授業~魔法理論
初日の体力測定でダン講師を泣かせる。
という目標を掲げ、授業に挑み、目標通り泣かした。
倒れたダン講師を見て、
「あれ?これまずいんじゃね?」
と思った一部の生徒がほかの講師を呼びにいった。
呼び出された講師は、最初はそんな馬鹿なことがあるかと笑っていたという。
だが、生徒の必死さに負けて、やれやれと重い腰をあげた。
現場に駆け付けると、水を飲む俺と倒れているダン講師を発見する。
講師の中でも体力自慢のダン講師が泣きながら倒れている。
その講師は俺に何をしたんだと胸倉を掴むような勢いで話しかけてくる。
なので、とりあえず落ち着いてもらうために声をかける。
「お、落ち着いてください」
と言ってから、事実を話す。
「ただ走っただけですよ」
と説明する。
だが、ナンシーが誤魔化しを許すはずもなく、一部始終を説明して告げる。
説明を聞いた講師は青ざめ、学園の魔法医師を呼べと生徒に怒鳴った。
そして、この場は解散となった。
俺は着替えもせずに寮に帰り、アカネの下へ行き、風呂に入った。
さっぱりとしてから、湯上りのフルーツ牛乳を楽しんだ。
アカネはびっしょりと汗をかいた俺を見て訝しみ、ナンシーに説明を求めた。
ナンシーは頭を抱えながら説明し、それを聞いたアカネも頭を抱えた。
その頃の俺は風呂を満喫していた。
アレクとティナがアカネの下に帰ってきた。
夕飯を一緒に食べ、まったりとした空気を破ったのはアレクだった。
「ディーノ。伝説を作れとは言ったが、方向性が悪いぞ」
「なんのことです?兄上」
「『講師を泣くまで追いまわし、絶望の淵に追い込んだ一年生』
という噂がすでに流れていますのよ?」
「ははっ、随分とひどいことをする一年生がいるものですね、姉上」
「カオル?視線をこっちに戻してからしゃべりなさい」
「いや、ちょっと悪乗りしたら、思ったよりも粘るもんだからさ…
ちょっと本気を出してしまったというか、ごめんなさい」
「はあ。まあ、いい。よくはないが、今はいい。
これでバリトーもしばらくは余計なことを企むことはしないだろう」
「あなたが仕出かしたことで、講師陣が震えあがっているわ。
自分の講義で何をされるかわからないって」
「姉上、さすがに私も講師全員にあんなひどいことはしませんよ」
「ホントかしら」
意外と信用ないなーなどと考えつつも、あんなことは控えようと思っている。
食後のお茶を飲みながら、ポチを弄ぶ。
「んんぅ、ディーノ、そこじゃない、もっと左ー」
「おう、この辺りか~?」
「うん、そこそこー。あー、気持ちいい~」
まったりした空気の中、明日の講義を確認させられる。
明日は魔法理論のようだ。
理論だから、難しそうな話するのかな?居眠りしないといいなー。
「魔法理論と言えば、ジェダー講師か」
「私はジェダー講師の理論も正しいとは思いますが…
ディーノの理論のがより正しいと思いますね」
「そうだな。実際、我々はディーノのおかげで魔力が急成長した。
今までの家庭教師はなんだったのだというレベルで、だ」
「はあ、二人がそんなこと言うと、明日は不安だなー」
「カオル、自重しなさいよ?」
その日は、たくさん走ったおかげですぐに眠りについた。
ぐっすりと眠っていたので、頬に触れた感触には気づかなかった。
「今日は私の好きにさせてもらいますよ!」
「お手柔らかに…」
昨日、男装させてもらったので、今日は女装だ。
髪型をどうするかと真剣に悩むナンシーに、ファッション雑誌を見せるアカネ。
その中から気に入ったものを見つけたナンシー。
写真から判断して結い上げるナンシーの腕前は美容師も脱帽ものだ。
俺のつたない説明だと、後ろ髪を複雑なタイプの三つ編みにしたもの、だ。
すまんな、俺には説明できそうにもない。
教室についた俺に群がるのは女生徒だ。
男子生徒は遠目に眺めるだけ。
「でぃ、ディーネ様!今日はまた違った美しさですわね!」
「ディーネさんの髪型可愛い!」
「ふふっ、ありがとうございますわ。侍女が結ってくれたのよ?」
女生徒が髪型を褒めてくれるので、ナンシーを褒めてあげる。
男子生徒はぽーっとした顔をしている。
「ディーネさん、綺麗だ」
「そうだな、あれは美の化身だな」
「綺麗だとは思うけど、あれは男だぞ?」
「べ、別に性別は関係ないだろ!?」
「いや、お前の言い方だと関係あるだろ…」
男子生徒諸君、いくら綺麗だからって襲い掛かってきたら、潰すからね?
俺の考えと雰囲気に、男子生徒たちが股間を押さえる。
今日の講義のことを考えてると、グリドールがやってくる。
「やあ、ディーネ。今日は女装なんだね」
「ええ。昨日は侍女に無理を言って、男装にしてもらいましたから」
「性別が迷子過ぎて、たくさんの人が歪んでいきそうだね。ははっ」
「今日の講義、ジェダー講師の魔法理論らしいね」
「ええ、そう伺っていますわ」
「ジェダー講師の著書を読んだことはあるけど…
正直正しいのかって言われると微妙だと思っているんだ」
「そんなことを言っていいのかしら?」
「ディーネは、どうせ独自の理論を持っているんだろ?」
「さあて、どうかしらね。ふふっ」
「ちぇ、そう簡単に教えてくれないか」
「ディーネさん、グリドールくん。魔法理論って、そんなにたくさんあるの?」
「ん?一般的にはジェダー理論とディルミット理論の二大巨頭だよ?
