12.森
2024.04.14 トリス→トライに名前を変更(途中から名前が混在してしまってました)
「さーて、ユリウス。俺たちはあの南の森に行きたいわけだが、防御結界の外は狂った動物で埋め尽くされている。どうするべきかなー?」
「そうだな…全部対処するのは無理だから。俺だったら闇霧を張って突っ切るかな」
「なるほどなー。ルーだったらどうする?」
「……じめんにいるのがおおい…うえにみちをつくる」
「おぉーなるほどー。石壁で奴らの上に道を作って駆け抜けようってか。うんうん、悪くないな。今回はルーの案で行くか。結界の中の奴らは問答無用で殺したが、こいつらは出来るだけ森に返したいからなー」
確かに、ここにいる動物たちは人間のかけた魔法で暴走しているだけなのだ。魔法さえ解ければ、森に帰るだろう。
「可哀想だな」
「おーっとユリウス。可哀想だし出来るだけ助けてやるつもりだが、襲ってきた奴に容赦はするなよー?お前が殺られる」
「分かってるよ」
空からくる動物や魔生物に対処しながらルーの作った石壁を渡る、森に近づくにつれだんだんと数が減ってきている。
「あーやっぱりなー。人間を襲わせるような術式でも組み込んだか-」
「どういう意味?」
「術にかかった奴らはなぜかみんなデルメインに向かってるだろー?暴走させるだけの魔法じゃそこら中に暴れてる奴らがいるはずなんだよ」
「じゃあ森の中は意外と安全だったり?」
「そうとも限らないなー。森にいて魔法にかかってない奴は、賢い連中だ。おそらく耐性のある魔生物が多いだろうなー。知能の高い魔生物なんかに襲われたら一瞬で死ぬぞ」
「え、それヤバくない?」
「あぁ、ヤバいな。その為に探知の訓練をしてたわけだし、何とかなるだろー」
そんなことを話しているうちに森の入り口まで着く。
「そんじゃルー、次は魔法陣の場所を探してみよーか」
トライがルーに魔法陣の探知をさせる。
「…………あっち」
ルーは森の北東の方角を指さす。ルーの指さした方角に探知を広げると、確かに魔力の塊が地面に張り付いている場所がある。
「おーよしよし、お前は本当にすごいなー」
トライはルーをとても可愛がっている。修行に関しては甘やかすことはないのだが、とにかく褒めちぎる。それより…
「何か魔法陣のあたり、ヤバくない?」
「ん?気づいたかー。こりゃ魔生物だな。群でいるし、この魔力量からしてかなり強いなー」
「それに、荒れてる」
「おっ?ユリウスはそこまで分かるか。そうだな、みんな魔力が乱れてる。魔法陣の魔法にかかって抵抗しているか、森にあんなものを仕掛けていることを怒っているかどっちかだなー」
「…ちいさいまりょく、あばれてる」
「んー?あーこれか。ルーもよく気がついたな。あー…最悪だなこりゃ。子供かなんかが魔法にかかっちまったかー。そんで大人たちは怒って魔法陣を何とかしようとしてるってわけだなー」
俺たちは一度、魔法陣とは反対方向に移動し拠点を作ることになった。念のため、魔生物に気付かれない距離まで離れることにしたのだ。
「今回はお前たちの修行だし、俺がぱぱーっと終わらす訳にもいかないからな。あー、そういえばダース様は?ずっと姿が見えないけど」
「ダースはずっとどこかに行ってるみたい。たまに声が飛んでくるよ。活動範囲が広がって楽しいんでしょ」
「なるほどねー。ダース様はもともと自由な方だからなー。そんじゃまあ早速、森での修行ノルマを発表しまーす!」
トライの魔力で木の幹に文字が書かれていく。
その一 森の植生を覚えて自給自足すること
その二 剣を扱えるようになること
その三 暴走魔法を解除すること
んー、一つ目は分かる。これまでも外での食料に困らないように俺たちに動物を狩らせ、料理を教えてくれた。
「剣を扱えるって何をするの?どちらかというと魔法のほうが覚えたいんだけど」
「あーこれだから今どきの奴らは。なんで魔法か剣かどっちかだけを極めようとするかなー。どっちも出来るに越したことはないだろー?」
トライが言うには、魔法しか出来ない場合、パーティを組むのが前提なんだそうだ。魔生物の中には魔法が効きづらい奴もいれば、反対に魔法しか効かない奴もいる。パーティの誰かが欠けた場合、急に生存率が下がるそうだ。剣なんかの物理攻撃と魔法、どちらにも対応できる方が必然的に生存率が高まる。
「それは考えてなかったよ」
「よしよし、分かればいい。魔法陣のあたりにいる魔生物が物理攻撃しか効かなかった場合は剣で対処する必要があるからな。しっかり鍛錬しろよー」
「分かった」
朝晩の魔力循環に加え剣の鍛錬が俺たちのルーティンに組み込まれた。剣の鍛錬は、基礎的な体力や筋力トレーニングに、素振り、その後にルーやトライと木剣で打ち合いをする。
「うわー腕がバキバキだ」
エーナ村では木登りなんかして遊んでいたが、ちゃんとしたトレーニングをするのは初めてだ。もちろん前世でもやったことがない。
「おいおい、こんなんで根をあげてちゃ魔生物なんて倒せねーぞ。狩りはしばらく剣だけでやれなー」
食用にする動物を狩り、剣の実践練習をしていく。
