目覚め、新たな任務
んあ?心地いい匂いがする。それとなんか柔らかいのに包まれている。
もうちょい寝るか…。
ベスポジ探しにもぞもぞっと。
「ゃん!」
んん?なんかあんまり聞こえちゃいけないタイプの声が聞こえたぞ?
まあいいか。ベスポジ、ベスポジっと。
「起きてない?カオル?」
んん~?起きたけど、もうちょい寝たいの。
だから、すりすり~。
「こ、こら!」
あでっ!叩かれた。目を仕方なく開ける。
至近距離にアカネの赤い顔がある。
寝ぼけた頭で、なんで目の前にアカネの顔が?と考える。
ん~?そもそもなんで寝てるんだっけ?
えっと、ナンシーが攫われて、バリトーをぶん殴ってって!?
ガバリと起き上がる。
「ようやく起きたか、寝坊助め」
「あ、ああ。おはよう、アカネ」
意識が覚醒する。
俺、毒殺されかけたんだっけか?
それでアカネに助けられて…
色々な怒りもあってハイになってしまったんだっけか。
俺が疲れて倒れて、意識を失ってからの後はどうなったんだろうか?
そんな俺に気付いて、アカネが説明してくれる。
「あの後のこと?聞きたい?」
「うん、聞きたい」
「順番に説明するわね?まず、ナンシーさん」
「そうだ。俺の部屋にメモ書きがあったんだ。
ナンシーを攫ったから言うことを聞け、って…」
「そうそう。
それで、カオルがヴォルクスさんに徹底的にやれ!だなんて言ったの。
ヴォルクスさん、それはもう派手にやらかしたんだから。
そのせいで、後処理がすごい大変だったのよ?」
「頭に血が昇って、そんなことを言った気がします…」
「それで、あの講義ね?」
「グリドールだけがあの枷に気付いてくれたんだよな。
止められなかったみたいだけど」
「アンタ以外の生徒の枷も調べてみたら、全部が最新式だったそうよ?
そのせいで、みんなフラッフラになっていたんだから」
「はあ。あの講師め、誰がどれだけ死んでもいいっていう過激派だったか」
「そうよ。今回の件で動いていたのは、第三王子の過激派だったわ。
アンタが死ねば、継承権が一つ繰り上がるから殺そうっていうね」
「そんなことをせずとも、俺は継承権を放棄するって言うのにな」
「奴らには通じないわよ、そんなこと。存在が邪魔なのよ、そもそも」
「それで?アカネさんや?
随分とすっきりした顔をしていますが、何をしたんですかね?」
「え?あー、ん~…
その、楽しい楽しい夜のお散歩と各地の殲滅占領、かな?」
「はあ。父上に領地運営しろ、って言われるのが確定したよ。
それも複数か。同時に運営しろとか言われないよな…?」
「あー、私も出来ることは手伝うからさ。がんばろ?」
「複数になっちゃったのは、誰のせいなんですかねえ?まったく…」
「わたし、わるくないもん!
ダモナーやドールたちが、私の感情と意思に沿って行動しちゃっただけだもん!」
「そうだよなー。それだけ怒っちゃったってことだもんなー。
妖精さんたちが影響されて、自分たちから動いちゃうレベルでだもんなー」
「ねえ?ついでなんだけどさあ、お城の通路を魔改造したことも…
一緒に謝ってくれないかなあ、なんて?」
「そんなこともしちゃったのね…」
「王様やリリーさんに危害を加えられたくなったから、仕方なく…」
「本音は?」
「誰一人として、逃がさないように、邪魔されないように通路を弄りました!」
「…その辺りは正直に言うしかないな。はあ」
「とりあえず、ご飯食べる?一日中寝ていたんだから、アンタ」
「怒られに行く前に、ゆっくりとご飯食べるか。気が重いなあ」
こうして、怒られることが分かっている中、ゆっくりと食事にした俺たち。
嫌なことを後回しにしてる、ってのは気づいているけど、今回ばかりはなあ。
食後のお茶も飲み終え、アカネの扉から王城の自室に向かう。
アカネは人前に出すわけにはいかないので、今は俺と侍従の二人だけだ。
侍従の二人には休んでいてもいいと言ったのだが、ついてきた。
「私は捕まっていただけなので、休んでいたのと同じです!」
とは、ナンシーが。
「私はまだまだ動けますよ?」
と、ヴォルクスが言う。
仕方なく、同行を許可したよ。少しは休んでも罰は当たらないよ、君たち?
