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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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104/126

104.試作

 学祭が近くなってきたので授業の代わりに準備時間が設けられる。

 参加しない人にとってはただの自習時間という名の遊び時間だけど、一部の人達にとっては待ちに待った時間だ。


 阿久津が部屋の隅にあるコンセントの辺りに机と椅子を集め始めた。

 学祭に参加しない人の机もあるのに許可を取れてるのがすごいな。

 参加者が集まったのを確認し頷く。


「では、焼き方の練習を始めようか」

「って市販のたこ焼き器じゃねぇか!?」

「練習のためだけに業務用を借りてくるわけにはいかないからな、家から持ってきた」


 阿久津が持ってきたのは家庭用のたこ焼き器。

 一応ある程度の数は焼けるらしいからこの人数ならまあ十分か。

 大阪では一家に一台あるらしいけど、こっちで持ってるのは珍しいな。


「別に大阪人だからってみんなたこ焼き器持ってるわけじゃないらしいぞ」

「え、そうなの?」

「部活の縁で結構知り合いがいるんだが、誰に聞いてもそういってたな」


 まじかよ、あの噂は嘘だったのか。

 いやまあたこ焼き器なんてそんなの使うものじゃないし、大阪ならそこらじゅうでたこ焼き売ってるだろうから買えばいいのか。

 噂に聞くとそこらの民家でたこ焼きを売っているとか。


「まあその後にみんな『俺の家にはあるけど』って言うが」

「どっちだよ!?」


 阿久津がオチを付けたところで準備に入る。

 ふたを開くと大きさの割に穴が少ない、スマホとかと違って額縁が大きいというかなんというか。


「なんか少なくない?」

「まあ家庭用だからな」

「いやいや、一人でこんなに食べないっしょ」

「これぐらいなら余裕だろ」

「春日井は別な」


 他の人もそう思ったようだ。

 ふんふん、一気に焼けるのは12個か。

 みんなで試食するには若干足りないけど、一度に焼く必要もないから大丈夫だな。


「だがこれでも十分練習にはなるぞ」


 そう言ってコンセントに電源を刺した。

 今から加熱するんだからまだしばらくかかりそうだ。


「誰が最初にやる?」

「はいはいはーい、やりたい!!」


 元気良い返事をしてるのは平川さんだ。

 新しいことに興味津々なんだろう。

 早速串を手に取ってるけどまだ生地すら流し込んでいないんだけどな。

 そう思ってたらなぜか俺に生地が入った専門容器を渡してきた。


「はい、真琴」

「これは何を?」

「真琴は入れる人、アタシは焼く人」


 うん、まあそれぐらい構わないけど生地が固まる前に串持つ必要ある?

 ちょっと疑問になりながら穴に生地を注ぎ込んでいく。

 えっと次はタコを入れるんだったよな。

 って!?


