入学式~自己紹介
起きちゃった。だから、書いた。今度こそ、年内最後だと思います!
よいお年を!!
魔法学園の入学式まですることがなく、寮で待機するしかない。
早く移動し過ぎたな、と思ってしまうほどには暇なのだ。
だが、ゆっくりとし過ぎると、今度は事前試験会場が埋まるほどに人で溢れる。
さらには、寮に入れないなんて事態が発生する。
あの程度の試験の対策に、時間をかけるなんて馬鹿馬鹿しいと思っていた。
だが、この世界基準ではそれなりには難関のようだ。
それからしばらくは寮生活を我慢していた。
だが、ついに我慢が出来なくなり、ナンシーとヴォルクスの制止も振り切った。
アカネに連絡をとり、扉を設置してもらい、アカネの下で過ごすことにした。
無駄に寮の外に出る理由もなく、寮に引きこもるのだ。
そして、寮の食事の時間になり、食堂の食事を食べた。
だが、衝撃を受けるほどにこれが美味しくないのだ。
こんなところにも学園長の怠慢があった。
そういうわけで、いくらなんでも食事には耐えきれなかった俺。
することもないんだからいいじゃないか、と侍従たちも説得した。
それからは、アカネの下で食事をしている。
今はアレクとティナもここにいる。
「くっ、こんなことなら恥だとわかっていてもだ…
我慢せずに、アカネ殿の下に向かって、食事を頂けばよかった」
「私もです。
アカネ様のご飯がここまで美味しく感じるほどです。
あの食堂の食事はよっぽど美味しくないのですね」
「そこまでなのね。その食堂の味って…
三人揃って、涙まで流しちゃってさ」
「アカネにはわからないさ!
あの薄ーい味つけで、量だけはある食事を。
あれをおいしいだなんて言うのは、日本人には無理だ!」
「はいはい、今日は男装だから、いつもよりも本音が出ているのね」
「アカネ殿、卒業まで食事をお願いしてもいいだろうか?」
「アカネ様、私もお願いします。
この味を知ってしまったら、もう戻れません!」
「アンタたち、そこまで切実だったのね…
まあ、カオルの面倒も見ないといけないからね。
そのついでって形でならいいわよ」
「アカネ殿!ありがとう!感謝する!!」
「アカネ様!ありがとうございますわ!!」
「アカネのご飯がなかったら、俺は…」
「はいはい、そこ!暗黒面に堕ちないの。まったく、もう…
もういっそ、基本的な生活はここでしちゃえば?」
「そこまで甘えていいのだろうか?」
「い、いいのでしょうか…?」
「どうせ部屋数は余っているわ。
こっちで寝起きして、向こうで勉強して帰ってくればいいじゃない。
秘密の話もできるでしょ?
あ、でも、多少は自分のことは自分で出来るようになりなさいよ?」
「あ、ああ。お願いする!
それくらいであの食事を回避できるなら、いくらでも努力する!」
「私もお願いします!私もある程度は自分で出来るようになります!」
「アカネ、俺も頼むぞ。しばらくは何もないんだ。みんなで遊ぶぞ!」
「はいはい。みんなまとめて面倒見てあげるわよ、まったく…」
俺たちはアカネの下で生活することに決めた。
何もない今は地球産の遊び道具などで遊び倒したのだった。
そして今日、ようやく学園でのイベントがある。
憂鬱だ。
「ほら、カオル!しゃっきりしなさい!
もうアレクくんとティナちゃんは出ていったわよ!」
「外出たくない、もっと遊びたい」
「あーもう、引きこもりになるなら、寮にある扉を消すわよ!?
これから五年間、まずい飯でいいの?」
「それは困る!はあ、頑張るか。いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
「まずはお着換えからですね~?」
「ああ~。この感じも久しぶり~!」
俺はナンシーの手により、ピシッとした魔法学園の制服に着替えた。
今日は女装なので、化粧はうっすらとだ。
鏡を確認し、ナンシーとヴォルクスにも確認してもらった。
準備が出来たので、講堂に向かう。
魔法学園の制服は基本的に黒をベースとし、王族は金糸で装飾する。
それ以外の貴族は銀糸で装飾、一般枠で入学した生徒は白い糸を使うのだ。
装飾に関して、決まりはなく、好き勝手に改造していいのだ。
しかし、あまりこだわると奇異の視線に晒される。
装飾なんて、縁取りとワンポイントでいいだろって思った俺。
あれこれ施そうとする侍従を、主にナンシーにだが、厳しめに注意した。
危なく金糸だけが目立つ制服を着るところだったよ。
入学式を行う講堂にやってきた。
適当に前から座ってくれというようなことを丁寧に言われた。
俺は言われた通りに前の方の椅子に座る。
一番前は嫌だったのだが、不自然に空いていたそこに座るしかなかった。
座った瞬間に周囲がざわりとした。
だが、入学式なんて久しぶりだななんて見当違いのことを俺は考えていた。
入学式、人が揃ったようで始まったのだが、必要なのか?
