新しい侍従と健康計画
新型の体感訓練機として、こういうのを作りたいという仕様書をもらった。
外部に流れてもいいものって言ったのに、これは流出しちゃダメな奴じゃない?
仕様書を眺め、こうした方がいい、こうすればどうか?とメモ書きを加えていく。
ついでに、体感訓練機の展望も書いておく。
うーん、新たな声優を募集するという噂を流して、俳優や女優を探してみるか。
今度は騎士にも聞いて、募集範囲を広げてみよう。
騎士に声優仕事をしてもらうのは申し訳ないが…
選ばれた以上仕事はしてもらう。自分の声質を恨むんだな!
現在、女優の売り上げは悪い。俺という一位の壁を越えられないのだ。
俺は自分に合ったセリフを即興で考えられる。
だが、彼女たちは声を聴いてから…
俺がその場で安直なセリフを考えなくてはならない。
そのせいで、本当に本人に合ったものなのかという判断が難しいのだ。
可能なら男役という女性声優を発掘したい。
男性の分も同じではないかと思われるのだが…
女性が求めるものという点では作りやすいのだ。
だが、その分売り上げがブレやすい。
男性声優は声質で気に入るかどうかであるのだ。
サンプルボイスでのファーストインパクトがとても大事なのだ。
録音機のことを考えていたが、ナンシーが困ったように話しかけてくる。
「お嬢様、そろそろ侍従を追加で雇ってほしいのですが…
お嬢様の身の回りが、私一人では回りきらないかもしれません」
「そんなに、ですの?」
「ええ。今まではお嬢様が仕事をしていなかったからなのですが…
そのおかげで、私一人でも回っていたのです。
しかし、さすがにそろそろ厳しくなってまいりました。
申し訳ありませんが、人手を増やしてください。一人か二人ほどお願いします」
「お母様に相談かしら?」
「奥様周辺の王宮メイドたちは、奥様に忠誠を誓っていますので難しいかと。
私としては、力仕事もこなせる男性の方がよいのですが…」
「なるほど。なら、なるべく声質のいい殿方がいいですわね!」
「お、お嬢様?基準がおかしいのではないでしょうか?」
「大丈夫ですわ!
ナンシーもコロッと堕ちそうな素敵な声の殿方を見つけてきますわ!」
「はあ。力仕事と書類仕事ができる方がよいのですが…」
「お任せなさい。
その点も含めて出来るナンシーと相性のいい殿方を見つけてきますわ!」
「お、お嬢様!?」
そういって、護衛を引き連れて侍従探しを始めた。
ナンシーはとても困惑していたので、そのまま部屋に置いてきた。
まずは父上の執務室に向かう。
人事に詳しい大臣さんや文官さんに、いい人材がいないか聞いてみるのだ。
「おお、ディーネ!今日はどうしたんだ?」
「今日はお父様に特に用事はありません。
人事や人材に詳しい大臣や文官の方に用があるのです」
「はい!俺、人事担当です!」
「ディーネお嬢様、どのような経緯で、どのような人材を探しているのですか?」
俺はがっくりと項垂れる父上をスルーして、若い文官もスルーした。
大臣が聞いてきた経緯と欲しい人材について話す。
大臣がふむと顎を撫でて、考える。
条件に合う侍従がいるらしい。
だが、どうも体調不良を理由に仕事を辞めたいと言っているらしい。
仕事もできる人材だったので、粘って仕事していてもらっていた。
しかし、ついに体力に限界が来たらしい。
私はその人が欲しいと思い、急いで面接したいと話す。
大臣はササっと指示を出し、本人を応接室に呼び出してもらった。
仕事ができる人って素敵!って思ったのだが、つい口に出てしまったようだ。
周囲の動きが変わった気がする。
「ありがとうございます、お嬢様。
本日は少々皆がだらけていたので助かります」
「ん?よくわからないけど、手配してくれてありがとう、大臣!」
「名前も覚えてもらえないくせに、生意気な…!」
「ああ、お嬢様?私の名前はディードです。以後お見知りおきを」
「ディードね、覚えたわ!じゃあ、応接室に私は向かうわね!」
「ええ、いってらっしゃいませ」
執務室を出たあとの口喧嘩の様相など、私は知らない。
今は応接室に向かわなくちゃ!
「お嬢様、お呼びとあって、参りましたがどのようなご用でしょうか?」
ファーストインパクトはすんごい。これはイケオジという奴では?
パッと見、とても仕事が出来そう。
力仕事に書類仕事、それ以外も卒なくこなしそうな印象を受ける。
だが、残念なのは声がガラガラなのだ。
聞こえてくる声はよく聴くと美声かも?と感じるが、判断しづらいところだ。
とりあえず、今は用件を伝えよう。
話はそれからだ。
「あなたを雇いたいと思っているの。
あなたは体調不良で辞めようとしているのでしょう?
