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15.冒険者登録

俺たちはデルメインに帰ってきてから数日間、シスと共に街の復興を手伝っている。ダースも何かと協力してくれて、大量に出た瓦礫の山を綺麗さっぱり消してくれたりした。


「師匠、今日はもう帰るよ」


「あぁ、そうしな。2人とも今日も助かったよ。それからダース様もありがとうございました」


『シス、ではそろそろ宜しくね』


「承知しました。復興もお任せください。ユリウス、ルー。2人とも明日からは手伝いにこなくていいからねぇ。もうそろそろ学院も始まるだろう?そちらの準備をしな」


「準備って言ってもな、お金もないし」


「何言ってるのさ!金はあるだろう?魔石の金が。それに、うちに置いてる魔石もちゃんと持って帰るんだよ」


「あ、そうだった。忘れてたわ」


森での修行の印象が強すぎて、その前の事などすっかり忘れていた。今思えば、師匠の最初の修行がどれだけ優しかったのかが分かる。


「こんな大金を手に入れて忘れるかね普通」


『ユリウスはこんな(はし)た金で浮かれる男ではないわ』


あはは、と笑って誤魔化しておく。実際のところ、修行したことで冒険者稼業で食っていけるくらいの強さは身につけられたと思う。


「それはあんまり使うつもりもなかったからね。孤児院へ仕送りか貯金にしておくつもりだよ。日々の生活費は冒険者稼業か、何か仕事を見つけて稼ぐつもり」


「お前は本当に7歳とは思えない物の考え方をするねぇ」


さて、そうなるとさっそく明日はおあずけになっていた冒険者登録にいくか。そうそう、ルーにくっついている白鋼蛇(スティールスネーク)のティルだが従魔登録をするにも7歳になってからでないとできない。そもそも本来であれば、魔力だって7歳からしか使えないのだ。この世界は冒険者登録も、仕事も、従魔登録も基本7歳からなのである。


その為、今回は(ごく)S冒険者であるトライと、デルメインの守護者と呼ばれているディス両名による証書で、ルーの従魔として例外的に認めてもらっている。


だがいちいち騒ぎになるのも面倒なので、ティルには人目につく場所ではルーの衣服やカバンの中に隠れてもらうようお願いしてある。


「ルー、ダース、明日は冒険者登録へ行こう!結局まだ行けてなかったからな。もちろん、ルーも7歳になるまでは登録はできないけど一緒に依頼を受けることもあるだろうし…行っておくのもいいよね」


コクリとルーが小さくうなずく。




その夜は久しぶりにフラー司教と共に夕食を取った。フラー司教も街の復興や、後回しになっていた軽症者の手当てなどで忙しくしている。


「フラー司教、学院の準備とは何か必要なものはあるのでしょうか?師匠からもう街の手伝いは良いから、準備をした方が良いと言われました」


「そうですか、ご苦労様でした。ユリウスとそれにルーまで魔法の才に恵まれたのは驚きましたが、本当に2人ともよく力を貸してくれました。ありがとうございます。そうですね、もう3月ですから寮にも入れるでしょうし、ちょうど良い頃ですね。紹介状を準備しておきましょう。あとは、文房具や生活に必要な衣類などがあれば問題ないですよ」


「紹介状ですか?」


「えぇ、(ルクス)学院への入学には紹介状が必要なのですよ。光属性を確認できる教会だけが発行する権限を持っています」


「そういうことでしたか、よろしくお願いします」


「お任せください。それよりも…ユリウス。ルーをどうするつもりですか?学院はもちろん、寮にもユリウスしか入れませんが」


「あ…」


そうだった。すっかりルーと一緒に行くつもりになっていた。ルーなら光属性も使えるようになるだろうが、現状は土属性のみ扱っている。


ルーが少し不安そうな顔でこちらを見てきた。


「大丈夫だルー。(ルクス)学院には必ず行かなきゃ行けないわけじゃない。もう闇属性の師匠にも出会えたんだ、そっちを極めたっていい」


『おバカねルーは。ユリウスを守るのだから一緒にいなければいけないでしょうに』


フラー司教にはダースは見えない。見えない人には、声も聞こえないらしい。


「そうですね…ユリウスとルーの実力であればこのまま冒険者として暮らしていくことも出来るでしょう。ただ、今しかできない経験というものがあります。学院での生活は、7歳の今のあなたに与えられた権利なのです。出来る限りそれを手放しては欲しくありません」


