アカネの告白、俺の決意、二人の約束
「おーい、じっちゃんたち!不便はないか?」
「大丈夫じゃよ。すまんなあ、ワシらはこんなときになにも出来ん存在じゃ」
「そんなこと言うなって!
じっちゃんたちには少しでも明るく過ごしてほしいからな!」
「そうか、ワシらはまだ生きていていいんじゃな…」
「おう!ゆっくりと余生を過ごしてくれ!
そうだな?たまに子供たちに昔話でもしてやってくれ。
あいつらは俺たちの話を嘘だって決めつけるんだぜ?」
「ははっ、そうじゃな。こんな老いぼれでも、話くらいはできよう。
子供たちの相手くらい任せてくれ」
「じゃあ、俺は行くな?何かあれば、周りを頼ってくれ」
「大丈夫じゃよ、ダモナーやドールさんたちがおるからな」
「それもそうだな、んじゃあな」
地下ダンジョンの復興は進んでいる。
ダークエルフの長老の魔法で、家々はボロボロにされた。
だが、これを機に家々の設計の甘い部分を指摘して、修繕する。
ここまでするのだからついでにと、区画整理をしようという話にもなった。
スラム街の大工たちと共に作り直している。
アカネも暗い顔を隠して、大工たちと共に区画整理を行っている。
動くことで今は色々忘れたいのだろう。
俺も俺で考えることがあるが、今は考えずに大工たちと共に家々を建てている。
アンナの容態だが、俺のエリアヒールで一命を取り留めていた。
アカネがこんな時のためにと作っていたエリクサーで完全回復した。
だが、思うところがあるのか、日々ベッドの上で何かを考えている姿が伺える。
そんなアンナの暇つぶしにと、聖樹ユグドラシルの枯れ枝の鉢植えを渡した。
あのときの俺のエリアヒールの範囲に入っていたためか、枯れ枝だったのが、立派な葉をつけた枝になっていた。
アンナはそんな聖樹に水やりをして、たまに話しかけていた。
反応がないことにため息をつき、葉を撫でている姿をよく見かける。
そして、一番問題だったのが聖獣フェンリルの子供だった。
尊大な態度をとるのだ、こいつが。
獣人が聖獣を敬っていても、態度が悪い子供には敬う気持ちはないようだ。
そんな聖獣フェンリルの子供を見て、困っていた俺たちだった。
だが、ある日、母上の王宮メイドたちが地下ダンジョンにやって来た。
アカネが聖獣フェンリルの様子を母上に愚痴を吐きつつ相談したところ。
メイドたちを連れていきなさいと言われ、連れてきたらしい。
「ボクは聖獣フェンリル!偉いんだぞ!敬え!人間ども!!」
「あの調子でして…」
「ふむ、まだ子供のようですね。では、みなさんあの子をしつけましょう」
王宮メイドたちが聖獣フェンリルを取り囲む。
そして、まずはなでなでから始まり、ブラッシング、洗浄を行う。
犬であることを徹底的に教えこむように、お手やお座りなどを教え込む。
遊ぶことも教える王宮メイドさん。遊びの中で、褒めることも決して忘れない。
最後にアカネが用意した専用の首輪をつけて、しつけは完了だ。
大きく成長するただの白い犬だと骨の髄まで教えこまれたのだ。
元聖獣フェンリルは、アカネによりポチと名付けられた。
「ボクは聖獣なんだぞ!偉いんだぞ!
