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1-8 出会い

「ここが保護した子のいる場所です」

あの後少し移動して、私は一つのドアの前に案内されていた。

「僕たちにはあまり積極的に会話をしてくれません。あまり無理に話そうとはしないでくださいね」

どうやら人間不信なのか人見知りなのか、あまり会話したがらないらしい。……いや、無理もない。謎の人間に連れ去られて監禁され、酷い扱いを受けた挙句奴隷として売り飛ばされる所だったのだから。

「わかりました」


ガチャ……


扉を開けて中に入る。その部屋の真ん中にいたのは、少し燻んだ金色の髪をした獣人の女の子だった。

「誰……あっ」

「……あ」

目と目が合い、私は気絶する前の最後の記憶を思い出す。あの時、私が気絶する前にお礼を言ってくれた女の子だった。私が前に出ると、女の子の方から近づいてくる。しかしその脚は小さく震えていた。

「……あ、あの」

「どうしたの?」

私は出来るだけ優しい声色で返す。少しの迷いの後、女の子は意を決したように私の顔を見る。

「レイナ、です。あの時は、ありがとう、ございました」

「……うん、どういたしまして」

か細くもハッキリとした言葉は、私にちゃんと届いた。私は女の子……レイナの頭を撫でようと手を頭に乗せる。レイナは最初は身体をこわばらせたが、優しく撫でれば気持ちよさそうな笑顔を見せてくれた。そんな姿を見て、私は一つ思った。


(この子、連れて行けないかな)


と。


ーー


「……まさかここまで貴方に懐いていたとは。いや、当然と言えば当然か」

ミカドさんは驚きの声を漏らす。確かに、聞いた話では保護した直後は話すどころか近づくことも拒否されたらしい。

「……ミカドさん」

「んぇ、どうしました?」

不意にミカドさんに声をかける。振り返るとミカドさんは素早い動きでマジックバックからりんごを取り出し、食べようとしていた最中だった。

「この子、私が引き取ったりって出来たりしますか?」

「……正気ですか?」

ミカドさんが訝しむ様な目でわたしを見る。まぁ私も危険な事を言っているのは承知の上だ。

「一応言いますが、この子は何の戦闘訓練も受けていない子供です。身を守る術を持たず、冒険者としての依頼に連れていけば当然大きな怪我を負うこともあるはずです。その事を分かった上で言っているんですね?」

「私だってそれなりに強いです。子供一人守れないような冒険者じゃない。……それにある程度なら私が身を守る術を教えられますし、結界魔道具なんかもちゃんと買うつもりです」

責め立てる訳ではなく、心配の色の強いミカドさんの言葉に、私は至って本気であると返す。冗談ならいざ知らず、私だってそう軽い考えで子供を連れて行こうとしてるわけじゃない。

「……なぜ、この子を?」

「まぁ……その、一人旅はそろそろ寂しいなと思ってたので仲間が欲しいなと。この子、可愛いですし」

その言葉を聞いたミカドさんは、呆れたような顔で私に無言の圧をかける。なんですか、可愛い子を連れて行きたいと思うのは悪いですか?

「……はぁ、レイナちゃんの意志と団長次第ですね。この子は現在騎士団で保護している状態なので、団長の許可なく連れ出すことは無理です。貴方が旅に連れて行きたいなら、団長から許可をもらわないといけません」