「なぜに平川さんがタコを入れてるのか説明を要求する」

「入れたかったから?」

「かわいすぎて怒れない!?」


 以前も陽菜直伝の技を使ってきたけど、今度はしゃがんで上目遣いにした上にちゃんとアゴに指を当ててる。

 綺麗系の女性の幼い仕草がアンバランスですごく良い。

 それがかわいすぎるのに、開き気味の胸元から谷間が見えるのがさらに良くて……。


「さてちょうど鉄串もあるし焼き入れるか」

「お腹辺りにつけておけば目立たないな」

「逃げるの防止必要」

「オレが抑えるだろ」

「そこまでされるようなことしたか!?」


 いつもの三人組に加えて翔まで混ざっている。

 だけどそもそも俺は見せられただけだぞ。

 まあそういう理屈がしっと団に通じるとは思わないけど。


「彼女持ちのやることか?」

「平川さんの笑顔を俺によこせよ、ちくしょう」


 江川はともかく桐谷の主張はおかしい。

 笑顔がほしければ自分で動くべきだろうが。


「月を見るたび思い出せ!!」

「今から満月を作るのに!?」


 鳥海は三段笑いしそうなことを言ってる。

 絶対貧弱すぎて八稚女使えないだろ。


「ふむ、悪くないツッコミだろ」

「ただ市販のたこ焼き器で綺麗に丸く作るのは難しいのが残念だな」


 翔と阿久津がツッコミの評価をしている。

 どうやらよかったっぽいけど何がよかったのかわからないなら次に活かせないと思うんだけどな。


「ほらそろそろ良いと思うからやってみたらどうだ」

「上等」 


 翔の言葉に反応して平川さんがおもむろにたこ焼きの中心に串を突き刺して回転させようとするが、タコが飛び出るだけだった。

 どうやらタコに串を刺して回そうとしたらしい。


「あれ?」

「タコが回転してるだけだろ」

「うるさいわね、まだここからよ」


 何度か挑戦するが全然ひっくり返らない。

 きっとまだ真ん中が柔らかすぎるのでタコが引っかからないんだと思う。


「これまだ早いだけじゃないの!?」

「とまあ経験してないと意外と難しいんだ」


 阿久津が竹串を持つと器用にたこ焼きをひっくり返していく。

 なるほど、外側の張り付いた部分を剝がさないと回らないのか。

 その上で硬くなっているガワの部分を転がすように回す、と。


「こんなのずるいじゃない!!」


 平川さんが抗議している。

 どうやら回すだけだと思っていたのに先に外側を剥がすなんてずるいらしい。


「考えれば分かることだと思うよ?」

「そんなこと言う真琴は分かってたの!?」

「分かる訳ない!!」

「なんで断言してるのよ」


 なぜか笑顔で背中を叩いていた。

 あ、やめて、串を持ったまま叩かないで、ささるささる。


「串の持ち方が良くないだろ」

「あ、そうね」

「こうやって先端が刺さるように」

「それは事件だよ!?」


 慌てて飛びのく。

 フォローしてくれるのかと思ってたらなぜか加勢してくるとは。

 最近やけに攻撃的な気がする。


「そんなことしてるうちに回し終えたぞ?」

「え?」


 気づいたらたこ焼きがいつの間にか全部ひっくり返っていた、いつの間に?

 翔も平川さんも気づいていなかったようで目を丸くしている。


「焼けてるのを放置するのは良くないな」

「ごめんなさい」

「全て真琴が悪いだろ」

「無実だよ!?」


 俺たちの話を聞いていないのか、たこ焼きから目を離さない阿久津。

 何をそんなに真剣な目で見ているのだろうか?


「生焼けだけは気をつけないといけないからな」

「しっかり焼けばいいだろ?」

「見誤ると焦げるぞ?」


 興味深そうにみんな串を持ってたこ焼きをコロコロしている。

 外側は火が通ってそうだけど内側が問題なのか。


「あ、それならいい方法がある」


 そこでようやく準備していたことを思い出した。

 さっそく世界書を取り出す。


「[焼き加減確認特化型]って魔法作ったんだ」


 この魔法は糊化していないデンプンを含有しているかをリアルタイムで確認できる。

 そして自身が一体物と認識していれば見えてない部分でも判定される。

 つまり壁越しはNGだけど中身が見えないだけならOKということだ。

 俺の説明を聞き終えると阿久津が世界書を出現させた。


「【焼き加減確認特化型】」


 そうして今焼かれているたこ焼きをいろいろ見比べている。

 そしておもむろに口を開く。


「江川、今串が当たっているたこ焼きはまだ全然駄目だ」

「そうなのか?」


 ぱっと見では違いがあまりわからない。

 あえて言うならやや表面が柔らかそうだなって思うぐらいだ。


「その右隣はもう少しでOKだ」

「はいよ」


 江川は意外と手際よくたこ焼きを回している。

 平川さんもそのやり方を見て真似をしているようだ。

 結構楽しそうだな。


「なかなか便利だな」

「ドヤァ」


 阿久津の言葉を聞いて嬉しくなる。

 こうやって自分が作った魔法が喜ばれるのはいいよな。


「真琴がまた調子乗ってる」

「上手くいった時ぐらい調子乗らせてよ!?」


 平川さんがツッコミを入れてきたけどこれぐらいは許してほしい。

 ちゃんと上手くいった時は褒められたいし。


「真琴くん、すごい」

「いやぁ、それほどでも」


 透子の素直な称賛を聞いて照れてしまう。

 大好きな子が嬉しそうな目で見てくれたんだから仕方ない。


「だらしない顔してますねぇ」

「なんかイラッとするわね」

「阿久津君にもその笑顔見せてあげて」


 名雪さんはともかく和泉さんと橘さんはひどくないか!?

 特に橘さん、なんで阿久津に笑顔見せないといけないんだよ!?


「恋愛関係だから?」

「よし、モノローグにツッコんでるのは置いといてどこが恋愛関係か教えてもらおうか?」

「男子間に友情はなくて愛情しかないんだよ?」


 橘さんはとうとう壊れてしまったか。

 腐っていけばいずれ壊れるとはいえ、この年で壊れるとは残念だ……。


「春日井君にも見せてあげないといけませんねぇ」

「江川もいるでしょ」

「あ、そうだね」


 和泉さんまで乗ってくるとは!?

 というか俺そんなに江川と仲良くないんだけど。


「大人気だな、能見」

「何一つ嬉しくないよ!?」


 男性にモテて嬉しい男がどこにいるんだよ。

 どうせモテるなら女性にしてほしい。


「あ、能見」


 和泉さんが俺に声をかけてきた。

 まさかモテてるのか!?


