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14.魔法陣解除

「なんだ?」


森が騒がしい。ルーも違和感に気づいて起きてきた。トライの姿は見当たらない。


「魔法陣のほうで何かあったな…」


ようやく昨日暴走魔法(インセイン)の発動が出来るようになり、夜が明けたら解除に向かう予定だった。


トライの居場所を探知してみると、魔法陣の近くにいるようだ。


「ルー、トライのとこへ行ってみよう」


出来るだけ魔力を抑え、トライの居る場所へ向かう。すると、トライも俺たちの動きに気づいたのかこちらへ戻ってきた。


「何があったの?」


「んーそうだなー…教えてやってもいいが、お前たちのノルマだしなー。だけどなー、状況がだいぶ変わったしどうするかなー」


トライはいまの状況を教えておくべきか迷っているようだ。危険度が高いということなのだろう。


「いいよ、俺たちのノルマだ。俺たちに万が一があっても回復魔法(キュア)で何とかしてくれるんでしょ?」


「ん?あぁ、それはもちろんだ。俺の回復魔法(キュア)は一級品だからな!うん…そうだな!いまだから出来る修行もあるよな!」


トライは開き直ったようである。


「じゃ、行ってくる」


「おう、即死だけはしてくれるなよー。死んじまったら助けられないからな。それと、誰であっても何があっても油断をするな、容赦をするな。いいか、命の優先順位を間違えるなよ。やられる前に()れ」


