100.魔法の一般化
最近は時期のせいか観光客が多い。
目的は富士山とB級グルメだ。
富士山はいわずもがな、高い建物が少ないので綺麗に撮影出来るらしく街中の意外な所が撮影スポットになっている。
加えてB級グルメだが、この街のB級グルメは半玉味天というやつで最近大会で優勝したらしい。
ただあれは町おこしの一環で作られたものなのでいまいち馴染みがなくて食べたことはないんだよな。
「そもそも半熟卵を天ぷらにするって発想はパクリではないのだろうか」
半熟卵のてんぷらは普通の料理として存在しているので、それにちょっとアレンジを加えた程度でオリジナルと言って良いのかは怪しい。
いやまあそれを言うとB級グルメ全般に派生しそうな気もする。
「ただまあ独自の技術が評価されたといえばそうなのか」
一応の特徴として、半熟卵にはしっかりとした味がついている。
ゆで卵ならよく見るけど半熟卵で味付き卵になっているのは珍しいと思う。
これは魔法の力によるものだ。
煮卵の原理を応用して超短時間で味を染み込ませているので、腐敗や雑菌の繁殖の危険がないらしい。
広報か何かで見た記憶がある。
かなり気になる効果なんだけど、真似されると困るということで隠されているらしい。
そのせいでご家庭で作ることが出来ずお店に行くしかないのはどうかと思うんだけどな。
「最近ほんとに魔法が一般化したよなぁ」
きっかけはやはり契約魔法だろう。
あれでまず魔法を使うという拒否感をなくさせた。
あの発想は素晴らしいと思う。
だって大抵の物事は始めるまでが一番大変だ。
例えば最近だとQRコード決済がそうだったと思う。
最初の頃は面倒だと思ってやらない人が多かったし俺もやらなかった。
いちいちアプリを入れて準備するのが面倒だったり使えるお店が少なかったりしたからだ。
でも大規模な還元や全額キャッシュバックの抽選を行って興味を惹くことで、始めるというステップをクリアさせた。
契約魔法も同じノリだ。
しかも契約魔法の場合、QRコード決済と違って元々無駄にしているMPであるのも大きい。
懐が傷まないのでとりあえず契約魔法を使ってみるかという気分になるし、自動使用されてもなにも気にしない。
使いもしないサブスクにお金を払ったままになる人がいるのだから無料ならなおさらだろう。
そして自動使用とはいえ使えばレベルアップするので、それでさらにMPが増えていろいろなものに使えるようになる。
「功罪共に大きいんだよな」
人気ランキングが使い物にならなくなったけど、それはつまり一般人がそれだけ魔法を使っていることを意味する。
事実、かろうじてまだ100位以内に入っている俺の魔法だが、経験値の量はランキング上位のころからそこまで減っていない。
単純に俺の魔法と比べてよく使われる魔法が増えただけだ。
「しかも能動的に魔法を使わせることでそっちの拒否感もなくす、と」
映像を投影するには投影用の魔法を使う必要がある。
魔法名が表示されているとはいえ言葉にする必要があるのは変わらないので、段々と使うということに慣れてくる。
一度魔法を使うという動作に慣れてしまえば、他の魔法を使うハードルも下がるという手はずだ。
「計算しつくされてるよな」
おかげで一般人の魔法に対する拒絶感は薄れた。
いまや日常のちょっとした手間を改善するのに魔法を使う人がいるぐらいだ。
「お、あれなんかそうかも」
ふと見たら観光客の人が三脚をセットし始めた。
どうやら富士山をバックに撮影するらしい。
てっきりオートで撮影するのかと思ったら世界書を取り出した。
「えーと【撮影補助機能】」
そう言うといろいろと体の姿勢を変えてポーズをとっている。
どうやら遠隔で操作?撮影?が出来る魔法らしい。
ただポーズをとる時に世界書が邪魔そうなのが難点ぽい。
以前盗撮騒ぎの時に使っていたのはこの魔法だったのかもな。
