ストルンの若執事とエンダーのスーパーメイド
もう午後になってから、だいぶ経った。急がなければ…
ストルンの街も王家の馬車で走る。
領主館に到着、門番が先ぶれを出す。
門から館の前まで馬車で移動する。
館の前にずらっと並ぶ若い侍従が確認できた。
若い執事しかいないのか?
と疑問に思った瞬間、顔を酒で赤らめた執事服を着た豚が出てきた。
「こんな時間にどなたですか~?ここは領主様の館ですよ~?跪け、愚民が~!」
「なんだ、この豚は…」
執事服の下にガントレットを付けた若執事が怒鳴る。
「この豚ァ!貴様、殿下になんて口を利く!今日という今日は許さんぞ!?」
「はあ?殿下ぁ?
そんな方がこんなとこに来るはずがないですよ~、はははっ!
それとキルシュ、この館の鍵を握るのは私ですよ~?
金庫の鍵の在りかもわからないあなたに何が出来るというのです、はは~っ!」
「ヴォルクス、こいつはダメだ。徹底的に締め上げろ。鍵の在りかも吐かせろ」
「はっ、お任せを!」
俺の怒りが伝わったのか、それともヴォルクスも怒っていたのかはわからない。
ヴォルクスが消え、豚もこの場から消えた。
ふう。とりあえずはヴォルクスに任せよう。
この館を仕切っていそうなのは、先ほど『キルシュ』と呼ばれたあの若執事か。
腕にガントレットをつけているのが気になるが、話はできるだろう。
「キルシュと言ったか?状況を確認したい。部屋を用意してくれ」
「かしこまりました」
連れてこられた部屋は、たぶんグレードがやや下がる応接室だ。
この部屋を見て、ナンシーがキルシュを睨む。
だが、キルシュにも理由があるようで、頭をぺこぺこと下げる。
「あなた、殿下をこのような部屋に連れてくるとはどういうことですか!?」
「すっ、すいません!
ちゃんとした応接室は現在、あの豚の酒部屋と化しています。
お連れするには大変無礼となり、仕方なくこの部屋となっています…」
「はあ、ナンシー。そこまでにしてやれ。
どうやら館の鍵もあの豚に握られているようだ」
「くっ、私もあの豚を折檻しに行きたいところです」
「同感です…!」
「はあ。落ち着け、二人とも。それで、状況だが?」
「はっ!現在は…」
そこから始まった話はひどいものだった。
前領主がいなくなったと思ったら、館の機能があの豚によって奪われた。
必要最低限にも届かないことしかできず、悔しさに拳を震わせていたそうだ。
なんとか街の商人たちと協力して、街は運営していた。
だが、それも限界に近かったらしい。
館の前に置かれた食料の内、燻製肉と酒を持って、あの豚は応接室に籠った。
取り返そうにも部屋には鍵をかけられた。
扉を壊せばいいと思うだろうが、そうすれば反意と受け取られる可能性がある。
なので、扉を壊すわけにもいかず、仕方なく放置した。
残りの食料を急いで村に回したそうだ。
「ふう、食料を村に回したのは助かる。
彼らは死ぬ一歩手前まで絞られているはずだからな」
「すみません、我々が不甲斐ないばかりに…」
「いや、いい。
キルシュ、このまま街の商人たちとこの街や村を統治できそうか?」
「協力すれば、なんとかなります。
ですが、もう食料が…」
「食料のことは心配するな。もうすぐ冒険者たちが支援物資を運んでくれる。
街の方もそろそろ限界だろう?物資を配ってやってやれ。
今日のところは余剰分を村に送り届けるんだ。
次の物資からは村に余裕を持たせるくらい届けてやれ」
「いえ、物資の配分は商人と相談して、出来る限り村を優先しようと思います」
「そうか、苦労をかける。商人たちのこともなるべく労ってやってくれ」
「わかりました。殿下は、このあとは?」
「ヴォルクスがこの館の鍵を取り戻し次第、次の領地に急いで向かう。
ここと同じ状況の領地があと三つあり、次が最後の領地なんだ。
急いで状況確認と物資などが届くことを教えてやらねばならぬ」
「そのようなことになっているのですか…
だから、統治を我々に」
「ディーノ様、鍵を取り戻しました。こちらに。
ついでに、豚は門番に任せて、衛兵に引き取らせました」
「キルシュ、受け取れ。
素早く館の機能を取り戻すんだ。
あとのことは商人や冒険者たちと協力して、一刻も早くこの領地を統治しろ」
「はっ!」
ストルンは村に物資を優先しているようだ。
自分たちも苦しいだろうに、よく耐えている。
あのキルシュという若い執事も成長できることだろう。
さあ、急げ!次が最後だ!
