105.公式ダイス
それは突然の話だった。
「公式ダイス?」
「そうなんですよ」
たまたま尊と話していた時に最近の公式が発表した話題になった。
その中に公式ダイスの発売というのがあったんだ。
「どこかとタイアップとかコラボとか?」
「いえ、公式で出すだけですね」
「へえ」
公式がグッズを出すのは珍しい話じゃない。
デッキケースやスリーブやマットはよくあるしイラスト集や小説を出す所まである。
ただカオスフィールドは他社絡み以外で今までそういうことをしなかったので意外だと思っただけだ。
でもその後の尊の言葉が衝撃だった。
「なんでもそのダイスしか公式大会で使えないそうですよ」
「は?」
それだと話が全然変わってくる。
ただのグッズではなく指定となれば必ず購入しないといけないし、下手すると大会以外でも要求されるかもしれない。
「なんでそんな指定を?」
「詳しい情報はまだ出てないんです、ただ使えないとしか」
「そうなのか……」
公式はまだでもどこかに情報は出てるかもしれないな。
早速スマホで調べてみようと思った矢先。
「おっと、その件については私のほうが詳しいね」
「店長!?」
なぜか店長が話に加わってきた。
でも今は営業時間中なのにいいんだろうか?
「なに、今は忙しい時間帯じゃないからね」
「また口に出してた!?」
「きみは表情に出すぎなんだよ」
笑いながら椅子に座る店長。
忙しくなくてもそんなことをしていていいのだろうか。
「さて、公式ダイスの件は店にも連絡が来ていてね、来月からは必須になる」
「来月ってまじすか」
「隼人みたいなリアクションになってるぞ」
つい素のリアクションになってしまったけど来月ってもうすぐじゃないか。
発表してから制限まで早すぎる。
「何か通達はあったのですか?」
「良い質問だ、尊、真琴もこういう質問が出来ると良いな」
「なぜ唐突に俺がディスられるのか、コレガワカラナイ」
店長こそ絶対考えなしで言ってると思う。
この前、同じカードで値段差があった理由を聞いたら『そういうときは黙っておくものだ』とか言ってたし。
「どうやら魔法対策らしい」
「は?」
「そうなんですね」
店長の言葉で俺と尊のリアクションが別れた。
これは魔法に関する知識量の差だろう。
「どうもそのダイスを使えば魔法を無効化できるらしい」
「それはすごいです」
「いやいやいや、それはおかしい!!」
つい立ち上がって声を出してしまう。
だって魔法を無効化できるアイテムなんて聞いたことがない。
しかも販売してるってことは量産できるってことだよ?
そんなものがあったら魔法作りの基礎から変わってしまう。
「おかしいと言われてもな」
「そんなのがあったら世界が変わるんですよ!?」
「そこまでたいそうなことかね?」
「たいそうなことです!!」
「お、おお……」
ぜひとも詳しい原理知りたい。
調べるためにも何としても買わないと。
「値段はいくらなんです!?」
「たしか3000円だったかな」
「意外と高いですね」
「何を言う尊、魔法を無効化するアイテムなんだぞ?」
「そ、そうですね」
「むしろ安すぎると思ってる!!」
ってあれ、なんで二人とも引いてるんだ?
