1.輪廻転生
「ユリウス、そろそろ火を起こしておいてくれるかい?夜ご飯の支度をするからね」
「はい、シスターメアリ。鍋に湯も沸かしておきましょうか?」
「そうしておくれ。今日は、マルイモを沢山いただいたからね。イモスープにするよ」
「イモスープですか。楽しみです」
俺はいつも通り、青い炎が灯る炉から、調理窯へ火を移す。
いつもと変わらない日常。いつもと変わらない不思議な世界。
何もせずとも永遠と燃え続ける青い炎。
どこからともなく沸き続ける水。
樹齢何千年だろうかという大木が広がる森の一角、
ここはプレッツェ王国のはずれにある小さな村、エーナ村だ。俺は六年前、この村の孤児院に捨てられた。
しかし…。神様も人が悪い。
事故で死んだことに文句はない。
正直、生きているから仕方なく、生きていただけの人生だ。
しかし!だ!
死んだことに文句はないが、
また、一から人生をやらされることになろうとは。
正直、うんざりだ。
前世の人生…
いつも酒臭い父親がいる家庭で育ち…。
愛想笑いで何とか乗り切った学生生活…。
先輩にデスクを蹴られながら、何とか耐え抜いた社会人生活…。
そして、30歳にしてようやく手に入れた平凡な日々だった。
それをまた繰り返すなど、今すぐ死にたいところだ。
死んでもどうせまた、輪廻転生するだけなのだから。
まあ、俺にそんな勇気などあるはずもなく…
こうしてまた仕方なく生きてるわけで。
しかしまあ、魂が生まれ変わるのは元の世界でも常識だったが、普通は、輪廻転生って魂だけが生まれ変わるんじゃないのか?
「なんで記憶まで残したかな…」
「ん?ユリウス何か言ったかい?」
おっと、心の声が漏れてしまっていたようだ。
「いいえ、シスターメアリ。今日のイモスープが楽しみだなと」
「そうかい。そんなにイモスープが好きだったとは知らなかったよ。今日は沢山作ろうね」
「ありがとうございます」
シスターメアリは、この孤児院をまとめている人だ。
礼儀作法に厳しく、その細く痩せた体からは、想像もつかないくらいの力、というか魔力を持っている。
何度か、孤児院近くにも魔生物が現れたが、火魔法で瞬殺していた。
そして、もう1人。
ここには、みんなの母ともいうべきシスターマリーがいる。多分、年齢は23か24あたり。すごく美人というわけではないが、シスターらしい穏和な顔をした女性だ。
そんな彼女は水魔法の使い手だ。
この国というか、この世界にはマナが存在している。
マナとは自然に流れるエネルギーを指すらしい。
人々は、マナと契約し魔力としてマナの力を得る。
そして、魔法が使えるようになるのだ。ここで生きるには魔法の存在が欠かせない。
元の世界にもマナはあったのかもしれないが、
俺たちの文明は科学によって発展した。
そして、この世界は、マナによって発展したのだろう。
ここには科学では説明できないものばかりある。
エーナ村は“霧に隠された樹上の村”とでもいえば良いだろうか。
神樹の森と言われる大樹の上、霧の中にエーナ村は存在する。
どういう理屈かはわからないが、
うっすらと光る霧の上を普通の地面であるかのように人々は歩き、
霧を突き抜ける無数の大樹はくり抜かれ、人間の棲家となっている。
そこはまるで、
ーーエデン
輪廻の環から外れた世界。死を超越したものだけが行ける楽園。
元の世界でのおとぎ話に、ここは似ている。
まあ、どちらにせよ俺にとってのこれからは地獄でしかない。
俺もとうとう、あと3ヶ月で魔力を授かる“契約の儀”を受ける。
この国では7歳になると全ての子供がマナと契約し、魔力を授かることになっている。
正直なところ、さすがに少し楽しみではあるのだが、
魔力を授かるということは、
学校が始まることを意味する。
元の世界では学校は地獄の始まりだ…。
友達なんかいらない。
なるべく人と関わらないで、魔法の習得に全力を注ぐつもりだ。
なんだかんだ、社会で生き抜くのには、スキルが役に立つ。
というかスキルをもってる奴ほど金持ちなのだ。
元の世界じゃ、そのことに気づいたのは大人になってから。小学生あたりから教わっていれば、俺だってもっと上手く生きれた気がするのに。
まあこの世界では、幸か不幸か、前の世界ように10年以上も学生をしていられない。
学校は3年で卒業。要するに俺は3年後には、仕事を得て自立しなくてはいけないのだ。
昔のような社畜生活はごめんなので、1人で気ままに放浪しながら、冒険者にでもなって日雇いの仕事をこなしていくつもりだ。
他に何か不労所得を得られる仕事が見つかれば最高だが…
幸い、孤児院の生活は悪くない。
前世と比べたらそれこそここは楽園だ。
前世でも、弟が可愛くて仕方なかったが…
ここの子供たちも本当の兄妹のようにみな可愛い。
せめて神には、この平穏を乱してくれるなと祈るばかりだ。




