母上と王宮メイドによる矯正再び、追加人員あり
それは珍しく母上からのお茶会に呼ばれたことから始まった。
母上の私室に入ると、アレクとティナもいた。
ティナからは家族になるのだから、呼び捨てにしてと言われたのだ。
アレクとも呼び捨てにして呼び合っているらしい。
仲睦まじいことはいいね。
母上は魔法学園にもうすぐ入ることになる二人に用事があるようだ。
だが、俺まで呼ばれる理由がわからない。
二人の現在の成績を確認する母上。それと同時にナンシーからの報告を話し出す。
「二人の現在の勉学、マナー、魔法訓練などの成績は…
すでに卒業レベルと言ってよいでしょう。
ですが、まだ甘い部分があります」
「甘い部分ですか?母上」
「お、教えてくださいませ、リリー様!」
俺は何か嫌な予感を感じる。
「優雅さです」
「優雅さ、ですか?」
「どのようにすれば、優雅になれるのでしょうか?」
「仕草、口調などですわね。
お二人、いえ、お三方には私たちがみっちりと矯正させてもらいます」
「お、お母様?わたしは以前矯正したので、大丈夫ですわよ?」
「ナンシーから報告を受けています。
地下にいる間のあなたの口調の乱れについては。
この際です。
あなたも魔法学園に入学までにみっちりと矯正しようと思います」
「僕もそこまで、矯正しなくてもいいと思うんだけど…」
「あなたは王となるのですよ?
いつまでも一人称に『僕』を使っていては周囲に舐められます。
学園入学までに直しますよ!」
「私は以前からディーネ様の所作に憧れていました。
ここでさらに磨けるのであれば、磨きたいです!」
「その意気です、ティナ」
「はい、リリー様!」
「今から私と王宮メイドたちのことは、先生と呼びなさい。
彼女たちの所作も今のところはあなたたちよりも洗練されたものです。
短い期間ですが、学び続けなさい」
「はい、先生方よろしくお願いします!」
くっそお、ナンシーめ!母上にチクったな!
なんか小言が少ないなって思ってたんだよ。この日のためだったのか!
しかも、ティナがやる気を出してしまい、俺もアレクももう逃げられない。
そうして、毎日のように矯正され、地下に逃げてもナンシーがついてきた。
口調に目を光らせているため、口調を崩せない。
アカネは母上の動向を確認してからは納得して、がんばれと声をかけてくれた。
唯一の救いは男装を許してくれたことだ。
男装している間は本来の言葉遣いを使っていいとのこと。
ただし、王族としてふさわしい口調は崩さないように、とそちらも矯正された。
男装している間は、ぐったりとしているアレクと何か熱いものを感じた。
肩を叩き合い、お互いに頑張ろうと気合を入れることが出来て楽しかった。
久々の『兄弟』としての交流だった。
ティナと女装している俺は、母上や王宮メイドたちの厳しい視線に晒されながら、歩く動作からお茶を飲む所作、笑い方まで矯正された。
髪をかき上げる仕草一つとっても、厳しい指示が入る。
その結果、俺たちは新たな力を手に入れた。
まず、アレク。
一人称が『私』になり、子供っぽさがかなり抜けた。
身長さえ伸びてしまえば貴公子と呼べるだろう。
まあ、実際王子様だから、貴公子なのは当たり前か。
次に、ティナ。
女性の成長は早いため、彼女の見た目はすでに大人に近い。
少女っぽさが抜け、一人前の女性という大人の色香を纏いだした。
王妃教育も合わさり、その視線には力強さを感じる。
そして、最後に俺。
女装している間は、俯瞰視点で物事を考える力を身に着けた。
まるで、自分が自分じゃない感覚である。
心だけは渡さないという強い意思を継続できた。
さらには、男装した際の口調も学んだ。
王族として恥ずかしくない口調を、服を着替えるだけで男女に切り替える修行は、本当に大変だった。
「少々、危なかったわね。
魔法学園の事前試験までに間に合うか不安でしたけど、間に合いましたわ」
「母上、ここまでの所作を学ぶ機会は滅多にありません。
ありがとうございました」
「先生方のおかげで、私もより洗練された所作ができるようになりました。
感謝いたします」
「…」
「あら、ディーネ?あなたからは何もないのかしら?」
「いえ、私はまだこの後も続きます。
なので、ここで終わりだという雰囲気を出すのは違うかなと思いました」
「そうですね。
あなたに関しては学園入学まで続けるつもりです。
今後も頑張りなさい」
ここでアレクの腹黒い視線を受ける。
「お前はまだこの地獄が続くんだな、頑張れよ」
と面白がる顔だ。
ティナからは、
「まだ洗練されるのですね、負けていられませんわ!」
と対抗心を燃やされた。
アレクはどうしてやろうかと考えていると、母上が入学に向けての話をする。
「向こうでは基本的には、寮生活です。
長期休みでない限り、寮生活を続けなさい。
その中で、あなたたちを支える臣下を見つけるのです。
今の文官たちを採用してもいいですが、次代を育てることも忘れないように。
優秀な者には目をかけなさい」
「はい、母上。私も寮生活は楽しみです」
「リリー様が学生のころは、どのように過ごされていたのですか?
学生時代の生活を聞いてもよろしいですか?」
「今と変わってる部分もあるでしょうが…
お茶を飲みながら、思い出話でもしましょうか」
こうして、母上の思い出話を聞きながら、俺も学園生活を夢見る。
まあ、二人には事前試験というテストがあるみたいだけどな。
でも、二人なら余裕なんだろうな。