確かにそうかもしれない。この世界は、平均でも300歳くらいまで生きる。俺はおそらくもっと生きることになるだろう。7歳の今だけに与えられた、学院入学への権利。できる限り経験しておくべきなのかも知れない。


「ありがとうございます。そうですね、ルーも寮に暮らせないか学院に話してみます。出来なければ、学院の(そば)にルーと暮らしても良いかもしれません」


「それが良いでしょう。もちろん、私も出来る限り協力をします。私もあの学院の出身です。紹介状にどれほど2人が優秀か、学院で学ぶべきかを書かせていただきます」


「よろしくお願いします」


その後、修行での話など(もちろん話せない内容もたくさんあるが)をして楽しい夕食を過ごした。





次の日、冒険者登録をするべく地上階にやってきた。


「えーっと、冒険者ギルドは、あそこか」


暴走化した生き物たちに襲われたせいで、簡易的な建物になっているようだ。復興中のこの街には、たくさんの依頼が来ているのか、冒険者たちが建物の周りに集まっていた。


「こんにちはー」


「何?依頼なら今出しても無駄。これだけ冒険者が集まっているのに足らないし、処理は多くなる一方。もううんざりしてるからこれ以上仕事を増やさないで」


受付のお姉さんにいきなり怒られた。どうやら仕事が忙しすぎて〈苛立って〉いるらしい。


『何よこの女!ワタクシのユリウスになんて態度なのかしら』


「(いいって、ダース。忙しいみたいだから)」


『ふん、ユリウスったら優しすぎるわ』


ダースが少し不貞腐れてしまった。


「えっとじゃあお姉さんに取っては吉報かも、俺は冒険者登録をしたいから」


「は?あんた7歳な訳?そっちのチビは流石に7歳じゃないもんね」


ダースが今にも殺さんばかりの殺気を放っているが、気がついていない。


「俺だけでいい」


「はいはいじゃあ、これどうぞ。魔力を込めればあんたのカードの出来上がり。そしたら、こっちにそのカードを寄越して。ギルドにもカードとあんたの情報を登録するから」


「情報って?何が登録される?」


俺の場合、属性がバレると面倒だし、魔力量とかも分かってしまうならそれも面倒である。


「あ?なんかやましいことでもあるわけ?最低限、名前があれば登録はできる。属性と職種は出来ればお願いしてる。こっちから依頼したい時に役立つから」


「なるほどね、悪いけど名前だけで。ユリウスでお願い」


「そこの石盤にカードを置いて。名前とカードを登録するから」


受付に置いてある1メートル四方くらいの石盤に、カードを置く。受付のお姉さんが石盤に魔力で名前を書き上げるとうっすらと光ってすぐに消えた。


「はいはい。ほら、これであんたも見習い冒険者。依頼の受注はそこのボードか受付に聞いて。依頼を達成したら、石盤にカードを置けば情報が更新されてランクアップしていく。今は簡単な依頼も多いからランク上げにはちょうどいい。登録したんだから、どんどん受けてもらわないと困るね」


ニっと笑い、意地悪そうな笑みを浮かべている。でも〈楽し〉そうで何よりだ。


「あーじゃあ、いくつか依頼をこなして来るよ。13階層に行く用事があるから、その途中で出来る依頼だったらいくつか受けても構わない」


「それは助かる。報酬の低い簡単な依頼は、受注者がいなくてね。街の人の依頼が多いから簡単には断れなくて困ってたんだ。んであんた、どの程度の強さ?何が出来る?属性はまあ、教えられないって時点で予想つくけど」


