羽虫の最期
無数の虫どもの殲滅方法。
それが今の俺たちを悩ませている。
一つ、ダモナーとドールたちでの殲滅を待つ。
街が弾丸のゴミだらけになる、かつ時間がかかり過ぎる。
殲滅期間の住民の食糧問題があるので、これは却下。
一つ、魔法での殲滅。
俺一人の力では、さすがにあれは無理。なので、却下。
一つ、王城内の魔法兵士の合体魔法。
一発撃ったら、無防備になって危険。よって、これも却下。
みんなで困っている最中に、俺が呼んでおいた戦力が到着したようだ。
「アカネ様、上空でペガサス隊が困っていマス」
「そうだったわ。私が呼んだ戦力です」
「そう。じゃあ、虫どもに気づかれないように合流して連れてきて」
「ホント、どうしたものかしら?魔力はあっても、出力が足りないのよねえ」
「ディーネは魔力はかなりあるが、結局、人の身の限界で出力が足りないからな。
ドラゴンにでもなれれば、その魔力量は役に立つのだが…」
「アレク?少々失礼ですわよ?女性にドラゴンになれ、など…」
「いや、ティナ。ディーネは男…」
「い、ま、は、女性です!」
「ハハハ」
「笑いが渇いているぞ、ディーネ…」
高出力な魔法が使える人に俺の魔力を使ってもらうのが一番なのだが…
現実は難しいなあ。
結局みんな、人としての出力の限界値があるのだ。
頭を悩ませていると、ドールからやや緊張気味の声があがる。
「アカネ様!ペガサス隊がダークエルフおよび聖獣と遭遇!
マスターに連絡を取るように交渉されていマス。いかがいたしマスカ?」
「何が目的かしら?こんなときに…」
「どうやら、今回の騒動の話をしたいそうデス。
ペガサスから見て敵意はないと判断されていマス」
「仕方ないわね、通して。変な動きしたらハチの巣にしていいわ」
「了解デス」
「ほお、地下にこのような場所ができておるとは…
しかも、この空気はダンジョンだな?」
「なんか嫌な犬がまた来たわね」
「すみません!すみません!」
「聖獣様!我々はもう何度も迷惑をかけているのです!」
「お願いですから、我々の心臓のために大人しくしていてください!」
「むう、仕方ないの…」
「それで?今回の騒動の話ってのは?」
「あの虫の話です」
「あの虫は里の最長老と言っていい人物、枯れ木の老婆が暴走した姿です」
「老婆は聖樹の力を吸い取り、自らの命も使って、あの虫になりました」
「今や不死身のような存在である。一匹や十匹殺した程度では老婆は死なぬ」
「この犬偉そうね、ホント?またナンシーさんたちの出番かしら?」
「ぬ、またというのはどういう意味だ?
そういえば、この家から我が子の残り香がするが…」
「ポチのことね。今はいいから、あの虫の対策はなにかないの?」
「我の力を使えば、なんとかなる…
と言いたいが、あれだけの数を殲滅するには魔力が足りぬ」
「ふーん、誰かさんと逆なのね」
「なんだ?我と逆とは?」
「そいつは人間だから魔法の出力が足りない。けど、魔力は人一倍あるのよ」
「ははっ、なんだそ奴は。会ってみたいぞ!