なら、私が治してあげる!」
「お、お嬢様自らですか?」
「ええ、安心して、きっと治してみせるわ」
「ですが、私の場合、魔法医師すら匙を投げたほどですよ?
大丈夫ですか?」
「まずは調べさせて?治療方法はそれから考えるわ」
「わかりました。
私の病状がもしも治った場合は、お嬢様に忠誠を誓いましょう。
私も実はまだ働きたいと思っていたのです」
「わかったわ。じゃあ、まずはサーチ」
俺は頭から足元まで病床がどこにあるのかと探索魔法を使って調べる。
外傷ではないということはわかった。
だが、調べているときに胸の部分に違和感を感じた。
「外傷ではないけど、胸の部分に違和感を感じたわ。
前をはだけてみて、次は胸を重点的に調べてみるわ」
「お、お嬢様!?」
「大丈夫よ。今、ここには護衛もいるから変なことはしないわ」
「わ、わかりました…」
胸元をはだけてもらう、随分と鍛えているのだろう。かなり筋肉質な身体だ。
余計なことは考えず、今度は胸部の内部を重点的に魔法で調べる。
うーん、これは主に肺かね?
呼吸器系の臓器、すべてに反応があった。
なんとなくではあったが、質問してみる。
「あなた、もしかしてタバコを吸っている?」
「あ、はい。昔から吸っていますね」
「はあ。原因はそれね。呼吸器系の器官が軒並み反応したわ」
「すごいですね、お嬢様。魔法医師も匙を投げた原因をつきとめるだなんて…」
「問題はここからなのよね。
原因はわかったけどどうやって、こびりついた臓器の汚れを取るのか思案中よ」
「治せる、のでしょうか?」
期待に満ちた視線を投げかけてくる侍従さん。
まだこの人の名前を聞いてないことに今更気づく。
体内を綺麗にする。浄化の魔法でいいんだろうか…?
だが、体内にまで浄化の魔法が届くかわからない。
うーん、体内にまで届く浄化の魔法。何かあった気がするんだけどなー?
あ、あれか!あれならいけるかも!
使ってみて、反応するかわからないけど、試してみる価値はあるかな?
「私の私室に向かうわよ!もしかしたら、治せるかもしれないわ!」
「お、お嬢様!
そのようなことをほかの人には、絶対に、絶対に言ってはなりませんぞ?」
俺は首を傾げるが、護衛たちはうんうんと頷いている。
何かを間違えたようだ。だが、今は治療が先だ!
部屋に向かうぞ、君たち!
「お嬢様?それに、ヴォルクスさん…?」
部屋に入ると、ナンシーが驚いたようにこちらを向く。
この人の名前はヴォルクスさんね、覚えたよ!
「ナンシー、美顔器を持ってきてくれる?それと浄化の魔法液も」
「は、はい!わかりました」
「動揺してはなりませんよ、ナンシー。
行動している最中に主人の求めるものを理解するのです。
まあ、今回はさすがに私にもわかりませんがね」
「はい、すいません!」
どうやらヴォルクスさんは、ナンシーの指導員的な立ち位置の人みたいだ。
美顔器と浄化の魔法液を持ってきてもらい、蒸気があがるのを待つ。
「ヴォルクス、今回は浄化の魔法液を使って、体内の汚れを浄化するわ。
しばらく、この美顔器に顔を突っ込んでみなさい?」
「わかりました、お嬢様。では…」
「お嬢様、どうしてこちらにヴォルクスさんを?」
「私とナンシーが求める人材だからよ?何を言っているの?」
「ええ!?」
ナンシーが何か激しく動揺している。何かあったのだろうか?
ナンシーが面白百面相をしている間に、変化があった。
ヴォルクスが激しくせき込み始めたのだ。
「大丈夫!?ヴォルクス、苦しいなら吐き出しなさい!」
「ごほっ、ごほっ、ごぼっ!!」
「大丈夫ですか!?師匠!!」
「はあ、はあ、大丈夫です。あなたに『師匠』と呼ばれるのも懐かしいですね」
なにやらラブロマンスの雰囲気を感じる。
だが、美顔器内の薬液と吐き出した際の物がハンカチに付着している。
私はそれを鑑定魔法を使い、詳しく調べる。さらに、ヴォルクスの体内も調べる。
「ナンシー、ヴォルクスの前をはだけなさい。状態を詳しく調べるわ」
「わ、わかりました。し、失礼します」
「お嬢様、何かわかったのですか?」
「とりあえずはだけどね。
浄化の魔法液によって、臓器から汚れが分離して、その汚れを吐き出した。
と、みるのが一番かしらね?」
「お嬢様、ヴォルクスさんはどこか悪いのですか?」
「そうね、このままじゃ早死にすることは確実ね。
でも、浄化を続ければ何とかなると思うわ」
「うぅっ、師匠。ししょ~」
ナンシーが私の説明に子供のように泣き出してしまった。
伝え方を間違えたか?と焦るが、今は事実を伝えていく。
「ヴォルクス、しばらくは美顔器を使って、体内を浄化しなさい。
仕事はそれからよ」
「はい、わかりました。大事なものをなくすところでした。
ありがとうございます、ディーネお嬢様」
「あら、私のことを知っていたのね?」
「ええ、毎日のように聞いていたので…」
穏やかな表情をするヴォルクス。その手は泣きじゃくるナンシーの頭の上に。
空気をあえて読まない私。手を強くたたき、大きく音が鳴るようにする。
「では、命令よ!ヴォルクス、あなたはこれからタバコ厳禁!