「そうだ、俺は自分の刀でやりたいんだけど」
今日はトライから貸してもらった剣で素振りを行っていた。
「カタナ?」
「これだよ」
闇霧の中にしまっておいた、「闇黒刀」を取り出す。
「おーなんだそれ変わった形の剣だな。それよりそれ収納魔法か?」
「そっか…これ刀って言うんだよ。あとこれは、収納魔法じゃない。ほら、闇霧って何でも飲み込むでしょ?だから、闇の魔力で作った刀ならしまっておけるかと思ってさ」
「なるほどな、収納魔法みたいに他の物もしまえそうだな」
確かに。魔力で作った刀だからいけると思っていたけど、ほかの物でもいけそうだな。というか闇霧の生を奪う効果を消して、収納用の魔法に改良すればいいのか。
「そうだね…イメージ的にはブラックホールか…光も時間さえも飲み込む無限の空間…闇空間」
目の前に、闇の渦が創られる。
「おっ?新しい力か?」
「俺用の収納魔法…出来たかも」
「おー!闇属性の特性を上手く活かしたな!ただ魔法陣の練習はしろよなー」
「分かってるよ、俺だって早く魔法陣の魔法を使って見たいんだから」
今日はいつも通りのルーティンメニューを終えた後、トライとの特訓を行った。あらゆる方向から放たれる、様々な属性の攻撃をさばく修行だ。
俺とルーは剣を構え、剣で防げるものは防ぎ、避けるべきものは避け、時には魔力で対抗する。
「ほらほら、気合い入れないと大ケガするからなー」
いやいやいや、下手すりゃ死ぬぞこれ。
トライは回復魔法を使えるので致命傷を負ったとしても瞬時に回復することができる。
その為、容赦がない。
「っうぁ!」
始まって10秒もたたないうちに、俺の体は風刃で切り裂かれ、火炎球で焼かれ、光玉に貫かれた。
「ルー!!!」
俺が動けなくなって数秒後、ルーがやられるのが見えようやく攻撃の手が止まる。
本当に殺される勢いだ…
「悪く思うなよ…。ここで手を抜けば本当に襲われたときに死んじまうからなー」
トライの回復魔法で、一瞬で傷が治る。
「この修行でも十分死ねそうだけどね」
「それはないぞ。俺の回復魔法は一級品だからなっ!よーし!もう一回行ってみようかー」
こうしてトライとの修行が続き、俺たちは何度も死にかけた。だんだんと耐えられる時間が長くなっている気がしたが、結局俺の限界は1分だった。
「よし、1日目にしてはまぁまぁの出来だな。ルーのほうが危機察知の能力は高いみたいだなー」
そう、ルーは俺よりも30秒も長く耐えたのだ。
「ホント、ルーはすごいよ」
「……」
必死に探知をして背後から来ると分かっていても、正面の対応よりもどうしても少し遅れてしまう。というか何より攻撃の数が多すぎて、正面だけでも捌ききれないのだ。
それから7日間、午前中は魔力循環、基礎体力、剣の鍛錬、午後からトライの地獄の特訓を1時間。その後は自由時間で、好きな修行に時間を使って過ごした。魔法陣の練習、植生の勉強、トライの特訓に対抗する練習…。たまに、食料にする動物を狩ってで剣の上達具合の確認も行う。
「なんかさ、教会での生活が夢のようだよ」
「街ん中は安全だからなー。でもユリウスはエーナ村出身だろー?あの森は、化け物みたいな魔生物がうようよいるだろー?」
「森にはね。村には来ないよ。たまに空を飛べる魔生物が結界をぬけちゃうこともあるけど」
「あそこの連中は魔力量が多いからなー、魔生物が入ってきても瞬殺か」
「まあね」
デルメインに来て気がついたがエーナ村の人たちは異様に魔力量が多かったようだ。最初は、デルメインの人たちが極端に少ないのかと思っていたが、それが普通らしい。
『あそこの者たちはマナに愛されているものね』
「おっ!ダース様、久しぶりですねー」
『あらトライ。随分とワタクシの子たちをいじめてくれてるようだけど?』
「いやいや、これは彼らを思ってですね。心を鬼にしてやってるわけでありましてー…」
トライが慌てて弁明する。
『分かっているわよ。人間は本当に弱い。結界がなければ人間などとっくに滅んでいたものね』
「ダース様もシスも人が悪いですよー。一番やりたくない修行ですからねホント」
『あら、回復魔法についてはあなたが上なのだから適任でしょう?』
「それはそうですがねー…」
トライが特訓中ずっと〈苦痛〉を浮かべているのは知っていた。殺気を感じるほどの表情で攻撃してくるのに、心では苦しんでいたのだ。俺たちだって回復するとは言え、攻撃されれば痛みがある。それも死を感じるほどの痛みが。
だが、トライはそこまでして俺たちを強くしようとしてくれるのだ。
「トライ、俺は感謝しているよ。ルーと出会った時…俺たちはあそこで死んでもおかしくなかったんだ。別に強さを求めてるわけじゃないけど、この世界で強さが必要なのは誰よりも理解してる」
俺の言葉にルーもコクリと頷く。
「このぉー、お前たちはホントいい奴だなー」
トライが俺とルーの頭をくしゃくしゃと撫でる。
その日は、久しぶりにダースも一緒に夕食を過ごした。俺たちはこの日には、トライの特訓に30分は耐えられるようになっていた。
「おーし!明日からは修行ノルマ“その三”にも取り組むぞー!」




