4.属性
「こりゃ、ひでー」
「闇霧が出たのか」
「あらー、みんな死んじゃってるわね。…って、あら!?。」
日が昇ってしばらく経った頃。3人組の男女が近づいてきた。荷台の隙間から様子を伺っていたが、どうやら盗賊を討伐しにきた冒険者らしい。
1人は背中に剣を背負った黒髪の男剣士、もう1人は、巨人…と言いたくなるような大きさの白戦士の男、そして最後の1人は魔法士であるだろう女だ。
隠れていてもどうせ見つかってしまうので、警戒しつつ、荷台から出てみる。
「おー?よく生き延びたなお前。荷台に隠れてたのか?」
「いえ、いつの間にか盗賊たちがそんな状態になって。助かりました」
男剣士が話しかけてきた。
「運が良かったわね! 闇霧は悪人だけを襲うっていうから、あなたは悪人ではなかったということね」
女魔法士が、俺の方を観察するように見てくる。
「にしてもだ、よく1人で生き延びた」
男剣士は、俺の頭をくしゃくしゃと撫でできた。
途端に、俺の頬に涙が伝う。張り詰めていた緊張が一気にほぐれていくのが分かる。
前の人生30歳まで生きてたからって、さすがに異世界の洗礼を一気に浴びたようなこんな状況じゃ、精神的にくるのは当たり前だ。
すると、彼は俺を抱きしめてくれた。
「大丈夫か?」
「ええ…大丈夫です。」
「名前は?」
「ユリウスと言います。」
「ユリウスか。俺は、ヴィズだ。見ての通り冒険者な! あっちにいるでっかいのが、ガードンで、あっちの女が、マルーサ。3人パーティだ。盗賊退治の途中だったんだが…。お前はどこまで行くつもりだったんだ?」
「デルメイン市まで。」
「お!じゃあ、ちょうどいい。俺たちもデルメインに戻るところだ。一緒に連れてってやる」
「もー、またすぐそうやって。ヴィズはお人良しなんだから。」
「あー? じゃあこのまま、ちっこいのを置いてくってのか?」
「置いて行っても、私たちが報告するんだから兵士か冒険者が派遣されるでしょうよ」
「いつものことだマルーサ。ヴィズに言っても無駄だ。」
「ガードンもすぐそうやって甘やかすのが行けないのよー」
「んじゃ、決まりだなっ。すまないがユリウス少し待っててくれ」
「あっすみません、」
「ん? 何だ?」
「もう1人いるのですが。」
「ん?」
俺は荷台に戻り、男の子の手を引き、連れてくる。
「…」
3人の顔には、〈心配〉〈悲しみ〉〈怒り〉がそれぞれに見えた。
そして、見るからに正気を失った小さな男の子に、言葉を失っていた。
「おい、ちっこいの、大丈夫か?」
「…」
俺も名前なんかを聞こうと、何度か話しかけてみたが、反応はなかった。そもそも、俺にも何も見えないのだ。おそらく、完全に心を閉ざしてしまった。きっとそれが、この子にできた唯一の防衛手段だったのだ。
「この子話せないみたいです。元々話せないのか、今回の件でこうなってしまったのかは分かりませんが。」
「そうか…」
「この子も連れて行ってもらえますか? 母親と乗ってました…家族が待っているかもしれません」
「あぁ、もちろんだ。」
冒険者の3人は、死んでしまった盗賊たちを地面に埋めていった。殺された乗客たちは綺麗に並べ、後で身元が確認できるようにしている。マルーサは、風魔法が使えるらしく器用に風を操り、亡くなった人たちを運んでいった。
「そろそろ行くー?」
マルーサが2人に声をかける。
「あぁそうだな。こんなもんでいいか。んじゃマルーサ、よろしくなっ。ガードン、その2人を運べるか?」
「任せておけ」
すると、ガードンは俺を背に乗せ、男の子を片腕に抱いた。
「はいはい、じゃあ行くよー」
マルーサの言葉と共に、俺たちは空を飛んでいた。
「すごい…」
「だろー?ユリウス、こいつの風魔法は、結構スゲーのさ」
「ちょっとヴィズ。結構って何よ。すごいって言いなさいよ、落とすわよ」
「褒めてんじゃねーかよ。ユリウス、馬車なんか乗るより快適だろ?」
「はい、それはもう。」
風魔法で人を飛ばすのを初めてみた。村でも風属性を使う人はいたが、荷物を運んだり、洗濯を乾かしたりするのに使うのが一般的だった。
「よーしじゃあ、慣れてきたみたいだし、少しスピード上げるわよー」
少しずつスピードは上がっていき、最終的には時速100kmに達するかというスピードで飛んでいた。
「すごい速さ…」
「風大丈夫か? 俺の後ろだからそんなに来ないと思うが。吹き飛ばされるな」
「ガードンさん大丈夫ですよ。こんな風魔法の使い方初めて見ましたよ。」
「マルーサは特別だ。魔力量も多い上に、繊細な風操作が出来る。本当は冒険者なんかやっているような女じゃない。」
「そうなんですか」
そうして2時間ほど飛び続け、あっという間にデルメイン市に着いた。
デルメイン市、それは闇に覆われた闇穴と呼ばれる大穴に作られた街。別名、死の街とも呼ばれている。