「わかってる」



ルーと2人で魔法陣のある場所へ向かう。


気配を探ると人が数人いることがわかった。そのうちの一人は魔力量が多い。もしかしたら、魔法陣を発動させた人物かもしれない。


白鋼蛇(スティールスネーク)は逃げたのか。いや、数匹捕まってるな…」


白鋼蛇(スティールスネーク)は、神樹の森に生息している。普通の人からすれば、目にすることも出来ない珍しい魔生物だ。


この国では神樹の森の生き物を狩ること禁じている。それは神樹の森が神より与えられし聖地として祀られている為だ。


エーナ村はその神樹の森に存在するが、誰もがそこに住めるわけではない。村へ入ることが許されるのは神樹の森に認められた者だけらしい…。


真偽のほどは分からないが、確かにデルメインのように冒険者や行商人が出入りすることはなかった。唯一来ていたのは、キャリッジくらいだろう。


というわけで、普通の森に白鋼蛇(スティールスネーク)が居るとなれば、狩ろうとする輩が出てくるのは容易に想像がつく。


「ルー、トライが言ったことを忘れるなよ。やられる前にやれ。必要だったら後から治してやればいい」


ルーがコクリとうなずく。


「それとルーはここにいるんだ。戦闘になったら来てくれな」


少し迷う様子を見せたが、納得してくれたようだ。


俺は迂回しながらゆっくりと魔法陣に近づく。


暴走魔法(インセイン)のそばに魔法士らしき人が一人。離れたところに3匹の白鋼蛇(スティールスネーク)が魔法によって捕らえられていた。


さて、どうするか。穏便に済ませられれば、それに越したことはないのだが。


まずは捕らわれている3匹の白鋼蛇(スティールスネーク)のほうへ向かう。


「おいっ!誰だ、出てこい」


相手もこちらに気がつく。


仕方が無いので、俺も森から姿を見せる。


「すみませんが、そこの白鋼蛇(スティールスネーク)を放してもらえませんか。その魔生物は神樹の森の生き物です。狩りは禁じられていると思いますが?」


とりあえず、会話を試みる。


「はぁ!?ガキかよ。これがよく白鋼蛇(スティールスネーク)だって分かったな」


「えぇ、俺はエーナ村の出身ですから」


「ほぅ、エーナ村ね。おいガキ、俺たちは狩りをしてんじゃねぇぞ、保護してるんだ保護。元の住処に戻してやるのさ」


「彼らはお前たちの手を借りずとも、家に帰れると思うが?」


「あ?ずいぶん生意気なガキだな。あんまりしつこいと痛い目みるぞ」


「あぁ、お前たちがな」


次々に武器を構え始める。人数は6人。冒険者のようだが、おそらくまっとな仕事はしていないだろう。


こちらへの警戒を緩めていないところを見ると、一応、俺のことをただのガキとは思っていないらしい。もしかしたら、エーナ村の出身だと言ったからかもしれない。


魔法士は2人。その他は、剣士だな。


「それにしても遅い…わざとか?」


トライの動きと攻撃の嵐に慣れているせいか、相手の攻撃が止まっているように見える。


今は、剣士が2人こちらに切り掛かって来ており、その後ろから魔法士が火炎球(ファイアボール)水流球(ウォーターボール)を打って来ている。攻撃の数はトライの特訓の10分の1くらいだ。しかも正面からだけの攻撃なので、避けるのは容易い。


初めは油断させて何かを仕掛けてくるつもりなのかと警戒したが、これが彼らの実力のようだ。

やられる前に殺る。これがこの世界の鉄則…


闇玉(ダークボール)


小さめの玉をいくつか作り出す。(行け)と魔力に命じると、玉は吸い込まれるように相手の身体へぶつかっていく。


俺の闇玉(ダークボール)は生のエネルギーを食らう。いくら小さめでも、当たれば致命傷だ。


「ぐっ」

「うぁあ!」


まずは剣士を2人。


「闇属性か、珍しい」


魔法士の一人がつぶやくように言う。


俺は攻撃の手を緩めることなく、魔法士と彼らを守っている剣士に向かって闇玉(ダークボール)を放つ。


「きゃあ!」

「お、おいっ、防御魔法とかないのかよ!」

「やっている!闇属性では完全に防げない」

「うっ…」


一人は倒れたが、剣士1人と魔法士2人は耐えたようだ。どうやら、防御魔法を使っているらしい。


「え…」

「ぅあ」

「…」


俺に注意が向いている隙に、ルーが追い討ちをかけるように攻撃を仕掛けた。不意打ちだったので、あっけなく倒れる。


「助かったよルー」


「…うん」


さて、あとは向こうの魔法士か…。魔法陣を仕掛けてる奴だ。こいつらと同じようには行かないだろう。


「ルーはまた隠れていろ。まあ、たぶんもうバレてると思うけど」


ルーはコクリと頷くと、森の中に姿を消す。


「もう少し待っていてくれ」


魔法陣に捕らわれている白鋼蛇(スティールスネーク)に声をかけ、暴走魔法(インセイン)がある方へ向かう。


『(ユリウス、気をつけたほうがいいわ)』


「(ん?ダースか)」


ダースの声が直接、頭に響く。念話だ。


『(暴走魔法(インセイン)を発動させている魔法士は、今の貴方より強いわ)』


「(そうか。それは困ったな)」


『(もちろん、ユリウスはすぐに追い抜くでしょうけどね。今回は、ルーと上手く連携しなければ勝機はないわ)』


「(ありがとう。そのつもりだよ)」


しかし、魔法士は魔法陣の場所に戻ってきて何をしているのか。白鋼蛇(スティールスネーク)にも暴走魔法(インセイン)をかけようとしているとか?いや、それなら先ほど魔法で捕えられていた白鋼蛇(スティールスネーク)が暴走していないのがおかしい…


「狙いは…」


暴走している動物たちは今、デルメインに張られた結界に阻まれている。それら全てを王都に向かわせることが出来たら?王都の南西側は城壁に囲われているが、そこに暴走している動物の大群が押し寄せればデルメインからの侵入を阻止するために東側から派遣されていた兵士たちが、南西方向に移動する。


「そうすれば、東側が手薄に…あそこはもともと停戦状態で、睨み合いが続いている場所…」


王都を直接狙っているのか、停戦場所になっているカタルス領を狙っているのか、それとも全然違う理由か。真偽は分からないが、東側を警戒するに越したことはないだろう。念の為、ダースに伝えトライに伝言を頼む。


