103.翔の変化
最近の翔は何かおかしい。
具体的に今現在の態度や対応が変だ。
「真琴、この魔法はどういう原理なんだ?」
「そいつは温度変化をトリガーにして発動してるんだ」
「それじゃあ大きく変化したら勝手に発動するだろ?」
「人間が生活してるんだから大抵決まった温度だよね?」
「……なるほどだろ」
理解できたようで俺の言葉を聞いてきっちりメモを取っている。
ここ最近はこんな感じで魔法に関する質問が多い。
それも使う方の質問ではなく作る方の質問。
わざわざ電話越しではなく俺の家に来ているのがやる気の証だと思う。
ただ今までなら会話すらろくに聞いていなかったのにどういう心境の変化なのかさっぱり理解できない。
「どうやれば説明文に書いていない定義を理解して魔法を再現できるんだ?」
「うーん、経験とか勘?」
「勘って……お前、陽菜ちゃんのことなにも言えないだろ」
俺の言葉を聞いてジト目で睨んでくるが、男のジト目とか気持ち悪い。
それに説明文の書き方に何か定義があるものじゃないし、極論全くのデタラメが書かれているかもしれない。
魔法の結果から定義を推測するのが王道だと思う。
「まあなんとなく不足している要素を思い浮かべるんだ」
「5W1Hか?」
すぐさまツッコミが入る。
反応が早すぎるな。
ただその返答には答えづらい、合ってはいるんだけど何か違うというか……。
「うーん、そんな感じ?」
まあいいや、面倒なのでとりあえずそういうことにしておこう。
そう思って答えたのに無駄に幼馴染の経験から俺の心のうちに気づいたらしく不満げな顔をしている。
「もっとやる気だせよ」
「修造はちょっと……」
適当に答えたら怒られた。
俺としてはむしろなんで翔がここまでやる気なのか、ソレガワカラナイ。
魔法に関する質疑応答もそうだし、レベルアップにもつきあわされている。
前までは楽しそうな魔法を使う程度だったのに何の心境の変化だ?
「やる気ないならやる気出させてやるだろ、おーい陽菜ちゃん」
「はい、翔さん、どうしましたか!!」
壁越しに声をかけると速攻で反応があった。
あまりに早すぎるけど待機でもしてるのか?
「全裸待機してたよ?」
「うん、まったく聞きたくない情報ありがとう」
待機しているだけなのに脱ぐ必要なんてまったくないと思う。
ただそれを言ってしまうと『じゃあ脱いだことだし全裸で来る!!』とか言いかねないので黙ってるけど。
「陽菜ちゃん、真琴にやる気出させてほしいだろ」
「承知しました!!」
「何をだよ!?」
壁越しの会話の後、ちょっとして扉が開いた。
よかった、下着姿じゃない。
どうやら部屋着を着るぐらいの節度はあったようだ。
座っている俺のほうを見ると少し屈んでおっぱいを強調しながら近寄ってきた。
ふむ、普段と違うパターンだな。
「お兄ちゃん、大好き♪」
「あ、シスコンじゃないんで」
うーむ、本人は会心の出来っぽいけど、俺としては露骨におねだりのポーズをされてもやる気にはならない。
こう、もっと自然におねだり、そう例えば灯里ちゃんみたいn「ぎゃあああ」
「灯里が、なんだって?」
「灯里が、どうしたのお兄ちゃん?」
「二人がかりで技決めてくるんじゃねぇ!?」
しまった、また声に出てたっぽい。
ただシスコンの翔に片手をひねられているのはともかく、陽菜まで加勢してるのは何なんだよ。
「妹のかわいさをもっと知るべきだよ、お兄ちゃん」
「かわいいとおねだりはべt、ぎゃあああ」
指が、指が反対方向に!?
人間の指は反対に曲がらないんだぞ!?