細かい違いをつけて沢山あるって感じかな?だけど、基本はその二つだよ」
「へえ、詳しいのですね」
「私にはさっぱりだよー」
「私たちも家庭教師に教わるけど、教える人で理論が違うから混乱したわ」
「ホントね。細かい違いがある理論を説明されて困った覚えがあるわ」
「みなさんは苦労していらっしゃるのですね」
「ディーネ、みんな苦労しているんだ。君の理論を教えてはどうかな?」
「グリドール?その手には乗りませんことよ?」
「はあ。手厳しい」
そんな俺たちをあざ笑うかのような声が聞こえてくる。
「俺はジェダー理論が一番正しいと思うぞ」
「バリトー?」
「グリドール。
いくら学園だから身分は関係ないと言っても、敬称くらいはつけろ。
バリトー様だろうが」
「それで?そのバリトー様がジェダー理論を正しいと思う根拠は?」
「ジェダー理論は、魔法を使えば使うほど強くなる。
という単純明快で最強の理論だからだ」
なんて脳筋理論なんだ。てか、それを理論って名付けていいのか甚だ疑問だ。
話を聞いてもらい、気分がよくなっているのか、勝手にしゃべり続けるバリトー。
「実際、僕は訓練と実戦で魔法を使い続けている。
使うたびに魔力があがり、魔法の強さがあがっている」
「それを理論と言っていいのかしら…」
「なんだと!?」
俺はついうっかりと口をすべらせてしまった。
そこで教室の扉が開く。
ひどく神経質そうな女性、だよな?って感じのおばさんが教室に入ってくる。
「席に着きなさい!いつまで無駄口を叩いているのです!」
耳にキンキンと響く声だな。この人が脳筋魔法理論を提唱している人か。
「いいですか?魔法は使えば使うほど強くなるのです。
つまり、あなた方は今も強くなるための時間を無駄にしているのですよ?
その点をまずは理解していただきましょうか」
俺は聴く必要のない理論だなと思い、今日の昼食は何かな?と考えだしていた。
「あなた方は若い。
ですので、いくらあなた方が努力しようとも。
年季というものを超えられません」
はあ、早く終わらないかな、この講義。単位どうやってもらおうかな。
このおばさんより強い魔法を使って、ササっと単位もらおうかな?
「聞いているのですか?ディーノ王子!?」
「ええ。聞いていますわよ?」
「少し綺麗だからと女装して、男を誑かして何が楽しいのです!?」
「あの、それは今関係あるのかしら?」
「私の講義を聞けば、あなたの魔法は今よりずっと強くなれるのですよ!?
しっかりと聞きなさい!!」
俺は面倒くさくなった。ついでだしと思い、ある計画を思いつく。
念のためと思い、ジェダー講師の火力を確認する。
「では、ジェダー講師?あなたの最高火力を見せてくださる?」
「いいですわよ?あなたの度肝を抜いて差し上げます」
「ここでは危ないですわね、訓練所に向かいましょう」
訓練所に向かい、ジェダー講師に魔法を使ってもらう。
ジェダー講師は、的に向かって長々とした詠唱を行い、魔法を放つ。
放った炎の魔法は的を大きく焦がす程度だった。
強気だった割に、アレクが俺に見せたあの時の火力の方が上だぞ?
「古より続く盟約の炎よ!すべてを燃やし尽くせ!グランドフレイム!!」
「…」
「はあっはあっ、驚きすぎて声も出ませんか?」
「いえ、あの…
ちょっと馬鹿馬鹿し過ぎて、言葉が出なかったのです」
「なんですって!?」
「そうですわね、火力も確認できました。
これくらいなら、サクッと単位をもらえそうです」
「何を言っているのですか!?」
「ジェダー講師の講義期間って、どれほどなのですか?」
「私の高説な講義は、一年みっちり続けますわ」
「そんなにですの!?あ、いえ、失礼。そうですね。
あなたの最大火力を二週間で超えてみせましょうか」
「そんなことが出来ると思っているのですか!?
それに仮に出来たとしても、王家に伝わる秘伝の薬か何かでしょう!?」
「では、そうですね?
秘伝の薬を使っていると思わせなければいいのですね?」
俺はニヤリと笑う。あの程度の火力なら一週間もあれば超えられる。
「このクラスの女生徒たち全員にその証明を手伝ってもらいましょうか?
彼女たちに、あなたの最大火力を二週間で超えてもらいます。
それでいいですか?」
「なっ!?
…いいでしょう。
たったの二週間で私の最大火力を超えられるとは思えません」
「ついでです。
あなたの最大火力を超えた暁には、彼女たち全員と私に単位をください」
「ほお?強気に出ましたね。超えられなかったら?」
「私が申し出たことですから、私が責任を持ちます。私が学園をやめましょう」
「ええ!?」
「そんな!!」
「無理ですよ、ディーネ様!」
「ちょうど、二週間後にジェダー講師の講義がありますよね?
そこで白黒つけましょう」
「ええ!ええ!いいでしょう!!
そこの女生徒たち全員が、私の最大火力を超えられたのなら…
挑戦したあなた方全員に単位をあげましょう!」
「ええ。失敗した場合は私が退学。よろしいですね?」
『えええええ!?』
巻き込んで、すまんね。クラスの女生徒諸君。
でも、サクッと単位もらえるんだし、しっかり協力してくれよな!