螺旋状に街が形成され、現在は126階層以降が採掘場になっているらしい。採掘に合わせて街が下へ下へ作られていくそうだ。
「今回の件、すぐに衛兵に言ってきちまうから、その辺で待っててくれ」
「んーじゃあ、どうしよっか。あんたはどこに行く予定なの?」
「教会です。」
ガードンに降ろしてもらい、お礼を言いながら答える。
「教会ね。何しに行くの?」
「属性を調べてもらいに行くんです。7歳になるので…」
「あっ! あんたももしかして儀式をすっぽかしたの?」
「あんたも?」
「いやぁ、あたしもね、今は無事にこうして魔法士として冒険者やってるけど、7歳の契約の儀をすっぽかしたのよ。魔法を授けてもらったのは、えっとね、8歳か9歳になってからかな? それまで全然魔法に興味なくって…教会なんかに行かなかったのよね。まさか、同じような子がいるとはね。世の中わからないわー」
「ははは、そうですね。」
ちょっと違うが、まだ何属性になるかも分からないし、下手に言わない方がいいだろう。
「こいつはもう契約してると思う。強い魔力感じる」
「え!? そうなの?」
ガードンは土属性か? 確か土属性を持つ人の中には、地面から魔力を探知する能力を持つ者がいると聞いたことがある。
「強い魔力ですか…そうだとしたら嬉しいですね」
「お前はきっと強い魔法士になる」
「なんだなんだ。良かったなぁ、ユリウス。マルーサより凄腕になったりして」
いつの間にか戻ってきていたヴィズが話に加わる。
「ちょっと、ヴィズ。一言余計なのよいつも。」
「魔法士になれるように頑張ります。あのそれで、この子はどうなりますか? 家族は探せますか?」
「そうねぇ。話せればいいんだけど…」
「普通は孤児院なんかに連れていくな。家族が探してれば、迎えにくるはずだ」
「あっ、じゃあ、ちょうどいいじゃない!あなた、教会に行くんでしょ?」
「そうですが、」
「教会に訳を話せば預かってくれると思うわ」
なるほど、そういえばそうだ。エーナ村でも教会から孤児院を運営資金をもらっていた。あれは、教会が孤児院を運営していたということだろう。
「分かりました。そうしてみます。ありがとうございました。」
頭をさげてお礼をする。
「おいおい、1人で行くのか?教会まで一緒に行ってやるよ」
「ここまで送ってくれただけで十分です。元々は1人でくる予定でしたから」
「ヴィズ、まだ昼間だ。大丈夫だろう」
デルメインの地表部分は闇霧に覆われている。その為、本来は太陽や月の光は届かないはずだ。穴の中が明るいのは、魔法で地上の光を取り込んでいるのだろうか。
「ん…そうだな! 教会はここの5階層目にあったはずだ。気をつけてな!」
「じゃあねー」
「頑張れ」
「はい、ありがとうございました!」
冒険者…。
俺も魔法を学びながら、冒険者として生活費を稼ぐつもりだ。いつか3人のように自由な旅をしたいものだ。
初めての旅路は、ずいぶんと残酷なものになってしまったが、ひとまず教会へと向かう。
螺旋状のメインストリートと、そこから洞窟のように掘られたいくつもの道に、たくさんのお店や住居が建ち並んでいる。
気になる店はたくさんあるが、買うお金もない。昇降盤で5階層まで降りる。ここデルメインでは魔法が組み込まれた丸い石盤がエレベーターのように上下し、階層間を移動する手段になっている。
5階層目に着き、適当な人に道を尋ねる。
露天の並ぶ細道を抜け、壁面に埋まるように建てられた教会が見えてきた。
「こんにちは」
俺は教会にいるシスターに声をかける。
「こんにちは、礼拝でしょうか?」
「いえ、フラー司教に会いに来たのですが。」
「司教にですか?お名前を伺っても?」
「はい、エーナ村から来たユリウスと言います。」
「少々お待ち下さいね」
シスターは奥の部屋に入っていき、すぐに戻ってきた。
「お待たせしました、中でフラー司教がお待ちです」
教会の奥にある部屋へ案内される。
部屋には、白い聖職衣を纏った細身の若い男性と、兄妹と思われる少年、少女がいた。司教が二人に声をかけている。
「良かったですね。これからも2人で力を合わせていくのですよ。」
「はい、司教様」
「困ったことがあれば、いつでも来るように」
「そうさせてもらいます。」
そう言うと、少年は少女の手を引き部屋を出ていった。
「待たせてしまったね。あなたがユリウスですね。」
「はい、初めまして、フラー司教」
整った顔立ちの青年である。肩で切り揃えられた綺麗な金髪が揺れている。この歳で司教ということは相当優秀なのだろう。
「それと、あなたはどちら様かな?」
司教は、虚空を見つめる少年に目線を合わせ、優しく微笑みかける。
〈懸念〉…か。まあ、当然の反応だ。
「実は…」
俺は、昨晩の事を司教に話す。
