1-2 騎士団へ
翌朝、陽が昇るあたりで目が覚め、そのままぼんやりとベットから起き上がる。
少し乱れた髪の毛に櫛を通して軽く整え、着替えてから部屋を出る。一階に降りると、ミラがいそいそと朝ごはんの準備をしていた。
「おはよう、ミラ」
「カヤさん!朝早いんですね」
「旅人だからさ、野宿とかで朝早く起きて動くから自然とね」
「ほへぇ……あ、朝ごはんもうすぐできるのでちょっと待っててくださいね」
「おっけー、顔洗ってくるよ」
パンの焼ける良い匂いが漂う中、顔を洗い残っていた眠気を完全に取り払う。その後ミラの朝食を食べてから、軽く準備を済ませて宿を出る。昨日受けた闇商人捕縛の依頼の詳細を聞くために私は騎士団駐屯所を目指し、お城へと足を運んだ。
ーー
……とは、考えていたのだが
「駐屯所ってどこだろう……」
迂闊だった……ギルドの受付嬢から騎士団で話が聞けるとは聞いたが……肝心の騎士団の場所を聞くのを忘れていた。
「お城の衛兵さんにでも聞いたほうがいいか……こそこそ探し回るほうが絶対怪しいし」
このまま城門の前をうろうろして衛兵に捕まるなんてごめんなので、適当な人に聞いてみることにした。
「あ、すみませんちょっといいですか?」
「……あ、もしかして僕ですか?なんのご用件でしょう」
「冒険者ギルドで騎士団からの捕縛依頼を受けた者なんですが……リベルタに来たばかりで騎士団の駐屯所がわからなくて……どこにあるか教えてもらえますか?」
ちょうど通りかかった若い兵士に騎士団の駐屯所の場所を聞いてみた。
「ふむ……一応依頼書の方を確認しても構いませんか?セキュリティの都合上見知らぬ方をホイホイと案内するわけにもいかないので」
「えっと……これです」
そう言ってギルドからもらった依頼書を鞄から取り出して兵士の青年に差し出す。
「……闇商人捕縛依頼の旨、確認しました。駐屯所に案内しますね。こちらです」
そう言って青年が少し笑ってからゆっくり歩き出す。正直、お城周りの衛兵や騎士団ってもっとお堅い感じなのかと思ってた。少し意外に思いつつ、私も青年について行った。
ーー
「こちらが騎士団駐屯所になります。依頼の詳細はえっと……団長、お客さんがお見えですよ」
騎士団駐屯所に入ると、案内をしていた青年が奥に向かって声をかける。奥から足音が聞こえて、金髪で背の高い女性がやってきた。
「客?今日の予定に訪問などはなかったと思うが」
「客というか、団長がギルドに出してた依頼を受けてくれた冒険者さんが来てたので案内してきたんですよ。やつの詳細情報はここで話す形で依頼を出してましたし」
「あぁなるほど……あなたが依頼を受けてくれた冒険者か?」
そう聞かれ、団長と呼ばれた女性は私を見据える。
「あ、はい。依頼を受けたBランクのカヤです」
「私はリベルタ騎士団の団長を務めているステラだ。立ちっぱなしは疲れるだろう、応接間に案内する。ミカド、お茶か何かを持ってきてくれ」
「了解です」
ステラさんが指示を出すと、ミカドと呼ばれた青年は足早に奥の方に行ってしまった。
私はステラさんの後に続いて横にある応接間に入る。机を挟んでソファが置いてあり、片方にステラさんが座り、反対の方に私が座る。
「さて……まず一応の確認だが、この依頼の内容はターゲットの【捕縛】だ。なるだけ殺さないで欲しい。気絶や腕、脚の一本くらいなら構わないが……やつが死んだ場合、被害者の方々の思いを晴らせないからな」
「……わかりました、肝に銘じておきます」
少し気を引き締めたが、対照的にステラさんは少し気を緩めるようにこちらに話しかける。
「そこまで重くは考えなくていい。仮に君の命が危険になるなら容赦なくやつを殺しても構わない。捕縛を優先しては欲しいが、それで君がやつの被害者になってしまっては本末転倒。あくまで《優先》して欲しいという話だからな」
「……そこまで弱く見えますか?」
私は、ステラさんに聞いてみた。
「……正直、心配ではある。Bランクの肩書きがあるとは言え、私には君が子供に見える。」
……私の身長は、160cmに届くか届かないか、というギリギリのところだ。冒険者として活動する中では当然背丈は小さい部類で、つまるところ子供に見られることが多い。Bランクの肩書きがなければ、今頃騎士団によって宿かそこらに送り返されていただろう。
「…………こう見えてもそこそこ冒険者の活動歴があるので、そう心配されるほど私は弱くないですよ。」