そして、美顔器を使い続けなさい。
むせて、黒い吐しゃ物を吐かなくなるまでよ!
しばらくは美顔器に頭を突っ込んでいなさい!」
「た、タバコ厳禁ですか!?」
「あなたの症状はタバコから来るものよ。
今度、禁煙アイテムを持ってくるから、この際だから禁煙しなさい!」
「そして、ナンシー!仕事は増えるけど、今だけよ。
ヴォルクスの容態をチェックして報告しなさい。
禁煙にも協力するのよ?ヴォルクスの健康のために。
完治したら、それまでの分を返してもらうように働いてもらいなさい」
「はい!喜んで!」
こうして、不健康執事を改善するためにナンシーと共に動く。
日がな一日中、美顔器に顔を突っ込んでいるヴォルクスの姿は面白い。
むせて吐いた時に見せる顔から恨めしそうな視線を感じるのだが…
お前の不摂生が悪いのだと突っぱねる。
ナンシーは俺の世話、雑務仕事、ヴォルクスの世話とくるくると働く。
疲れた姿は見せず、むしろ嬉々としている部分が見受けられる。
一週間くらいだろうか?
もう黒いものを吐かなくなったと言うので、診察をする。
うん、呼吸器系の臓器からの反応はない、綺麗になったようだね。
向こうの世界にはない、魔法の力ってすげーなって思った瞬間だった。
ということで、ヴォルクスには働いてもらう。
そして、今度は禁煙だ。
すでに禁煙アイテムはアカネに頼んで作ってもらっている。
アカネも俺と同じで喫煙しないので、禁煙の大変さを知らない。
一般論では、かなり難しいと聞いている。
まずは、持っているすべてのタバコを没収して処分する。
隠し持とうとしても無駄だ。俺の魔法とポチに匂いで探してもらう。
ここ掘れワンワン状態ですべてのタバコを処分した。
絶望するヴォルクスの表情はとても面白かった。
特に、火魔法ですべてのタバコを燃やしていくのを見る姿に哀愁漂っていた。
ナンシーが禁煙アイテムを管理する。
ナンシーの命令を素直に聞くポチが、ヴォルクスにタバコを吸わせない。
ヴォルクスがポチを懐柔しようとする小賢しいことをしていた。
ポチが流されそうになっていたが…
ナンシーの低いトーンの声を聞いただけで、ポチが震えあがっていた。
何をして何をされたんだ、ポチ。
しばらくして、禁煙にも成功したヴォルクスが
「もう二度とタバコは吸いません」
と男らしく宣言していた。
だが、城内でアカネを見かけると、禁煙パイプを要求しているらしい。
そんなに吸いたいのかと思ってしまった…
それをアカネが許していたのが悪かった。
ナンシーがアカネにキレ倒し、情に訴えと色々とした。
その結果、以後禁煙パイプすらアカネは渡さなくなった。
ヴォルクスが本当の男になるまで、随分と時間がかかった。
細長いフライドポテトを吸おうとしていたところを見たときは…
さすがに重症だなと思ってしまった。
俺はタバコを吸うつもりはないが、絶対に吸わないと誓った。
誰が悲しくて、あんな哀愁漂わせてポテトを吸うかって言うんだ。
ナンシーに対して、アカネも申し訳なさそうに
「これくらいならいいか」
と禁煙パイプを渡してしまったことを、反省していた。
ポチのしつけにも影響が出て
「あのおじさん嫌い!」
と言っていた。
声優探しがなんでこんなことに…
まあ、健康になったヴォルクスは無事(?)に、美声を取り戻した。
浄化の魔法液のおかげで、喉の違和感もすっきりなくなったそうだ。
これで次の録音時のバリエーションが増えるな。
侍従も新しく雇えたし、一石二鳥って感じがする。
はあ。それにしては、疲れたな…
俺は疲れ果ててしまい、しばらく体感訓練機も進まないだろうと考えた。
メモ書きを加えた仕様書をゾロ宛に、ヴォルクスに届けてもらった。
その後、俺はコルネリウスの下に、今回の疲れを癒してもらうために向かった。




