聖樹の巫女として
「ディーノさん、大丈夫かなあ?」
「今言ってもしょうがないでしょ?」
「そうよ?集中なさい」
「だってぇ~」
「だってなんて言っても無駄よ、今の私たちじゃ足手まといよ」
『はあ…』
「さっ、集中しましょ!」
『あっ!いたいた~!』
『君たちでしょ~?』
『ディーノが言っていた子たちって!』
『早く!早く!』
『行くよ!乗って!』
「え?!え?!」
「ディーノ様が私たちを!?」
『もう、どんくさいなあ…それ!』
「きゃあ!?」
『よし、みんな!乗せたね?』
『うん、乗せた!』
『それじゃあ、いっくよ~!』
『ひゃあああああ!!』
空の向こうで、彼を慕う彼女たちの悲鳴が響いてることを彼は知らない。
彼は今、彼女に変身中だからだ。
「な、ナンシー?
いくらユグに巫女と言われたからって、巫女装束はないんじゃないかしら?」
「こういうのは気分ですよ?ディーネ様!」
「はあ、まったく。
アカネもアカネで、なんでこんな立派な巫女衣装を作ったのかしら…」
「巫女と聞いてから用意したそうですよ?」
「はあ。ん?彼女たちもちょうどついたようですわね」
『ひゃああああ、ディーネ様あああああ!!』
「よーし、いい子いい子。みんなを下ろしてあげてね?」
『ずっと悲鳴を上げていたから、みんなぐったりしちゃっているけどね』
「あー、初めての空中散歩は刺激が強かったかしら?」
「でぃ、ディーネ様。こ、これは一体…?」
「みなさん、学園は連休でしょ?
お手伝いしたいとおっしゃっていたから、手伝ってもらおうかと思ってね」
「はあっ、はあっ、このような手段で連れてこられるとは思いませんでしたわ…」
「我々は、何を、するのですか…?」
「ナンシー、さん、お水、くだ、さい…」
「はい、どうぞ。大丈夫ですか?」
「みなさんには、巫女として私と一緒に魔力を注いでもらいますわ!」
「巫女…?魔力…?」
「詳しい説明は、現地でしますわ。
皆さんの着替えも、ナンシーが用意していますから安心してくださいね?」
「は?え?!」
「じゃあ、次はこちらの大型馬車に乗ってくださいね?
まずはフォルトの村々からよ。今日中には終わらせるわよ!」
『またですかあああ!!』
『彼女たち、まだ元気だね♪』
『そうだね、叫ぶ元気があるんだもの』
『さあ、マスターたちの言うとおりに運ぶよ!』
『飛ばすよー!』
俺たちはフォルトの村々に向かって、空路を行く。
俺たちの後ろには、支援物資を乗せた荷車をつないだペガサスたちもいる。
ペガサス便のおかげで村の人たちの顔も明るい。
しかし、早く、大量に支援物資を運べる彼らもいずれは封印だな。
たまに空を飛ばせてあげるくらいはするけど。
「物資じゃ!」
「支援物資が届いたぞ!」
「助かったのね…」
「どけ!俺が先だ!!」
「押さないでくださいー!」
「並んでください!順番に!」
「物資は大量にありますから!喧嘩しないで!」
「お前ら、落ち着けって言っているだろっ!」
「物資はある、押すな!潰れるだろうが!!」
やはり、こうなるか。限界だったもんな。
だが、幼子を抱く母親を押しのけてまで、前に出ようとするのは見過ごせないな。
俺は精神を集中する。今こそ鍛えた魔力操作の出番だ。
ふわりと鎮静効果のある花の香りを辺り一面に一気に広げる。
村人たちが一瞬、ほんの一瞬だが止まる。
そして、その人だかりに向けて、魔力の圧力をかけながらゆっくりと歩く。
巫女装束に着いた鈴がしゃりんと鳴る。
村人たちは俺の魔力の圧力を、神聖な圧力とでも勘違いしているだろう。
進む先には先ほど倒れた母子。
俺の魔力の圧力のせいでガクガクと震えているな。
この人の周りだけ緩めてっと。
俺はゆっくりとしゃがみつつ、手を差し出す。
差し出された手を掴んだ母親が幼子をしっかりと抱きしめながら立ち上がる。
俺は笑いかける。できる限り神聖な雰囲気を纏って。
そして、周囲に響くように声に魔力を乗せてしゃべる。
「幼子を抱く母親を押しのけてまで、食料にありつきたいか。虫ども」
「なっ!」
「私たちがお前たちに救いの手を伸ばすのは、お前たちがか弱き者だからだ」
「もとはと言えば、重税を課した貴族が悪いんじゃねえか!」
「だが、耐えたっ!お前たちは耐えたではないかっ!
