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1-7 静かな攻防

1-2にて、ドミニクの名前を【ドミニク・アルゴーン】から【ドミニク】に修正しました。

「……んっ……んぅ……」

目が覚める。見えた景色は、知らない天井。

「目が覚めたみたいですね」

「ミカドさ…っ……」

声のする方に向こうとして、体を起こそうとするが……下腹部に僅かな痛みが走り、小さく苦悶の声が漏れ出る。

「おっと、まだ安静にしててください。起きたばかりなんですから」

「すみません……」

横にいたのは、騎士団員のミカドさん。どうやら読書をしていたらしく、ベッド脇の小さな机には本が下面で置かれていた。とりあえず団長呼んできますね、と言ってミカドさんが去っていき、しばらくするとステラさんが入ってくる。

「無事意識が戻った様で何よりだ、カヤ」

「ど、どうも……」

どう答えるか迷って出たどうもに、ステラさんは若干苦笑しながらも頷いてくれた。


「あ、あの」

「わかっているさ、あの後の話だろう。順を追って話すよ」

ステラさんはベッド横の椅子に座り、私を静止する。その声に少しシュンとしたが、落ち着いて話を聞くことにした。

「まず、君の容体なんだが……はっきり言えば大怪我だったな」

ステラさんがまず話してくれたのは私の今の状態についてだった。ステラさんは私が倒れてからすぐにあの中に入ってきたらしく、私の応急処置をしてくれたらしい。いわく、

「あと少し遅れていたら失血多量で死んでいたぞ。かなり危険な状態だったんだからな」

「あはは……すみません……」

ジト目で圧をかけながら私にそう聞かせるステラさんに、私は申し訳なさそうに謝るくらいしかできなかった。まぁ、腹に穴が空いて全身傷だらけ、おまけに龍人化による魔力枯渇も合わされば妥当か……

「次にドミニクと謎の男二人についてだな。ドミニクは今留置所に入れてある。いずれ裁判で有罪判決になるのは確定しているから監獄までは確実だな。向こう10年は檻の中だろう」

「……」

もう一発殴っとけばよかったかな、なんて考えが頭をよぎるが……龍人化の状態で殴っていたらまず間違いなくミンチ肉が出来上がっていたはずなのでやらなくて正解である。

「謎の男二人だが、暗殺者としてドミニクに雇われたらしい。今は留置所で尋問をしているところだ」

明らかに私を狙っていたしな、とステラさんが小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。


その後も色々と話を聞き、ステラさんが子供たちについての事を話そうとした時、何やら困った顔をしていた。

「もしかして何か大怪我を?」

「あぁいや、そういうわけじゃないから安心してほしい。カヤのおかげであの子達はほぼ無傷で保護できた。奴隷紋も現在は解除できている」

「なら、なにが気がかりなんですか?」

聞いてる限りでは何も問題がなさそうに聞こえるが……

「はぁ……実はな、保護した5人のうち4人は親が見つかって無事帰ることが出来たんだが……一人だけ親族が見つかっていない子供がいるんだ」

「その子をどうするかで迷ってると?」

「前も言った通り、今リベルタの周辺では魔物の動きが活発になっていてな。仮に騎士団で保護したとして、その子を育てる事に人員を割くわけにもいかなくてどうしたものかと頭を悩ませているんだ」

眉間に皺を寄せて険しい顔をしながらそう語るステラさん。確かに騎士団で保護した手前、人手がないので面倒を見れませんと投げ出すのはかなりの悪評を呼ぶだろう。それにそんな投げやりなことをステラさんが納得できるとは思えない。

