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1-5 突撃前夜

翌日


「ふぁぁ……さて、槍の手入れは良し、体調も万全だね」

昨日のうちに昼頃まで起きないとミラに断りを入れておき、夜からぐっすりと寝た。ぐーっと背中を伸ばし、力を抜けば目が自然と覚める。

いつも通りに少しだけ手入れをした後、一階へと降り、ミラに挨拶する。

「おはよう……かな?ミラ」

「おはようございます!今日は大事な依頼なんですか?」

「夜にちょっとね。だから深夜帯に宿を出るけど気にしないで」

「了解です!あ、お昼ご飯になっちゃいますけどどうしますか?軽くなら今からでも作れますよ」

「お願いしてもいい?」

「じゃあそのまま待っててください、ささっと作ってきます」

ミラはなぜ、この歳で1人で働いているんだろうか。少し気になる。ぽけーっと色んなことを考えていると、気づけばミラが食事を持ってきてくれた。

「本当に軽くですが……串焼きお肉とミルクスープです」

「……ミルクスープ?」

ミラが持ってきたのは、串焼き肉と、お皿に入ったもったりとした白いスープ。野菜が浮かんでおり、彩りはいいが……

「……?どうかされましたか?」

「あー……いや」

……私はミルク系が少し苦手だ。体が合わないのか飲むとお腹の調子を崩すことが多いし、口の中に若干残る感覚が苦手だ。

「苦手でしたら下げますけど……」

「……いや、大丈夫」

ミラのご飯が不味かった事があるか?いや、無い。勇気を出してスプーンを口に運ぶ。

「……おいしい」

今までのミルクの概念を覆された気がした。ミルクのまろやかな甘みが野菜と混ざり合い、とても食べやすいスープになっていた。

「お口に合いましたか?」

「うん、すごい美味しいよ」

……ミラを旅に連れて行ったらもっと美味しいものが食べられるのかな?少し興味が湧いたが、流石に危ないなと考えを払った。ミルクスープと串焼き肉を食べた私は、腹ごなしの運動も兼ねて軽めの依頼に向かうことにした。

「いってらっしゃいです!」


ーー


「まぁ、こんなものかな」

複数受けた低ランク依頼の最後の対象であるシルバーウルフの群れを倒し終わり、マジックバックに死体をしまう。時刻は夕方、空が少し茜色に染まりつつある時間だ。

「……ちょっと広範囲だったかな。思ったより遅くなったし」

街へと帰るために死体を回収し終え、アイテムボックスにバッグを入れようとした時。

「…………そこそこ中身が多くなったか」

本来ならすんなり入るはずのマジックバックに、若干の抵抗があった。カヤ自身のアイテムボックスはそう大きくないため二重収納を使いつつ中身を圧縮していた。……が、マジックバックが弾かれつつあるということは誤魔化しが効かなくなった事を表していた。

「明日か明後日あたりに整理するか……」

渋々という雰囲気で呟くと、カヤは再びリベルタへと歩を進めた。


ーー


「では……アイススライムの駆除、ザスレの採取、シルバーウルフの群れの討伐ですね。スライムの核とザスレの実も確認しましたので、こちら報酬の銀貨7枚と銅貨4枚です」

私はリベルタに帰還して、冒険者ギルドに足を運んだ。依頼完了の旨を伝えた後、報酬の代金を受け取ると受付嬢さんが少し話しかけてきた。

「長期間放置されていた依頼を受けていただいてありがとうございます。新人の方々はどうしても目立つ依頼を取られる方が多くて」

「感謝されるような事じゃないです。ちょっと用事があって適正ランクを受けたくなかったので、無理なく体を動かせたから楽しかったです」

微笑む受付嬢さんに少し照れてしまう。少し顔が熱くなるのを感じて、私は話題を切り替える。

「……あ、シルバーウルフの死体は解体に直接出したいんですけど大丈夫ですか?」

「それなら左手の方の……あそこですね。あちらで解体をしてくれますよ」

受付嬢さんが示した方向をみると、筋骨隆々の男たちがカウンターで冒険者と素材のやり取りをしていた。

「見た目は怖いですけど、みなさん優しいですから心配しなくて大丈夫ですよ」

ありがとうございますと告げて、私は解体のカウンターへと向かう。……私はやっぱり、身長通りの年齢に見られているんだろうな……若干の悲しさと諦観が襲って来る。確かにそこそこ言われるから慣れはしたがそれはそれ、これはこれ。

