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6.闇の魔源

突然誰かに抱きつかれ、柔らかな感触に包まれる。


『会いたかったわ』


「ちょっっと!?」


無理やり引き離すとそこには、擦り切れた黒いドレスに身を包む女性が驚いたように立ち尽くしていた。

透き通るような白い肌、薄い唇、グレーの瞳はまるで、


「悪魔…」


『えっ、え!? いまワタクシのことを悪魔と言ったの? まさかね、そんなことはないわよね? まさかこのワタクシを、あんな従うことしかできない無能と一緒に…』


あれ? 失言だったっぽい。いや見た目なんか悪魔っぽいし、黒いオーラ出てるし、思ったままを口にしてしまった。冷静に考えれば、魔源に認められるための試練を受けていたわけだから、魔源様ってとこか?


「あー…えっと、魔源様でしょうか? このような場所にいらっしゃるとは思わず…」


『あっ、えぇそうよね、こんな薄暗い洞窟の中だものね。あの無能たちの棲家も確かに暗がりだもの。まあ、いいでしょう…そうワタクシが魔源よ。だけれど、その呼び方は好かないわ。ワタクシはダース、闇の魔源のダースよ。』


魔源ってマナだろ?だれが人型だと思うかよ。まあ、許してもらえたようでよかった。


「失礼いたしました、ダース様。お会いできて光栄です」


とりあえず取り繕っておく。


『えぇ、えぇ。そうでしょう? お茶を淹れて待っていたの。すぐに準備させるわ。あっ、それからそんな畏まらなくていいわ。ユリウスは特別だもの』


俺の名前はご存知のようだ。


よく見れば部屋の中はかなり豪華な調度品が並んでいる。扉を入ってすぐの部屋は広間になっており正面には不思議な模様が描かれた、黒いクリスタルが立っている。外にあったものよりも小ぶりだが、5メートルはあるだろう。


「あぁ、これ闇のシンボルか…」


よく見ればクリスタルに描かれている模様は闇属性のシンボルであった。属性は特殊属性も含めて6つあるがそれぞれにシンボルマークがある。どれも勾玉を並べたようなシンボルになっていて、防具や武器に刻んであったりするのだ。


『あら、そうよ。ワタクシは闇の魔源だもの』


「このクリスタルは何なんですか? 外にもありましたけど…」


『それはクリスタルじゃなくて魔石ね。その話はお茶を飲みながら話しましょう。それとさっきも言ったけど、敬語で話さなくていいわ。つまらないじゃないの』


魔石なのかこれ。確かによく見れば魔石にも見えなくはない。巨大すぎて気づかなかった。魔石は通常、魔生物を倒すと手に入る。魔力を溜めておけるので日常的にもよく使う道具の一つなのだが、大きいものでも10センチくらいのものしか見たことがない。


ダースに案内されるまま、広間を横切り左手に通路を抜ける。その奥が客間になっているようだ。勧められるまま、ソファーに座りお茶が用意されるのを待つ。


「!?」


執事らしき男性がお茶を用意してくれた。それはいいのだが、身体が透き通っている!?なんでカップ持てるの? とかどうでもいい疑問が湧いてくるが、これも魔源様のお力ゆえか…。


『あぁ、彼? 彼はまだ未熟で自分の身体が作りきれてないのよ。まだ話せるようになっただけマシね』


俺の驚く顔に気づいてか、説明してくれた。


「身体が作りきれてない? 彼は人ではないってこと?」


『人ではないわね。ユーリ、そんなこと言ったらワタクシも人ではないわよ? 彼は精霊。精霊は分かるかしらね?』


なるほど、精霊か。ここは、闇のマナがどこよりも濃いだろうから精霊が生まれるのも納得だ。


精霊は、マナが滞留した場所に生まれる。だからといって、知能を持ち人型になるほどに大きくなるには、それこそ何千年もの間、マナを吸収し続けなければ生まれることはない。