「この件はまだ保留ということにしている。引き取り手もいないが育てられるかも怪しいからな……」

「なるほど……」

「とまぁ……この件はひとまず置いといて」

そう言って、ステラさんが真面目な顔で私に向き直る。

「今回の事件、君のおかげで解決することができた。改めて礼を言わせてほしい、ありがとう」

そう言って、ベッドの私に深々と頭を下げる。

「こちらも危険な時に助けてもらいましたからお互い様です。ありがとうございます」

「……なんか入りづらいじゃないですか」

「ミカドか、入りたければ入れば良いだろう」

「その入りづらい空間を作ってるのは団長なんですけどね……」

面と向かってのお礼の言葉はまだ照れる……なんて考えていると、ミカドさんが微妙な表情をしてドアから顔を覗かせていた。

「ミカド、そういえばあの子の様子はどうだ?」

「ダメですね……多分警戒されてるのかも知れませんけど、一言二言くらい喋ってくれません」

「そうか……」

どうやら先ほどの子供は騎士団の人相手にも警戒心を募らせているらしい。ほんの好奇心から、私はステラさんに提案した。

「私もその子に一度会ってみたいです」

「カヤが?それは構わないが……いや、君になら彼女も心を開いてくれるかもしれないな」

そうですね、とミカドさんも相槌を打って賛成する。

「……あ、私はこの後少し用事があって抜けなければならないんだった。唐突だが後のことは頼んだぞ、ミカド」

「了解しましたよ団長」

ステラさんはそう言い残して部屋を去る。私も騎士団に保護されている子の元に向かうのにこのままはまずいかなと考え、普段の衣服に着替えようとベットから起き上がり、着せられていた貫頭衣を脱ぎ始______

「ちょっ、いきなり何しようとしてるんですか!?」

「あっ」

ミカドさんが顔を真っ赤にして止める。

……どうやら私の頭は、まだ本調子じゃないらしい。


ーー


普段着に着替えた私はミカドさんと騎士団の奥の方の部屋に向かっていた。

「こっちの方は初めて来ますね」

「奥の方は団員の休憩所も兼ねてますし、倉庫もありますから。基本団員以外立ち入り禁止なんですよ」

まぁ、一般人が装備品なんかが置いてあるところに許可なく入れたら確かに問題か。一人でに納得していると、ミカドさんが徐に足を止めてこちらに振り返る。

「……一つ、貴方に聞きたい事があります」

「なんですか?」

すると、ミカドさんから唐突に殺気が漏れ出し、私は思わず後ずさる。ミカドさんを見てみれば、その目は相手を見定めるような鋭い目線に変わっていた。

「僕は貴方を一目見てから、怪しんでいました。……あなた、人間ではありませんね」

「……なぜ、そう思ったんですか」

ミカドさんがそう言い、廊下の空気がピリピリと張り詰める。腰にある剣に手を掛けながら、ミカドさんは淡々と続ける。

「そうですね、最初は大まかな勘程度でしたが……理由はいくつかあります。一つ目は服ですね」

「服……?何も変な格好はしてないと思いますが」

決して分厚い魔力装甲を纏った服を着ていた訳でも、何か暗器を隠したような服装をしていたわけでもない。どこからそう思ったのか、私は思わず聞き返す。

「そうですね、確かに怪しい格好と呼べるものではなかった。……それが普通の人なら、の話ですが。あなたは冒険者、それなのにあなたは依頼に行く時も、依頼を終えて帰ってきた時も軽装備の一つすら着けていない私服の状態でした。これが一つ目です」

「二つ目は傷の治りが早かったことです。決して浅くない全身の切り傷、下腹部に空いた穴、それに加えて魔力枯渇。人間なら回復魔法で傷を治したとして、2週間は目覚めなくてもおかしくない大怪我です。でも貴方は下腹部の穴を治した後、切り傷のほとんどが自然治癒していました。そして魔力も回復し、今はこうして何気なく立って話している。これが二つ目です」