『(人間という生き物は、本当に回りくどいことをするものね)』


「(まあ、戦略は大事だよ。じゃあ、頼んだ!)」


『(ワタクシが見ていない間に、殺されるんじゃなくてよ)』


「(気をつけるよ)」


ダースとの念話を切り、魔法士の様子を伺う。熱心に魔法陣に何かをしているようだ。こちらの存在にも気がついているのだろうが、気にしていない様子。


白鋼蛇(スティールスネーク)を捕えていた魔法陣といい、この暴走魔法(インセイン)といい、恐らく相当な魔法の使い手だろう。今の俺たちの魔法じゃ多分対抗できない。となると、剣か…


「あのさ…一応聞くけどそれ、解除してくれる気ないよね?」


森の影から出ていき、魔法士に声をかける。


「何を言っているの?貴方バカなのね」


フードを被っていて顔は見えないが、声からして女の人だろう。魔法陣の文字を書き換えている、いや、上書きしている感じか。手を止めることなく、行使を続けている。


「だよね」


こちらには目もくれないので、一気に距離を詰め、斬りかかってみる。


「ちょっっっとお!!!何すんのよ!」


あっさり避けられてしまった。構わず、続けて斬りかかる。


「何よっ!私とやろうっての⁉︎」


喋りながらもサラリと身をこなし、避けている。やっと魔法陣を諦めこちらに向き直った途端、様々な魔法を仕掛けてきた。が、殺意は感じない。それに


「案外、若いんだ」


魔法の凄腕を想像していたので、初老くらいの人物を想像していた。だが見た目的には、二十四、五歳の女性だ。ついつい前世の癖で、見た目で年齢を考えてしまうのだが、この世界はどれだけマナに愛されているかで年齢が変わる。この世界で人の年齢を当てるのは至難の技なのだ。魔法に長けていることから、相当マナに愛された者だということは分かる。


「そうなると、200歳くらい…かな…」


大体、平均寿命で言えば200歳は初老だ。


あれ、攻撃が止んだ…


「は…?今あんた、私に向かって200歳とか言った?」


あっ…心の声が漏れていた。女性の年齢に触れるのが禁句であることは、どの世界も同じらしい。


先ほどまでの多種多様な魔法から一転し、単調な攻撃ばかりが飛んでくる。しかし今までとは攻撃の手数(てかず)が違った。先ほどまでは手加減してくれていたようだが、容赦ない攻撃が降り注ぐ。


「お、おい!悪かった!」


流石に捌ききれなくなり、ルーが加勢してくれる。最初から1人で対抗できるとは思っていなかったし、予定通りっちゃ予定通りだが。


「何よ、あんたも私が200歳に見えるというの?」


こりゃダメだ。ルーの(とし)で女性の年齢なんか気にするはずがないってのに、完全に目の前が見えなくなってる。


〈怒り〉〈嬉しい〉〈殺す〉と、変わるがわる相手の感情が見え隠れする。怒ってはいるけど、嬉しいってことは本当の年齢はもっと上ってことか…


こうなりゃ一か八かだ!


「魔法が凄腕なのに、“若くて綺麗な人“だな思ったんですよっ!!!」


”若くて綺麗”を強調しながら、必死に叫ぶ。


「えっ…私、綺麗…」


攻撃の嵐が止んだ。


「えぇ、綺麗です。俺の村でもデルメインでも、あなたのような強くて美しい魅力的な女性は見たことがない」


とにかく嬉びそうな言葉を並べまくる。


「あ…うん。そうよね、私って…綺麗。ディス様にもきっともう一度…」


空想にふけってしまったようだが、とりあえず落ち着いたらしい。しかし、今 ”ディス”と言わなかったか?


「あ、あの…今、ディスと、」


『ユリウスは、こんな女が好みなのかしら?ローブで隠しているようだけど、そんな貧相で子供っぽい身体じゃ、ユリウスを満足させられないでしょうね』


おいおいおい!ダースはいきなり出てきて何を煽ってくれてるんだ!やっと収まったところだというのに。


「ダース、ちょっと今はそれどころじゃ、」


〈激怒〉


あーあ。顔を真っ赤にして、こちらと言うかダースを睨みつけている。あれ?やっぱりダースは誰にでも姿が見えるのか?


