2.契約の儀
ー3ヶ月後
「シスターメアリ、みんな、行ってきます!」
孤児院のみんなに手を振りながら言う。
孤児院の子供たちは、仕事に就くと同時にここも卒業する。
それでも、また新しい子がやってくるので、この孤児院にはいつも10人前後の子供達が暮らしていた。
「ユリウス、おめでとう。気をつけていくんだよ。それじゃあよろしくね、シスターマリー」
俺はシスターメアリに、抱きしめられながら祝福を受ける。
「はい、シスターメアリ。行って参ります」
シスターマリーと一緒に、村の北西ある神殿に向かう。
神殿といっても祭壇があるだけの小さめの木窟とでも言えばいいか。
エーナ村は、人口が500人程の小さな村で、地上には住民が自足するための田畑が広がっている。
たいていの住民は大樹の先端に成る生命の実を育てることを仕事にしている。
これは回復薬の原料になるらしい。
しばらく歩き、村の中心の広場までやってくると、屋台が並んでいるのが見えてきた。
毎年、この契約の儀がある日には、村はちょっとしたお祭りのようになるのだ。
朝から大人たちも仕事に向かわず、飲み食いしている姿が見られる。
「賑やかですね」
「ええ、そうですね。帰りに私たちも何か買って帰りましょう。盛大なお祝いは出来ませんが、いつもよりも豪華にしなければいけませんからね」
そう言うと、シスターマリーはニコっと〈悦び〉を浮かべながら微笑む。
神殿に外には連れ添いの大人たちが、待っていた。
「シスターマリー行ってきます。」
「はい、ここで待っていますね」
中に入ると、すでに10人ほど子供たちが集まっていた。
神殿は、すでに窮屈だ。
なんでもこの神殿は、この土地を開墾する際に、
多くの人間が魔生物に襲われ、神殿をたて治療所にしたことが始まりらしい。
あまりにも凶暴な魔生物が多すぎた為に、
神に祈りを捧げたところ大樹の上に行く道が開かれたとか…
真偽は分からないが、
地上には見たことのない様々な生き物が生息していることは間違いない。
今でもたまに、竜鳥が村に入り込んでくるくらいだ。
「さて、そろったかの。では儀式を始めよう。
7つになる子らよ、神に祈りを捧げ、マナを愛する神の子で在ると誓いなさい。」
神父が祭壇に向かい祈りを捧げながら、子供たちに言う。
膝をつき胸の前で手を重ね、神に祈りを捧げる。
『神の祝福』
神父が両手を広げ叫ぶと、俺たちを照らすように、キラキラとした光が教会の天井から降り注いだ。
「これが、神の祝福…この光で魔力を授かる」
天井から降る眩い光を全身に浴びる。
すると、急に身体中の血液が鼓動するように熱くなり、全身に何かが駆け巡った。
「身体が、何か・・・これが魔力か。」
初めての感覚。自分ではない何か…
他の生命力のようなものが自分の中にあるのが分かる。
「さあ、魔法神さまに感謝を捧げなさい。」
俺も祈りを捧げる。
色々思うところはあるが、魔力をくれたこと。そして、
2回目の人生をやらされてることにも一応、感謝を捧げておく。
「では続いて、属性を確認していく。順番にこの祭壇にある石板に手を置くのじゃ」
次々に子供たちが石板の中央に手を置いていく。
石板の四隅には、「火」「水」「風」「土」を示すシンボルが描かれている。
どのシンボルにも、それぞれの属性をイメージした形に小さな丸が2つ描かれていた。
ある子は、火のシンボルが、燃えるように赤く光り、
ある子は、風のシンボルが、渦巻くように緑に光った。
魔法属性は全部で4つ。正確には6つだが、
基本属性は「火・水・風・土 」。その他、特殊属性の「光」と「闇」がある。
「俺は、何属性だろう…」
ドキドキしながら、右手を石板の上に置く。
・・・・・・
「わっ、」
石板全体が、天井まで届くほど激しく光り、一瞬で光が消えた。
ピキッ。
「あっ、」
石板の真ん中から大きな亀裂が入り、今にも真っ二つに割れそうである。
「あ…えっと、すみません。」
「……うむ。お前さんのせいではなかろう。付き添いの方はいるかな?」
「はい。シスターと一緒に来ております」
「孤児院の子であったか…。皆が帰ったら来なさい」
「はい。」
なんだろう…。契約できなかったとか?
俺が前世の記憶持ちだから…?
