9.本物の魔法
2024.04.14 トリス→トライに名前を変更(途中から名前が混在してしまってました)
「やあ、シス。あの子の修行は順調ですか?」
「ああ、何にも問題ない。あの子たちは化け物さ」
「あの子たちですか?」
「ダース様が、ユリウスを守らせると言ってね。ルーにも修行を始めさせたのさ」
「 ルー? あぁ、あの子ですか。彼はまだ小さかったような気がしましたが?」
「たぶん、3つくらいだろうね。まあ、年齢が関係ないのはお前も知っているだろう?」
「それはそうですが」
「ところで準備のほうは順調なんだろうね?」
「あぁ、そうでした。その話をしにきたのでした」
領長が死にましたよ。とディスが呟く。
「!!!? 誰が殺ったんだい?」
「いえいえ、自害したのですよ。街が破壊され、人々が殺される重圧に耐えられなかったのでしょう」
シスが睨むように見る。
「そんなはずはないだろうよ。あいつはそんな真面目な奴じゃない。大方、取り巻きの奴らが殺ったんだろう?」
「さあ、それは分かりません」
飄々とディスが答える。
「で?肝心の魔法陣の発動人員と魔石の支払金の準備はできているんだろうね?」
「人の問題はたぶん大丈夫なのですが、魔石の支払いが問題でね。領長が死んだことで、最終判断をするものがいないのですよ。あれだけの大きさの魔石の購入となれば、莫大なお金が必要ですからね」
「そりゃそうだろうね」
シスは深くため息をつく。支払いが出来ない状態では、魔石を使うことをダースが許さないだろう。
「それで、どうするつもりだい?」
「そうですね。契約を交わして後払いにするか、この街を見捨てるかですね」
平然とディスが言う。
「あんたならそう言うと思ったよ」
「ただ、このまま何も起きなければいいですがね」
「どういう意味だい?」
「いやあ、領長の死を絶好の機会だと思ってる輩がいるでしょうからね」
「その座を奪うだけでは飽き足らないというのかい」
「少し不振な動きをしている者がいましたのでね……ほら、言ってるそばから問題が起きたようです」
シスは頭を抱えた。デルメインの南のほうから、とてつもない数の動物や魔生物がこちらに向かってくるのを感じる。森にいる生き物たちを暴走させたのだろう。
「まったく。馬鹿な奴らの考えることは理解できないよ」
「同感です。ただ、もしかしたらこれで支払いの件が解決するかも知れません」
ディスが説明するには、この数の野生生物がデルメインを襲ったとなれば王都も危険に晒される。そうなれば、魔石の支払いを王都にもちかけられるということだ。
「なるほどねえ」
「では、わたしはこれで。さすがに、この数を街の者がさばくには荷が重いでしょうから、少し手を貸してきましょう。他の準備は任せますよシス」
「ああ、そのくらいはやるさ。 おや、2人とも起きたのかい。まだ夜明けまでだいぶあるよ」
「ほお。少しはマシになったようですね。そうですね…このルーという子供も魔法陣の要員にいれても良いのでしょうか? いま戦っている魔法士も数にいれていたのですが、明後日までに何人いなくなってることか…」
「ダース様に明日聞いておくよ。明後日の朝、一度ここへ来な。それまでにこちらも準備も終わらせておく」
ディスはニヤリと不気味な笑みを浮かべて部屋を出て行った。
やはり何かあったのだろう。
「師匠、何があったんです? 何だか上の方が騒がしいというか、マナが変な感じだ」
そういえば、シスのことは師匠と呼ぶことにした。修行はかなり過酷だが、教えてくれている事には感謝しているのだ。
「そうだろうね。森の生き物たちが暴走している。そのせいで、マナが乱れているんだろうよ」
「暴走? それは闇霧が消えたからか?」
「いやあ、違うね。そんなことでは暴走したりしない。誰かが故意に暴走させたのだろう…デルメインを混乱させたいってとこだろうよ」