ならなぜっ!あと少し!あと少しが耐えられないっ!」
「…」
「なぜ最後の最後で!幼子を守るために動けぬっ!お前たちなら出来るだろう!」
「…」
「並べ。ゆっくりとだ。慌てるな。
物資はいくらでもある。届く。
お前たちはまだ死んでおらぬ。虫になるなっ!」
俺の言葉に涙する者。跪く者。顔を曇らせる者。
いくつもの顔を見せる村人たちがゆっくりと列を作り、物資を受け取っていく。
俺はホッとしながら、ゆっくりと魔力の圧力を薄めていく。
もう大丈夫だろう。
鎮静効果のある花の香りだけは、そのまま維持して広げておく。
ナンシーがこちらに気付いて、声をかけてくる。
「お見事です、ディーネ様」
「アカネの巫女装束様様ですわ、これのおかげで神聖感を出せたわ」
「ふふっ、アカネ様に感謝しなくてはなりませんね」
「ええ、帰ったら抱きしめるくらいはしてあげませんと」
「まあ。お熱いこと…」
「さて、だいぶ落ち着きましたわね。物資が行き届いたようね。
村長らしき人はわかったかしら?ナンシー?」
「きっと、あの方ですわ。
先ほど祈りを捧げながら跪いていましたから。
お年も召してますから、たぶん村長に近い存在でしょう」
「ありがとう、ナンシー」
俺は先ほどの神聖感を壊さないように、意識してゆっくり歩く。
村長らしき人物に近づくと、こちらに気付き頭を地につけるほど下げる。
困ったな、そこまでするつもりじゃなかったんだが…
まあ、いいか。このまま計画を進めよう。
「もし。あなたがここの村長かしら?」
「はっ、巫女様。私がこの村を治めておりますじゃ」
「この村にご神木を植えます。どこか広いところに案内してください」
「ご神木、ですか?」
「ええ。まだ小さな枝ですが、これから大きくなります。
邪魔にならない広場に案内してくださいませ」
「わかりました、こちらですじゃ」
連れてこられたのは、村からは少しだけ外れた場所。
うん、大きくなるから、これくらいは村から離れていないとな。
畑の邪魔にもなっていないようだ。
さて、中心になりそうなとこはっと。
適当に歩いているように見えるだろうが、ユグの枝から感じる波動を頼りに、
「ぼく、ここがいい!」
って、場所を探してやっているのだ。
やっと強く反応を示す場所を見つける。
ヴォルクスに視線を向けると、何も言わずとも掘ってくれる。頼りになる男だ。
ユグの枝を植え、その場を離れる。
ナンシーが学園から連れてきた彼女たちを連れてくる。
彼女たちは今からが出番なのだ。
指示通りに、俺が歩みを止めた周囲に円陣を組む。
全員が巫女装束を着ているので、見栄えはとてもいいだろう。
動くたびにしゃりんと鈴が鳴る。
俺がしゃがみ、ユグから使えと言われた杖を取り出す。
大きく育て!と願いながら杖に魔力を注ぐ。
周囲の彼女たちも、手を繋いで魔力を循環させながら、魔力を地面に注ぐ。
これなら彼女たちの負担は少ないのだ。
周囲の見守っていた村人たちがどよめく。
それはそうだろう。
頼りない一本の枝が急成長して、大樹になるのだから。
地下ダンジョンにあるユグのような大きさにはしなくていい。
なので、少し見上げる程度の大きさで魔力を止める。
あっという間に見上げる大樹ができた。立派に根も張っている。
ちょっとやそっとじゃ倒れはしないだろう。
俺は協力してくれた彼女たちを労う。
多少ではあろうが、俺の流す魔力の多さと速さに酔っているだろうからな。
だが、彼女たちの目の意思はより強くなっていた。
目指す頂きをうっすらとだが、見たからだろう。
俺としては、そこまで無理しなくていいんだがな。
その後、村長に感謝され、村人たちも一部は気まずそうにしていたが…
おおむね感謝を伝えていた。
空になった物資の箱は、村で利用するとのことで置いていく。
一度、前線拠点に戻る。
そこで補給を受けてから、次の村の位置を確認して移動する。
よし、この調子で今日中にフォルトの各村に物資を届けるか。
そして、ご神木であるユグの子を植えて回るぞ!




