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 やはりこの店はなんだか変だ。

 どうしてスズがそう思ったのか。それは……祝言の日、つまりは今日、真っ白な打ち掛けに身を包んだスズの隣に座したのは、初めて会う旦那様ではなく、真っ黒な猫だったからだ。

 スズ(と猫)の前には、大勢の客がいる。

 普通の祝言の席なら分家や別家の者たちが並ぶところだが、この場にいるのは皆、『百鬼屋』の客……つまり、あの日見た人ならざる者たちだ。いや、人ならざる方々か。

 百鬼屋の主一族である相間家は、これだけの大店であるにもかかわらず分家や別家が存在しないらしい。その分まで、客との繋がりを一等大事にする。それ故に、こういった祝いの場には、これまで取引のあった客全員を招く決まりとなっていた。

 初日に見た大きな牛の御仁や、猫の娘さんもいる。他にも、動物ではない姿の者も居並んでいた。

 皆、愉快そうに酒を酌み交わしている。ただ一人、スズだけが所在なくぽつんと座っているしかなかった。

 そんな姿を、誰も気に留めないわけがない。

「なんやなんや、百鬼屋さんの坊はこんな時もお籠もりかいな」

「いやいや、今日くらいは出てくるやろ。こんな別嬪の嫁はんを、いつまでも一人で座らせとくわけがあれへん」

「そうやそうや。それじゃあ男が立たんやろ」

 客たちはそう言うのだが、いつまで経っても”お隣さん”は来ない。猫はがあくびをするばかりだ。

 今日っていったい何の日だったっけ……スズがそんなことを思った、その時だった。廊下から、涼やかな足音が聞こえてきたのは。

 その足音の主――すらりと背の高い男性は、一陣の風のように皆の前に現れた。

 紺地の着物に、黒の羽織を着た出で立ちはどこか暗く重い印象だが、彼が歩く度、シャッと心地良い音が鳴って、それが静かで優美だった。

(綺麗な人……)

 感嘆に近いため息を漏らすと共に、スズはそう思った。

 同時に、彼がいったい何者なのか、察しが付いた。

 その顔には、鬼の面を被っている。『百鬼屋』という店で鬼の面を被ることが許されているのは、たった一人――この店の主だけ。

(ということは……このお人が、私の旦那様!?)

 スズは慌てて頭を下げようとしたが、それより前に寿子の方が男性に近寄っていった。

「清一郎……あんた今の今まで何してたんや!」

『清一郎』……確かこの店の主で、寿子の息子も『清一郎』といった。やはりこの男性は、この人こそが、ずっと姿を現さなかった『百鬼屋』の主、そしてスズの夫となる人だ。

「か、堪忍……ちょっと人に同行して遠方に行ってまして……」

「遠方てどこやの。誰にも何も言わんとよくもまぁ……!」

「ああ、説明はまたするさかい、今は堪忍や。それよりも……」

 清一郎は寿子の勢いに多少圧倒されながらも、宴席に集まった面々に向けて告げた。

「ご一同……せっかく集まってもろたのに申し訳ないけんど、この話は、なかったことにしてくれへんか」

「……え?」

 小さな声だったが、その場の全員が発することによって、囁きはどよめきへと変わっていった。


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