「(ダースさ、姿みられてるけどどういう事?)」


『(見えるようにしてあげているだけよ。でも見えないにしてもこの子なら何かしら勘付いたでしょうね)』


「(あーそう。もう俺の手には負えないから、ダースがなんとかしてね)」


『そうねぇ、ワタクシのユリウスを誘惑した罰を与えてあげましょう』


そう言うとダースは漆黒の鞭を作り出し、相手に振い始めた。


本気を出せば一瞬だっただろうからダースも手加減はしたのだろう。まるで生きているかのように振るわれる鞭に、魔法で必死に対抗していたが、どれも効果はなくものの数秒で地面に倒れた。


「私は、私は、この仕事を成功させて…ディス様に…」


倒れながらも抵抗しようとする女性をダースは容赦なく鞭で縛り上げる。


「ぐっ」


『ねぇユリウス?ワタクシもなかなか強いでしょう?』


対抗してどうするんだ全く。


「ダース、俺はお前が強いことも知っているし、妖麗(ようれい)なことはその姿を見れば誰もが知っていることだろう?まあ、小さいダースは可愛らしい感じだけど…」


『ふふふっ、合格よ。さて遊び疲れたし、しばらくユリウスの傍にいようかしらね』


どうやらご満足いただけたらしい。小さい姿になり、俺の肩に乗る。まったく、俺は女性への経験値が低いのだから勘弁してほしいものだ。


「んで、ディスが何だって?この魔法陣となんか関係してるの?」


ディスはなんだか怪しい雰囲気があった。ダースの命令には忠実なのだろうが、そのほかはどうなっても良い。そんな風に考える男に見えた。


「…」


だんまりか。さっきの空想モードから見るに、どうせディスにうつつを抜かしているんだろう。あんな奴のどこが良いんだかまったくもって理解できない。


「ディスなら、俺たちとこのあと会うとおも、」


「えっ!!!ディス様とですか?デルメインの守護者であるディス様にですか?」


女性はぴょんっと飛び上がり、正座の状態でこちらをキラキラと見つめてくる。


「(ディスがデルメインの守護者?)」


『(ワタクシがいるもの、デルメインが平和であるに越したことはないわ)』


なるほど、ダースのために守っていたのか。それなら納得だ。ディスのあの崇拝ぶりは異常だったからな。


「俺が答える前に、そっちが答えるのが筋でしょ」


「それもそうね、私はハンナ。魔道士(マギア)学院を歴代最高の成績で卒業した超天才よ!」


「いやいや、そういうことは聞いてないから。ディスとお前の関係を聞いている」


「えっ…ディス様と私の?それはその…」


えっとどれどれ、〈恥じらい〉〈恋〉〈弟子〉。ん?弟子ってなんだ?


