一時の別れ、遥か未来の先で再会を夢見て
魔法学園を卒業したその日の夜遅く。
王城の応接室で人払いした状態で、俺と父上と兄上が密会をしていた。
この場には、珍しくしっかりとした服装のアカネもいた。
四人で密約を交わすのだ。
一つ、基本的に年数が経つまでは、無暗に人前に姿を現さないこと。
一つ、この国に真に危機が迫るときは、秘密裡にでも力を貸すこと。
一つ、個人的な約束で人前に出るときは、その時の王に相談すること。
一つ、この国が落ちぶれたとき、その時はこの国を出ていくこともあり得ること。
一つ、この国を出ていくと判断した際、密約は解消される。
その際に、好きに世界を渡り歩くことを認めること。
一つ目の密約、これは人々の記憶から俺たちのことを忘れてもらうためでもある。
何度も現れては、俺たちが不老であることを不審に思われてしまうからだ。
二つ目の密約、国が正常であり、かつ不正に危機に陥った際には手助けをする。
ただし、状況次第では秘密裡に、だ。
こちらにも一つ目の密約が関わるのだ。
出来る限り、俺たちは姿を晒さない方向で援助することになる。
三つ目の密約、個人的な約束で、仕方なく人前に出てしまう事態になる場合だ。
事前になるべく、その時の国の王に相談して協力してもらうこと。
王家としても今しばらくは、俺たちは秘密にしたい存在になるわけだからな。
なるべく王家も隠せるなら隠す方向で手伝うということだ。
四つ目の密約、これは出来れば起きてほしくない事態だが…
王家が落ちぶれてしまい、この国に未来がないと判断した場合のことだ。
俺たちはこの国を見捨てることがあるということを忘れてはいけない。
未来永劫、繁栄する国などない。いずれは廃れることもあるだろう。
その際に、俺たちは国を立て直すのを手伝うか、見捨てるかの判断を下す。
その権利を持つという密約だ。
五つ目の密約、この国を捨てると判断した時、俺たちは密約を解消する。
そして、好きに世界を渡り歩く認可を得るということだ。
それはそうだ。
もう見どころのない国に、いつまでも構っていられない。
俺たちはそのときこそ、真の自由を得るのだ。
いつかは、早くこの国滅びねーかな、なんて思う日が来るのだろうか。
想像したらちょっと笑える。
とりあえずはこんなところだろうと、お互いに頷く。
アカネが上等な酒を用意する。
大きな皿に酒が注がれる。
まずは父上が、
「この密約により、我らと彼らが幸せに導かれることを切に願う」
と言い、飲む。
次に兄上が、
「この密約により、我らと彼らの縁がどこまでも続きますように」
と言い、飲む。
次にアカネが、
「この密約により、遥か未来、その先まで、繋がりが見つかりますように」
と言い、飲む。
俺は
「この密約により、幸せ、縁、繋がりが、たとえ切れたとしても…
またどこかで結び直されますように」
と言い、酒を飲み干す。
最後に
『ここに密約は成った』
と、全員で締める。
俺たちはこの日が早く来てほしいと願いながらも…
まだこの日が来てほしくないと思いながら、日々を過ごしていた。
とうとう来てしまったんだな、この日が。
彼らと俺たちの別れが。
「父上、母上に別れを告げぬことをお許しください」
「仕方あるまい。あれにこの別れは耐えられぬ」
「兄上、コルネリウスのことをよろしくお願いします」
「任せろ。私が健在である限り、あいつには将軍職に就いてもらうつもりだ」
「王様、リリーさんに私から、これを」
「これは?」
「私と聖女が祈りを込めた守りの宝玉です。その身を守ってくれるはずです」
「わかった、必ず渡そう」
「アレクくん、ティナちゃんにこれを」
「これは…」
「安産祈願のお守りよ。私と聖女の祈りつきのね」
「すまないな、助かる」
「実用的過ぎると、文句を言われそうだからこれもつけるわ」
「こっちは、髪飾りか」
「ええ、不壊の付与効果を与えているから、いつまでも綺麗なままよ。
代々引き継いで、いつまでも使ってねと伝えてちょうだい」
「ふふっ、きっと喜ぶだろう。感謝する」
しばらくは黙って、酒を酌み交わす。
酔わないように、たまに俺が回復魔法をかける。
いつの間にか、二組に分かれて飲み交わしていた。
父上とアカネ、ともに年齢を重ねた者。
兄上と俺、兄弟という絆に恵まれた者。
そんな組み合わせで、朝まで飲み続けた。
「息子と初めて酌み交わす酒が、別れの酒とは、人生ままならぬなあ」
「私は初めて酌み交わす酒が、大切な人と大切な人の家族ですけどね」
「本当に、人生とは、ままならぬ…」
「いつか、遠い未来、はるか先で、形を変えて、きっと出会えますよ」
父上とアカネは、酌み交わす。
今生と遥か先の再会を夢見て。
俺と兄上は若干の酔いを感じながらも話し続ける。
回復魔法をかけつつ、新たに酒を注ぐ。
「兄上、ここにコルネリウスもいてほしかったな」
「そうか?俺はお前と二人だけでもいいと思うが」
「ふふっ、この気持ちは兄上には『まだ』わからぬか」
「どういう気持ちだ?」
「兄と弟に挟まる、狭間の者の気持ちです」
「なんだ、それは?」
「頼れる兄、可愛い弟に挟まれるという、幸せな気持ちですよ」
「私では味わえぬではないか」
「くくっ、そうです。
いつか、遠い遠い未来で、兄上にもこの気持ちが分かる日が来ますよ」
「そうだな。その日を楽しみにしよう」
兄上と俺は、酌み交わす。
兄弟という縁を語り、遠い未来の繋がりを切望しながら…
そして、朝を迎える。
朝日と共に回復魔法をかけ、完全に酔いを飛ばす。
俺とアカネは扉に手をかける。
この扉を抜ければ、今まで置いていた扉はすべて消える。
一時の別れだ。また会える。
そう信じて、別れを告げる。
「では、父上、兄上。また」
「王様、アレクくん。またね」
「ああ、また」
「またな」
扉にかける手に力を入れる。
扉を抜ける。
振り返り、笑顔の二人を目に焼き付け、扉が閉まる。
これで、よかったんだよな…
さて、このあともやることがあるんだ。
だから、アカネ。泣くのは今だけだぞ?




