表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

1-6 断罪

まともな戦闘は初めてなので不安です……

夜の草原を二人で駆け抜ける。空気は少し冷たく、走り続ける体に気持ちいい。現在、私とステラさんはドミニクの拠点に向けて移動中だ。私は最初、ステラさんに気を遣って少し速度を落とそうかな……なんて考えていたが、

「なに、私だって鍛えているからな。カヤはいつも通り動いてくれて構わない。私が合わせよう」

と宣言したので、私は全速力で走り抜ける事にした。ステラさんは私のスピードに少し驚きつつも余裕の表情で私についてきている。私は前を再び見据えて森に向かって加速した。


……後日、その光景を見ていた一般人によって「草原を星が駆けていた!」という謎の噂が広がる事になるのはまた別のお話。


ーー


前回は30分ほどかかった移動が、今日は10分近くで終わった。私は以前のルートを辿りつつ、探知魔法を展開して襲撃に備える。

「……やはり静かですね、このあたりに襲撃者の気配もありませんし」

「だな。てっきり夜中も見張りや周回する者を適度に置いていると思っていたのだが」

少し拍子抜け、という意見を二人で合わせつつ、足を止めることはない。……やがてそろそろ拠点に着くか否かというところ。

「そろそろで……」

そこで言葉を止める。

「誰だ」

ステラさんの問いかけに答える声はない。私は槍を構え、ステラさんは澱みない動作で剣を抜く。

「……!そこ!」

ステラさんの背中に向けて小さなナイフが飛ぶ。私は槍でナイフを弾き、その方向に《風刃》を放つ。……が、当たった様子はまるでない。

「……その顔、見覚えがある。《破軍星》のステラだな?」

「……私の名を知ってなお、私に勝負を挑むか」

どこからか声が聞こえてくる。近くにいるはずなのに、なぜか探知魔法には引っかからない。少しだけ焦りが募るが、落ち着いて探知域を絞って魔法の精度を上げる。

「知っているさ。星の祝福を受けたリベルタ最強と謳われる騎士団長……はは」

思わず背中に寒気が走り、ゾワっとするような殺気が放たれる

ーー刹那、

「貴様の首、貰い受ける!」

上半身に黒いフードを纏った男が、手にしている刃をステラの首に振るう。ステラはそれを構えた剣で滑らかに弾くと、暗殺者の腹に蹴りを入れる。が、暗殺者は距離を取ってそれをかわす。

「カヤ、あいつは私が引き受ける。君はドミニクの拠点に向かってくれ」

「わかりました、ご武運を」

「あぁ、被害者のことを頼んだぞ」

会話を終えて、私は暗殺者を無視してドミニクのいるであろう拠点に向けて駆ける。

「貴様も逃さ……」

「お前の相手は私だろう?」

私を妨害しようとした暗殺者を、ステラさんが強引に間に入って足止めする。刃物のぶつかり合う音が、夜の森に響いていた。


ーー


「やぁ野鼠」

「……なるほどね」

ドミニクの拠点についた私は、早々にならず者のような風貌の男に囲まれる。……なぜかは分からないが、私のマーキングと下見は気づかれていたらしい。

「ならず者にしては芝居が上手いね、劇団員でもしてたのかな」

「はっ、強がりか?囲まれてるってのを分かってねぇみたいだな」

ならず者のリーダー格と思われる頬に十字傷のある男が反応すると、周りの男たちが一斉に武器を構える。絶体絶命……なんだろうな。

普通なら。

「囲まれてる……囲まれてる、ね」

「何がおかしい?」

「あぁいや、勘違いしてそうだから言おうと思ってさ」


「この程度、私に取っては《囲まれてる》内に入らない」


私はそう言い放った瞬間、ノーモーションで周囲に衝撃波を放つ。正直、囲まれてすぐ襲われていたら少し危なかったかもしれないが……子供と思ったか知らないけど油断してくれてありがたい。

「なっ……てめぇ!」

包囲を崩され、軽く吹き飛ばされた男たちはバラバラに襲いかかってくるが、それこそ烏合の衆。

「遅い」

風魔法で速度を上げた私は、襲いくる男たちに呟く。槍で相手の脚を止めさせ、隙が出来れば接近して叩き込む。《風刃》も織り交ぜつつ応戦し、男たちが全員静かになるのに3分も掛からなかった。

……私は、自分が最強だなんて驕りを持ったことはない。この世界の天井を見たから。

私は自分の強さに誇りやプライドを持たない。誇りを捨てて守りたいものが守れるなら、喜んで捨ててやる。

私は、自分の実力を過信しない。命が無ければ何も成せないから。


「まぁ、私を囲むには実力不足だね」

ならず者たちを全員気絶させた私は、ドミニクの拠点に振り返る。報いを受けさせる時だ。


ーー


ドミニクの拠点の中に入ると、案の定隠蔽魔術が解ける。地下にある反応は5つ、昨日確認した時よりも弱っている気がする。拠点の中にいたならず者も始末しつつ、地下へと進む。


地下室には思いの外すんなりと入れた。光の届かない部屋の奥には、痩せ細った5人の子供がいた。私がすぐに駆け寄ると、

「もう鼠が忍び込んだのか……めんどうな」

「!」


ガシャン!