人間で出力不足を嘆くとはな。そのうえ、魔力を持て余しておるとは!」
「この犬、ホント、しつけていい?」
「すみません!すみません!」
「聖獣様、ホンっト、お願いします!」
「我ら、もう怒られるのはいやなんです!」
「お主ら、どうしてそんなになるまで怒らせた…」
「それで、そ奴はどこだ?場合によっては、虫どもを殲滅できるかもしれぬぞ?」
「へえ、自信あるのね、ワンちゃん?街に被害を出すのもダメだからね?」
「誰がワンちゃんか、誰が!それに、我ほどの使い手になれば…
繊細な制御力で街に被害など、出さずとも殲滅くらいできるわ!」
「それは見ものね。いいわ、紹介してあげる。こっちよ」
「ディーネ様?いいですか?いつも言っていますよね?」
「急用だからと言って、我々を拉致同然に連れてくるのはやめていただきたいと」
「何度も、何度も言っていますよね?わかっているんですか?」
「もう、お空怖いですぅ…」
「はい、わかっておりますわ…」
「なんだあれは?」
「はいはい、あんたたち。
ディーネを言葉攻めにするのはそこまでにして、真面目な話をするわよ」
「わ、私たちだって真面目な話をしているんですよ!」
「状況を考えなさい、状況を。まったくもう…
それでワンちゃん?あれがさっき言っていた人物よ」
「あ、ああ。なんだ、こ奴…」
「へえ、見ただけでわかるのね」
「なぜ小僧なのに、小娘の格好をしておるのだ?趣味か?」
「はぁぁぁ。なんで、こんなややこしいのかしら…
今はそれは置いておいて、真面目に見てちょうだい」
「ああ、恐ろしいまでの魔力量だ。
どのようにしたらここまでの魔力量を、人の身で持てるのかわからぬ。
それほどまでに異常な存在だ、こ奴は」
「へえ、そこまで…」
「アカネ、この方はもしかして?」
「ええ、聖獣よ。問題解決の糸口らしいわよ」
「人間、名は?」
「今はディーネですわ」
「違う、貴様の『本当の名前』だ」
「なっ!?」
「そこまで見えているのね」
「我は聖獣だぞ、これくらいは当たり前だ」
「カオル、ですわ」
「カオル、貴様の魔力を我に貸せ。
さすれば、あのような羽虫、吹き飛ばしてみせようぞ」
「…どうせです。もっと魔力は必要ありませんか?」
「なんだと?」
「さっきの女の子たちも見てみなさい、私が育てている最中です」
「ほお。貴様には遠く及ばんが、一般的な人間からは外れておるな」
「でしょ?せっかく手伝いに来たんです。使ってあげてくださいませ」
「よかろう。
ここまで愉快になれる魔力があれば、気分がよいというものよ!ははっ」
「何度も言いますが、街や城、人間などには被害を出さないでくださいまし?」
「わかっておるわ、我の繊細な魔力操作を見て、学ぶといいぞ」
「ええ。そうさせてもらいます」
そうして、俺と七人の女生徒と聖獣で虫どもの殲滅に向かうことになった。
「じゃあ、アカネ。扉をつないでくださいませ!」
「わかったわ、気をつけて!」
「お主、その口調はどうにかならんのか?」
「姿によって口調を変えるように、矯正されているのですわ」
「なにやら変な苦労をしておるの、お主」
「ディーネ様のこのよさがわからぬとは…
このワンちゃん、まだまだですわね」
「そうですね、ディーネ様だからこそできる芸当ですわ!」
「ぬう、お主らまで我をワンちゃんと呼ぶか!」
「ワンちゃんはワンちゃんですわ」
「今に見ているがいい!我の活躍で聖獣様と呼ばせてやるわ!!」
扉を抜けてまでは俺たちは和やかなムードであったが…
虫どもがこちらに気付き、集まってきた。
集まった虫どもから、不愉快な音を立てて老婆の声が聞こえる。
『ひゃっはっはっは!これはこれは、聖獣様じゃないか!
人間どもを侍らせて今度は何を企んでおる?』
「ふん、わかっておるだろうに。羽虫の掃除だ」
『ひぃっひぃっひぃっ!我は今や不死身の身なるぞ!
どのようにして消すというのじゃ!その身では我には届かぬぞ?』
「我一人ではないわ。こ奴らがおる。
貴様などただの羽虫だ。不死身などという夢はもう終わりだ」
『ひゃっはっはっは!やってみるのじゃなああああ!!!!』
虫どもが四方八方から攻めてくる!
大丈夫なんだろうなと不安に思い、構えてしまう。
「動くな、お主ら!