それにしても、どうにも城内が慌ただしい空気を感じる。
誰もが忙しい空気を醸し出し、急ぎ足で移動している。
今日の俺の服装は男装だ。
城内を歩く俺を警備兵が一瞬訝しむが、すぐに誰かを思い出し敬礼してくる。
苦笑しつつ、労いの挨拶をしておく。
父上の執務室に向かう。
部屋の前で止められそうになるが、慌てて手を引っ込める兵士。
お互いに苦笑いだ。
ノックをして入室許可を取る。
「ディーノ!無事だったか!?」
「はい、父上。この通り無事でございます」
「お前の情報は、事件終了後には姿を消したという情報だけだったのだ。
アカネ殿の下にいるだろうとは思ったが、心配したぞ」
「すいません、父上。意識を失い、アカネの下で保護されていました」
「無事ならいいんだ、無事なら…」
「何かあったのですか、父上?」
「俺の私室の机の上に、大量の資料と貴族のリスト。
城内の牢にはいつの間にかに入っていた怪しい者たちと気絶した貴族。
そして、極めつけが…
各地の領主館が、一夜にして攻め落とされたそうだ。
その後の統治は、突然領民に託されたそうだ。
現在、食料などの問題で暴動が起こる寸前だ、と報告を受けておる。
各地の領主館前に、雑に大量の食料だけは置かれていたそうだからな…」
「あー…
その、アカネが、すいません…」
「貴族のリストの書類とお前の身にあったことから、関連付けたさ。
アカネ殿だろうとは当たりはつけていたが、まさかここまでするとはな…」
「ついでに、城内を弄繰り回した結果…
父上や母上を守りながら、私に対する過激派は一掃できたそうですよ?」
「過激派は、な。まだ潜在的な者たちはおるのだ。
そして、大量の領地に穴が出来た。
どう対応するかを現在、急ぎで思案中なのだ」
「領地に関しては、私にお任せください。
以前から領地運営を任せたいと言っていたでしょう?」
「それは、言ってはいたが…
今のような状況を考えて言ったわけじゃないぞ?」
「大丈夫ですよ、きっと。
アカネの力を使って、さらに冒険者の派遣も考えています」
「統治はどうするつもりだ?」
「領民に任せてみようと思います」
「なんだと?」
「不正を行うような貴族などいらないのですよ。
領民の生活は、領民に任せるべきです。
その上で我々が守ってあげればよいのです」
「それはそうだが…
初動は大変だぞ?大丈夫か?」
「今は混乱していますからね。混乱に乗じて、なんとかしてみせましょう。
まずは領主館の掌握からです」
「ならば任せよう。複数の領地、見事運営してみせよ。
だが、必要な支援はするからな。それは忘れるな」
「はっ!」
こうして、俺は複数の領地の運営を一度に任された。
まずは領主館の掌握と運営のための人手だ。
運営しなければならない領地は全部で四つだ。
フォルト、ドーン、ストルン、エンダー。
思ったよりも過激派の貴族の中で、領地持ちが少なくて助かった。
それでも飛び地で、四つは多いのだが。
それぞれの領地で現在、治安の悪化が問題視されている。
国からの兵士と各領地の衛兵で対応しているが、それでも限界がある。
ここには冒険者たちを派遣する予定だ。
『彼ら』が動いてくれることを祈るしかない。
領地の運営を任せられる者も選出しなければならない。
将来的には複数人で運営してもらうことにはなる。
だが、なるべく最初は権力を集中させた方がいい。
今は命令系統の一本化がしばらくは必要で、複雑化させるには時期尚早。
対応できる人物たちがいれば別だが。
負担をかけるかもしれないが、この辺りは現地の商人たちに任せたいところだ。
重税をかけるだけの貴族の下で、必死に対応していた執事などの侍従たちもだ。
彼らも飢えていく領民を見て悔しい思いをしていただろうからな。
農民たちには、まず食事だろう。
重税で食うに食えなかっただろうからな。
心が折れていなければいいのだが…
彼らが食料生産してくれなければ、領民はまとめて死ぬ。
彼らにはなるべく寄り添って、動いていかなければならないな。
治安の安定化、運営の健全化、領民の食料確保はこれでいいだろう。
あとは実際に訪ねて、街や村の様子を見ていかなければならないな。
村のよりどころとして、ご神木も必要になるかもしれない。
ご神木に関しては、ユグにお願いしてみよう。
たぶんだが、条件付きでなんとかしてくれるだろう。
さあ、考えられることは考えた。
あとは現地の様子を見てから、臨機応変に対応だ。
よし、動いていくぞ。一つずつ解決していく!