陽は容赦なく傾いてきている。
エンダーの領主館についたのは完全に日が落ちてからだった。
急いだつもりだったが、間に合わなかったか。
こんな時間の馬車に、門番たちも鋭い視線を送ってきている。
「ワシらのアマンダちゃんに何の用だべ!」
「そうじゃ!ここはアマンダちゃんの館だぞ!」
「んん?アマンダちゃん?」
なんだ?なんだか門番の様子がおかしい。
誰だ?アマンダって。
混乱していると、鈴を転がすような声が門の向こうから聞こえてくる。
「お待ちください、門番さん。
そちらは王家の方の馬車です。お通しして大丈夫ですわ」
「おおぅ、王家の馬車だったべか。これは失礼を」
「んだ、また前領主の兵かと思っただ」
俺たちは館の応接室まで通された。
違和感がすごい。館の中がとても静かなのだ。
もしかしてだが…
「殿下、夜も遅くにご足労くださって感謝いたします」
「あ、いや、いい。もしかして、一人でこの館を?」
「はい。前領主と共にすべての人がいなくなりました。
現在は街の商人さんたちと協力して、この街と村を運営しておりました」
「はあ。館にいた人物がすべて過激派だったということか。
今まで苦労をかけてすまない」
「いえ、妖精さんたちが手伝ってくれましたから、割と平気でしたよ?」
「妖精?」
「殿下なんダモナー!」
「お疲れ様デス」
「どうして、ダモナーとドールたちが…」
「実は…」
それはあの日、各地の過激派前領主たちが排除された日の話だった。
深夜の騒ぎに起きたアマンダが、兵士に人質に取られたときだった。
ダモナーとドールたちがアマンダを救出した。
その後も妖精たちは、アマンダの面倒を見てくれたという話だった。
だが、アマンダは妖精であるダモナーとドールのことがよくわからずにいた。
なので、家族のように共に日々を過ごしていたそうだ。
領主館の前に置かれた大量の食糧は、一人で商人の下に訪れて対応したそうだ。
夜中であるにもかかわらず、商人は各村に運ぶようにと手配してくれたとのこと。
その後も、必要なことは各商人と打ち合わせを行い、街の中を回していたようだ。
たった一人で街を運営するスーパーメイドだった、この子。
前領主を排除したダモナーやドールたちと家族のように触れ合っている。
その様子を見て、どうやらこの子は妖精との相性が良いようだと判断する。
それにしてもだ。
アカネを主人とする彼らが別の者を主人あるいは適合者とするのだろうか?
まあ、妖精という存在がそもそも謎なのだ。深く考えるのはやめよう。
アマンダは、まさにみんなのアイドルな存在なんだな。
なるほど。だから、門番たちが過敏になるはずだ。
そういえば、兵が来たとか門番が言っていたな?
残党がいるのか?
「アマンダ。もしかしてだが、前領主の残党兵がいるのか?」
「はい。この館を取り戻そうとする兵の方がたまにいらっしゃいます」
「そうか。それも冒険者たちに伝えないとだな…」
「あの、冒険者とは?」
「ああ、すまない。情報を伝えるのが遅くなった。
もうじき支援物資を冒険者たちが運んできてくれる。
ギリギリの運営だっただろう?もう安心してくれ」
「ありがとうございます!
これで各村に十分な食料を送れます!
どうしても限界に近かったのです!」
「領地が立ち直るまで援助は続ける。
だから、アマンダ。
街の商人たちとこの領地を統治できるようにしてくれないか?」
「承りました。物資さえあれば、どうとでもしてみせます」
「妖精たちも使ってやってくれ。
我々との連絡、力仕事に書類仕事。
彼らも君を手伝いたくて、うずうずしているようだ」
「わかりました。これからもよろしくね、ダモナー、ドール」
「頑張るんダモナー!」
「お任せくだサイ」
これで四つすべての領地の状況を確認できたし、物資のことも伝えられた。
エンダーは街と村の仲は良好のようだ。
俺たちのことも自然と受け入れられるだろう。
明日からは本格的に物資の運搬などが行えるはずだ。
運搬も早くしたいが、あまりアカネの扉を使うわけにはいかない。
どうにかできないものか。




