勝利の女神様の怒り、断罪
目の前が真っ白に染まる。
ちょっとやり過ぎだと思うぞ、女神様?
だが、今のうちに証拠は空間収納に回収っと。
「な、何が起こったっ!?」
やる気のない講師が焦ったように声を荒げる。
そらそうだ。証拠隠滅するつもりだった、枷を見失ったんだもんなあ。
「うぐっ、目が、目がぁぁぁぁ…」
近くでまともに稲光を見たんだもんな、そら眩しいさ。
ざまあみろ、バリトー。
もう意識がだいぶぼんやりとしてきている。
口に温かいものが流れてくる。
エリクサーだな、たぶんこれ。
口の中のものをすでに嚥下するような力は、俺にはもう残っていない。
間に合って!と言われてる気がする。
飲んで!と言われている気がする。
生きて!と言われている気がする。
私を置いて、逝かないで!と言われている気がする。
必死な『声』が聞こえる。だから、辛うじて残る意識に鞭を打つ。
大丈夫だよ、と呼びかけるように俺は最後の力を振り絞って飲み込んだ。
俺の女神様を安心させるために頭を抱え、抱きしめてやる。
『俺の女神様は泣き虫だなあ…』
エリクサーのおかげで、身体がぼんやりと光る。
さっさとこの茶番を終わらせて、怒られよう。
動きづらい身体を無理やり動かす。
泣きついてるアカネの背をポンポンと叩き、小声でアカネに伝える。
「もう大丈夫だ。ありがとう。さあ、おかえり?ここからは断罪の時間だ」
再度、強い雷が周囲に落ちる。
『勝利の女神様、まだ怒っていたな。今夜、何かする気だな?
ちょっと、今の俺には止めるのは無理そうだな。関係者の方、ご愁傷様』
「先生、もう大丈夫です。新しい枷をください。砕けたみたいです」
俺はそんな調子のいいことを言って、この茶番を続ける。
目の前のバリトーは、視線だけで人が殺せそうなほど睨んでくる。
「仕方ない。ほら、新しい枷だ」
あの特別製の枷は作りがややこしいせいで、一つしかないのは確認済み。
ただ、これも最新式の枷だな。鍵はあの講師の下。
だが、忍者仕様のチビダモナーが誰にも気づかれないように鍵を奪っている。
そのことには気づかれていない模様。
「さあ、模擬戦をやろうぜ?バリトー?」
「…ぶっ殺してやる!」
俺は後ろ手に鉄扇を強く握る。
まだ握力は十全じゃないな、気をつけないと。
模擬戦が始まる。ほかの生徒たちは俺たちの戦いに集中している。
あの講師、ついに隠さなくなったな。周囲に注意もしていない。
最初からこの場で、俺を殺す気だったんだろう。
第二王子暗殺事件か。
まあ、未遂に終わって、お前たちは一人残らず捕まるんだけどな。
「死ねっ!」
「やなこった」
明らかに研いできましたっていうショートソードを振り下ろすバリトー。
訓練してきていない剣なんて、頼まれたって当たってやるもんか。
周囲から悲鳴や止めるように講師に抗議する声が聞こえる。
だが、生徒の半分は魔力の枷を嵌められて、動けない。
枷を嵌められている生徒は力のある生徒ばかり。
あの講師が選んでいたみたいだからな、万が一を防いでいるんだな。
魔力の枷の鍵はあの講師が握っていた。
今はチビダモナーの手元にあるが、まだ動けない。
つまり、誰も止めるに止められないってことだ。
予想外のことを除くと、あの講師、よく考えていやがるぜ。
「おらっ!」
「おいおい、刃は潰しているんじゃなかったのか?」
「お前はここで死ぬんだ!だから、関係ない!」
「へえ?じゃあ、お前も死ぬ覚悟は出来ているんだな?」
最新式の魔力の枷に魔力を吸われてはいるが、俺の魔力量では関係ない。
なので、吸われながらも威圧くらいはできる。
「んぐっ!?」
「死ぬ覚悟はできているのかと聞いている」
「お、お前が死ねばいいだけだ!!」
「そうか」
俺は回復しきった握力で鉄扇を握りしめる。
剣を握る手を狙って、握った鉄扇を振り切る。
身体強化もしているので、骨が砕ける嫌な音が周囲に響く。
バリトーは堪らず、剣を地面に落とす。
「がああっ!」
「おいおい。これくらいで終わると思っているのか?」
「ま、待ってくれ!」
俺は命乞いをするかのようなバリトーに威圧を強める。
そのとき、バリトーの視線が動き、ニヤッと笑ったのを確認した。
視線の向きに合わせて、そちらに向かって力いっぱい鉄扇を振る。
あの講師が、俺に向かって短剣を握って向かってきていた。
まあ、ものの見事に顔面に鉄扇がめり込んでいたがな。
「がはっ…」
「さて、頼みの講師も倒れたな?」
「ひ、ひぃ」
ふう、疲れたな…
さっさと終わらせてしまおう。
俺は握った鉄扇を勢いよく振りかぶり、軽く頭を殴る。
「ひゃぁ…」
気絶したか。
さて、ちょっと、もう、身体を動かすのがしんどいな。
最後に指示を出しておくか。
「おっと…」
倒れそうになる俺を受け止めてくれたのは、機械人形のドールだった。
閉じていく視界には、たくさんのチビダモナー。
ああ、あとは任せてしまっても、大丈夫そうだな。
「お疲れ様デス。
マスターの命令で休ませるように、と仰せつかっていマス。
何人にも眠りを邪魔をさせるなとも」
すまないな、アカネ。ありがとう。あとは、任せ、た…