特に尊はともかく店長が引くなんて珍しい。
「え、店長でも3000円は高いと思うんですか?」
「いや、きみの態度に驚いてな」
姿勢を改めて普段通りに戻る店長。
そんなに変だったかな。
「真琴さんは魔法好きなんですよ」
「ほう……ならイカサマにも通じてると」
「知ってますがもちろん使いませんよ」
「どうかな」
「逆にイカサマを知ってるということはイカサマを見破れるってことですよ」
「ふむ」
魔法好きということでイカサマの疑いをかけられそうになったので即座に否定しておく。
さすがにこの店を出禁になると困る。
「ま、まあ真琴さんが世界書を開いているとこ見ませんし」
「尊、世界書は触ってるだけで良いし、魔法の効果は世界書を持ってなくても続くんだ」
「だそうだぞ?」
「なんで自爆しているんですか!?」
だって間違った情報は正さないといけない。
悪用を防ぐにはまずそれを理解しないと。
「まあ真琴がイカサマしてるとは思ってないよ」
「店長!!」
「あれだけ負けていればね」
「店長……」
含み笑いをしながら答える店長。
いやそうだけどさ、もっと注目するポイントがあるっていうか。
「と、とにかく魔法を無効化出来るというのはすごいことだと思う」
「それはそうですよね」
即座に尊が同意する。
うんうん、反応が良いのは素晴らしいぞ。
「で、買えるのかね?」
「……どうしよう」
魔法を無効化するアイテムとしては3000円は安い。
でも俺のお財布事情的には3000円はかなり高いんだよな。
一応貯金している分はあるけどあれは箱買い用だし……。
「ならちょうどいい、バイトをしないか?」
「は?」
「今、禁止カード大量発生のせいで値札の処理が追いついてなくてな」
「たしかにどれも値段書いてませんよね」
「だろう?」
店長の言葉通り、ショーケースのカードにはほとんど値札がついていない。
禁止カードの値段が下がったというのはあるけど、禁止されなかったカードも値段が大きく変動している。
例えば、〘砂漠の使者〙だ。
レベル4で装備枠1呪文枠2の優秀なカードだったけど、さらに5ゾロで攻撃力+3の追加効果のある上位互換のカードが存在するので値段が落ちていた。
それが禁止されたことで値段が爆上がりしている。
そういうのがたくさん出てきているのが現状だ。
「臨時で誰か欲しいと思っていてな、ちょうどいい」
アルバイト、学生なら一度は憧れる響きだ。
他のクラスメイトより一歩先に社会人になった気がするし、自分で稼いだお金なら自由に使っても良いだろう。
ただバイトとなるとかなり時間が拘束されるし家で何か言われるかも。
「なに、明日と明後日の土日で10時間ほどで構わない」
「そんなんでいいんですか?」
「あくまで臨時だからな」
要は単発の日雇いだしそれなら全然OKだ。
ただ問題なのはお金の支払い方法なんだけど。
現金でくれるなら問題ないんだけど通帳振込だと親にバレるので自由に引き出せない。
まあ単発のバイトぐらいなら許してくれるかもしれないけど……。
店長の顔を見ると、我が意を得たりという表情をしている。
「大丈夫だ、報酬は公式ダイスにするから家にも学校にもばれん」
「なるほど……ってむしろ損じゃないですか!?」
一瞬納得したけどよくよく考えると報酬が全然まったく釣り合っていない。
仮に最低賃金で10時間働いても一万円は超えるはず。
時給250円のゴーストスイーパー見習いじゃないんだぞ。
「ふむ、わがままだなぁ真琴くんは」
「店長が騙しにきてるんじゃないですか!?」
青狸のマネをしても許されない。
きちんと正当な賃金を払ってもらう。
「ならカード払いでどうでしょうか?」
「ありだな」
「クレジットカードなんて持ってないですよ!?」
「真琴さん違います、労働の対価分のシングルカードを選んでもらえるってことです」
「……なんだと?」
たしかにお金をもらえたらカードを買おうと思っていた。
現金をもらってすぐ使うってことなら直接カードをもらったほうがいいのか?
「でも現金だと他にも使えるし……」
「カード払いなら五割増でいいよ」
「カード払い最高、それでお願いします!!」
「手のひらクルクルだな」
笑いながら店長が答える。
でもさすがに五割増は即答だろう。
どうせカードに使うならただ得だし。
「よし、なら決定だな」
「よろしくお願いします!!」
「よかったですね、真琴さん」
「おう」
思わぬきっかけだけど、これで公式ダイスの準備も出来るし大会用のデッキも作れるぞ!!
さあ何を買おうかな、やっぱり汎用性の高い……。
「じゃじゃーん、本命は後から登場するんだぜ!!」
「何の本命か詳しく」
送れていた幹人がよく分からない効果音をつけて現れた。
子どもらしいノリだな。
「にーちゃんを潰すのは俺だ!!」
「さっき尊にぼろ負けしてたぞ」
「店長!?」
ひどいネタバレをされた、訴えます!!
店長の言葉を聞いて幹人がニヤリとする。
「なら楽勝だな、よーしさっそく俺の新デッキと対戦しようぜ」
どうやら鴨だと思ったらしい。
そんなことを考えている奴には負ける気がしない。
「仕方ないなぁ、幹太くんは」
「誰だよ!?」
ということで週末はバイトとなった。
初めてなのでちょっと緊張するけど楽しみだな。
あ、幹人との対戦は負けた、あんな札束デッキ(いつの間にか)に勝てる訳ないだろ。