「私ってそんなに小さいかなぁ……」

ボソッと漏れ出た一言は、ギルドの喧騒に溶けて行き、誰の耳にも届かなかった。


「すみません、解体お願いしたいんですが……」

「おう、嬢ちゃん冒険者か。何を解体するんだ?」

解体カウンターに行き声をかけると、奥から解体用の無骨なナイフを持った大柄な男性がやって来る。

「シルバーウルフを6体で、素材はそのまま全部売却する形でお願いします」

「あいよ、手ぶらそうだが……あぁ、マジックバックかい?」

そう言って男性は私のバックを見たので、こくりと頷く。

「なら、そこのカゴに出しておいてくれるか?6体くらいなら5分もかからねぇから適当に待っててくれ」

ザーッとカゴに死体を出すと、他の解体担当者と思われるエプロンを来た男たちがカゴを担いで奥へと運んで行く。……5分もない内に、再び解体受付に呼ばれる。

「終わったぞ。嬢ちゃんの持ってきたのは傷も少なくて解体しやすかったぜ。ほい、シルバーウルフ6体分で銀貨5枚だ。解体の手間賃で銅貨5枚分引いてあるぜ」

思いの外高く売れたな。と思い、カヤは少し上機嫌にお金を受け取る。

「ありがとうございます。ところで聞きたいんですけど、解体ナイフって売ってますか?」

「お?解体ナイフか。嬢ちゃんくらいの子にあったやつってんなら……コレだな。買うなら銀貨2枚だぜ」

解体受付の男性はカウンターの下をガサゴソと漁り、自分が持っているものより二回りほど小さい解体ナイフを取り出す。カヤはガサゴソと先程の報酬から銀貨2枚取り出し、迷いなくナイフを購入した。

「まいどあり、また来てくれよな!」

気前のいい解体受付の男性にぺこりと頭を下げ、私は宿へと戻って行った。


ーー


宿に帰った私は、ミラに仮眠をとると伝えて眠りについた。目が覚めれば時刻は深夜の11時、グッと体を伸ばし、勢いをつけてベッドから起き上がる。夜なのであまり音を立てないように一階に降りると、いつも朝食が置いてある場所にご飯があった。近づいてみると手紙が添えてあり、

《冷めても美味しいものを作りました、よかったらどうぞ》

と書いてあった。

「……ありがたいね」

思わず、顔が綻ぶ。正直、夕食を食べてから時間が経っていて小腹が空いていたから嬉しく思う。置いてあったのはクッキー、一枚食べてみたが甘さも控えめで二枚目三枚目に手が伸びそうになる。自制してアイテムボックスに仕舞い込み、

「いってきます」

誰の返事も返ってこないのを理解しつつ、小さく呟く。気持ちを切り替えて、私は騎士団の駐屯所に向かった。


ーー


「やぁ、時間ぴったりだな」

駐屯所に向かった私を出迎えたのは、いつも私に応対してくれるステラさんだった。

「ステラさんも来てたんですね」

てっきり時間が空いている団員さんだけがいると思っていたので、少し意外に思ってそう問いかける。

「あぁ、私もこれから任務だからな」

「そうなんですか?」

「そうだな。まぁ、君と行くんだが」

「…………え??」

何を言ってるんだこの人は、という言葉をぐっと飲み込んで抑える。え?なんでこの人ついてくるって言ってるの??ちょっと理解が追いつかず、思考が思わず停止する。

「言っただろう?空いているやつが一人いる、と」

「そうですけど……」

「私だ」

「えぇ……」

なぜそこに自分を持ってくるのか。いやまぁ……自分自身なら急な事態でも勤務時間の調整が効く……のかな?そう半ば強引に自分を納得させて頭を振り払い、私はステラさんに向き直る。

「えっと……つまり私の相棒はステラさんになるって言う認識でいいですか?」

「そうなるな。いやぁ、あの場で私だと明言したらミカドからまた小言を言われそうでな!」

そう言ってくくくと少しイタズラっぽく笑うステラさんは、駐屯所で見た真面目な顔と違って、雰囲気より幼く見えた。

「さて、深夜帯なんだ。あまりうるさくしても苦情がくるし、そろそろ出発と行こう」

「ですね……一応確認ですけど、精霊鏡は大丈夫ですか?」

念のため確認すると、ステラさんは懐から昨日の昼間に渡した精霊鏡を取り出し問題は無い、と言う表情で頷く。私は風霊を呼び出してマーキングへと追跡を始め、二人は夜の草原へと駆り出した。

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