と思うほどにあっさりとしたものですぐに終わった。
あの学園長が面倒くさがって、こんなに短いんだろうなと考える。
この後はクラス分けの紙に従って、自身のクラスに移動するだけだ。
クラス分けの紙の前はさすがに人が群がっている。
どうやって確認しようかなと人の群れを前に考えている。
すると、目の前の子が見えないと諦めたかのように振り向き固まる。
その後、慌てて前方の人の肩を叩いて、何かを知らせる。
それを繰り返すことで、人垣が割れる。
まるで「どうぞ」と言われているかのようだった。
感謝しつつ、クラスを確認する。
どこかな~?って思って探していたが、満点って言われたんだ。
上位クラスから探すのが早いなと気づく。
俺の予想通りに「Aクラス」に名前があった。
周囲が親切な人で良かった、思ったよりも早く見つけられた。
周囲に軽く頭を下げ、
「ありがとうございますわ」
と言って歩き始めると、モーセのごとく、また人垣が割れる。
校舎に入り、てくてくと歩き、目的の教室に入る。
どうやら俺は遅い方だったらしく、教室に入ると周囲の視線を集めてしまう。
どこに座ろうかなあと考え、窓際一番後ろの席が空いていたのでそこに座る。
あー、日光が気持ちいい。
ユグじゃないけど、寝ちゃいそうだ。
うつらうつらとしそうになりながらも目を閉じていた俺。
担任の教師が大声をあげながら、教室に入った音で目を開ける。
「よーし、今年のAクラスの人員も粒ぞろいだな!
だが、何人かは下位クラスに落ちるだろう。
毎年落ちる奴がいるからな!」
う、うるさい。てか、あのときの試験官の人じゃん。
まさか担任になるなんて…
はあ。静かに生きたいよ、まったく。
「じゃあ、自己紹介を始めるぞ!まず、俺からだ!
俺は身体魔法を得意とする実践派の講師ダンだ!よろしくな!!」
ダン講師ね、熱そうな男でやんなっちゃうよ…
「じゃあ、次はお前だ!」
と、次々と指名していって、自己紹介が続く。
俺はコネを作る理由がないので、基本的にスルーだ。
と、ここで問題の人物の名前が出たので、目を開いて確認する。
身長は高い。制服に使われてる糸は白色だ。
一般枠の学生ということが一目でわかる。
Aクラスに入れる頭脳があるということで、かなり賢いんだなと思われる。
「グリッジ魔道具店のグリドールです、よろしくお願いします」
言葉遣いも丁寧っと。うん、好印象だ。
だが、舌打ちと小声で罵倒する声が聞こえた。
「ちっ、使えない魔道具を売る貧乏人が…」
グリドールはピクッと反応したが、顔には出さずにスッと座る。
「じゃあ、次はお前だ」
声のトーンが若干下がっているダン講師。
先ほどの選民思想にまみれた言葉が聞こえたんだろう。
そして、指名された生徒が立ち上がり自己紹介する。
「ふん、ドルリッジ侯爵家のバリトーだ。
今のうちに頭を下げに来い。使ってやるぞ」
場がシーンとする。
落ち目の貴族の息子が偉そうにする意味が分からない。
こいつ、もしかして親のしでかしたことを一切聞いていないのか?
親の言いなり、七光りを利用して好き放題してきた子供か。
近づけば、面倒しか起こさないことが分かる奴に頭下げる奴いるのか?
誰も視線を合わせようとしていないのがこの席から見える。
なので、俺が考えていることは的外れではないだろう。
「次で最後だな。って、お前はあのときのか」
ダン講師、知り合いみたいな言い方で指名しないでくれません?
席から立ち上がり、仕方なく自己紹介をしようとすると…
それを遮るように口を開き、嘲りの言葉を吐く奴がいた。
言うまでもない、バリトーだ。
「男女め、何だその格好は。恥ずかしくないのか?」
場が凍り付く。
どうしようって、空気が流れるが、俺はそんな空気を無視した。
そして、母上と王宮メイドたち直伝のカーテシーを披露する。
一瞬で空気が変わる。
場を掌握したのを確認して、堂々と胸を張り自己紹介をする。
「ディーノです。この姿の時はディーネと呼んでくださいね?
趣味はモノづくりです。気軽に話しかけてください」
先ほどのバリトーの自己紹介と比べたら、百点満点だろう。
男子生徒も女生徒も、うっとりとして、ため息を吐いている。
ダン講師も呆けていたが、俺が座る音で気を取り直し、進行を再開する。
この後は各施設を見て回りながら紹介されるだけだ。
めぼしい施設は頭の地図に入れ、それ以外はぼんやりと覚えるだけだ。
再び教室に戻り、明日からの予定を伝えられる。
初日から体力測定のようなことをするのか。だるいなあ。
「明日は動きやすい格好を用意して来いよ!延々と走ったりするからな!」
教室内の空気が不満そうになる。
『延々と走る』か。
アレクから伝説を作れと言われていたな。
ちょっと思いついたので、やる気を見せる。
ダン講師。
泣いても許さないからな~、はっはっはっは!




