16.いざ王都へ
シスから連絡があり、ルーと2人で王城に行くようにとのことだった。極Sであるトライは事実上、王に仕えているようなものだそうで、デルメインを救った褒美として学院の件を何とかしてくれるそうだ。
「にしても、王城かぁ。もう少し立派な服を買っておくんだったな」
先日の買い物で服を数着購入したが、冒険者用の動きやすい服しか購入していない。学院にはどうせ制服があるしと余計なものは買わなかったのだ。
『大丈夫よ、トライが何とかしてくれるでしょう。それより、デルメインからとうとう出るのね。楽しみだわ』
ダースは俺に宿っているため、自由にどこへでも行けるわけではない。宿っている場所からあまり離れすぎると、存在、というか自我が消えてしまうかもということであった。
「はしゃぎすぎて、離れすぎるなよ」
『ふふふ、分かっているわ』
ここデルメインの南から王都ラティスまでは、キャリッジに乗って約1日。一度行けば次からは空間転移で行き来ができる。デルメインの北側と王都ラティスは繋がっているので、1日かかるといっても街中を移動するだけの安全な旅だ。
「うわ…何だこれ…」
デルメインの結界を抜け、王都ラティスの光の城門をくぐるとそこには別世界のような煌びやかな街並みが広がっていた。
先端が丸く尖った都会のビル街のような建物が立ち並び、山頂近くにある光の柱に向かって1段2段3段とと街が作られている。街には光玉のような丸い光がふわふわと漂い、街全体を照らしているようだ。
「なんだあれ…」
光で出来たトンネルが、街の上空に張り巡らされ、その中を生き物が人を乗せて往来しているのが見える。
『あれは海馬ね。昔は海にいたはずだけれど。いつの間にかラティスの乗り物になっていたのよ』
海馬とは、馬くらいの大きさがあるタツノオトシゴのような生き物で、海上を移動する手段として使われている。だがどういう仕組みか、ここラティスでは光のトンネルの中を海馬が泳ぎ、高速道路のように遠方の行き来をするのに使われているようだ。
「後で乗ってみたいな」
『王城にはあれに乗って行けばいいんじゃないかしら?』
「それはいいね、賛成だ」
王城は空を突き抜けるような光に包まれ、その外観は見えない。城の上空だと思われる場所に、丸い巨大なモニュメントが見えるだけだ。
「王城ってあの山の上にある光の中ってことで合ってるよね?」
『多分そうだと思うわ』
「どうやって行くんだろ」
『ワタクシにも分からないわね』
とりあえず、街中を散策する。デルメインでは冒険者や鉱夫が多く、洋服もどちらかというと作業着のような地味なものが多かったが、ラティスの人たちは修道服のような形をした服を着ている。色合いは様々で真っ白のものから、鮮やかな差し色の入ったものがあるようだ。
「ここの人たちは変わった服装をしているな」
『昔の人間は、よくあの服を着ていたわ。マナの民と言って、6大魔源を神として奉っている者たちだったはずよ。今はなぜかここに住む民だけにあの服装が残っているようね』
「ふーん、そうなんだ」
「……あそこ」
「ん?」
ルーの指さす方向に目を向けると、光のトンネルへの入り口があった。上空にあるトンネルまで階段が続いている。
「お!あそこから乗れるのか!」
「…うん」
階段を登ると駅ホームのようになっており、海馬の待機場に管理人らしき人がいた。
「すみません、これに乗って王城へ行くことは出来ますか?」
「ん、王城かい?そりゃ行けるが、近くまで行っても城は見えないぞ。あの城、光城は、別名”神隠しの館”と呼ばれていてな、どれだけ近づいてもその姿を見ることは出来ないのさ」
「いえ、見たい訳ではなく。王城に用事があるんですよ」
「…!? お、王城にでございますか?」
ん?なんか急に丁寧な話し方になったぞ。
『きっと、城の関係者だとでも思ったのでしょうね』
なるほどね。この国では王城で働く人間はそれだけで地位が高いと聞く。まあ前世でも平等とは言いつつ、上司には頭を下げ、社長が来れば皆で一列に並んでお出迎えお見送りするのが当たり前だった。世の中は意外とそういった力の持つ奴たちで回っていたりするのだ。
「そうなんです。王城に行くにはどうしたらいいでしょう?」
「い、今、使いをやります。王城の騎士に伝えますので、名前をお伺いしても?」
「ユリウスだけど…。これに乗ってみたかったんだよな」