「もしかして、ディスに魔法を教えてもらってたり?」


「もちろんよ!学院を首席で卒業するとトライ様かディス様に教えを請うことができるのよ。それで、もちろん私はディス様に…」


「ディスって弟子なんか取るんだ…」


「う、それはその…教えてはもらったから弟子は弟子よね。うんそうだわ、間違いないわ」


こりゃ弟子とは言わないな。そんなディスに恋をしていると。


「それで、ディスと魔法陣はどう関係が?」


「え、それは。ここで暴走魔法(インセイン)を発動させれば…ディス様に会わせてくれると…」


「デルメインの街がどうなっても構わないってか?」


「デルメイン?私はただここで魔法を行使しただけ…」


「デルメインの闇霧(ダークネスフォグ)が消えたのは知っているだろ?そこにお前が暴走させた動物が襲ってきて、街の上層階は壊滅状態だ」


「…」


「お前の大好きなディスだって怒ってたぞ」


ハンナの顔がみるみる青ざめていく。


〈焦燥〉〈混乱〉。


「私はいま何を…」


「そうそれだ。いまは魔法陣に何をしようとしてたか俺は聞きたい」


「知らなかったそんなの…ただ私は、言われた通りに」


ハンナを縛っていた鞭をダースが消す。彼女はすでに放心状態になっている。


『(たぶんこの子、暗示にでもかかってたんでしょう。単純な子だし簡単だったでしょうね。ここで魔法を使えばディスに会える。そんな感じの暗示かしらね)』


要するに罪の意識などなかったわけだ。それがいま俺が問いかけたことで暗示が解けた。


「で?暴走魔法(インセイン)に何か上書きしてたようだけど」


ハッとしたようにハンナは考え始める。


「そうよ…確か…王都に向かわせるように」


自分で話ながら、事の大変さに気がついたのか急いで魔法陣を確認している。


「西に…回れ……あぁ、私はなんてことを!王都に暴走した動物が向かってる…」


ハンナは杖を支えに立ち上がると、魔力を練り始める。おそらく魔法陣を解除しようとしているのだろう。


だが、魔法陣全体に魔力が行き渡る前に力尽きてしまった。俺やダースとの戦闘で魔力のほとんどを使い切っていたようだ。


いくら発動させた本人でも魔力を全体に行き渡らせなければ、解除(リリース)することは出来ない。


「申し訳ないけど、これを解除できる人を探して。いいえ、その前に王都にこのことを知らせてちょうだい」


いや、それは困るな。


「王都はこの程度の森の獣や魔生物が襲ってきても、問題ないでしょ。それとこれは俺のノルマだ。解除できる人を探すわけにはいかない」


「ちょっと貴方はバカなの?こんなときに何を言って、」


「そうだな、俺は馬鹿かもしれない。正直なところ他人がどうなろうが構わないんだ。この世界はそんなに優しくない。だから俺も俺の目的の為に動く。それだけだ」


俺は呆気に取られているハンナを置き去りにして、ルーと魔法陣の解析を始める。元の暴走魔法(インセイン)との違う点を洗い出し文字を覚える。


「ちょっと何やってるのよ?」


しばらくして、ハンナが声をかけてきた。


「何って魔法陣を解析しているんだよ。元の暴走魔法(インセイン)をようやく習得したってのに、改良した奴がいるもんでね」


「貴方、この魔法陣を発動できるの?」


「3日間も練習したんだからな。なのに、解除(リリース)しようって時になって改良されると思わなかったね」


「私も手伝うわ」


「それは助かる」


こうして、俺とルーは暴走魔法(インセイン)(改)をハンナから教えてもらい、発動できるまで何度か練習をした。


「よし、大丈夫そうだ」


俺は魔法陣の前に立ち、魔力を練っていく。ハンナが構築した魔法陣の上に、俺の魔力で魔法陣を描き直す…


「よしっ!いける…『解除(リリース)』」


瞬間、魔法陣は砕けるように消えた。


「おしっ!ノルマ達成だ!やったな、ルー」


「……」


何となくだが、ルーは腑に落ちない様子。


「ん?どうしたルー?」


「………ぼくも」


おっ?ルーが自分の意思を示すのは珍しい。2人のノルマだったのに、俺が解除してしまったことが気になったのかもしれない。実はルーも簡単な魔法陣の発動なら出来るようになっていた。


「よし、じゃああっちに白鋼蛇(スティールスネーク)が捕らわれてただろ?あの魔法陣をハンナに教えてもらって、ルーが解除したらどうだ?」


「…うんっ」


「その前に、そこの白鋼蛇(スティールスネーク)を離してやらなきゃだな」


ルーの魔力で作った檻に閉じ込めていた子供の白鋼蛇(スティールスネーク)を出してやる。


「お前、もうこんな森に来るんじゃないぞ。神樹の森に帰るんだ」


子供だからかまだ意思は見えない。だが、通じたのかどこかへ消えていった。


その後、3人(いや、肩に乗ってるちっこい魔源を入れれば4人)で白鋼蛇(スティールスネーク)が捕らわれているところに行き、ハンナに魔法陣を教えてもらいルーが解除した。