「そして最後に、この現状が何よりの証拠です」

そう言って、ミカドさんはこちらを見据える。

「貴方は今、僕の殺気を浴びても微塵も怯えてもいない。貴方は見栄を張ってる訳でもなく、僕がここで貴方に襲いかかったとしても対応できる力だけの力が貴方にはある」

「……」

「カヤ、貴方は一体何者なんですか」

静寂が辺りを包み込む。私の背中に冷や汗が伝い、ミカドさんの剣は依然として私を射程内に捉えている。

「……隠し事をしていたのは事実です。ミカドさんの言っている事は正しい」

不意にあの頃の光景がフラッシュバックする。龍は悪だと、殺せと、燃え上がる故郷、その全てが目の前に迫る勢いで鮮明に。……落ち着け、ミカドさんは敵じゃない。私は深呼吸をして、意を決して打ち明ける。

「私は、滅んだ龍人族の里の生き残り」

そう言って、私はアイテムボックスからいつもの槍を取り出す。

「《花開け龍月》」

「……!」

「……これで、信じてもらえましたか」

私は龍人化を使い、普段隠している姿を曝け出す。……怖い。心臓の音が鼓膜から流れているかのように大きく鳴り響き、槍を持つ手は小さく震える。

「私は貴方達に危害及ぼすつもりはない。龍人族の私が嫌なら、今すぐここを去っても構わない」

体の震えを抑えこみ、ミカドさんの目をはっきりと捉えて私はそう宣言する。

「……」

「……」

両者の間の重い沈黙は、数秒と分からぬ時間を永遠と見紛うほどに引き延ばす。先に口を開いたのは、ミカドさんだった。

「……試すような真似をして、申し訳ありませんでした」

そう言うとミカドさんは殺気を収め、その場で深々と頭を下げた。

「!?……え、と……いきなり何を」

私は急な謝罪に困惑しつつ、龍人化を解いてミカドさんに問いかける。

「僕は貴方を怪しんでいました。唐突に現れ、誰も受けない騎士団の依頼を受けたと思えば、それまで足取りを掴めなかったドミニクの根城を突き止め、更に団長の話では待ち伏せをされていたと」

「そ、それは……」

思わず声が詰まる。否定できる筈もない、ミカドさんの言葉はまごう事なき事実なのだから。

「ですが、貴方は死の淵を彷徨う傷を受けながら被害者の子供達を守り通し、元凶たるドミニク達を倒し団長の信頼も勝ち取った」

そしてミカドさんは私に向かって再度頭を下げてこう言った。

「僕の役目は全てを疑って団長を守る砦となる事。貴方が本当に我々に害ある存在ではないと、僕自身が貴方を信じられる最後の決め手が欲しかったんです」

ミカドさんの言った事は全て真っ当な意見だと私は思った。どこの誰かも分からぬ子供が未解決事件の依頼を引き受けたと思えば二日で犯人の居場所を特定し、襲撃に向かえば罠を張られていた。私だって警戒する自信があった。……だからこそ、

「と、とにかく……!私が隠し事をしていたのも事実ですし、ここはお互い様と言うことにしませんか?」

このままの気まずい空気をどうにかしたくて、私はミカドさんにそう提案する。ミカドさんだって悪意を持って私を脅した訳ではないし、これ以上この件を引きずるのは不味いと思った。

「良いんですか?」

「はい。その代わり、また何かあれば手を借りたいなと」

「……わかりました。何か困った事があれば、僕に出来る事ならなんでも力になる事を誓いましょう」

そうして、騎士団での静かな攻防は幕を閉じた。

ミカドとカヤの一幕


「そういえば、なんで防具つけないんですか?」

「あー……私動き回る戦闘がやりやすいので金属防具は着けたくなくて、かと言って革防具で防げるような攻撃なら私自身の防御力で大体耐えられるので……じゃあ、要らないかなぁって」

「なるほど……」

「それに、私は龍人化がまだ下手で。魔力をごっそり持ってかれるので正直龍人化はあまり切りたく無いんですよね」

「……あれ、じゃあさっきのって……」

「まぁ……魔力2割くらい持っていかれました」

「病み上がりにすみませんでしたっ!」

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