男の声が響き、それに続いて地下室の鉄扉が大きな音を立てて閉じられる。

「お前がドミニクだな」

「そうなるなぁ、生きの良い野鼠」

地下室の入り口にいた、ゴブリンの住処で見かけた男が私の問いに答える。脇にはもう一人顔を隠した者が控えており、護衛と判断してカヤは一旦様子見をする。下卑た笑みを浮かべたドミニクは、こちらを値踏みするかのような視線で私を見る。

「ふむ……まぁ金貨100程度か、売る気も起きん」

……値踏みした挙句売る気も起きない、どこまで人を馬鹿にするのか。殺してはいけない縛りが恨めしい。

「……」

鋭く睨みつけるに留めた私は、二人に気づかれない様に後ろにいる子供達に弱めの回復魔法をかけ続ける。本当なら全て治してあげたいが、回復魔法は対象者の生命力を使う。ここまで弱った子供に強い回復魔法を掛ければ逆に負担が増え、最悪の場合死んでしまう。

「全く、君がいてくれて助かったよ。まさか本当につけられてるなんてね」

「……」

ドミニクは横の男にそう告げる。……あいつ、さっき外でステラさんを襲ったやつの仲間だな。気配がならず者よりもあっちに近い。私は警戒レベルを引き上げつつ、隙を見計らう。私単騎ならどうとでも出来るが、子供達を守りながらこの閉鎖空間で戦闘をするのは私に取ってほぼ詰みに近い。

「ほら、相手をしてやれ。調子に乗った袋の鼠に身の程を教えてやると良い」

「……」


側にいた暗殺者が剣を抜く。……やるしかないか、と私は槍を構え暗殺者に応戦する。金属のぶつかり合う音が響き渡り、槍と剣は火花を散らす。

「くっ……!」

「……」

狭所であるせいで槍も使いづらく、いつもよりやれる事が狭まる。その上……


「っぶな……ぐっ……!?」

こいつ……隙あらば子供達に向けてナイフを投げる。私は当然ナイフを槍で弾くが、そうすれば私自身が無防備になる。致命傷や大怪我は避けているものの、何度も攻防を繰り返す内に私の身体はボロボロになっていた。

「ははは!殺すなよボロス。こいつは俺に逆らったやつの末路として晒しあげてやるからな」

「……」

ボロスと呼ばれた暗殺者は強い。子供達を守りながらで私が戦える相手じゃない。奥の手はあんまり使いたくないが……ジリ貧の中で考えていると……


「かはっ……」

不意に、脇腹に焼ける様な痛みが走る。体を見れば、脇腹に小さな穴が空いており、足元に鮮やかな赤色の液体が漏れ出ていた。私の視線の先にいたのは、泣きそうな顔で震えながら私に光魔法を放ったであろう子供だった。

「……はは、はははははは!馬鹿だなぁ!救おうとした子供に撃たれた気分はどうだ!?」

そう言って、ドミニクは見せびらかす様に奴隷の主人である証明である刻印が刻まれた右手の手袋を外す。奴隷に攻撃を強制させたのか、クソが。……私の身体からだんだんと血液が抜けていく感覚がする。これはまずい。

「ボロス、トドメをさせ!殺すなよ、これからジワジワといたぶり続けるんだからなぁ!」

ボロスがその宣言に応じて、私に剣を振りかぶる。そのとき、


「助けて」

そう、聞こえた。はっきりと。


《うーん、その力は愛弟子自身の力でしょ?確かに愛弟子が使いたくないのもよくわかるけど〜……》


師匠の言葉が不意に蘇る。


《使える手は、使おうよ。ぜーんぶ救いたい欲張りな愛弟子は、手を選んでちゃ何も掴めないぞ》


うん、ちゃんと分かってるよ師匠。こんなところで折れるわけには行かないんだ。


「《花開け龍月》!!!」

私の槍が水色の光を放ち、私の体を包み込む。ボロスは警戒してドミニクを守る様に後ずさる。やがて晴れた光の繭は、私の隠していた姿を表す。

「な、なんだその姿は……」

「……龍人か」

私の頭からは2本の角が後ろに向かって生えており、腰からは尻尾が、傷ついて素肌が見えていた服の隙間からは、銀色に光る龍鱗が垣間見えた。

「……ぶっ潰してやる」

そう啖呵を切った私は、瞬く間にボロスへと肉薄する。

「……!」

まさかこちらから突っ込んで来るとは思わなかったのか、ボロスの反応がワンテンポ遅れる。剣で防ごうとしたボロスだったが、そんな隙を見逃すほど私だって甘くない。

「らぁっ!」

槍……ではなく、私は右手でボロスの無防備な腹部に裏拳を叩き込む。

「ぐぉっ……!?」

防ごうとしたボロスだったが、メギメギと骨の軋む音をたてながら右に大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。

「ひっ……!」

「逃すわけないだろ」

逃げようとしたドミニクの首に槍先を当てがう。

「い、命だけはっ!そ、そうだ、私を殺せば奴隷紋の主人は永劫に私になるぞ!それでも良いのか!?」

この後に及んで命乞いをするドミニクだが……私はスッと槍を振るい、ドミニクの右手を切り落とす。

「〜〜〜っ!!!???」

「私が奴隷紋について何も知らないとでも思ったか。主人が居なかろうと奴隷紋が解除できるのは知ってるんだよ」

声にならない叫びをあげるドミニクに対し、私は淡々とそう告げる。……耳障りだな。

「黙っとけ」

槍の柄で後頭部を殴り、気絶させる。念のため確認すれば、ボロスもどうやら気を失っているらしい。念のため四肢を拘束しておく。


「ひっ……」

「……あっ」

ここまでしてようやく、自分のやったことに気づいた。……おおよそ、子供の前でして良いことではない事をやらかしたと気づいたのも。

「……あ、あの……」

5人のうち、唯一今まで起きていた女の子が私に声を掛ける。

「ありがとう……ございます……!」

「……」

ちゃんと、守れただろうか。なぜかくらくらと視界が揺れ、やがて立つのも限界になり……


____私の意識は、そこで闇に落ちた。

龍人化したカヤはちょっぴり語気が強まります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