なるほど、闇属性は忌み嫌われているため隠す人が多いと聞いた。冒険者登録でも隠しておく人が多いのかも知れない。


「なんか違う属性で登録してもらった方がいいかな…」


「は?あんたね、そんなの出来ないに決まってんでしょ。虚偽の報告は奴隷落ち。あんた奴隷になりたいわけ?」


「いやいや、それは困る。学院に行かなきゃだしね。えっと、それで強さだっけ。剣と初歩的な魔法は使える。こっちのルーも剣は使えるし2人なら結構強いと思うんだけど…基準が分からないな」


ルーが魔法を使えることは伏せておく。フラー司教にはお世話になっているので話したが、見た目が明らかに7歳ではないのでバレないに越したことはない。


「それじゃ分からない。倒したことのある獣はいる?」


「獣?森での修行の時に一通り…牙猪(ファングボア)が多かったけど、鎌鼠(リッパーマウス)影兎(シャドウラビット)なんかもたまに狩ってたかな」


森では、暴走魔法の影響を受けていない奥地まで行って食料を調達していたので、小型の魔生物狩りが多かった。

魔生物は生来の生き物がマナを吸収し進化したものだが、人間と同じように魔力量が多いほど長生きをする。なので、長く生きている奴ほど賢く手強いこともあった。


「は?牙猪(ファングボア)鎌兎(リッパーマウス)?それただの猪や兎でしょ?あんた常識もないわけ。それともそんなに奴隷落ちしたい?」


「ん?」


嘘はついてないんだけどな。


『ユリウス、このギルドという場所はランクで人を分けているでしょう?確か、森の魔生物エリアと呼ばれる場所は、中級からだったはずよ』


冒険者の階級は見習い冒険者のFランクから始まり、Eランク・Dランクが下級冒険者、Cランク、Bランクが中級だ。そして上級冒険者のAランク、Sランクと続く。上級にもなるとほとんどが指名依頼なのだと聞いた事がある。


「(なるほどね、それで7歳になりたての子供が中級冒険者の場所に行けるわけないと。ダースさあ、俺ってどのくらいのランクか分かる?)」


『ユリウスは力だけ見れば、すでにAランクくらいじゃないかしら』


「(げっ、Aかよ)」


『もちろん、それはルーもだけれど。経験が足りないから総合的には、Bランクってところね』


なるほど、これは魔生物を狩ったことは訂正しておこう。どんな依頼を受けさせられるか分かったもんじゃない。


「あー、お姉さん。やっぱり俺の勘違いかもしれないです。田舎の村から出てきたばかりで…」


「全く。まあ、街の依頼は基本、戦闘になるようなことはないから大丈夫。獣と戦えるなら、少しの重労働も大丈夫と…じゃあこのあたりの依頼あんたに渡しておくから、出来る限りこなして来て」


そう言って手渡されたのは、10枚以上ある依頼書だった。


「え、ちょっと流石にこの量は無理だって」


「いいのいいの、出来る依頼をやってくれればいい。どうせそこいらの依頼は受注されることはほとんどないから、やれるだけやってきて。ランク上げには丁度いいでしょ?」


確かに効率は良いが…。まあ、パッと見たところ露天や住居の設営、瓦礫やゴミの運搬作業、買い物や届け物などで、復興の手伝いをしていた時の内容だ。もしかしたら、ボランティアも少なくなってきて、ギルドへの依頼が増えているのかもしれない。