「この魔法あれば練習いらないんじゃない?」

「あ……」


 致命的な和泉さんの言葉で一斉に静まる。

 せっかく試食する大義名分があったのに、このままだとただ食べたいだけになってしまう。


「まあ生焼けにしないための技術は必要だろう」

「そ、そうだねコーウェン君」

「動揺しすぎて誰にも伝わらないネタになってるぞ、スティンガー君」

「誰だよ、コーウェン君とスティンガー君って」


 動揺してつい分かりづらいネタをやってしまった。

 翔が拾ってくれて江川がツッコんでくれたからよかったけどもう少し分かりやすいネタにしないと。


「さてそろそろOKだな」


 阿久津がひょいひょいとたこ焼きを皿に移していく。

 あれって地味に難しいのでは?


「まずは手順を説明しないとな」


 そう言いつつも口で説明することはなくソースとマヨネーズをかけてその上に鰹節と青のりを散らしている。

 めったに見かける光景じゃないのでみんな食い入るように見ていた。


「さてこれで完成なんだが……誰が食べる?」

「はいはいはーい」

「オレも食べたいだろ」

「俺も食べたい」

「同じく」

「同上」


 真っ先に平川さんが手を上げて翔が続き、江川・桐谷・鳥海となった。

 阿久津はそれを見て辺りを見回して……なんか目が合ったぞ。


「後は能見だな」

「何が!?」

「物欲しそうな顔してたからな」

「してないよ!?」


 ひどい言いがかりを受けた。

 でもまあ食べてみたいのは事実だから特にこれ以上の抗議はしないけど。


「おいしー!!」

「まあたこ焼きだろ」

「ソースいいな、これなんだろう?」

「初めて食べたけど意外と美味いな」

「美味しい」


 みんな各々の感想を述べている。

 さて俺も食べてみるか。

 見た目は市販品と大して変わらないけど、刺した感触はかなり硬く感じる。


「これは焼きすぎ?」

「能見のは最後に回収した奴だからな」

「外れひかされた!?」

「人にやってもらおうとしてるからだろ」

「やりたい人に任せてるだけだよ!?」


 翔にツッコまれたけどさすがにいいがかりすぎる。

 そもそも平川さんや江川が串を離さなかったのが悪いと思う。


「そうそう、むぐむぐ、真琴は、自主性が足りないのよ」


 串を手放さなかった当事者の平川さんからも追撃がきた。

 くそう、口の中をむぐむぐさせてかわいいな。


「久美、行儀悪いだろ」

「なによ、翔も細かいわね」


 翔から注意されて少しむくれている。

 きっと同意されると思っていたのだろう。


「良仲には垣をせよというだろ」

「かき……食べるの?」


 きょとんとした顔で答える平川さん。

 かきと聞いて食べるが真っ先に浮かぶのは食いしん坊の証拠だと思う。


「かきはかきねのことで境だよ、親しき仲にも礼儀ありっていうのが近いかな」


 平川さんが見て分かるレベルでぷくーっと膨れた。

 ああいうの見てると空気抜きしたくてたまらなくなるな。


「なによ、真琴の癖に生意気ね」

「そういう所だよ!?」


 翔の言ったことを全く理解していないようだ。

 絶対いつか失敗すると思う。


「ほらほら、次焼いてくぞー」

「楽しみですねぇ」

「綾瀬は自分で焼けよ」

「タコもいいんですがぁ、イカもいいですねぇ」

「イカは買ってないな」

「そこに……ちょっと想像すると怖かったですねぇ」

「そうだな」


 阿久津と名雪さんが恐ろしい話をしながら作り始めていた。

 あの会話をあっさり流せるのがすごいな。


「意外と難しいね」

「すみれは不器用なんだから……ほら、こうするの」

「わあ、ありがとう秋穂ちゃん」


 和泉さんと橘さんが仲良く作ってるのをじっと見ているのは変質者っぽいぞ、江川。

 にしても橘さんはほんと黙っていれば大和なでしこだよな。

 腐らせた罪は重い、さあお前の罪を数えろ。


「たこ焼きを上手く焼いて女子に渡せば」

「ワンチャンある」


 夢のような計画を企んでいる桐谷と鳥海。

 みんな自分で作るからきっと受け取ってもらえないと思うけどな。


・・・


 結果、時間内で全員が練習することが出来て大満足の結果となった。

 また模擬店に興味を持ってくれる人も出てきたのも良かった。

 ……もしかしてこれを狙っていたのか? さすが阿久津、抜け目ないな。

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