待機場で海馬を世話していた1人が王城へ伝言しに行ってくれたようだ。
「恐れながら、こちらは10歳からとなっておりまして…その、お見受けするにまだ10歳にはなられていないかと」
「あ、そうなんだ。確かにそれじゃあダメだわ。えっと、じゃあキャリッジとか他の乗り物はありますか?」
「おそらく、王城の使いの方々がこちらに参りますので、共に海馬に乗れるかと思います。こちらでお待ちいただけますでしょうか」
「分かりました」
数分すると、1人の少年が数人の騎士を従えてやってきた。
「やあ、君がユリウス?」
「そうだよ、どうも初めまして」
声をかけてきた少年は14、5歳といった感じの見た目で、金色に輝く髪からのぞく目がこちらを値踏するように見てくる。金色の刺繍がふんだんに施された白い短めのローブを着ていて、騎士の着ている騎士服とは違うことから、コイツが何か特別な存在だということは分かる。
ずいぶんと態度が上からなのが気になるが、海馬の管理人なんて、片膝をついて頭を下げているし。王城に仕えている者たちはそんなに偉いのか。
「む、…まあいい。着いて来い」
なるほど〈苛立ち〉ね。
どうやらこの少年は俺の挨拶が気に入らなかったようだ。膝をつくような態度を求めていたのかもしれない。いやしかし、コイツが王だというならまだしも、王城に仕えているというだけで頭を下げる気にはどうにもなれない。前世の感覚でいえば、初めて会ったばかりの中学生に頭を下げるようなものだ。この辺りはどうも前世の記憶があるせいで、一般の人たちと感覚がずれてしまっている。
俺たちは側に仕えていた騎士に2人乗りになる形で海馬に乗せてもらう。海馬の身体を足で挟み自分の身体を支える。騎士が手綱を引くと、光のトンネルの中を泳ぐように走り出した。
「すごい…思っていたよりも早いな」
「ユリウス様、海馬は初めてでいらっしゃいますか?」
乗せてくれている騎士が話しかけてくる。
「そう初めて!ラティスに来るのも初めてなんだ。ここ、本当にすごい街だよね。当たり前なんだけどさ、街の景観がエーナ村ともデルメインとも全く違う。なんというか、神秘的な街だよね」
「どの地方も魔源様の力によってその形を成していますからね。ここラティスは”光の街”。その性質から”生誕の街”とも呼ばれております」
エーナ村はどの魔源の影響下にあるのか分からないが、デルメインは死を司る闇の魔源ダースの影響を受けていた。言ってみればここは真逆、「生を司る光の魔源」が宿っている街なのだ。
「そうなんだよね、この世界は本当に不思議だ。あっ、というかなんで敬語なの?俺に”様”とかいらないんだけど」
「え…そ、そんな訳には参りません。貴方様は王の大切なお客様だと伺っております」
「あ、そうなの?」
「…? えっと、ユリウス様は王とお会いになる約束でいらっしゃいますよね?」
「え?いや、トライに王城に来るように言われたんだ。光学院にルーも、あ、そっちの小さい子ね。入学できるように頼んだんだよ」
「トライ…?あ、トライ様ですね。…え、えっとそれであの小さなお子を学院に?あの方はまだ7歳になられていないように見えますが…」
「あーうん。まあ、その辺は訳ありで…」
「これは大変失礼をいたしました。出過ぎたことを申しました」
「いやいや、いいってそんなの。確かに何か理由を考えておかないと怪しいよな。ちゃんと考えておかないと面倒なことになりそうだ」
流石にあの小ささで7歳だというのは限界がある。すると、契約の儀を行なっていないのは前提になるな。
「例えば、死地に追いやられて魔力を授かったというのはどうかな?俺たちさ、キャリッジに乗っている時に盗賊に襲われて生き残ったんだ」
「それは大変でございました。しかしそれならば、前例がない訳ではないですし問題ないかと思います」
「前例があるの!?」
「はい、一般には知られていないですが。王城にある古い文献には7歳になる前の子供が力を得ていたという記述が残っています」
なるほどね。昔は7歳なんて決まりがなかった訳だから、そんな記述が残っていてもおかしくはない。
「ありがとう、大事にならずに済みそうだ」
「いえ、こちらこそ貴重なお時間をいただきありがとうございました。そろそろ到着いたします」
いつの間にか、あの上空に浮かぶ大きな丸いモニュメントのかなり近くまで来ていた。