「そうかもしれないですね」
「うん、陽菜のマネをして自然と会話に入ってくるのはやめようね」
「てへぺろ」
無表情でてへぺろと言われるとリアクションに困るな。
そう思いながらあいかわらずのワンピース姿の灯里ちゃんを見る。
ポシェットとか帽子とかはかざりけのない実用性最重視なのに服だけはかわいい系なんだよな。
「どうしました?」
「いや、どうして服だけは実用性重視じゃないのかなって」
「父や兄貴がうざいから」
「お、おう」
いきなりの敬語抜きの返答。
家族絡みになるといきなり態度が荒っぽくなるんだよな。
陽菜もある程度はそうなんだけど灯里ちゃんはスイッチの切替の差が激しいので驚いてしまう。
ただある程度親しい人間じゃないとそうはならないので、スイッチの切り替え含めてそれが灯里ちゃんの素なんだと思う。
「いちいちいちいち『女ならもっとかわいい格好しろ』とかうざすぎる」
「まあ気持ちは分からなくもない」
「別にかわいいのが嫌いなわけじゃないけど押し付けられるのが嫌」
そう言いつつも普段からかわいい系の服を着ているあたりが性格の良さを表してるよな。
翔がかわいがるのも分かる。
「真琴さんは陽菜お姉ちゃんにそういうこと言わないんですか?」
「服を着ろとは言うな」
「ああ、陽菜お姉ちゃんは全裸が正装って言ってますからね」
「初耳だぞ!?」
あいつ、いつのまにそんな思想になったんだ!?
父さん・母さんは世間一般の常識とかけ離れていることは知っていたはずだろ!?
「泊まりに行ったときも部屋の中では全裸でしたよ?」
「よし、帰ったら締めておこう」
家族以外の前で肌を晒すなと何度言えば分かるんだ。
いや、家族でも晒さなくていいんだけど。
「まあ特に気にしないのでいいんですけど」
「うーむ、それを褒めて良いのか叱ったほうがいいのか」
「あれが盗撮の時に使った魔法ですか?」
「ん、ああ、そうかもしれないなって思って」
「なるほど」
あごに手を当てて考え込んでいる。
ぱっと見は怒ってるみたいに見えるけど全然普通なんだよな。
「意外と便利そうに見えます」
「便利だと思うよ、ただ使い方が悪かっただけで」
「最近学校で魔法を使うと怒られるんです」
「そうなの?」
この会話の飛び方が灯里ちゃんらしい。
多分俺の言葉で学校のことを連想したんだろう。
「犯罪行為だって言われるんですよね」
「意味が分からないよ!?」
でも話の飛び方なら学校の方がよほどひどかった。
どこの国の法律に魔法の記述があるんだよ!?
しかも使い方を誤ってるだけなのにそれ自体を誤りにするのはおかしい。
「カンニングしたり痴漢したり窃盗したり傷害したりした人がぞくぞくと捕まったからでしょうか」
「そう言われると良くないように感じるな」
「ですよね」
うーむ、言われてみれば犯罪行為の目白押しだ。
これは一般人に魔法が広まっている弊害とも言える。
はっきり言って悪用しようと思えばいくらでも悪用できるので自制心のない子どもほど危険だ。
類似の例としては、子どもにネット環境を与えたに近い。
制限していないとどこまでも突き進めてしまう。
しかもネットと違って出来る事が多いので悪い方向に傾くとあっという間に大惨事だろう。
「さっきの魔法はなんていうやつなんですか?」
「ん、ああ、[撮影補助機能]とか言ってたと思う」
「試しに使ってみてください」
「いいけど……」
なぜ俺に使わせようとするんだよとは思うけど灯里ちゃんが頼むならいいか。
陽菜や翔なら速攻でお断りだけどな。
「よし、じゃあそこに立ってくれる?」
「こうですか?」
「うんうん」
どんな感じに操作されるか見ながら使いたいので、撮影対象は灯里ちゃんにした。
本人も無表情なので特に気にはしてないだろう。
「はい、じゃあいくよ」
「よーう、真琴、うちのかわいい妹に何してるんだ?」
「ぎゃあああ」




