平穏とその裏
ここ最近は平穏そのものだ。
なぜなら俺が男装と女装を、気分で入れ替えるせいなのだが…
クラスの中で
『ディーノ派』『ディーネ派』
なんていう派閥が出来ているからだ。
平和だなー。
「ナンシーさん!明日はディーネ様ですよね!?」
「いいえ、明日もディーノ様ですよね!?」
「ええっと…」
「こらこら、ナンシーを困らせるんじゃないよ。君たち」
「ディーノ様…」
『はい、すいませんでした…』
「なー?だから、言っただろう?
気分で入れ替えていたら、派閥が出来るってさ」
「はい、反省しています…」
「髪の毛いじりたいがために、男女を入れ替えてたんだろうけどさ」
「うぅ、アカネ様のファッション誌が悪いんですー…」
「ははっ。アカネが聞いたら呆れるぞ~」
講義の合間の時間に訪れる休憩時間に、ナンシーと戯れている平和な時間。
こういう時間がいつまでも続くといいなあ。
まあ、最近はそれをぶち壊す輩が多いんだがな。
「おい、従者のくせにベンチに座るんじゃない!」
「んお~?」
「?」
「聞こえなかったのか?従者の癖にベンチに座るんじゃない!!」
「誰に向かって、言っているんだ?誰だお前?」
「君の従者に言っているんだ!従者の教育がなっていないぞ!」
「はあ?俺の従者がなんで、お前に従わないといけないんだ?
てか、マジで誰だお前?」
「ディーノ様、口調が…」
「はっ、従者が従者なら主人も主人か!礼儀がなっていないな!」
「ふう。喧嘩なら買ってやるぞ…」
「ひ、ひぃ…」
俺が魔力で威圧するだけで逃げ出す小物が何の用なんだ、マジで。
まったく、いい気分だったってのに…
「すいません、ディーノ様」
「んん?ナンシーが悪いわけじゃないだろ?
てか、最近あの手の小物が増えてきたな。マジで何なんだ」
「そうですね、少々気になります。
なんというかやり方が陰険というか、小物というか…」
「俺に直接絡まないで、ナンシーに絡んでくるんだよなー。まったく…」
「そうなんですよね。ちょっとした嫌がらせが多い気がします。
ヴォルクスさんが気づいて守ってくれるのですが…」
「俺の目が届かない位置では、ヴォルクスがいるからなんとかなっているが…
俺たちが完全に目を離したときが怖いな」
「私もなるべく気をつけていますから、大丈夫ですよ?」
「アカネにも言っておくか。ふう…」
その夜、アカネに最近小物たちがナンシーに絡んでくることを相談する。
膝枕されながら、髪の毛をさらさらといじる手が気持ちいい。
「そうね。私が感知しているだけでも多いわね。
私が出るわけにも行かないから、私も困っているのよね…」
「ヴォルクスに伝えてくれるだけ、助かってはいるよ」
「ええ、連絡を細かく入れているわ。
ホント小物のせいで、私の仕事が増えて嫌になるわ」
「すまないな、負担をかけて」
「別にいいわ、あなたのためだもの。あなたの心を守るのも私の仕事よ?」
「ふふっ。くすぐったい気分だ」
「あら。私の気持ちに気付いているはずなのに、放置気味の誰かさんは。
もうちょっと、私を大事にしてくれていいはずよ?」
「最近はこういう時間を増やしているじゃないか?」
「もっと、もっとよ?私は欲張りなんだから」
「ふふっ。そうだったな」
アカネの顔が近づいて、離れる。
「気をつけるべきは、あのドルリッジ侯爵家のバリトーとかいう男よ」
「ほお?」
「最近、下位クラスに顔を出しては子分を、作っているみたいよ?」
「なるほど、下位クラスね。どう取り締まろうかな~?」
「まったく、笑顔で言う言葉じゃないわよ?」
「こういうときはまあ、横のつながりからかな」
「そうね。クラスの子たちに助けを求めるのは悪いことじゃないわ」
「さっそく、明日から動こうかね。ふぁあっと」
「眠くなってきた?」
「ああ、今日は充電切れのようだ」
「私のためにありがとうね?おやすみなさい」
「いいんだ、これくらい。おやすみ」
お互いの距離が近づいて、間には何もなくなる。そして、離れる。
この距離感は癖になって、やめられそうにないな。
そして、微睡んで明日を迎える。
「すまないな、みんな」
「いえいえ。ディーノ様にはいつもお世話になっていますから」
「ディーノさんのお役に立てるなら、いつだって協力しますよ!」
「俺たちだって、たまには。なあ?」
俺は恵まれているな。
クラスのみんなに頼るだけで、お世話になっているからと言ってくれる。
こうやって、縁を結んでいくんだろうな…
卒業するときは、一方的に関係を切らずに。
なるべく、どこかにつないでやらないとな。
それが、せめてもの、俺の恩返しだ。
Side グリドール
「親父?こんなものを作れって、何がしたいんだ?」
「お前は黙って、言われたものを作ればいいんだ!」
「理由もなく、危なっかしいものなんて作りたくないぞ。俺は」
「黙れ!お前のせいで!お前のせいでっ!!この家が傾いているんだぞ!」
「はあ、俺はちゃんと忠告した。使えるものじゃないとも言ったはずだぞ」
「黙れ!」
「しかも、それを最新式だとか改良版だとか言って売り出すんだもんな。
呆れるぜ、まったく…」
「黙れ!黙れええええ!」
「親父、いい加減欲を出すのをやめろ。
亡くなった母さんも、こんなことを望んじゃいないぞ」
「お前に何が分かる!出ていけ!」
「はあ。いい加減、ディーノに相談するべきかな?」