「貴方たち何者なの?その歳で魔法陣を行使できるなんて…」


「別に何者でもない。ただ、仕方なく生きてきただけの子供さ」


「何それ、意味わかんない。…あれ?あの子」


「ん?」


どうやら暴走魔法(インセイン)にかかっていた子供の白鋼蛇(スティールスネーク)が付いて来てしまったようだ。助けてもらったことが分かっているようで、ルーに擦り寄っている。


「ルー、気に入られたようだなー。連れて帰るかー?」


「あ、トライ!いつからいたの?っていうか、連れて帰ったらダメでしょ。元は神樹の森の生き物だよ?」


いつの間にか、トライがルーの側にいた。


「あー、一瞬いなかったけどまぁずっとだな。俺の可愛いルーに何かあったら大変だからなー」


そう言うと、ルーの頭をくしゃくしゃと撫で始める。


「えっ…トライってあの、トライ様?うそ…なんでこんなところに」


ハンナがトライを見て動揺している。


「おー、お前それでもホントに歴代最高の首席かー?暗示になんて普通かからねーだろー。それとも魔道士(マギア)学院はそんなに弱いやつばっかなのかー?」


「そ、それは…申し訳ありません。どんな罰でもお受けいたします」


ハンナはスッと片膝を地面につけ姿勢を低くし、トライに頭を下げる。


よく考えればこのハンナという魔法士は、デルメインに暴走した動物を差し向けた本人。いくら暗示にかかっていようと許されることではないだろう。


「んーそうだなー。今回はディスの監督不行届きってことで。こんな単純な暗示にかかっちまうような育て方をしたアイツが悪い」


大体アイツはー…ダース様ダース様ってもっと国のことを考えねぇからこういうことになるんだ。

と、トライはディスの愚痴を言い始めた。


「そんなっ!そんな訳には行きません。私はディス様の弟子ではありませんし、ただ…1週間だけ教えていただいただけで。今回の件はどう考えても私の責任です」


「あー良いの良いの。主犯はすでにいなくなっていたってことにしておくさ。暗示にかかってた奴を罪に問うのは気が引けるからなー。なぁ、ユリウスもルーもそれでいいな?」


「俺は何でも構わないよ」


ルーもコクリと頷く。


ハンナは泣き崩れた。本来ならば、王に叛意(はんい)を見せたとして死刑になるところだっただろう。


「さーて、ルーそいつどうすんだー?」


トライがルーにまとわりついてる、白鋼蛇(スティールスネーク)を指差す。


「連れて帰っても大丈夫なの?」


「ソイツがそうしたいっていうなら大丈夫だろ。お前の従魔として登録しておけば街にだって入れる」


「ルーどうする?それとお前も、俺たちと来ればしばらくは森に帰れないかもしれないぞ」


「…この子がいっしょにいたいなら、つれてく」


ルーは白鋼蛇(スティールスネーク)の意思を尊重したいようだ。


「お前、親がいただろ?このまま来ると心配するんじゃないか?」


あれだけ必死に子供のことを守っていたんだ。今もどこかで探してるかもしれない。


すると、白鋼蛇(スティールスネーク)の子供は立ち上がるように背を伸ばし


「ピャィーーーーーーー」


と、笛の()のような甲高い声で鳴いた。


そして、その声に答えるように、「ピャィーーーーーーーー!」という先ほどよりも少し太めの声が森中に響き渡った。


小さな白鋼蛇(スティールスネーク)はドヤっとした顔を俺に向け、ルーの横にピッタリくっついている。


親に行ってくると伝えたということだろうな。


「おーおー、すげーなー。んでルー、コイツの名前はどうすんだ?」


「………………てぃる」


しばらく考えるように沈黙したあとポツリとルーが言う。


「ん?ティルか?良さそうだな、白鋼蛇(スティールスネーク)のティルか」


「よーし、じゃあ名前も決まったし。みんなで帰るかー」


俺たちはトライの空間転送(トランスペース)でシスの家に飛ぶ。


ハンナも魔力のない状態では森の移動は危険なので、一緒に飛んでから罰が悪そうに帰っていった。


こうしてようやく、俺たちは平和なデルメインへと帰ってきたのだった。

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