「……失言だった、謝罪させてくれ」
「仮にも王国の騎士団の団長さんがそう軽く頭を下げないでください、周りから軽く見られますよ」
ステラさんは私が少し不機嫌になったのを感じ取ったのか謝罪してくれたが、大国の騎士団の長が子供に頭を下げているのは周囲の人からナメられてしまうのでは?こうも早く頭を下げられると少し心配になる。
「いや、Bランクであり正式に依頼を受けに来た君に対して失礼な言葉だった。謝罪はどうか受け取って欲しい」
「……わかりました、その謝罪受け取ります。」
「感謝する」
なんというか、自分の体裁より正義を重んじる人なのかな。まだ会って数分もしないが、私の中でのステラさんへの好感度は少し上がった。
「団長、言われた通りお茶と適当なお菓子持ってきましたよ」
タイミングよく先ほどのミカドさんが部屋に入ってくる。お茶とお菓子がトレーに乗っている。
「あぁ、ありがとう。ミカドはこの後見回りか?」
「いえ、今日は元々非番ですからこの後は特にですかね。依頼のお話が終わったらカヤさんを城門前に送ろうかと」
「あ、ありがとうございます」
正直、一度通っただけでは覚えられなかったから城門までをどうするか少し心配していたからこれはありがたい。
「いえいえ、今日は用事もないので構いませんよ。じゃあお話が終わったら帰り際に呼んでください。本でも呼んで待ってますから」
そう言って部屋を出るミカドさんに軽く頭を下げた後、ステラさんに向き直る。
「さて、依頼の捕縛対象についてだな。やつの名前はドミニク、このリベルタの近辺にてたびたび違法奴隷を売買している事で噂になっている闇奴隷商人だ。」
私は話を聞きつつ、カバンからメモを取り出して軽く書き綴る。ステラさんもそれを見て、次の話出すタイミングを少し合わせてくれた。
「続けるぞ。やつの手口は大体の闇奴隷商人が行うような誘拐ではない。ゴブリンやオークの集落に踏み入っては、そこで捕まっている子供や若い女性などを連れ帰り奴隷として売りに出す外道だ。それゆえに街中で被害が出る普通の闇商人と違って足取りを追うのが難しい」
「……そのドミニクはどうやってゴブリンやオークの集落に?元冒険者な訳でもないなら普通返り討ちに遭うと思うんですが……」
私は疑問に思い聞いてみる。ただの商人なら、護身術を習っていたとしてもオークやゴブリンの棲家に踏み入って、ましてや捕まった人を誘拐までして返り討ちに遭わないわけがない。
「それについてなんだが……あくまで私やドミニクを追う者と話し合って出た結論として、奴が持っている魔道具の影響だと思う」
「魔道具?」
「やつの行動を追うと不可解な点が幾つかあるんだ。仮に目視でドミニクを見つけても、曲がり角を一つ過ぎればやつの姿は消えている。他にも目撃例自体はあるが毎度毎度、煙に巻かれたかの如く捕まらない。ドミニクはおそらく全身に気配遮断かそれに近しい能力を持った魔道具をつけている可能性が高いと踏んでいる」
「け、気配遮断か……」
厄介だな……気配遮断は文字通り、発動していれば一度でも見失ったが最後完全に姿が見えなくなる能力だ。主にアサシンやシーフなどの冒険者、他にも諜報員なんかが使うことが多い。そんな魔道具があるなら確かにゴブリンやオークに察知されずに棲家に踏み入る事もできるだろう。
「気配遮断の魔道具があるとなると、私たちの中でも腕のある隊員を割かなければドミニクを捉えられない。しかし最近魔物が少し活発になって来ていてそこに割く人員が足りないのが現状だ。……他に何か聞きたいことはあるか?」
「……そう、ですね……」
気配遮断持ち、となれば行動範囲が絞られない場合1ヶ月や2ヶ月探しても見つからない自信がある。……が、どうやら今回はそんな事もなさそうだ。
「ドミニクの根城もわからないんですよね?」
「そうだな……そもそも追跡が出来ていないから根城の確認もできていない」
「となれば……ステラさん、過去のドミニクの取引現場を地図か何かにマーキングして欲しいです」
「ふむ、わかった」
そういうとステラさんは立ち上がって部屋を出て、少し分厚い本を片手に戻って来た。
「王都の地図でいいか?」
「その方が都合がいいのでお願いします」
私の返事を聞いた後、本を捲りながらスラスラと地図にマーキングをしていく。
「7日前……ゴージュ通りの裏路地、そして直近の2日前のアケイノス広場近辺……出来たぞ」