「おねだりは結果なんだよ?」
「絶対違う!?」
「ほう、ならお前に灯里がおねだりしてるのはどうしてだろ?」
「あ、いや、それは」
「もう少し締めが足らなかっただろ」
「ぎゃああああ」
「お兄ちゃんうるさい」
二人がかりで抑えられてるので動けない。
というか動いたらどこかがぽっきり折れそうだ。
「拷問するのは良いのか!?」
「これは『総括』だろ」
「一緒の意味だよね!?」
『総括』とかどこの組織の隠語だよ。
しばらくしてようやく解放された。
ひどいいじめを受けた、訴えてやる。
「で、どうしてお兄ちゃんのやる気は出ないの?」
「何が悲しくてろくに興味持ってない翔に説明しないといけないんだよ」
「興味あるだろ」
「そのセリフ何回言ったと思う?」
「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか? .」
「そういうやつだよ、お前は」
たまたま気が向いたからって理由で質問してきて、懇切丁寧に説明したら途中で飽きてる、それが翔だ。
そんなやつに説明するものはない。
「私に説明ー」
「指令はばっちり聞こえてたからな」
「何のことだかさっぱりでござる」
「くのいちはやめなさい」
指令をもらう立場ということから忍者になって色仕掛けという発想の推移かな。
だが色仕掛けをするには直球過ぎる。
お兄ちゃんとしてはもう少し焦らす感じが良いと思うぞ。
「お兄ちゃん……教えて♡」
「よし、翔、何が聞きたいんだ?」
「ちょろいなこいつ」
かわいい妹がおねだりしてるんだから当たり前だろ。
あざといのにかわいいとかすごいと思う。
「お前だって灯里ちゃんに言われたら同じだろうが」
「……不毛な争いはやめよう」
「そうしよう」
そういうことになった。
まあ終わりのない戦いほど無意味なものはないからね。
「で、なんだっけ?」
「魔法の分析の仕方だろ」
呆れたように答える翔。
でもそんなこと覚えてる訳ないだろ。
「うーん、感覚的な要素多いのは事実なんだけど」
「それでもいいから説明しろ」
「私、気になります!」
「陽菜はノリで言ってるよね?」
「てへぺろっ」
困ったらあれで誤魔化すのはどうなんだろうか。
まあ陽菜はともかく翔がやる気になっているなら教えることにしよう。
・・・
「だいたい理解しただろ」
本気になった翔はさすがに理解が早い。
あっという間にコツを掴んだようで、人気魔法のコピーを作っては消しているようだ。
上手く再現できてるならいいけどその辺りちゃんと確認してるのだろうか?
まあ翔ならその辺りちゃんとしてるか。
「私も出来たー」
「うん、陽菜はオリジナルすぎるからな」
陽菜は俺とは全く違うアプローチで欲しい結果を出している。
なんていうか大まかに狙いを決めてそこから調整していく感じ。
その狙いのつけ方が独特すぎて真似できそうにない。
最初は翔も陽菜にある程度話を聞いていたけど、すぐに理解を諦めたようだ。
「でもなんで魔法を?」
「ちょっとな」
何度か似たようなことを聞いてるけど毎回言葉を濁している。
こいつがやる気になるなんておかしいし何かあるんだと思うんだけど。
「ふむ? ふむふむ? ふむふむふむ?」
「サガフロ2式の連携か?」
「懐かしすぎるだろ」
こういう時に幼馴染というのはネタが伝わりやすくて良い。
江川に言ったら「なんだそれ?」って返ってきたのは悲しかった。
「そーいうことね、完全に理解した」
「もう持ちネタにしてないか?」
「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となるんだよ」
「全ての不可能を消去するのが難題だろうが」
知らない情報が一つでも交じってた時点で不可能かどうかわからない。
現実の問題で消去法を使える機会は少ないんだ。
「翔さんもいろいろ大変だね」
「……そうだな」
「通じてる!?」
陽菜がしみじみと言うと翔もそれに同意した。
え、分かってないの俺だけ?
陽菜が俺の様子を見て首を振る。
「結論、全部お兄ちゃんが悪い」
「だろ」
「なぜに俺!?」
二人そろって俺を悪者にしやがった!?
何のことで責められてるのかすらわからないのにどういうことだよ!?
その後、いくら問いただしても二人とも教えてはくれなかった。
おのれ。




