柴犬のワンダフル――パンティは白く輝いていた
■1:ぼくの名はシバスケ!
ぼくは誰にだって愛される名柴犬。シバスケ。
今日もここにつながれて、道行く人に愛されてる。
ぼくがわんっていうと、みんなが笑顔になる。
でも最近、ゆーきっていう根暗が登場した。
こいつは僕がわんって言っても暗い顔をしている辛気臭いやつなんだ。
「うー!!」って言ってやろうか。この、このぉ!!
それでも、僕はわんっていってしまうんだワン。
■2:ヤツの名はアッキー!
今日も学校帰りに人が行きかう。
スカートの短い女の子は大好物だ。
むふふふ、今日も白いパンティが良く見える。
ねこじゃらし?いやいや、時代は揺れるミニスカートだよ。
君たちもまだまだだね。
「ほーれシバスケ、ソーセージだぞー」
「わんっ♡」
くっ、恥ずかしくないぞ。肉には勝てん。肉は神だワン。
そんななか、最近、隣の木につながれだしたヤツがいる。
秋田犬のアッキーだ。
あいつは、身体が大きくて、脚なんかがずんぐりしていて男らしい。
なにより僕よりずっと、もふもふしてる。
まぁ、それでも、ぼくの愛らしさは敵なしなんだワン。
■3:君の名はリカちゃん!
「あー!アッキー!!もふもふ~」
ぬわぁぁぁぁ、リカちゃん、そっちにいっちゃ嫌だー!
ぐぬぬぬ、あいつを鳥皮のようにしてやりたい。
毛をむしって、はだかん坊の刑に処す!
「ワンワンワン!」
「ワ゛ン゛ッ!!!」
ぐっぐぐ、僕はアッキーの一声で黙ってしまった。
あいつは身体が大きくて、戦闘力も高くて、しかも好戦的なんだ……
今も、僕が睨みつけているのに、余裕で牙を光らせてくる。
(リカはもう、俺のものだ ニチャ)
くそう!もふもふは……正義だワン。く~ん。
■4:私の名はワンダフル
そんな、もんもんとしていた日々を過ごしていたら、いつのまにか、目の前に透明なガラスが浮かんでいることに気が付いた。
なんだこれ?脚をポテッと置いたそのとき――
「あたらしいスキルをインストールします」
なっなんだ!?光ってる!?
「処理実行中…………」
う、うわわわわ。身体が震えるーーーー!
「インストール完了しました。スキル名:ワンダフル――発動!」
こっこれは!なんだ!?
か、身体から温かい気持ちが溢れてくる!!!
「わーんっ♡」
「あーーーシバスケー♡♡♡♡♡♡どうしたの今日はかわいい声出してーーー!!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁあ」
リっ、リカちゃんが僕をまたもみくちゃにしてくれたぁ!
うっ嬉しい。
あぁぁぁーーー僕をこわしてぇぇぇ♡
ぼくの「わんっ♡」は、その日から魔法になった。
僕は誰かれ構わず「わんっ♡」の魔法をかけた
だって、これでみんなをぼくが独り占めできるんだワン。
■5:悪の名はゆーき
ある日のこと、リカちゃんが泣いていた。
「ゆーきのバカ」
ただその一言。
ゆっ、ゆーきだって!?あの根暗か!?
まっまさか、リカちゃん、そんなぁ。
「ワンっ」
その日、リカちゃんに「わんっ♡」の魔法はきかなかった。
こ、こ、ここここ、これは異常事態だ!
僕の日常が壊れる。
ゆっ、ゆるせん!!ゆるせんぞゆーき!!!
ゆーきに、「うー」してやる!!!
ゆーきは今日も暗い顔をしてとおり過ぎていた。
「う-!!!ワンワンワン!!!」
「えぇ~、なんだい。どうしたんだいシバスケ。怖い顔して」
「腹でもいたいのか~?ほれほれほれ。どうだぁ、気持ちいいか?」
うぅ、くそう、なんでこんなに優しいんだ。
こいつ、根暗なくせに、ぼくのことを一番知っているんだ。
でっでも、ゆるせない。ぼくのリカを泣かしたな!!!
「ワンワンワンワンワン!!!!!」
「はは。そうかぁ、嫌か……」
「ばぁさん……俺、シバスケにまで、嫌われちゃったよ……」
ゆーきの目から――涙が一筋、零れた。
な、なんだいなんだい。泣くことないだろう。
なんだよ。悪者退治のつもりが、僕が悪いことしたみたいじゃないか。
「くーん」
「ははは。どうしたんだよ。お前まで元気なくして。今日はご機嫌ななめだな」
くっ、お前のせいだ!くそう。
でも、なんで、なんでこんなに撫でる手が優しいんだよ。
「はは。元気になったか?よしよし。なんか嫌なことでもあったのかな」
「……梨花ともこんな風に触れ合えたら……な」
リカだって!?おっおまえ、まさか、根暗なくせに、恋の悩みってやつか!?
くっそう。お前の応援なんか、したくないけど、そんな辛そうな顔をするな。
ただでさえ根暗なんだ。それ以上暗くなったら、もう歩く冷蔵庫だぞ!
あー、そういえば夏だった。暑い。歩く冷蔵庫ほしい。。。
い、いや、そんなことはどーでもいい!
ぐぬぬぬぬ。本当は嫌だけど!
とにかく、応援してやる。リカちゃんとの仲を応援してやるよ!
それでリカちゃんも幸せになれるなら、ぼくが一肌脱いでやる!
ぼくに任せるワン!
■6:恋の名は……まだない。
「おーい、となりのアッキー。休戦だ、ここは手を組もう」
「なんだぁ?俺は戦ってたつもりはないけどな。楽しそうなことなら、いいぞ」
「そっそうか。よし、二足歩行どもを発情させるんだ」
「おっおまえwwww実は面白れぇじゃねぇかwwwwwその案のったぁ!やるぜぇ!! ワオーーン!」
―――――
ある日、リカちゃんとゆーきが並んで歩いていた。
なんだか、二人はぎこちない。ふふ、これは絶好のチャンスだ。
「おーい、アッキー頼んだー」
「よっしゃ、来たなぁ。まかせろ!」
アッキーがものすごい勢いでリカに向かって吠えまくった。
「ワンワンワンワンワンワン!!!!!」
「ひっひゃぁぁぁ」
「梨花!!」
ゆーきはアッキーとリカちゃんの間に割り込こんだ。
リカちゃんは思わず尻もちをついた。
僕は、ゆーきのその姿をみて、全身から温かい気持ちが湧いてきた。
なっなんだ!?良く分からないけど、とにかく、今だ!!!
「わーんっ♡」
シバスケは二人にワンダフルの魔法をかけた。
「ゆーき、ありがとう。私を守ろうとしてくれて」
「おっおう」
「梨花って呼び捨てにした!?ねぇねぇ。もう一回言って♡」
「おっおう……」
二人はそれ以上言葉を交わさなかった。
ただ、ふたりの距離が、肘が触れ合うまでに近くなっていた。
■7:私の名は、まだ知られてない。
今日も過ぎ行く人が犬をなでていく。
「あーーー!アッキー!!!!」
ぬわぁぁぁぁ!リカちゃん!!!そっちに行かないでーーー。
「わんっ♡」
「ふふふ、シバスケはあとでねーー。順番だよ♡」
――たぶん、スキルが発動したのは、後にも先にも、たった2回だけ。
でも、スキルがなくたって「わんっ♡」は世界を平和にするのさ。
今日も、リカちゃんのパンティは白く輝いているから!
わんっ♡
――完
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わんっ♡