混乱…? ここら辺は、争いもなく平和な地域だったはず。帝国とも距離もあり、デルメインの南は森に囲まれているため攻められる心配も少ない。…いや、だからこそか。
「闇霧がなくなったことで、千載一遇のチャンスが舞い込んだというわけか…」
「察しがいいねぇ。人というのは欲深い、そして執念深い。虎視眈々と機会を伺っていたってわけさ」
何百年もの間ね…とシスが呟く。
「ここはプレッツェ王国の防御の要だったからね。そこに異変とあれば、少しでも力を削いでおこうなどとバカなことを考える奴がいてもおかしくは無い」
「だけど、実際ヤバイんじゃないの? 森の動物たちが暴走なんて…エーナ村じゃ竜鳥が一匹入ってきても大変な騒ぎだったけど…」
「ここらの森は、神樹の森ほど凶暴な奴らはいないさ。ただこの数となると、本来なら半日も持たないね」
まあ、ディスが助けに行ったし、明後日には防御結界を張るから問題ないさ。とシスは気にしていない様子。
「大丈夫だと分かっても、寝れそうにないな」
ルーも同じようで、完全に目が冷めてしまったようだ。
「ちょうどいい、明日私はやることが出来てしまったからね。今から魔法陣について教えてしまおうか」
というわけで、いきなり魔法陣講義が始まった。
「まず、魔法とは何かという話からしよう…」
昨日(というか、数時間前)に教えてもらったのは、魔力の使い方であって、厳密には魔法ではないらしい。魔法というのは、魔法陣を生成し力を発動させるもの。これは、マナをどうこうするのではなく、神の力を行使してるのだとか…。
「じゃあ、今は混同してどちらも魔法と呼んでいるということ?」
「そうだね。生活魔法の浄化なんかはそうだろう? 発動する時に魔法陣が描かれるが、水のマナも風のマナも関係なく誰でも使える」
「無属性魔法か」
「ああ、そうだったね。今の人間はそう呼んでいる。無属性魔法は大体、マナの扱いは関係なく使える魔法だ。」
「その、“本来の魔法”を使うには何が必要なんだ? 」
「魔法陣を覚えることと、神を敬うことだね」
魔法陣は神々が編み出した文字で構成されていて、どのような文字を描けばどの効果が得られるのかをしっかり把握することが大事なんだそうだ。
あとは、神に認められないと魔法は使えないらしい。これに関してははっきり言って自信がない。散々、神に文句を言ってきた記憶がある。
「じゃあ、防御結界の魔法陣を今から覚えなくちゃいけないってこと?」
「今回はその必要はない。魔石を各地に配置し、私が魔法陣を描いておく。必要なのは魔力量。いかにマナに愛されているかが重要になる。マナに愛されているということは、神々にも愛されているという証だからね」
なるほど…色々と魔法も複雑らしい。今のところ俺もマナに愛されているらしいから、神の怒りはかっていないようで安心した。
「ただし、今回の防御結界は4地点の魔石から魔力を流す。なるべく同等の量を同じ速さで流す必要があるのさ。量が一緒でも一気に流し込んで終わらせてもダメ。ゆっくり過ぎたり、量が少なくてもダメだね」
「それはどうやって揃えるわけ? かなり距離は離れているんでしょ? 」
「感だね」
え…。適当ってことですか? 師匠って意外といい加減な人なのかもしれない。
「それじゃ寝れなくても、寝ておくんだね。明日…というかもう今日だが、いつも通りのメニューをこなしておくように。私は魔石やら魔法陣やらの準備をしてくるからねぇ」
俺とルーはとりあえずベットに潜り、朝になるまで目を瞑った。シスはあのあとすぐにどこかへ出かけたようだ。
魔法か…。マナの属性に左右される魔力行使による魔法と魔法陣を描き神の力を行使する魔法。どちらも早くもっと試してみたい。
その為にはまず、この地が平和にならないとだな。