「分かるけど、人の姿をした精霊をみるのは初めてだね」


『それはそうね、人が住んでいるような場所じゃこのクラスの精霊は生まれないもの』


そう、普通は30センチ程にまで成長したマナの光を精霊と呼ぶ。もちろん知能はなく、人型でもなければ話すこともない。


まあ、こいつらが何だろうとどうでもいいか。この世界は俺の前世の普通とはかけ離れた世界なのだから。


「それはそうと、合格したならさっさと帰りたいんだけど」


『え…。』


「いや、連れを預けてるし。」


ルーをあまり一人にさせないほうがいいだろうし、何より早く魔法を習いに行きたい。


『でもほら、まだ魔石の話とかしてないでしょう?』


「あぁ、そうだけど。また今度でも良いよ別に」


正直そんなに興味はない。魔源(ダース)がいるわけだし、何かそれに関連する重要なものなのだろうと予測がつく。


『嫌よ!!!ああもうっ!やっぱりこんなところにはもういられないわ!決めたわ!ワタクシはユリウスに宿りますっ!!!』


えっ、はい???駄々っ子ですか?しかもいま何と?話がぶっ飛びすぎて追いつかない。


『ダース様それはさすがに…』


執事が止めようとしている。

あぁもっと言ってやってくれ。何を馬鹿げたことを言い始めるんだこの魔源(バカ)は。


『ワタクシに口答えをするつもり?』


『いいえ、とんでもございません。失礼いたしました』


早々に引き下ががってしまった。使えない奴め。


『ふん。分かればいいのよ。だいたいこんなとこに居なきゃいけないなんて決まりはないのよ。今までそう出来なかっただけで』


「えっとー…ダースさん?」


『ダースでいいわ』


ギロリと睨まれた。


「あ、はい。ダース。あのー、あなたがここを離れるのは良くないのでは?」


『理由を伺っても?』


理由だと!?そんなの知るかよ。


「いや、あなたは魔源だしね。魔源様としてこの地で祀られてるでしょう? 俺に宿るってのは問題じゃないかな」


そうそう、それは問題だよね。デルメインの信仰の対象である魔源が俺に宿るなんていうのは。


『そんなの勝手に人間が始めたことだもの。仮にもワタクシを敬っているのなら、ワタクシの望むことを妨げるようなことが許されて?』


まあ、それはそうか。って納得している場合じゃない!


「あー、じゃあ聞くけどそれは何か俺に負担がかかるんじゃないの? ダースも精霊みたいなものでしょ? 精霊付きは精霊に魔力を与えなきゃいけないとか聞いたことあるけど」


精霊付きとは、精霊をその身に宿している者のことだ。本でしか呼んだことはないが、数千年前は当たり前のようにいたらしい。本来精霊は、大地や草木なんかに宿ることでその身を維持しているのだが、知能を持つまでに成長した精霊は、気に入った者に宿ることがあったのだという。


『それなら問題ないわ。ワタクシは魔源だもの。自身を維持するエネルギーくらい自分でまかなえるわ』


「えっとー、じゃあ俺にまったく不都合なことはないのか?」


『そうねぇ。ユリウスの身体を器として使わせてもらうくらいかしら? でもそれは何の害もないはずよ。たぶん』


たぶんかよ!


「器ね…」


『あ、えっと、じゃあこうしましょう!器として身体を借りる代わりに、ユーリの望みを1つ叶えてあげるわ』


「望みか。何でもいいのか?」


『大抵のことなら何とかなると思うわ』


んー特別望みなんてないんだよな。ルーが話せるように。とかも何か違う気がするし。


「金…かな」


『お金? そんなものでいいの? それなら簡単ねっ!じゃあ、さっそく…お邪魔しますわ!』


「えっっちょっと待っ!?」


一瞬、身体の中で暴れるような力を感じる。


「おいっ!!! 害はないって言わなかったか!?」


明らかに害だろこんなん。


『ちょっと予想外だったわね。でも、ユーリがうまく抑え込めたようだし大丈夫そうね』


ちょっと罰が悪そうな顔をしている。そういえば、ダースの感情は見えないな。実体がないからかな。

ってそれどころじゃない。


「俺が抑え込んだ? それは大丈夫とは言わないだろ。んで、何やってるの?」


今のダースの姿は50cmくらいの人形サイズになっている。


『何って宿ったんじゃない。精霊付きってこんな感じになっているでしょう?』


いやいやいや、そんなの知らないし。何でちっこい悪魔もどきを肩に乗っけなきゃいけないのさ。


「精霊付きなんて見たことないし、大体、こんな姿で外に出たら騒ぎになるでしょ。俺みたいなのが精霊付きだなんて知れたらそれこそ問題だし」


『あら、精霊が見えるのはマナに愛されている者だけだから大丈夫よ。もちろんワタクシのことを見れる人なんて、そうそういないでしょうね。それからユリウス、あなたは特別なのだから俺みたいなのとか言わないで欲しいわ』


はあ、これはもう諦めるしかないだろう。早く戻りたし、見えないというならとりあえず問題はない。とりあえず俺は精霊付きならぬ、魔源付きになりましたってことで。


「あっ、それで金は?」


もらえるものはもらっておきたい。


『それなら広間にある魔石を売ればいいわ。あれだけあれば、当面はお金に困らないのではなくて?』


確かにあれだけの魔石があれば、下手すれば一生暮らせるくらいの金が手に入るが、


「あれはなんかこう重要なものなんじゃないの?」


大きな魔石は、大抵、魔法陣などの維持に使用していたりする。


『えぇでも、もう必要ないわね。ワタクシが宿っていた魔石だもの』


え、なんかやっぱりまずいかも…


魔法神はエネルギーをマナに変質させて鎮めたんだったよな。魔石に宿っていたというか、それってなんか封印されてたとかじゃない? いやでもそうだとしたら、勝手に封印が解けるはずはないから精霊が生まれる原理でダースはここで生まれたってこと…か?


『バトラ、魔石を用意しなさい。全部は無理でしょうから、残りはここで保管しておきなさいね』


闇の精霊である執事はバトラというらしい。一礼して部屋から出ていく。


まあ、考えても今更仕方がないだろう。変なのに取り憑かれてはしまったが、身体も今は問題なさそうだ。それよりも大金が手に入ればエーナ村のみんなにも仕送りができる。ここは前向きに考えておこう。


『あら、なんだか嬉しそうね』


「ああ、俺を育ててくれた孤児院に仕送りができると思ってさ。じゃあ、バトラに魔石をもらって、さっさとルーのところに戻ろう」


こうして俺は、肩に黒い魔源のお姫様を乗せて、来た道を引き返したのだった。

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