「なんと…2人とも、よくここまで来てくれましたね。心配しなくて良いですよ。あなたは家族が迎えに来るまで教会にいなさい」
そう言うと、司教は俺たちを抱きしめてくれた。最近はよく抱きしめられる。俺がまだ子供ということもあるのだろうが…悪いもんではない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「ではユリウス、さっそく属性を見て行きたいと思いますが、その前に話しておきたいことがあります。」
司教が属性について説明してくれる。火・水・土・風の中の1属性を与えられることが多いが、中には複数の属性を授けられる場合もあるという。光と闇は授かるものが少ないが、決して特別ではなわけではないということだ。
「良いですか、契約の儀によって授けられる魔法は、どれも全て尊い。例えそれが、闇属性であってもです。あなたは、光か闇のどちらかでしょう。どちらであってもあなたの進むべき道は、あなた自身によって切り開かれることを忘れないで下さい」
俺は深くうなずく。シスターマリーも同じようなことを言っていた。闇属性であっても、恥ずべきことはないと。
司教に促され、石板に手を置く。
ここの石板は光と闇も判定できるからか、エーナ村にあったものよりも一回り大きく、光と闇のシンボルを含めた6つのシンボルが円になって並んでいる。
石板が光り始める…
(光のシンボル…いや、闇…?)
「これは…」
司教が〈驚愕〉した様子で目を見開いている。
ピキッ
「「あっ、」」
ピキ、ピキ、ピキッ。
「また石板が…」
「そのようですね…あなたはとても珍しい属性の持ち主なのかもしれません。それと、魔力量も多い…2つ持っているとするなら、当然と言えば当然ですが…」
独り言のように司教が呟く。
「2つ?」
「ああ…すみません。これはあくまで私の推測ですが、ユリウス、あなたは光と闇の属性を両方持っているのではないでしょうか。」
「両方…ですか…?」
「そうです両方です。光のシンボルから光が一瞬放たように見えましたが、すぐに漆黒が立ちこめ石板は割れてしまった。属性を2つを持つ場合は、一つのシンボルが光った後、もう一つ遅れて光る場合があります。ただ、特殊属性の2つ所持は聞いたことがないですが…」
予想外だ。どうせ2つ持っているなら、
「両方を学べる場所はありませんか?」
そう。どうせなら特殊属性の「光」と「闇」の両方をマスターしたい。
「ユリウス、闇魔法の習得には、自分で師を探すしか方法がありません。ですのでまずは、王都の学校、光学院で、光魔法を勉強するのはどうでしょうか?」
そうだ闇属性は忌み嫌われているんだった。学校でも教えてないと聞く。フラー司教の言うとおり、それが現実的だろう。闇魔法も覚えたいが、自分で生活するだけのお金も能力もない。まずは、自立するための力をつけるのが先だろう。
「そうですね。私には村に帰るお金もありませんから。」
「それと、光属性や闇属性は偏頗な見方をされることがあります。あなたのような小さな者にも、容赦なく危険が迫まります。属性を人に伝える場合には、十分に注意をしなさい。」
「分かりました。気をつけます」
それはシスターメアリから聞かされていた。
光属性の場合は特に、他国から狙われる可能性が高いと。治癒魔法が光属性のみが扱える魔法で、他国の力を削ぐのに利用されやすいのだという。
「しかし、あなたはずいぶん魔力量が多いようですね。石板が割れたのは、相反する属性がぶつかったこともあると思いますが、なにより魔力量の多さが原因でしょうね」
「助けていただいた冒険者にも言われました。」
「そうでしたか。ユリウス、あなたは素晴らしい魔法士になりそうですね」
〈希望〉〈期待〉…か。
「そうなれるように頑張ります」
「学校の寮へ入れるのは学校の始まる1ヶ月前からです。それまでは、この教会にいなさい。」
学校は4月から始まる。3月までまだ1ヶ月以上あった。
「いいのですか!?」
「もちろんです。行く当てがあるなら別ですが…」
「行くあてありません!冒険者をして何とか過ごすしかないと思ってました」
シスターからもらったお金だけでは、学校に必要な道具を揃えるのはもちろん、当面の生活をすることもままならない。
「あなたはもう7歳を迎えられたのですか?」
「あ、えっと……まだでした。あと半月くらい…」
孤児院の子供たちは大抵、預けられた日を誕生日としている。俺の場合は2月7日だ。
「冒険者は7歳の誕生日を迎えてからですよ。それと冒険者になるのは自由ですが、どうか命は大切にするように。」
「はい、すみませんでした」
その後、シスターに教会の中を案内してもらい、お世話になる人たちに挨拶をして回った。
こうして俺は、無事に自分の属性を確認し、新たな街で生活が始まったのだった。




