ポチとあおいあおい空
水をかける。ポチが大好きだった、母さん特製のコンブの佃煮を、置く。亡くなったポチの墓標の前で、手を合わせる。父さんも手を合わせる。「じゃ、行こうか」 父さんが切り出す。ぼくは下駄をパタパタと鳴らして歩く。生憎、母さんは仕事で急用が入り、今日は来れなかったらしい。
「和樹。犬の寿命って、知ってるか?意外と長生きな、10年くらい生きるのもいるんだってよ。」
父さんはくどくどと要らない蘊蓄をひけらかす。
というか、今不謹慎でしょ。少しぼくは眉をひそめた。
ふいに父さんが少し遠くを見た。遥か向こうに広がる水平線が綺麗だった。ポチもあそこまで飛んで行けたのかな。
「あの人、美人だなぁ。」
父さんはそんなたわごとを言ってるだけで、ポチのことなんてどうでもいいみたいだ。
はぁ。昔から、父さんは自分中心でこんなもんだ。どうせ、大人なんてきっとそんなもんなんだ。ぼーっと俯き、アスファルトに書かれた青い線を見つめる。
ポチは、生まれた時から病弱で、生まれてからたった3年でこの世からぼくを置き去りにした。胸が少し苦しい。
「そういえば。和樹。ポチの小屋を掃除してたらな、こんなのがあったんだ。」
「えっ?」
スッと父さんが掌からなにかを差し出す。
「なくしたと思ってたけど、ポチが見つけてきてくれてたみたいだぞ。」
それは、昔ポチと遊んだ時になくした筈の、小さく固いテニスボールだった。ぼくは驚いてそれをまじまじとみた。けれども、次第に、目がぼやけて来た。
「ポチも和樹ともっと遊びたかったのかなぁ」
ぼくだって、、ぼくだってもっと遊びたかった。
父が握るそのボールは、歯の跡でガタガタになっていた。
読んでくれてありがとうございます。感謝を込めてこの言葉を皆様に贈りたいなと思います。「もにゅ」