「分かった、2・3日したらまた来る」


シスのところへ向かいつつ、依頼をこなす。朝早くギルドに行ったのに、シスの家に着く頃には夕方近くになっていた。


「ずいぶん、疲れているようだねぇ。夕食、食べていくかい?」


「お願いします」


結局、17件あった依頼を全てこなしてきた。シスとの用事を済ませてからとも思ったが、今日中に出来る限りこなして、帰りは最近覚えた空間転送(トランスペース)で帰ろうと思ったのだ。


「ギルドに冒険者登録に行ったんだけどさ、報酬の安い仕事を押し付けられた。大概、街の復興の手伝いみたいなもんだったけど、変な気を使って疲れたわ」


そう、さっさと終わらすために依頼主が見ていない間に、ルーも俺もダースも魔法を使いまくって、さっさと片付けてきた。シスと復興の手伝いをしている時は、何でもシスがやったと言えば乗り切れたのだが、それができない分、バレない嘘を考えるのが大変だった。


「力を持ちすぎるのも問題だろう?」


「ホントそれ。早く平穏な学生生活を送りたい…って!そうだ!」


俺はシスに学院の件を相談する。


「なるほどね、ルーと一緒にね」


『シス、トライに言えば何とかなるでしょう?というか、何とかしなさい』


「そうですね、トライなら無理を通せるでしょう。ユリウス、私からトライに頼んでおく。連絡が来たら教会にでも手紙を送るさ」


「助かります」


これで学院の件は何とかなりそうだ。




次の日、また地上階にあるギルドを訪れる。今日はもうこれ以上依頼を受けないように、断固拒否しなければ。


「こんにちはー」


「お、あんたか。依頼はどのくらいこなせたのかな?」


ニヤニヤしながら〈嬉し〉そうに聞いてくる。


「全部こなしましたよ。夜までかかりましたけどね」


本当は夕方までだが、大袈裟に言っておく。


「へ?全部こなした?」


依頼主のサインが入った書類を渡す。


「偽造…は流石にないか。思っていたよりもやるんだねあんた。じゃ次は、」


「今日はもう他に用事があるので!それにもう王都に行くので無理です!」


考えていたセリフを即座に言い放つ。


「あぁそう。それは残念。報酬準備するから待って」


「一応、依頼ボードを見ていく。出立までに出来そうなものがあれば受けてくから」


「よろしく、この街はまだ困っている住民がたくさんいるから」


一度にたくさんの依頼を受けたおかげで、ランクが見習い冒険者のFランクから一つ上がり、下級冒険者のEランクに上がった。Eランクからは、動物の狩りなどの戦闘系や植物の採取なんかも依頼内容にある。大抵、街の外に出るにはパーティを組むのが基本だが、俺とルーなら問題はない。


「よし、買い物をするぞー!学校だからなノートやペンなんかを買っておかなきゃいけないらしい。あとは、少し洋服を買っておこうか。浄化(クリーン)をかければ綺麗になるけど、破けているしね」


森での修行生活のおかげで、持っていた服はほとんどボロボロだ。


「…ぼく、おかねない」


「ん?昨日のこの報酬はルーとダースと俺で分けるんだ。受注したのは俺だけど、こなしたのは3人だからね。ルーは仕事の受注ができないけど、仕事はしているんだから貰うべきだ」


『あら、ユリウスはワタクシにまで報酬を分けてくれるの?』


「当たり前だ。金の切れ目は縁の切れ目ってね」


その後、お店をめぐり学院生活に必要な物資をそろえた。


「ノートにペンに、学院用のカバンも買っておくか…」


ペンは羽ペンが一般的なのだが、ボールペンに慣れている俺はインクをいちいちつけるのが面倒なので、奮発して"魔ペン"を購入した。これは魔力を流すだけでインクが無限に作られるという、比較的よく使われる魔道具の1つだ。


「ルーの分も買っておこうか。学院で一緒に学ぶことになるだろうからね」


ルーにも俺と同じ魔ペンとノートを購入する。


ルーは〈嬉し〉そうに、購入したノートとペンを抱え、ありがとうと小さく言った。


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