「あの丸いモニュメントは何なの?」
「あちらは、魔法神様がこの地に舞い降りた際に通ったと言われる門でございます。円環の向こう側は、神々の国に繋がっていると信じられているのです」
「神々の国ね…」
「お察しの通り、神話でございますので実際のところどこまで史実に基づいているのかは分かりません。…ユリウス様、到着いたしました。”光城”へようこそ」
ここが光城。黄金に輝く城が山の頂に建っている。俺の今いる場所は正門なのだろう、真正面に見える黄金の城まではまだ少し距離があり、その全貌を見ることができた。
「すごい…」
「えぇ、ここから見る光城はいつ見ても壮観でございます」
いくつもの塔が建ち、その中心には街の建物と同じ形をした巨大な塔が建っている。街のそれと違うのは何よりもこの光だろう。目がくらむような眩い光なのだが、暖かくどこか落ち着く黄金の光に満ちている。ここは生命の光に溢れた場所なのかもしれない。
騎士たちとは正門で別れ、先頭にいた少年に案内されながら城内を進む。
「全く、お前たちのような者がトライ様に会おうなどと分をわきまえて欲しいものだ。トライ様はお優しすぎる」
どうやらまだご立腹のようだ。ここは大人の対応というものを見せてやろう。こういう時は聞こえなかったふりをするのが1番だ。
「…ユリウスもやさしい」
「何だとっ!」
〈激怒〉。ものすごい形相でルーを見ている。
おいおい、ルーよ。いつからそんな子になった。子供同士思うところでもあったのか。まあ実際には、ルーの倍以上もある年齢なのだろうが、中身は同じくらいの精神年齢なのではと思う。
『ルー!よく言ったわ!トライなどと一緒にしないで欲しいわね』
ダースも煽らんでよろしい。今にも襲いかかって来そうな勢いだが…迫力がない。これならまだハンナの方が危機感を感じた。魔道学院歴代最高の天才少女だというのは伊達ではなかったらしい。
「(あー、ルー?こっちから手を出すのはダメだ。向こうから手を出してきたら仕方ないけど、殺さないようにね)」
『いいえルー、そんな奴は1度殺して分をわきまえさせた方がいいわ』
「(いやいや、ダース。それはまずいでしょ。学院に入学する前に俺たち犯罪者になっちゃうって)」
っっと。そんなことを言っている間に向こうが光矢を連発してきた。俺とルーは冷静に避ける。トライの特訓のおかげで、この程度の攻撃なら問題なく対応できる。
「ふん、このくらい避けられて当たり前か」
「お前ちょっと待て!こんなことして大丈夫なのか?これ以上やられると、こちらとしても手を出さざる終えなくなる」
一応、事前に警告は必要だろう。今の攻撃の音で騎士も気づいてこちらに来るだろうが、俺たちが不利になる状況はよくない。正当防衛だと主張しておこう。
「自惚れるな!俺様に攻撃を当てるなど無理なこと!」
今度は、光矢に加えて、レーザービームのような光を連発してきた。この少年はおそらくハンナよりも弱い。そしてルーよりも弱いだろう。そもそも感情的になっている時点で、勝負は見えている。
ルーをチラリと見ると何やらやる気満々の様子。ルーにも子供らしいところがあるようだ。
「ルー、やりすぎるなよ」
俺の許可を待っていたように、ルーがいきなり土魔法を連発する。光矢には石礫を、光線には石壁で対応している。
「なっ」
どうやら向こうはルーが魔法を使えるとは思っていなかったようだ。俺たちは、森での修行を終えた後も魔力を抑える修行を積み、ほぼ100%消せるようになった。ルーは戦闘モードに入った瞬間、魔力を解放し魔法を放った。相手がすでに放った攻撃に、合わせるように魔法を放つ。これは相当、魔法の生成スピードがないとできない芸当だ。
そして、相手が怯む隙をルーは見逃さない。トリスの教えは「殺られる前に殺れ」なのだ。油断することなくルーは距離をつめ白鋼蛇を閉じ込めた檻を一瞬で生成。相手を閉じ込めてしまった。
『ふふっ、いい気味ね。ユリウスを馬鹿にした罰よ。ルー、良くやったわ。それでこそユリウスを守る盾ね』
「あーとりあえず、ルーに怪我がなくて良かった。相手も怪我はないだろうし」
一瞬で方がついてしまったせいで、まだ騎士たちが到着していない。というか集まって来ているのだが、姿を見せない。
「とりあえず、誰か来るまで待っていようか」
しばらくしてようやく陣形を整え、騎士が俺たちを囲むように一斉に姿を見せた。完全に敵扱いだ。