何するんだ!?あ、そこ気持ちいい、もっとなでて…」
「大きなワンちゃんですねー、ここが気持ちいいんですかー?」
「ボクはせいじゅうなんだぞ、うやまえー。あー、きもちいい…」
「久しぶりの大型犬です!ブラッシングの腕がなります!」
「ボクはせいじゅう、あー、そこそこ!」
「おっきなワンちゃんですね、キレイキレイしましょうねえ!」
「きゃいん!きゃいん!やめて!そこ洗わないで!あ、でもすっきりする…」
「では、お手!」
「お手?」
「ここにこちらの手を乗せるのです!出来たらおやつをあげますよ?お手!」
「わかった!お手!」
「よくできましたね。はい、おやつですよ~」
「むう。おやつ、ちっちゃい…」
「では、おかわり!今度は反対の手を乗せるのです!」
「おかわり!」
「よくできました、おやつですよー?」
「指示に従えば、おやつくれるの?」
「そうですよー?緊急時以外はこのようにして、おやつを与えます」
「うん、わかったー。次の指示はー?」
「これが最後です、お座り!」
「こうでいいのかな?上手にお座りできてる?」
「ええ、出来ていますよ!いい子いい子!おやつもどうぞ!」
「わーい、ボクいい子?おやつもおいしい!」
「それでは、取ってきなさい!」
「わん!」
「よく出来ましたね、いい子いい子!」
「ボクいい子?」
「はい。言うことを聞けて、とってもいい子です!」
「わーい!」
「では、もう一度!」
「わん!」
「では、アカネ様。用意した首輪を」
「ええ。あなたの名前はポチよ?わかった?」
「うん、わかった!ボクの名前はポチ!ただの白い犬!ボクいい子!」
「これからよろしくね、ポチ!」
「うん、マスター!」
そして、深夜。この日、俺は夜更かしするために、昼寝を十分にとった。
ナンシーには理由を説明し、仕方ないですねの小言一つで許された。
アカネの部屋をノックする。
部屋から気配が複数動く。
たぶんダモナーやドールたち、それとポチだろう。
「どうしたの、カオル?こんな夜更けに?
ナンシーさんに怒られちゃうんじゃないの?」
「ナンシーにはちゃんと説明してきたよ。
ちょっと、ちゃんと向き合って話をしようかなって」
「そう。今日は冷えるから、ココアでも淹れましょうか」
「マスター、私が淹れてきます。しばらくお待ちください」
「うん、ありがとう」
ダモナーとドールたちが出ていく。
不思議そうな顔をしていたポチも、ドールにより部屋から連れ出された。
さすが<ダンジョンマスター>と意思疎通ができる妖精たちだ。
部屋に残された俺たちは静かに飲み物が届くのを待つ。
ドールが飲み物を置いて、一礼して部屋を出るまで、二人とも無言だった。
俺が言葉を発しようとする前に、アカネがそれを遮るようにしゃべりだす。
「懐かしいね。
小さい頃に、カオルの家か私の家で夜更かししていたの覚えている?」
「ああ、覚えている。ただただ月や星を眺めておしゃべりしていたな」
「ふふっ。でもカオルったら、すぐに寝ちゃってたよね」
「うっ、すまん」
「私はそんなカオルの寝顔を見るのが好きだったよ?」
「アカネ…」
「今はさ、変な力のせいで眠くならないの。
だから、ずっとカオルの寝顔を、見られるよ…?」
涙声のアカネを抱きしめる。
すっぽりと抱きしめるには身長が足りないのが情けない。
そんな俺の考えを読んで、アカネが笑う。
「こういうときはすっぽりと包み込むように抱きしめるんだよ?」
「もうちょっと待ってろ」
「どれくらい待てばいい?」
「この国での成人、十五歳までだな」
「十年近く待つのかー」
「なるべく退屈させないようにするから、待っていてくれ」
「うん、わかった。約束ね?」
「ああ、約束だ。成人したらお前の隣にいる。
ずっとだ。お前が嫌って言うまで隣にいる」
「嫌だなんて言うわけないじゃない。
たとえ、喧嘩しても、私たちならきっと大丈夫よ…」
アカネの告白、俺の決意。そして二人の約束。
勝手に決めてすまないな、みんな。
だが、これだけは譲れない。
ちゃんと親孝行はするからさ、許してくれ。




