アイデア提供、誘拐事件
俺は女装している以上は女性の味方だ。
女性の美容に関しては、女装時の俺も同じように利用させてもらっていたからな。
さて、次に提案するのは美顔器だ。
こちらの世界は乾燥気味の空気なので、肌の調子で化粧のノリが悪かったりする。
そこで登場するのが水蒸気を噴射して、乾燥から肌を守る美顔器だ。
ただの水蒸気だけを噴射するのも面白くない。
魔法があるんだから保水液や肌への浄化の魔法液とか作れないかな？
その辺も聞いてみよう。
「あのね、おじちゃん。こっちは難しいかもしれないの。
でも、出来たらきっと売れると思うの！」
そう言って、俺は美顔器をプロデュースする。
「ほほお、面白いことを考えるもんじゃ。
美容なんて考えたこともなかったからの。やるだけやってみよう。
ただ、保水液や浄化の魔法液などに関してはワシはわからぬ。
そういうのは魔法薬師や一部の錬金術師の領域じゃ」
「そっか。うん、わかった。ありがとう、おじちゃん！」
（キラキラ笑顔をくらえ！サービスだぞ！）
「じゃあ、おじちゃん。私たちは帰るね！」
「おう、また来いよ」
「う～ん、今度は呼び出しちゃうことになっちゃうかも？」
「は？」
そして、店から出る前に振り返り、飛び切りの笑顔でサービスをする俺。
「おじちゃん、お酒は控えめにね！
身体を壊したら、私はいやだな…
いつまでも元気でいてね、『私の』おじちゃん！」
「ぐぬっ！」
「（あっ、堕ちたっすね、こりゃ）」
「（なんともわかりやすい反応だ…）」
店の扉を閉めた瞬間、大声が聞こえた。
「ワシは酒を辞めるぞおおおお！！」
うんうん、健康第一にってね。
護衛二人がジト目をこちらに向けているが、気にしない気にしない。
あの軽薄そう護衛に御者さんを呼んでもらう。
用事が終わったからと馬車を呼んでもらっている間にお散歩だ。
せっかくの外出の機会なんだ、もう少し見て回りたい。
「お嬢様、あまり不用意に歩き回らないでください。
容姿が容姿なだけにいつ攫われてもおかしくありません」
「大丈夫だって！そんな簡単に行動を起こす奴なんていないって」
「だといいんですが…」
前方におばあちゃん発見。
随分と重そうな荷物を背負っているけど大丈夫かな？
心配になったから話しかけることにした。
「おばあちゃん、大丈夫？」
「ワシのことは気にしちゃ駄目じゃ、お嬢ちゃん。
お嬢ちゃんこそ、気を付けるんじゃ」
「んん？どういうこと？」
「ワシはあいつらに脅されて…」
そこまで喋ったところに勢いよく、馬車が走ってくる。
ヤバい、轢かれる！？
とっさに俺は馬車から二人を守るために、おばあちゃんと護衛を押してしまう。
「お嬢様！？」
「こっちはだいじょう、ぶっ！？」
あかーん！
馬車から出てきた奴らに、薬のようなもので湿らせた布で口元を覆われた。
「んんっ？！」
最後の抵抗をしようとしたが、強い薬なのか俺の意識はすぐに落ちた。