「そこを動くな!!!大人しく捕まれば、我々に争う意思はない」
要所に剣騎士と魔法騎士をしっかりと布陣しておいてよく言う。
「こちらも敵対する意思はない。そもそもこれは正当防衛だ。そこに捕らわれている奴に聞いてくれれば分かるが、そいつから手を出してきた。俺たちはこんなところで騒ぎを起こすほど馬鹿じゃない」
檻に捕らわれているお馬鹿さんは殺気がダダ漏れで、怒りはどんどん増しているようだ。
「中にいるのは誰だ」
「えっと…あ、名前知らないわ」
「何?とりあえず、お前たちを拘束させてもらう」
ここは大人しく従ったほうが良いだろう。俺たちを送ってくれた騎士もいないし。事情を知っているものがいないのだ。
騎士は手際よく俺たちを拘束する。魔力を封じる手錠をつけられ、連行された。
「……ごめん…なさい」
ルーが悲しそうに謝ってくる。
「いやいや、いいんだって。悪いのはアイツだろう?正当防衛だ。俺たちを連れて来てくれた騎士さんでもいれば良かったんだけど。見当たらなかったし、しょうがないさ」
城門の方に戻り、留置所らしき場所に閉じ込められた。
「さて、お前たち。先ほどこの城に騎士と共に来たと言ったか?」
「そう、その人に聞いてくれればアイツが誰か分かると思うよ。それかトライがいればトライに聞いてくれれば分かるはずだ。多分、アイツはトライに言われて俺たちを迎えに来たんだし」
「何っ?トライ様だと?お前たちは何しに王城に来たのだ?」
「詳しくは言えないけど、トライに来いって言われたから来たんだよ」
「ぶ、無礼な!」
横に立っていたもう1人の騎士に急に叫ぶ。こいつもアイツと同じで精神年齢低めか?
「お前は控えていろ、迎えに行ったという騎士を探してこい。すまない、若い奴はどうも短気でダメだ」
〈不服〉そうに若い騎士が下がり、部屋を出ていく。
「気にしてない、攻撃してくる馬鹿よりはマシさ」
「はぁ、そのようだな。話しを聞くにトライ様の客人のようだが、あいにく今、トライ様は任務でおられない。城内で騒ぎがあった以上、仔細が分かるまで我々はここにあなた方を閉じ込めておく必要がある。理解して欲しい」
どうやらこの騎士のおじさんは話が通じる人のようだ。
「大変ですね」
「今回の騒ぎで王城の騎士がどれだけ使い物にならないかを痛感した。あなた方にこんな話をするのもおかしいが、魔法攻撃を感知してからの配置につくまでが遅すぎる。逃げるつもりがあればあなた方なら十分に逃げられたでしょう」
なるほど、この騎士のおじさんは俺たちがご丁寧に騎士の到着を待っていたことをちゃんと把握していたわけだ。
「確かに遅かったですね。デルメインでの一件もあるし、王城は案外すぐに落とせる。なーんてことになったら大変だ」
「その通りだよ本当に」
話している間も騎士のおじさんは姿勢を崩すことなく、腕を後ろに回し待機姿勢を保っている。気を許したような話をしていても、決して油断はしていない。相当、優秀な騎士であろうことが分かる。
「ブラウン隊長」
「これは、ノア団長。お疲れ様でございます」
おじさん騎士が敬礼の姿勢をとる。
「今すぐユリウス様とルー様をお出しして。もちろん、手錠も要りません」
「はっ」
おじさん騎士はブラウン隊長というらしい。すぐに扉をあけ、俺たちの手錠を外してくれる。
「大変申し訳ございませんでした。私がきちんと宮殿までお連れすべきでございました」
ノア団長と呼ばれる騎士は、俺を海馬に乗せてくれた人だった。片膝をつき、頭を下げている。それにつられて周りの騎士たちも同じ姿勢をとっていた。
「団長さんだったんですね。一緒にいた偉そうにしていた少年が襲って来たんですよ。殺す気はなかったんだろうけど…あーでも閉じ込めてからは殺意が凄かったから殺す気はあったのかもな」
「私の不徳の致すところでございます」
「いや、どうせアイツの独断でしょう?最初から俺たちをよく思っていなかったようだし。団長さんのせいじゃないでしょ」
「寛大なお言葉、感謝申し上げます」
「団長さん、やめて下さい。もっと気さくに話してくれていたのに」
「ユリウス様はお優しい。ご厚情痛みいります。ここからは私が護衛をさせていただきます。トライ様は数日城を空けておりまして、ユリウス様とルー様には城でお待ちいただくよう仰せつかっております。宜しければ、城内を色々とお見せしながら宮殿へ向かおうと思いますが、いかがでしょう」