まあ確かに、前の人生では自然破壊をしながら生きてきたようなものだ。自然エネルギーであるマナの共存とはほど遠い生活をしていた。
「子供らよ、驚かせたな。さて、これで契約の儀は終わりじゃ。魔法神さまからの授かり物を大切するように。その力が、人のため、この国のためになることを心より願っておる。そして、マナへの愛を決して忘れることのなきよう。その誓いを違えたとき、世界には再び混沌が訪れるであろう」
神父からの言葉が終わると、
子供たちは外で待つ大人と共に次々に帰っていった。
俺も一度外へ出てシスターマリーを呼びにいく。
「ユリウス、おめでとうございます。属性はなんでしたか?」
さて、なんて言ったら良いものか…。
楽しみに待っていてくれたシスターに申し訳ない。
「えっと、シスターマリー。…分からなかったんです。神父さまが、シスターを連れてくるようにって」
「あら、そうだったのですか。そんな顔をしないのユーリ。大丈夫です。マナへの愛を忘れない限り、神はいつでもあなたを見守ってくれていますよ。」
シスターマリーの優しく微笑む顔には、〈信心〉と〈愛〉が見える。
俺を信じてくれているのか、それとも神を信じているのか。
それは分からないが、不安には思ってないようだ。
そうそう。俺には人の心が見える。
俺は、前世の時から人の気持ちを読むことが得意だった。
少しの声のトーンやわずかな目の動きで相手が何を思っているか分かってしまうのだ。
そして今は、その力が増してしまっている。感情や念いが、相手の顔にはっきりと見えるのだ。
輪廻転生すると魂が成長すると言われているし、そのせいだろうと勝手に納得している。
先ほどの神父の顔には、〈疑念〉と〈驚き〉が見えた。
何かを疑い、そして驚いている。まあ、俺だって驚いたし不思議ではないが、この人は何かを疑っているらしい。
「神父さま、参りました。」
「おお、シスターマリー。まずは、この子が契約の儀を迎えられたこと。誠におめでとう」
「ありがとうございます、神父さま。それで、この子、ユリウスの属性がわからなかったと聞きましたが…」
「うむ、そうなのじゃ。わしにも良く分からない。初めての経験じゃて。もしかしたらこの子は、光か闇の属性なのかも知れぬな。この石板では、その2属性はわからんからの。」
光と闇は特殊属性だ。
その2属性はかなり珍しいと聞いている。
実際に、特殊属性持ちは神父以外ではこの村にいない。
「光か闇…ユリウスが…」
「まだわかんがな。まあ、珍しいわけでもなかろう。このわしも光属性じゃ」
神父は、仕事柄、治癒魔法を使える光属性を持っていることがほとんどだ。…いや、光属性を持っているから神父をやっていると言った方が正しいかも知れない。
「…そうでしたね、神父様。」
「シスターマリー。デルメイン市にいるフラー司教に手紙を書いておく。あそこなら、光と闇の属性が調べられる石板があるからの。そこに、ユリウスを行かせるといい。」
光か闇。神父の顔に見えた〈疑念〉は「闇」属性を疑っているということだろうか。
確かに、光属性は魔力量の多い元貴族なんかが授かることが多いと聞いたことがある。そして、治癒魔法を習得できる光属性は、国から優遇されるのだ。
しかし…、闇属性は呪いの子として忌み嫌われている。
「分かりました。ありがとうございます神父様。ほら、ユーリも」
「あ…ありがとうございます。」
上の空でお礼を口にする。
特殊属性…
デルメイン…
いきなり村を出ることになる…のか?
それよりも特殊属性…当然だが、この村では属性を調べる術も、それらを学ぶ術もない。
光だったらエリートコースだが、闇だったら社会から締め出されるだろう。
シスターマリーの顔には〈希望〉と〈不安〉が見える。
「シスターマリー。俺は闇属性なのでしょうか?」
「ユリウス。それは分かりません。デルメインに行って調べる必要があります。しかし、例え闇属性であったとしても、他の属性と同じように誇るべきことです。どの属性が優れていて、どの属性が劣っているなどということはないのですよ。みな等しく、魔法神さまからの贈り物なのです。」
シスターマリーは、俺の頭を撫でながら、小さな〈悲しみ〉を浮かべながら笑う。
「ただ、デルメインまでの旅を1人で行かなければならないでしょうから、それは心配ですね」
シスターマリーは、俺の旅路を心配していた。
てっきり、呪いの子とされる闇属性であることを〈不安〉に感じているのかと思ったが。
この世界の人間は、優しすぎるな。
まだエーナ村しか知らないけど、感情が見えるからこそ分かる。
前世はもっと遥かに生きにくい世界だった…。
前世は上辺だけの家族だったのだと思う。
心から大切に思っていたのは弟だけだ。
だけど、今は何故か孤児院の皆が本当に大切だと思えるのだ。
シスターマリーやシスターメアリ、
孤児院のみんなが、本物の家族だと感じる。
本当はデルメインまでの馬車代だって出せない程、孤児院にはお金がない。
普段は住民たちが育てた野菜を分けてもらいながら生きているのだから。
だからせめて俺は、自立するくらいにならなければいけない。
俺にだって多少、意地というものがある。
「シスターマリー。俺は一人でも平気です。立派になって、また皆に会いにきますよ」
俺が笑って見せると、シスターマリーも〈歓喜〉した顔で笑いかけてきた。
「えぇ、きっとそうでしょうね。あなたは私たちの自慢の子ですから」
そう言うと、シスターマリーは俺を強く抱きしめてくれた。
そう、孤児院はいつもこんな風に愛に溢れている。ここで過ごした日々を俺は一生忘れないだろう。