そう言って、ミカドさんはレイナを見る。レイナは私たちの話を理解していないのか首を横に傾げていた。私は撫でていた手を止めて、レイナに語りかける。

「レイナ。私と一緒に、色んなところを旅してみない?」

「い、色んなところ……ですか?」

「うん。でも、私についてくるならそれだけ危ないことも一緒についてくる。戦い方は私が教えるから。ただ、どうしたいかはレイナが決めて」

レイナは、戸惑う表情を見せて少しの間無言になる。しかし、その沈黙が破られるのにそう時間は掛からなかった。

「私は……行きたい。お姉さんと一緒に、色んなところ見てみたい」

勝利、と言ったところか。私は心の中で小さくガッツポーズをして身体を抑える。

「はぁ……重ねて言いますが今すぐ連れ出すのは無理ですからね。1時間もすれば団長も帰って来ると思いますから、その時に許可を取れるか聞きましょう」

「ありがとうございます」

「お礼を言われるようなことは何一つしていませんよ。ぼくはそろそろ……」

「あの、お兄さん」

「ん?僕ですか?」

ミカドさんが部屋を立ち去ろうとすると、レイナがミカドに声をかける。

「いっつも果物くれて、その、ありがとう……ございます」

「困ってる人を助けるのは騎士団員として当然ですから、気にしないで良いですよ。……あ、りんごあるけど食べます?」

「た、食べます!」

「私も欲しい」

私も少し食べたかったので、すかさずりんごを所望する。

「貴方もですか……まぁ良いですけど」

すると、ミカドさんはバックの中からおもむろに3つのりんごと果物用の小さなナイフを取り出してりんごをスッと8等分する。

「はい、どうぞ」

目をキラキラさせたレイナはりんごを受け取るともぐもぐと口いっぱいに頬張ってりんごを食べる。私もりんごを食べると、シャクッと瑞々しい音が響く。味も甘く香りも良いが、気をつけないと蜜で手がベタベタになりそうだな、このりんご。

「美味しいですねこのりんご……どこで買ってるんですか?」

「僕の行きつけのお店があって、そこから毎回箱で買ってるんですよ。この店のりんごは品質が安定して美味しいので気に入ってます」

そう言ってミカドさんは身につけているマジックバックをポンポンと叩く。……少し気になったので聞いてみるか。

「ミカドさん……そのマジックバック、まさかですけどリンゴしか入ってないんですか?」

「え、なんで分かったんですか!?」

「いやなんと言うか……はい」

ミカドさんのことって何回か見かけてるんだけど、ミカドさんがマジックバックからりんご以外のもの取り出してるのを見たのってさっきの果物ナイフが初めてだし……

「まぁ、これは私物のマジックバックなので。流石に騎士団の備品にりんごを詰めたりはしませんよ」

「あぁいえ、悪いって思ってたりしてるわけではないので……気にしないでください」

「〜♪」

そうして時は過ぎていった。


ーー


「なるほど、カヤについて行きたい……と」

「は、はい」

時刻は昼過ぎ、私とレイナは用事から戻ってきたステラさんに話を通しているところだった。

「……カヤ、この子は君と違って本当に戦闘の心得がない子供だ。その命を預かる覚悟が君にあるか?」

「はい」

「私も、せ、精一杯頑張ります!」

重ねて発されるステラさんの言葉に、私とレイナは臆する事なく宣言する。

「……はぁ、覚悟はちゃんとあるみたいだな。あぁ分かった。カヤ、その子のことをよろしく頼む」

「もちろんです」

やれやれと困ったような顔をして、ステラさんはその表情を緩める。どうやら、認めてくれたらしい。

「それと……レイナ」

「は、ひゃい!」

ステラさんはレイナに対して声をかける。まだステラさんに慣れていないのか、噛み噛みの返答をするレイナに、ステラさんは優しく語りかける。

「君はまだ小さく弱い。だから、何かあればいつでもここを訪ねて来ると良い。私たちが君の力になろう」

「良いん……ですか……?」

「あぁ。……本当なら、私たちが君を育てるべきだった。それをカヤに任せてしまった以上、私たち騎士団も出来る限りのサポートはするつもりさ」

微笑みながら、されど力強いその言葉を受け取った私たちは、ステラさんとミカドさんに見送られながら騎士団を後にした。



レイナ 性別・女 年齢・11

長い金色の髪にもふもふの尻尾を持つ狐の獣人の女の子。ドミニクに捕まっていたところをカヤに助けられ、その影響かカヤに憧れに近い感情を持っている。人見知りは生来のもので、実は人間不信では無かった。ただし、男の人は今のところミカド以外苦手だったりする。可愛い。

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