「じゃあ、それでお願い。せっかく綺麗なお城に来たんだ。ねっ、ルーもそれでいい?」
いつも通り小さく頷く。
「では、さっそく参りましょう」
その後、騎士団が生活している宿舎や訓練場を見せてもらったり、人気だというレストランを紹介してもらったりした。
「城内が小さな街のようになっているのか」
「その通りです。ここには騎士を始め、国事を行う役人も住んでいます。基本的には城内だけで生活できるようになっているのです」
その後も、武器や防具を製作している鍛冶屋や、魔道具を作っている魔道具店を紹介してもらった。途中、図書館や見晴らしのいい展望台のようなところにも連れて行ってもらった。
「いやあ、広いな」
「いざという時には、ラティスの民がここに逃げ込めるように避難場所にもなっていますから。さあ、そろそろ王宮へご案内しましょう」
王宮というのは、王が住んでいる建物を指すらしい。また一つ門をくぐった先が王宮になっているそうだ。
「ここには、限られた者しか入れません。私も正殿には入る権限を持ち合わせておりません。国の役人たちが王と会う際にはそちらの西の殿を使います。東の殿には側近たちの住まいを併設してまして、トライ様と弟子のルーカス様、そして王の腹心であられるエルバ様がお住まいです。私の住まいもあるのですが、私の場合ほとんど騎士団の執務棟で寝泊まりしてしまっていますね」
遠くから見えていたでっかい建物は王宮だったらしい。ここは一際、光が輝いて見える。
「豪華だな…」
「えぇ、ラティス王は1000年以上も前からこの国を治めています。栄華を極めるのも当然でしょう」
なるほどね。それだけ長く生きれば、金も貯まるか。
「ユリウス様とルー様には、東の殿の客室をご案内します。トライ様がお戻りになるまで、そちらでお待ちください。もちろん、正殿以外でしたら城内を自由に散策いただいて構いません」
「今日行った魔道具屋なんかも見てもいいの?秘密にしておくような事とかないわけ?」
一応、王城なのだからここは国家機密が満載だろう。
「王宮に入る権限を持つものは、王城のどの施設もご覧いただく権利を持ちます。出来るだけ私がお供させていただきますが、万が一の際にはこのように証をお見せください」
そういうとノア団長は左手の甲に光属性の紋章が浮かび上がらせた。
「俺とルーにもできるの?」
「もちろんです。そうでなければこの王宮の門をくぐる事が出来ません。王に認められたものは左手の甲にこの紋章を与えられるのです。“光の証を示せ”と念じてみてください」
「(光の証を示せ)」と心の中で念じる。
本当だ。俺の手にもルーの手にも左手の甲に光属性の紋章が浮かび上がった。
「これがあればもう絡まれることもないか…」
「あ…それはなんと言いますか、ユリウス様たちをお迎えに上がった方は、トライ様のお弟子様。ルーカス様なのです」
「えっ、じゃあアイツも東の殿とやらにいるわけ?」
「はい。あっいえ、今はあの檻に捕らわれたままですので、正確にはおりませんが…」
「あ、忘れてた。トライの弟子なんじゃ出してあげた方がいいか」
「いえいえ、エルバ様よりそのままにせよ。とのご命令がございました。東の殿に住まうものならそれくらい破れて当然だと…」
そうは言ってもなあ。俺たちの力はちょっとチート気味だし。
「ルー、あの檻って自然には消えないよね? アイツに破れると思う?」
「…きえない…やぶられない。ぼくのオリがつよい」
〈負けない〉。
何だかルーはルーカスに対抗心を燃やしているようだ。ルーの刺激になったのならアイツの行動も結果的には、良かったのかもしれない。
「ははは、ルー様はすごいですね。私としてはエルバ様の言いつけもありますし、万が一またお二人に何かあっても困ります。そのままにしておいていただけると嬉しいですね」
結局、ルーカスはそのまま檻に閉じ込めておくことになった。まあ、考えなしに襲ってきた罰として反省してもらおう。食事などは大丈夫なのかと聞いてみたが、そのくらいは心配ないだろうとのことだった。万が一に備えた物資くらい持っているはずだとのことだ。
まっ、俺たちは王城を楽しめることになったし、せっかくだから、気になる店を回ってみようと思う。トライが戻る数日の間、王城を堪能しようじゃないか。