お主らはただひたすらに魔力を循環させ、我に魔力を送れ!よいな!?」
今は信じるしかないか。
俺を中心にして、七人が魔力を循環させる。
俺はそれをまとめて、さらに七人に返す。
七人が苦しそうにするが、それでもまだ循環させなければならない。
耐えてくれよ、これくらいは俺がまだ小さな子供の頃に通ってきた道だ。
もう一度返ってくる魔力を、今度はドロリと濃縮する。
七人が荒い息を吐きながらも循環をさせる。
しばらくは、この魔力濃度に慣れさせるために循環させ続ける。
まだ聖獣自身の力で虫どもを押し返している。
魔力を渡すにしても、もっと濃縮させた方がいいだろう。
まだまだ行くぞ。七人とも、しっかりとついて来い!
さっきまでの魔力濃度に慣れてきたようなので、もう一段階濃縮させる。
ついに膝をつく子が現れる。
でも、手はつないでいる。目も死んでいない。むしろ、ギラつかせている。
ホントに成長に貪欲な子たちだなあ。眩しい限りだ。
全員が膝をつくほどに濃縮させた魔力、そろそろいいだろうか?
いや、あと一周だけだ。耐えろよ、お前たち?
俺の魔力を上乗せしたうえで濃縮する。それを循環させる。
この魔力はハッキリ言って危険だ。
普通の人一人の身では耐えきれない魔力量なのだ。最悪死ぬ可能性もある。
だが、俺は彼女たちを信じることにした。
彼女たちなら、きっと乗り越えられると思ったのだ。
魔力を上乗せして、濃縮させ、思いを乗せて渡した。
あとは祈るのみ。
吐血して、口から血が漏れる子が続出。
だが、必死に次へと魔力を体内で循環させてから、渡そうとする。
魔力管を無理やり広げているのだ。想像もできないほどの激痛だろう。
だが、決して手は離さない。
彼女たちの手は、互いの手に爪を食い込ませるほど、強く握っている。
そして、最後の一人が俺に魔力を渡す。
俺の下に返ってきた魔力。俺ですら若干魔力酔いを起こしそうだ。
「おい!そろそろ魔力をよこせ!!」
「いい、ですわよっ?私たちの、とびっきりですわっ!!」
「ぬ、ぐぅぅぅぅ!だ、誰がここまで濃い魔力を寄越せと言ったああああ!?」
「あら、使いこなせませんの?たかだか、矮小な人間八人分、ですわよ?」
「貴様は規格外だろうが!?彼女らにどれほどの無理を強いた!恥を知れ!!」
「私が見守っていられるのにも、時間制限があるんですの…
これくらいは、乗り越えてもらわなければ困りますわ」
「彼女らのためにも無駄には出来ぬ!見るがいい!これが我の魔法だ!!」
それは大嵐だった。だが、繊細な嵐だ。
王都全体を包む風が、虫どもを一匹残らず切り刻んでいく。
俺から見れば、センサーに反応して、虫だけが斬られるという謎現象に見えた。
面白いくらいセンサーに引っかかる虫ども。
笑ってしまう。引っかかる虫が大量だからこそ、なおさら笑えた。
不愉快な羽音の中から、枯れた老婆の声が聞こえる。
『きぃぇぇぇぇ!消える!わしの身体が消える!
なんだこの魔法は!?この魔力量は!?』
「ふふっ、私たち人間の魔力ですわ。たった八人分の」
『たった八人の魔力が!こんな現象を起こせるほど、あるわけないわああああ!』
「人間を舐め過ぎですわよ?寄り集まれば、この程度の力は出せますのよ?」
『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
「ああ、綺麗な青空が見えますわね。真っ青ですわ。
ほら、あなたたち。
起きてみなさい?こんな綺麗な青空はそうそう見れませんわよ?」
「ホントに、綺麗ですわ…」
「頑張った分、綺麗に見えますぅ…」
「さすがにっ、ここまでっ、頑張るのはっ、もうっ、こりごりですけどねっ」
『きぃぇぇぇぇ!』
「うるさいですわね?さっさと消えてしまいなさい?景観を壊していてよ?」
『身体が!身体がああああぁぁぁぁ…』
枯れた老婆の声はもう聞こえない。
騒動が終わりを迎え、真っ青な青空だけが残った。
今、俺たちはやりきったなあと感慨深いだけである。