そう言ってステラさんは地図を差し出す。
(……なんか……裏路地とかは多いけど……)
「随分と外壁よりのところがほとんどですね」
裏路地や人目につかないところなのは大前提として、妙に壁際が多いのが気に掛かった。リベルタは街の外側を外壁で覆っており、出入り口に当たる検問所が3箇所だけで、それ以外の場所は城壁となっている。
「あぁ、その近くの外壁に抜け穴なんかがないかも調べたんだが見つからなくてな……見回りの兵にもそれとなく聞いたりしているが怪しい点は見えなかった」
ステラさんも怪しんではいるようだが、マーキング近くの城壁を確認しても何もないため不審に思うくらいしか出来ないらしい。
「……なるほど、少し頑張ってみます」
「どうか頼んだ。それと、何かあればいつでも頼ってくれ。人員を多く割いたりは難しいが、騎士団の備品から張り込み用の道具の余りなどは出せるからな」
「ありがとうございます、ステラさん」
当てが全くないわけではない。少し、行ける気はする。
二人で部屋を出て、本を読んでいたミカドさんに声をかける。
「依頼の話は終わった感じかな?」
「はい、やれるだけやってみようと思います」
「僕からもお願いするよ。じゃあ、城門前まで行こうか。ついて来て」
「私も行こう、もう少ししたら魔法局の奴と話し合いがあるからな」
「なら3人で行きますか。カヤさん忘れ物とかない?」
「あ、はい大丈夫です」
念のためカバンに手を入れるが、メモや貰ったマーキングされた地図もカバンに入っている。
「よし、それじゃあ行こうか」
ーー
「ありがとうございました、ミカドさん、ステラさん」
「礼を言うのは私の方だ。ドミニクの依頼は受けてくれる者が居なくて、正直諦めかけていた。成功を祈っているよ」
「それに、これから討伐依頼にも行くんだろう?気をつけてね」
二人に礼を言って別れを告げ、私は城を後にした。
ーー
ミカドとステラはカヤを見送った後、駐屯所に戻って話し合っていた。
「……団長、あの子のことが心配ですか?」
「……心配じゃない……と言えば嘘になるな。妹に背も近いような女の子が依頼に名乗りをあげるとは思わなかった」
あの場では確かに謝罪したが、実際に腕を見ていない自分からはどうしても不安の気持ちが露呈する。
「ですよねぇ……まぁ、心配するほどじゃなさそうですが」
「あぁ、私も同じ考えだが……"あの子は人間ではない"」
この考えにほぼ間違いはないだろう。身体的特徴がないから獣人種ではなさそうだが……
「仮にあの子が悪魔やその類ならどうしますか?」
そうミカドが私に問いかける。
「……この国に害ある存在ならば、私の手で切り伏せるだけだ。それに、害のない者なら一般の国民や冒険者となんら変わらないからな」
悪魔やサキュバスが冒険者をやっている例もそこそこある。現にBランクであり、ギルドから正規の手順で依頼を受けたと言うことは、それに見合う実力と実績があると言うこと。
「これは私の勘だが、何も心配はいらないと思うぞ。ミカド」
「なんで僕なんですか?」
「さぁな。私も最悪のケースは想定したくないが、万が一の場合はお前に騎士団の舵取りを委ねる事もある。私の仕事は国民を信じて責務を果たす事、疑うのはお前の仕事だ」
「はいはい、分かってますよ。はぁ……副団長の肩書きは重いですね……」
時刻は昼手前。時計の音が駐屯所に静かに響く中、少しずつ、何かが変わる音が聞こえる。ステラはそんな予感を感じていた。
冒険者ランクはE~Sまであり、Cランクが登竜門とされています。また、パーティーでBランクと個人でBランクでは判別の方法が違い、パーティーランクの場合メンバー全員の平均ランクがパーティーのランクになります。
キャラ紹介
ミカド 性別・男 年齢・22
カヤには最後まで明かさなかったが、リベルタ騎士団の副団長を務めている。優秀な剣士の家の出であり、祖父の代からの剣術を受け継ぎ、剣士としての才能を開花させ若くして騎士団副団長になった。ちなみに非番だったのは本当で、たまたま駐屯所に忘れ物をしたため取りに行こうとしたところでカヤに見つかった。
ステラ 性別・女 年齢・24
リベルタ騎士団の団長を務めている。正義感が強く、ドミニクの件も魔物の活発化がなければ自分で手を下そうと考えていた。14歳の妹がおり、自宅に帰れた時は思いっきり可愛がっている。背が大きいことを少しだけ気にしている。




