだろうけど楽しそうだな。
「さあ仕事に戻るよ」
「はーい」
「俺は終始仕事をしてたと思うんですけど?」
事実を伝えただけなのに二人からジト目で見られた。
おかしい、世の中が間違っているに違いない。
「ふむ、こういう所が真琴のモテない所なんだろうな」
「いいがかりがひどい!?」
「あ、でも能見くん、彼女さんいるんですよ」
「なんだと」
「さっき話していた藤田さんって人が彼女さん」
「遊びの?」
「真剣に交際してますよ!?」
「ほほう、くわしく」
「絶対嫌です」
「私、気になります!!」
「二度目だよそのネタ!?」
ぐだぐだになりながらもなんとか値札貼り付けは終了した。
それにしても橘さんがあんな面白い人だなんて思わなかったな。
普段隠しているのがもったいないと思うけど学校では腐ってる扱いだし仕方ない。
……そういえば魔法と腐女子は一緒だと言ってたな。
橘さんが本気で言っていたかは分からないけど、ある意味で間違ってないと思う。
魔法は自分一人で留めるぐらいがちょうどいいんだ。
今みたいに手当たり次第何でもできてしまうとつい悪いことを考えてしまう。
みんながみんな自重できる訳ないんだから何か制限させる方法があればいいんだ。
何か良い案はないんだろうか。




